第七十話 苦しみの中の光Ⅱ
私はドス黒崩れゼリーをなんとか、どろどろの人型にして、彼を助手に抗体作りに励んでいた。このドロドロのドス黒ゼリー崩れの人型は消えずに居座っている。これが聖女の光で十年働けると宣言しただけあって、よく働く。
聖女の助手として凄腕だなっ!
機転が利いて、的確にアシストしてくれる。
神官長に上り詰めただけある。仕事は出来るんですね!
どうしても使ってくれと懇願するので使ったら、寂しくないわ、話し相手になるわ、理論展開の補助はしてくれるわでスーパーアシスタンツ。飛躍的に研究が進んだ。
光と闇が反発し合う物質なら、その反発作用を利用するのだ。血の中の感染血液だけを排除して体外に出す。その時、血を全部排出するのではなく、汚染部分だけ出す。そこを高速で書き換えるのだ。これだけはその場で遣らなければならないが、やり方が決まっていて、書き換える式が指定されているなら、後はそこから一個一個解く必要はない。
光を当てると反射する。その反射の長さで見分けて書き換える。体内の血液三リットルくらい? これを二分以内を目標にして高速演算。
要は血液の抗体反応の部分に黒血を跳ね返す命令を下して行けば良いのだ。
◇◇
理論構築から百日で完成した。これをこの空間から出た瞬間に飲んで聖魔法を展開する……。私は体感で一生分くらい研究した気がする。正直……自分の命の為とはいえ、骨が折れた。
そして不眠不休? で手伝ってくれたドス黒いゼリーは泣いていた。おいおいおいおい泣きながら、これで第五聖女様の目に光が戻ると泣いている。
…………この薬で助かるのは第五聖女じゃなくて第二聖女だよ? とは微妙に言い難いじゃ無いか? どうしよう? でも本当の事を言ったら、また元の木阿弥。いやしかし、この研究を踏み台にすれば細胞の再生まで辿りつけそうな辿りつけなさそうな……。死んだ細胞の代わりに、生き残っている細胞の方を爆発増殖させる訳だし――
そんな事を考えていたら、黒いドス黒ゼリーがこちらを見つめている。ちなみに輪郭だけで目はありません。
「………光の聖女様。私は最後に光を見た。誰も彼もが見捨てた私の事を、母親にも切り捨てられた私の事を、第二聖女様は救おうとしてくれた。彼女こそは真の聖女」
そうして、私の手を、恐る恐るそっと取る。
「………痛みを、無くしてくれた……………」
そう言って、私の手を離すと、端からとろとろとろとろと蒸発して、最後は一片の欠片さえ残らなかった。
◇◇
私は神官長を見送った後、ぼんやりとしていた。
壮絶な肉体死と精神死に立ち会った気がする。
親と子の関係性。
百歩譲って子が親を裏切る事はあっても、親が子を裏切る現実はあって欲しくない。
だって子供は親無くしては生きていけない。健気で無垢な生き物。
親鳥を信じ切る小さな雛鳥と一緒だから。
でも現実の総量はきっと逆なんだろうなと。
それは人として寂しいと。
思ってしまう。
そんな時――
カリカリカリカリ。
ドアを引っ掻く音が聞こえる。
ぼんやりとしながら私は立ち上がって、ドアを開く。
猫がいる。
立派な猫だった。
大きくて、黒くて、瞳は金緑色で。
その猫が私を見上げるとニイと左右に口を開いた。
ああ、これはクロマル。
そう思った瞬間、空間の歪みに投げ出された。
正午に終話を投稿いたします。








