第五十八話 嘘が真実に変わる時
何が詐欺か?
盗賊が孤児院に寄付に行く貴族を襲ったのは事実で。
第一聖女が王太子殿下に不敬を働いたのも事実で。
第一聖女が第二聖女を殴ったのも事実で。
多分教会の資金を横領したのも事実だ。
その辺りは全部裏が取れている筈。
罪状の半分は、既に事実なのだ。
ポーションが馬鹿高いのも事実だし、聖魔法の執行料が馬鹿高いのも事実。
そこは覆らない。
でも――
この部分は教会というか神官長の罪だろうか?
いやもちろん第一聖女の罪もある。私を殴った事とか、私を殴った事とか、私を殴った事。
しかし綺麗に利用された。
神の庭にいる全員が私の怪我に注目していたが為に効果絶大だった。
最悪。だったら自分で治すのだったと本気で思う。
私は第一聖女の横で傾いでいる神官長を見る。あの人の瞳の色は灰。灰色の瞳をしているのだ。盗賊が証言した依頼主の瞳の色。あの人は王家を欺き、聖魔導師ではない娘を聖魔導師と偽り、第一聖女に仕立て上げたのだ。私は自身が受けた聖女等級判定を思い出す。
私が第二聖女と判定を受けた時、第一聖女は既に第一聖女と判定済みだった。あの時ですら、私は第一聖女の魔法素養と聖魔法を見ていない。
等級判定の不正。
そんな事はおいそれと出来ない。
出来るのであれば、用意周到に準備されたものであり、権力者が意図してやったもの。つまり神官長かそれに類する身分の味方がいなければ出来ない種類のもの。
そして第一聖女の父は神官長。黒寄りの黒ではないか?
聖魔法の執行を終えた第一聖女は、この場に揃っている高位の面々にゆっくり と視線を巡らせ微笑んだ。私の何処が偽聖女だとその顔が言っている。
「私は王太子殿下の妃です。王太子殿下にお心を傾けて頂きたくて、魅了のポーションを使ってしまいましたが、それはこの国の為。王家の血統を絶やさぬ為。自分の魅力不足に悩む十代の少女が考える浅はかな恋心の成就です。お目こぼしを頂きたく存じます。もちろん、以後はそのような不敬な事はいたしません。第二聖女の頬を叩いた事は、彼女が土足で大聖堂を穢したからです。私が第五聖女の為に祈っていた所を邪魔したのです。上級聖女しとして些か厳しい指導になってしまいましたが、以後は手を上げないように気をつけます。その他の罪状は私の与り知らぬ事でございます。アクランド王国の司法は一族郎党ということは有りますまい。個人の罪はあくまで個人の罪として帰結する筈だと思います」
そこでちらりと、自分の父親である神官長に視線を移す。
「私は聖女です。この国の民に光を届ける者。ここでこの国の民から第一聖女の聖魔法を奪いますか? 私が子を孕めば必ず魔力素養が遺伝するでしょう? 愛する人の愛が欲しくて、犯してしまった少女の罪。民は私の心に理解を示してくれると思われます。広く聞いて頂いても良いのですよ?」
そこまで話すと、まるで可憐な花が微笑むように首を傾けた。








