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第六十七話 時の止まった心達。




 コンコンとドアをノックする音が響いた。

私は形振り構わずドアを開けた。


 正直魔物でも幽霊でも野獣でもなんでも良いくらいの大胆な開け方だったと思う。何故ならドアの内側から様子を窺って、良くないものなら出ないという選択肢を完全に消す為だ。出る一択。


「どちら様ですか?」


 元気よく出迎える。愛想の良いロレッタ・シトリーは滅多にお目見えしない。本来は結構冷たそうと誤解されやすい容貌をしている。


「………………」


 そこにいたのは透明で輪郭だけがある人型のスライムのようなゼリーのようなモノだった。普通にかんがえれば無色スライムなのだが、何か人型を取っているし脆弱そうだから違う気もする。そしてなかなか口を利いてくれない。サイズは子供くらい。私の胸の辺りくらいまでの背の高さ。


 その物体はてとてとと室内に入って椅子に座った。やっぱりどこか人間ぽいよね? 


「………火傷した」

「そうなの?」


 私は火傷用の軟膏を持ってくる。そして大きなタライ。

 火傷の初期は冷やす。そして油で覆ってあげるのが重要。


 私は水魔法でタライに冷たい水を張りながら、聖魔法の光を水の中に溶かし込む。その中に透明さんの火傷をしたという腕を入れてあげた。


「……気持ちいい」

「良かったね」

「僕のお父さんもお母さんも炎の魔術師なの。ずっと何代遡っても炎の魔術師。だから僕は遺伝上の問題で魔力過多でよく火傷を起こす。これが痛い。炎の魔術師の皮膚だって普通に人の皮膚だから燃えれば熱くて怖い。魔力が多すぎて微調整が難しい。僕の婚約者は炎の魔術師ではなく違う系統にすると父が言っていた。僕は気持ちの良い水か光の聖女が良いのだけど、水を司る侯爵家とは仲が悪くて難しい。僕と同じ年頃の王子が沢山いるから、聖女は無理。僕の家はお金だけは唸るほどあるから、火傷を治す上級ポーションが沢山買ってあって、火傷をする度にそれを使って治すのだけど、火傷を負った心は治らない。ずっと長い間僕の心は炎が燃やし続けている気がする。本当は西にある領地に帰りたい。城の周りは蒼い草原が広がっていて、遠くにはキラキラした海が見える。温かくて、いつも海風が吹いていて、豊かで、街の人はいつも和やかに笑っていて、僕はその街によく遊びに行って、お菓子を買ったりおもちゃを買ったりする。あの綺麗な領地に帰りたい。あそこには僕の親族が住んでいて、皆優しい。でも僕は嫡男だから王都のタウンハウスで暮らしている。本当は砂浜や岩場で蟹を捕ったりしたい。一日中海で青い空を眺めていたい」

「……そうなんだね」

「お姉ちゃんは、心の火傷は治せるの?」

「……心は別空間にあるから光の聖魔法が届かないんだよ?」

「ここは別空間だし、心は剥き出しだよ?」

「え?」

「そうでしょ?」

「そう? なのかな……」

「やってみれば?」

「………うん」


 私は手を透明君の胸に伸ばす。


「……心ってここで合ってる?」

「分かんない」

「…………」

「取り合えず色々やってみれば?」

「……うん。色々やってみようか」


 透明君の胸に聖魔法の光を展開する。


「……違うみたい」

「違うんだ」

「じゃあ次は額で」

「おっけ」


 私は透明君の額に手を当てて、聖魔法を展開する。


「そこも違った」

「違うんだ」


 流石に足とかお腹は違うんじゃないと思うし。

 でも何が起こるか分からないから全部遣ってみる?


 そして全部遣り尽くした。

 魔法執行しながら私は考えていた。

 どう考えてもこの透明君はルーシュ様の幼少期だ。

 あの御仁がどうしてこんなに健気な子供だったかは分からないが、色々な成長を経てあんな感じのちょっと偉そうな青年に成長したらしい。


 ちっちゃなルーシュ様可愛すぎる。

 そして私は微妙な感じでルーシュ様の弱点的なものを握ってしまった気がする。この時の空間は危険な香りがする。


「お姉ちゃん」

「何?」

「こうして、こうして、こうして、こう」


 ちびルーシュ様は私の背中に両手を回してぎゅっと抱きついて来た。


「魔法展開して」

「水? 光?」

「両方がいい」

「おけっ」


 私は彼の体を包み込むように光と水の聖魔法を通した。彼の心の火傷にどうか届きますように。そう願いながら紡いだ。


「……気持ちがいい」

「良かったね」

「今度一緒に海に行こう」

「良いね。行こう行こう」


 そう返事を返した時、ちびルーシュ様は消えていた。






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