第六十一話 一方通行の罪Ⅰ
この人はきっと、人生の全てを聖女を支える事に懸けた人。
そして最後は利用された――
誰に?
その心を誰に利用された?
私は膝がガクンと揺れた所をルーシュ様に支えられた。
そして近くには第三聖魔導師と第四聖魔導師の双子王子がいて、神官長の周りに清浄の魔法陣を流し込んでいる所だった。
周りの教会関係者。次官、上級神官等膝を突いて祈りを捧げている。
「ロレッタ、自身に清浄の聖魔法を……」
「………ルーシュ様」
私は聖女とは思えない、血に濡れた聖女になっていた。
でも、リフレッシュなんてとても掛ける気がしない。
そう思った瞬間、自身とルーシュ様の周りに水魔法が展開する。
足下から温かい水が、血を洗い流して行くのが分かる。
ああ、これは伯父様の水魔法だ。
だって、とても精密で優しい雰囲気がする。
生地に入り込んだ、水と血を分離してくれているんだ。
私の水魔法とは親和性が違う。一流の水魔導師の展開。
その温かい水の感触を感じながら、私はじわりと涙ぐむ。
どうしてもっと水魔法を究めておかなかったんだろう。
多重魔法使いなんて恥ずかしい。
多重でもなんでもない。此処ぞという時に、聖魔法しか展開できない未熟者。
なんであの一瞬で水を展開出来なかったかというと、思いつきもしなかった事と、光の方が自信があったからだ。つまり水に関しては生活魔法としてしか使っていなかった。傷口を殺菌するのですら光魔法でやっていた。
でも考えてみれば、水とアルコールで消毒した方が、庶民はマネしやすいじゃないか? 聖魔法で消毒したところで、そんなものじゃあ自分もという訳にはいかないのだから。学びの観点からみれば、水の方が良かった。傷は流水で洗うものと広められる。
そういう初歩的な事が浸透していないことで、傷から雑菌が入る事は日常茶飯事。
これからは、そういう部分でも水を使うべきだと痛烈に思う。そうでなければ多重魔法使いの意味がないじゃないか。
そんな後悔に苛まれている時、横から第一聖女の声が聞こえた。
「触らないで、穢らわしい」
私に向かって毒々しい声でそう言ったのだ。
「そんな不浄の血を着けて、近くを通らないで」
第一聖女は小さな声で、そう言った。
短めでしたので、二話同時投稿いたします。








