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コツコツコツッ、カツカツカツッ、コツコツ......
城の廊下を三人が並んで歩いている。
後には近衛兵士、バルトとステラ......
そう、並んで歩くのはアルベルトとシリウス......
二人の間に挟まれて、ちょっと顔を引き攣らせているソフィア......
王城に到着した時。
ソフィアがどちらの腕をとるかでギャーギャーと揉め始めた......仕方なく、サッっとソフィアが二人の間に入り、それぞれの腕に手を掛けたのが......ほんの数分前のこと。
結果......満足そうなアルベルト様と、反対に不満そうなお兄様......間に挟まるソフィアは微妙な顔......という状態が出来上がってしまった。
また、こういう時に限ってビビたちが、何故か留守番をすると言い出した。シロは勿論ついて来たがったが、残念ながら......いつも同様お留守番......お披露目前に見つかる訳にはいかないものね......
「ソフィア。父上と母上は朝から落ち着かない状態でな......いつも以上にうるさ、、、いや、んっっ、......げ、元気なご様子だ......す、すまないな」
「ふふっ、アルベルト様。承知致しました。大丈夫ですわ!元気なのは健康である証拠ですもの」
「それはそうと、アル!今日はなんでまた、居住スペースへの招待なんだ?!」
「シリウス......、それは何と言うか......そう、ルルヴィーシュ公爵家は家族同然だからと......父上が......」
お兄様は分かっているくせに、わざと聞いている......はぁ~っ、私がこのブレスレットを身に着けていることは、既に公爵家で働く全ての人が知っている事実だ。
勿論、その意味するところも......
アルベルト様は今すぐ何かをと言うことでなく、ゆっくりでいいと仰ったけれど......
やはり第一王子からのプレゼントとなると、周りの反応が凄かった......
お父様は眉間に皺を寄せ不機嫌そうにしながらも、どこか受け入れている様子を見せた......きっと陛下から何度も話があったのだろう......
お母様は
「あらっ、また素晴らしいプレゼントを頂いたのね」
と、あっけらかんとしていたが
「頑張りなさい」と最後に引き締まった顔をされた。
お兄様は深く深く、それは何度も深く溜息をついて
「早すぎだ、バカッ!まったく!アルのやつ!」とブツブツ言いながら、ソフィアの頭を撫でてくれた。
最も騒がしかったのは使用人や騎士たちだ......
それはそれはウォーウォー、キャーキャー、ワーワーと盛り上がり、騒ぎ続けたのだ......
これは収拾がつかないとソフィアが心配しだした時、パンパンッ!!とお母様が大きく手を打ち鳴らした。
すると、一瞬で収まってしまったのである。
恐るべし......公爵夫人......
しかし皆、弾けんばかりの笑顔でソフィアを見るので......嬉しいやら、恥ずかしいやら......なんとも落ち着かない不思議な気持ちがして、シロをぎゅうぎゅうと抱きしめているソフィアだった。
庭園の花々を眺めながら奥へと進んでいると、アルベルト様やお兄様と同世代の令嬢たちが、やたらと庭園に佇んでいるのが目に付いた。いくら大人びて見えるソフィアと言えど、5歳差程度ともなるとやはり大きな違いがあるように見えてしまう。
(アルベルト殿下とシリウス様♡!!
やっぱり素敵ね~!)
(お二人一緒に見られるなんて!珍しいわ~!最近はなかなかお会いできないもの!)
(((ホントよね~)))
(あらっ?あの子が公爵令嬢のソフィア様!?......病弱だとお聞きしてたけど......大丈夫なのかしら?)
(私は寝たきりだと聞いてたわ~。外に出ても平気なの?)
(でも、ドルト公爵領のことがあったでしょう?)
(そうよね。あの話は本当にご本人なのかと噂にもなっていたわ)
(でも、アルベルト殿下とシリウス様がエスコートしてるのよ!あの子がソフィア様なのは確かでしょう)
(いいわね~♡羨ましい!!)
(ほんと!一度だけでもいいから、あんな状態になってみたい!!)
(((はぁ~!やっぱり素敵!!)))
......、......まるっきり聞こえている......
ソフィアはますます顔を引き攣らせてしまいそうで......表情が固まりつつあった。
そんなことで気付くのが遅れたのだが
「アルベルト殿下。シリウス様。ご機嫌よう」
突如、目の前に三人の令嬢が現れた。
「ああ」
「久しぶり」
なんともそっけない返事をするアルベルト様とお兄様に驚きながら、ソフィアは軽く微笑んで顔を向ける。
「あらっ!そちらの可愛らしい御令嬢はルルヴィーシュ公爵家のソフィア様ではありませんこと?
わたくし......」
「ああ、すまないな。陛下がお待ちなんだ。またの機会にしてくれ」
えーーっ!!挨拶を遮った?!アルベルト様が??......こ、これは面倒な相手ということ?!......
確かダンスパーティー前に詰め込んだ情報だと......この御令嬢はおそらくガイデン侯爵家のカーミラ様。年齢は、アルベルト様とお兄様と同じだったはず......
なるほど......
綺麗なウェーブのある金色の髪、瞳は緑色でとても美しい。
ライトグリーンのドレスには白のレースがふんだんに使われていて、上質な仕立てだと直ぐに分かる。綺麗な方ね!
えぇーっと後に居る方は......と考えているところで、両脇からグイッと手を引かれた。どうやら、本当に関わりたくないらしい。
すれ違いざま、チラッっと見たカーミラ様は笑みを浮かべてはいたが、目がまったく笑っておらず、むしろギラギラと光って見えた。
こ、怖いです......アルベルト様!お兄様!!
やっと、王家の居住スペースにある応接室が近づいて来たらしい。
初めてなので分からないが、あのちょっと開いている扉の部屋だとアルベルト様が教えてくれた......
んっ、??扉が開いている?
三人で顔を見合わせてよく見てみれば、人の頭がこちらを覗いているように見える。
そして......間違いなく二人分......陛下と王妃様!!
アルベルト様は額に手を当てて、うんざりした様子を隠さない。お兄様は可笑しいのを下を向いて隠している。
「父上!母上!いい加減になさってください!!ソフィアに笑われます!僕もお兄ちゃんとして恥ずかしい!!」
エドお兄ちゃんが両陛下を叱っている......
バタンッ!
明らかに扉が閉まった音がしたのだが、三人が応接室に入ってみると、何事も無かったようにくつろいでいる両陛下がいた。
そして、お父様とお母様。ビビ、トット、ポポ。シロも座っていた......
「っ?母上!ビビ、トット、ポポ、シロ!
何故ここに?屋敷で留守は任せてと見送ってくれたのはなんだったのですか!」
「おとーしゃま~」
「ソフィア!誕生日おめでとう!」
「おめでとう。本当は当日お祝いしたかったのよ。それなのに、アルベルトとエドモンドが」
「あら~っ、遅かったわね!エリーがね、ショートカットして来たら?って。うふふ便利ね!そのブレスレットの恩恵だわ」
ショートカット......秘密の通路ですね。
ブレスレット.........随分と気が早いのでは。
「ソフィア~。いらっしゃい。後でエドお兄ちゃんの部屋に案内してあげるよ」
「エドモンド!私の部屋が先だ!!」
『ソフィア~!このお菓子、美味しいの。家でも作って~!』
『アルが迎えに来たのに僕たちの方がずぅーっと早く着いた~』
「うぐっ」
「ソフィア、誕生日のプレゼントがあるわ~!ぅふっ、沢山買っちゃったの~!」
「ソフィア!膝の上においで!一緒に菓子を食べよう」
『私もこれ食べる~』
「おとーしゃま、シロだっこしてほしーでしゅ」
「あらあらっ何だか賑やかで楽しいわね~」
「リリー、ほんとね~」
「「うふふっ、ふふっ」」
ベンフォーレとソフィアだけが疲れた顔で、ただ、時が過ぎるのを待っていた。