【001】『(私?)もしかして婚約破棄』
【短編版】聖女の力を軽く見積もられ婚約破棄されました。後悔しても知りません。侯爵令息の紅の魔術師に全てを注ぎます。好き。
の連載版になります。
一話から~四話までは大幅加筆。五話から書き下ろしになります。
「君との婚約は破棄する!」
アクランド王国の第二王子殿下が私を指さしながらとんでもない暴言を口にした。嘘!? 私の婚約者である王子殿下がゴミでも見るような目で私を見ている。私はそっと後ろを振り返った。音を立てて人が左右に割れる。該当者らしき人はいない。というか現時点で第二王子殿下の婚約者は私なので私が当事者以外の何者でも無い。ナ二コレ? 現実? 何が起きてるの?? 私は茫然自失としながら、今日の日の為に買った既製品のドレスのスカートを握る。既製品と言っても私の貯金を大分叩いた。第二王子殿下の瞳の色に合わせたものだ。
思えば既製品の自前ドレスを着ている時点でおかしい。第二王子殿下の婚約者であるのに、出来合いのドレスって? ファーストレディとまではかないまでも、王妃陛下、王太子妃殿下の次辺り、サードレディ?? つまり一応準王族になるわけだから、もう少し高貴な装いになりそうだが、王子殿下からはドレス、貴金属類等何一つ贈られていない。ドレスを着ている首元を飾る物がないと大変悪目立ちしてしまうので、お店で一番安い物を購入した。宝石って高いよね? 買うとき足が震えたわ。それでも小さな宝石が付いているリボンタイプのチョーカーで、金や銀の台は付いていない。そんなもの買えるかっ。 という話だ。これも王子殿下の瞳の色に合わせた。
ついでに今日の王立学園卒業記念パーティーでのエスコートも受けていない。何度かお手紙を差し上げたのだが、待てど暮らせど梨の礫。何の音沙汰もないまま当日になってしまった。私はなんと王立学園寮から歩いてやって来た。歩いてやってくる令嬢なんてそうそういない。前も後ろも人なんて歩いていなかったわ。ドレスを着て歩くのは、寒いわ足が痛いわで、かなり難易度が高かった。
ないないづくしの無いづくしだ。ここまでないといっそ清々しいくらい。変だな? とは思っていたのよ。さすがの貧乏貴族の私だってドレスを着て歩いて行く事がスタンダードとは思っていない。せめて辻馬車? いやいやいや。婚約者がお迎えに来てくれるのが貴族社会のルールだと思う。
十一歳から六年間通った王立学園の晴れの日である卒業記念パーティーを前に、私は大変心細かった。欠席しようかな? でも行こうかな? だってそれこそ私は六年間みっちり勉強と訓練に明け暮れたのだ。最後に有終の美というか、良い思い出で飾りたかった。それに第二王子殿下の婚約者が体調不良でもないのに休めるなんて思えなかったし。でもまさかこんな……っ
私は第二王子殿下の右横に寄り添うように立っているココ・ミドルトンを見やる。大変可愛らしい顔立ちをしていた。目は大きなくっきりとした二重で、目尻は甘く下がっている。その顔を彩るようにふわふわの亜麻色の髪が揺れる。こういう女の子って、みんな好きだよね? 羨ましいくらい女の子らしい容姿だと思う。
ちなみに私の目元は正反対に上がっている。ええ、吊り目なんです。若干ね。人に大変きつい印象を与えると定評がある。ついでに髪はドストレートの直毛銀髪だ。微塵もふんわりしていない。重力に従い、まっすぐに真下に伸びている。
その上、瞳は凍り付きそうな冷たいアイスブルー。よく配色ブリザードとか言われる。見ていて寒くなりそうな容姿だ。氷河の上に生きる白熊とかペンギンとかそういった者達と友達になれそう。
もうなんかさ……容姿で既に負けた感が否めない。
亜麻色って暖かな色だと思う。
私は僅かに俯くと視界に自分の銀色の髪が入った。
ああいう子が、自分の婚約者の横に立っているという事が不安。
こんな容姿だが私は一応聖女だ。むしろこんな容姿だから聖女なのだが。
聖女の髪色は特定されていないが、基本的に淡い色をしている。
ローズブロンドだとか、光を溶け込ませたようなライトブロンドだとか。
私はシルバーブロンドで、私だけシルバーブロンドだ。何故に? とは思わなくもないが……今は触れるまい。触れたら自暴自棄の扉が開く。
故に王立学園ではイレギュラーな聖女科(五人しかいないけど)に属していた。
王立学園は、魔法科と一般教養科からなる。聖女科は大変イレギュラーというか、そもそも五人しか居ない為、独立した科であることが驚きである。座学なんかは魔法科と被る事もあり、魔法学科聖女コースというのが事実上のあり方な気がするが、魔法省と教会の仲が大変悪いので、教会の威信に懸けて独立した科になっているのだろうと思う。聖職者様方はいつだって威信と権威ファーストです!
聖女科とはその名の通り聖女が属し、魔法科とは体内に魔力を有し、魔力顕現が可能な魔術師が属し、魔力を有さない者が一般教養科に属する。なんとも身も蓋もない分け方だ。一般教養科とは座学も実技も被らないどころか敷地が違う。何故? と思わなくもないが、カフェテラスすらも違うので接点は皆無だ。顔も名前も知らずに学園生活は通り過ぎて行くくらいのもんだ。同じ学園であるというのが不思議なくらいよそよそしい。しかも聖女科だけは実技の一部を礼拝堂で行う為、更に僻地コース。学び舎が遠いこと遠いこと。聖職者様方の威信は便利とは真逆の所にあって、大変不便ですよね? 主に生徒が!
そこをつけ込まれたかな? どうなのかな? 私が何も知らずに勉学に励んでいた事を思うと、理由の一端である気がするけど。
学び舎が非常に遠く、一般教養科の日常は知るよしもなかったんだけど、ココ・ミドルトンの名前は知っていた。聖女科にもその名は轟いていたから。ではない。私に個人的に手紙が届いたのだ。初見だったが、丁寧な押し花のしてある綺麗な便箋に、年頃らしい恋のお悩みが書かれていた。私は女の子友達と呼べる人がいなかったから嬉しかったのを覚えている。だって聖女科って私の学年一人だったよ?