第1話 ◇最初の試練◇
文章改定します。
「……ん?」
「あれ?ここは…どこだ? 」
目を開けるとそこには見たことのない景色が広がっていた。
空は青く澄み渡っていて雲一つ見当たらない。
遠くには山々が見え草原を風が駆け抜けている。
そして何より俺の目の前にあるこの巨大な塔は何なんだ!?
こんなバカでかい建物なんてテレビでも見たことない。
( ここは一体どこなんだよ……)
たしか昨日はいつも通り部屋の中でネットをして寝たんだったよな?
それで起きたらなぜか知らない場所にいて...目の前には大きな塔があるんだがこれはどういうことだ?
もしかして夢なのかと思って自分の頬を思いっきりつねってみたー
ーイテッ!
目に少し涙を浮かべこれが現実だと確信した。
取り敢えずもう少し情報が欲しい。こういう時はまず周りの人に聞いてみるのが一番だよな。
周囲を見渡すと木の影から俺のことを見ているフードを被った少女に向かって話しかけることにした。
日本語が通じるかどうか…
「ちょっといいかい?」
「っ!」
少女は一瞬、驚いた様子だったが直ぐに冷静さを取り戻し返事をしてくれた。
「えっ!?....ええ、大丈夫ですよ」
おぉ!言葉が通じてよかった。
他人と話すなんていつぶりだろう....
子供だからかあまり言葉が詰まらずに会話ができる。
「実は道に迷ったみたいでさここがどこか教えてくれる?」
「えっと....ここはグランディアという国です」
なるほどグランディアと言うところなのか。
それにしてもこんなファンタジー感満載の世界なのに日本語が通じるとは驚いたな。
「教えてくれてありがとう」
「ところであの大きな塔って何なんなの?」
俺は大きな塔の方を指さし質問をしてみる。
「あれは『天界の塔』と言います。神さまが住む場所と言われていますよ!」
マジか!?神がいるとか凄すぎるだろ!!
もしかしたら帰る方法も知っているかもしれない!
舞い上がりそうな思いを抑えながら天界の塔へと駆け出そうとした途端ー
「あっ!...待って下さい!」
ー少女に慌てて呼び止められてしまった。
「あそこは誰も立ち入ることができない神聖な場所です」
「それに行っても選ばれた人しか通れませんよ」
「そ、そうなんだ……参ったな...」
これどうすればいいんだ!?
やばいな…このままだと野宿確定じゃないか!?
せっかく神様に会って帰れる方法もわかると思ったのに…すっかり途方に暮れてしまった。
「天界の塔に行きたいのですか?」
「あ、うん…でも入れないんじゃ仕方ない…よね...」
「一つだけ方法がありますよ」
落ち込んだ俺に少女は天使の様な笑顔で肩を貸してくれた。
「本当!?教えてくれる?!」
「私と契約して使徒になれば入れるようになります」
「契約……?」
「はい!”私の力を分け与える代わりにあなたは私の願いを叶える”というものです」
「へぇ~ちなみにどんなことができるの?」
「私は魔法全般が得意なので大抵のことはできますよ!」
おっ!魔法が使えるのか!
確かにそういうチート的なスキルがあれば俺みたいな引きこもりでも強くなれそうだな!
でも代償がかなり大きいんじゃないか?
命に関わるようなことなら流石に断らないとダメだな。
「うーん……それって危ないことじゃないよね?」
「は、はい!もちろんです!」
考えても仕方ないここはこの子をしんじてみるか。
他に当てもないしな....
「じゃあお願いします!」
「では目を閉じて手を出してください」
俺は言われた通りに手を前へと出した。
「いきますよ……えいっ!!」
すると突然、体の中に何か温かいものが流れ込んでくる感覚があった。
それと同時に今まで感じたことのない力が溢れてくる。
「終わりましたよ、これで天界の塔に入れるようになるはずです」
「えっ?もしかして今ので全部終わったの?」
「はい!今、貴方の中には私の魔力が入っています」
少女の言葉を信じて”フンっ!”と力んでみたがオーラを纏ったり、火が出たりする感じは無かった。
「ホ、ホントに大丈夫なの?」
「はい!その状態で念じれば塔の中に入れるはずですよ」
「よぉし!やってみるか……」
塔の扉に向かい大きく息を吸ってから集中する。
(頼む……開けてくれ……ッ!!!)
すると鈍い音を立てながら塔の入り口の扉が開いた。
「すげぇ……。マジで開いたぞ」
「ふう....無事に成功したみたいですね」
「本当に助かったよありがとう!」
「いえ、当然のことをしたまでです」
少女は微笑むと塔の方を指差した。
「この塔の最上階に神様がいます、けど…」
「けど?」
可愛らしい笑顔が一変して命を懸けたような真剣な眼差しへと変わった。
「神様は手厳しいお方です、くれぐれも粗相が無いように…」
「それと私は訳あって同行出来ません」
「わ、わかった」
「お気お付けて」
緊張のあまり思わず『ゴクッ』と息を吞む。
門の先は何も見えず入るモノを引きずり込む様な暗闇が続いている。
一歩ずつ踏み出すごとに恐怖と好奇心の狭間で心臓が高鳴る。
門を通ると鈍い音を立てながら扉が閉じた。
振り返ると扉の隙間から一瞬、少女の姿が見えたが
もう外の様子は分からない。
中は特に何もなくただ広い広間に小さな窓と螺旋を描いた歪な階段が上へと延びていた。
魔物でも待ち構えていそうな風貌だったのに意外にも拍子抜けしてしまった。
さっきまでの緊張が解け足取りが少しかるくなった。
長い階段を上りきると、広い広間に人?人形?が目を閉じて座っていた。
「なんだ?これ?」
恐る恐る近づいて見てみるとやっぱりただの人形のようだった。
辺りを探索してみるが他に怪しい所は見当らない。
「はぁ…」とため息を漏らし帰ろうとしたその時ー
「おい、そこのお前」
どこからともなく声が聞こえた。
だが辺りも見渡しても特にそれらしい人は見当たらない。
気のせいかと帰ろうとするとー
「そこで何をしている?許可なく立ち入ることはできないはずだが」
また、声が聞こえ声の方へ目を向けるとさっきの人形から聞こえたきがした。
「聞こえないのか?」
間違えない声の主はあの人形から聞こえる。
まさかと思い人形の顔をつついてみると
「痴れ者!」
と大きな声と共に人形が生気を帯びた人間の姿へと変わっていった。
「うわぁっ!」
ビックリして思わず尻もちを付きそのまま腰を抜かしてしまった。
目の前にいるのはさっきまでの無機物の人形ではなく
白いワンピースを着た人間の女の子に変身した。
「そう驚かんでもよかろう…」
「えっ?!あれ?…さっきまで…人形…あれ?」
混乱のあまり言葉がしどろもどろになって上手く話せない。
「で?お前はなぜ”聖域”に来た?」
慌てふためく俺を差し置いて少女は腕を組み怒った様子で睨んでいる。
「あっ、えっと……」
この子が…神様?…なのか?
見た目には似つかないほどの気迫で頭が真っ白になっている。
とにかく元の世界へ帰る方法を聞き出さないと
「俺…あっ…いや、ぼっ…僕は…」
「か、神様に会いに来ました!!」
緊張のせいか思わず声が上がってしまう。
「ほう…我に会いにきたのか…」
どうやらこの子が神様らしい
もっと厳つい巨人やお爺さんを想像していたが
思っていたよりも幼く可愛らしい見た目をしていた。
「はい、ここに来る前に契約をして…」
「契約か…人間の契約者とは珍しいな……という事は誰かの”使いで来た”という事か?」
「えっと、フードを被った赤い髪の女の子と」
「何!?貴様、フリットに会ったというのか!?」
神様はフードを被った女の子と聞くと目を見開き、唖然とした。
確かに魔法が使える凄そうな女の子だがそんなに驚くようなことだったのか?
神様は少し難しい顔をして俺の方を足先から顔までまじまじとみつめた。
「う、うむ……いやしかし、こんな奴が……」
「あの…」
「…ああ悪い、少し取り乱してしまった」
咳払いを一つ付き冷静さを取り戻すと
再び険しい顔つきに戻った。
「いま一度、問う貴様はフリットに会ったのか?」
「はい、あの子フリットっていう名前なんだ…」
「そうだ…フリットは我と契約し直々に力を授けてやったのだ」
そっか…だからこの塔の事とか神様がいる事とかしっていたのか。
でも神様と契約したならどうして塔の入口でコソコソしてるんだ?
疑問で頭を悩ませていると神様が少し寂しそうな顔でと話しを続けた。
「前はこの塔によく顔を出してくれた」
「だが…最近はめっきり顔を出さなくなった」
神様は恐らくこの塔ではひとりぼっちなのんだろう
段々と顔に影が出てついに落ち込んでしまった。
どうにかして励まそうと咄嗟に言葉を掛けた。
「俺もフリットちゃんに助けて貰いました」
「だから、また顔をだしてくれますよ!」
神様はこちらを見るとフン!と怒ったように返事をした。
一息つくと少し呆れた感じで本題に入った。
「まぁ…よい、それよりも貴様は何者だ?なぜ、ここに入れた?」
そうだ、神様にお願いする為にここにきたんだ。
急いで服装の乱れを正し神様に真剣な眼差しを向ける。
「え、えっと…僕は大森一人間です」
初めて自己紹介でじぶんの事を”人間”なんて言ったなぁ
「実は神様に用事があって来たんです」
神様は相変わらず呆れ顔のままこっちを睨んでいた。
話は聞いてくれているようで質問にもちゃんと返事をしてくれた。
「ほう……そうなのか」
「して、用事とは?」
「僕を、元の世界に返して頂けませんか?」
「良いぞ…」
「えっ?」
「”良い”と言ったのだ」
意外にもあっさりとOKをもらえた。
これでやっと元の世界に帰れる!
安堵で胸をなで下ろすと一瞬あの少女、フリットの事が頭をよぎった。
そうだ、あの子との契約はどうなるんだろう…?
「……」
「…おい、どうした?」
気が付くと神様がゲートの様な穴を創り、帰る準備を整えてくれていた。
だが、俺にはどうしてもフリットの事が放って置けない。
◇以下改定◇
「ただし条件が一つある」
「な、なんでしょうか?」
「私と戦い、貴様が勝てたらの話だ」
「え?戦うって……どういうことですか?」
「そのままの意味だ。もし負けた場合は……その時に考えるとしよう」
「そ、それは流石に無理です!」
「なら、それなりの"慰謝料"を払ってもらおう」
「いっ…慰謝料?」
「そうさなぁ…下界の者に私の時間をくれてやったのだこれくらいは出してくれるのだろう?」
神様は請求書のような紙を俺の目の前に差し出した。そこには通貨は分からないがかなりの金額が書かれている
「いち…じゅう…ひゃく…せん……一千億!?」
「そうじゃ…ざっと一千億ギルだ…」
「無理です!たかすぎます!」
「貴様が勝てば問題ないではないか」
「それも無理です!」
「ならば仕方がない。今回は諦めるとするか」
俺はホッと胸を撫で下ろした。しかし、次の瞬間、とんでもない発言が飛び込んできた。
「では……貴様の命で払ってもらうとするかな……」
「はい?」
「聞こえなかったのか?貴様の心臓で支払ってもらおうと言っているのだ」
「いやいやいやいや!何言ってるんですか!?」
「私は神だぞ?何でも出来る。それに貴様の願いを聞き届けようとした結果がこれなのだから文句を言うでない」
「い、嫌ですよ!そんなの!」
「安心しろ。痛みなど一瞬で終わる」
「そういうことじゃなくて……」
「ほれ、行くぞ」
俺は間一髪のところで避けたが当たれば確実に死ぬ。
「ちょっ、待ってくださいよぉおおお!!」
必死に逃げ回るが相手は神。俺の身体能力が追いつくはずもなく……
「終わりだ」
「うわあああああ!!……あれ?痛く……ない?」
「フリットの奴…余計な事を…」
神様の攻撃が当たる寸前…俺の周りに魔法陣が出現し神様の攻撃を弾いた。
「え?」
「運の良いやつめフリットに感謝するのだな」
なんだか分からないがとにかく今はこの神様にどうやって勝つか考えないと俺の人生が終わってしまう!
「これならどうじゃ!」
神様の次の攻撃が来る…こうなったら一か八か…
「うおおおお!」
俺は攻撃が来るのと同時に神様に向かって全力で走り出した。
「ふん。愚直な……まあ良い好きにするがいい」
神様が余裕そうな顔をしているうちに一気に神様との距離を埋めて拳を振りかざす。
「喰らえぇええ!!!」
「無駄なことよ」
「なっ!」
神様は手を前に出すとそこから見えない壁が現れ、俺の攻撃を防いだ。
俺はもう一度距離を取り懐に飛び込んだ。
「何度やっても同じじゃ…」
今度は掌から魔力を込めた光弾が俺をめがけて飛んできた。それをかすり傷を負いながら避け神様の体に手を伸ばした。
「ふんっ!」
神様は咄嗟に防御したが俺の狙いは体の表面じゃない!
「なにっ⁉」
「おりゃあああ!」
大森家直伝!!こちょこちょ地獄!!!
神様は俺の手から逃れようと体をよじらせているが、俺も必死だ…簡単に離してたまるか!
「くっ…ふはははは…おっ…お主!無礼だぞっ…いつまで触っているつもりだ!」
「神様が降参するまでですね」
「ふざけるな!早く離せ!んぅ……あっ……ふひぃ……ひっ……あはははは!」
「どうしますか?まだ続けます?」
「分かった!分かったからぁ!」
よし!これで勝ったな!
「では、約束通り俺を勇者にしてださい!」
「わ、わかった!もう許してくれ!これ以上やられたら死んでしまう!」
「分かりました……では」
こちょこちょを止め俺も神様もお互い息を整え面と向かいあった。
「それで……勇者にしてくれるんですよね?」
「もちろんだ。私に二言はない」
「ありがとうございます!」
「……少しばかり膝を付け」
神様は俺の頭に手を伸ばして何かの呪文を唱えだした。すると辺り一面が輝きだし暖かい空気が俺の体を包み込んだ。
「よし。終わったぞ」
「え?終わりですか?」
「うむ…だがこの力は"神力"じゃ」
「神力?」
「使い手次第で善行も悪行もできる…くれぐれも注意せよ」
一瞬、神様の顔が曇ったように見えたが俺は神様と会えた事、神様に勝った事、そして神様から力をもらい勇者になった事に舞い上がって注意をあまり聞いていなかった。
「はい!…ありがとうございました!」
神様に挨拶を済ませて塔をでるとそこにフリットさんが笑みを浮かべて立っていた。
「勇者様…お疲れさまです」
「フリットさん……」
なんだろう。フリットさんの笑顔を見た途端にさっきまでの緊張が解けた気がした。
「色々…ありがとうございました!」
「いえいえ、これは魔王を倒す為の儀式に過ぎません」
「えっ?」
「あれ?言いませんでしたっけ?」
「この契約はこの世界を支配しようとしている魔王バルドを倒すまでずっーと消えませんよ?」
さっきまでの暖かい笑みがその一言で悪魔の笑みに変わった.....
「あ…あのー」
「はいっ!何でしょうか!勇者様!」
「元の世界には…」
「魔王を倒すまで帰れません!」
「じゃあ…魔王ってどのくらい強いんですか?」
「それはもうめちゃくちゃ強いです!」
「滅茶苦茶?」
「めちゃくちゃです!」
「……」
眩しいはずの笑顔なのに出てくる言葉は俺に不安ばかりがのしかかる.....
「改めて!よろしくお願いしますね…勇・者・様!」