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シュゥゥゥーッ、小さくなっていくトットから静かにソフィアが降り立った。


「ソフィア!!」

近くに居たアルベルトは、疲れも忘れたように慌ててソフィアに駆け寄ると、力を込めてぎゅう~っと抱き締めた。

「ソフィ!」

シリウスにも更に抱き締められ、二人掛りでぎゅうぎゅうにされたソフィアは苦しさで思わず叫ぶ!


「く、苦しーーー!助けてーーー!!」



ドルト公爵家の屋敷。

ロベルトの私室には静かな夜が訪れた。

ロベルトとトーマスはソファに座り、自分の耳に嵌ったピアスを撫でている。

ルルヴィーシュ公爵領から王都に戻る前日、ソフィアの部屋でトットが着けてくれた物だ。

二人は仲間が皆、ピアスを着けてる事に気が付いていた。

登城した時には陛下たちが嵌めている指輪にも気が付いた。それぞれが自身の瞳と同じ色の美しい石……

羨ましいと思いつつ、何故かその事について問うことが出来なかった。

きっと特別な物に違いない……

自分たちはまだ手にする事が出来ない物なのだ……

と、納得するように自分に言い聞かせていたのだ。


「ロベルト様。この石が我々を繋いでくれたのですね」

「あぁ、ソフィアとトットを呼んでくれた。皆がドルト領ごと、全てを助けてくれた」

「嬉しいですね」

「……嬉しいな。僕たちは幸せだよ。それにしても……」

クスッとロベルトは笑みを浮かべる。

今は静かに過ごせているが、つい先程まではお祭り騒ぎのようだった。

なにせ、何も知らない騎士団やドルト領民の前に、見たこともない大きな鳥に乗って、ソフィアが突如現れたのだから……


「ソフィア様?ソフィア様~!!」

隊長のアレンの叫びを皮切りに次々と騎士たちが声を上げる。

「ソフィア様だ~!」

「ありがとうございます!ソフィア様!」

「やはりソフィア様は女神だったのですね」


「いや、違います……私は大した事はしていません。違いますから」


「いやいや、ソフィア様とトット様!?……が来てくれたお陰です」

騎士たちが盛り上がるにつれ、領民たちもが一緒になって散々勝どきを上げたり、万歳三唱をしたりでなかなか収拾がつかなかった。

しばらく騒いでいた人々を

「静まれーーー!」

と一言で黙らせたのは、騎士団長のアーサーだった。流石である……


陛下は皆が騒いでる間にアーサーを呼び、

創生の魔法を使う者と守護する者の存在、

つまりはソフィアとトットたちの話をした。アーサーは目を見開き、驚愕の顔で一瞬固まったものの……直ぐに立ちなおる。

そして、即座に対応を始めた。まずはこの場を収め、辺りが暗くなる前にドルト公爵家を本拠地として、今後の調査方針について会議を開いたのだった。





二週間後。


ドルト元公爵夫妻は他国に逃げたまま、未だに行方は知れない……

永久追放処分が決まっていて、国内に入れば処刑となる。

影の頭として働いていた、黒マント姿で闇魔法を使う男も行方知れず……

トットの話では、あの時……重症は負ったはずだが、生きてはいるらしい……もう戻って来る事はないだろうが、ドリエントル国で見つかれば、処刑される。


調査の結果、ドルト公爵は密輸や奴隷の売買、違法な薬草の仕入れ、取り引き禁止国との闇取り引き等……様々な罪を犯していたが、どれも始めて間もない状況だったのか、不当に利益を得た額は大きくなかった。

海から小舟で入れる洞窟の奥に、慌てて隠した犯罪の証拠も、騎士団の調査により全てが明るみに出た。

一番深刻だったのは、領民の貧困や焼き払われた地域の復興について……

ドマフ商会がなくなったことによる失業者数が多く、生活困窮者が増えている地区に限って更地にされてしまっているのだ。

そんな風に暮らしに困っているドルト公爵領民だったが、彼らが陛下に第一に求めたのは

「「「次期公爵はロベルト様に!!」」」

である。


ロベルトはこれを聞いて、涙を我慢する事が出来なかった。


爵位剥奪や降格、あるいは何らかの処分を覚悟していた自分に対して……

力及ばず苦しめてしまったはずの領民たちが、そのように期待を寄せてくれているのを知り、気持ちが奮い立たされた。


「恐れながら、陛下。私に……私に領民たちの力になる機会をお与えくださいますよう、お願い申し上げます……一生を捧げ、全力を注ぎます!立場は何でも構わないのです!

どうか、どうか領民たちの側に私を!!」

思わず叫んでしまったロベルトだったが……

王都で開催された議会、陛下はひたとロベルトの目を見て

「これより十年、ドルト公爵領は国が預かることとする。その間、ロベルトは次期ドルト公爵として領民を支え、ドルト領経営に尽くすこと。

十年の間、充分に学問や剣技を学び、ドルト公爵としての資質を備えよ」

と言い聞かせるように応えた。


つまりは、今までどおり……


「陛下!ありがとうございます……ありがとうございます……

必ずや御期待に応えると約束致します!!」


「ふむ。元はと言えばロベルトの訴えにより始まった事、素晴らしい決断をしてくれたと我は思っておる。しかも、ロベルトは創生の魔法を使う者や守護する者が助けに駆け付ける程の人格の持ち主。端から処分など考えておらん。

ロベルトにはエドモンドと共に、勉強や騎士団での訓練にも励んでもらいたい。

十年間、国から人材を派遣するゆえ、安心してよい。国にとってドルト領は重要な貿易拠点なのだから」


「はい……」


「皆もよいな!」


「「「御意」」」




それから更に、二週間。


ロベルトはドルト公爵領にて、派遣されている事務官たちと毎日忙しく働いていた。

早速、復興に向けて建設を始めたが、領民たちが率先して働いてくれるので予想以上に捗っている。

そして、毎日やって来るのは……


『ロベルト~!今日は僕だよ~!』


光と共に現れたのは1.5メートル程のポポとソフィア。

最初はトットに話を聞いたらしく、5メートル程でやって来ていたが……何とかお願いして、この大きさまでで抑えてもらっている。ビビたちには大きい=カッコイイがあるらしい。


「こんにちは~」

ポポの背中から降り立つソフィアは、笑顔で挨拶している。

「ソフィア様!お疲れ様です!今日は何ですか?」

事務官たちが毎日楽しみにしているのは、ソフィアたちの差し入れや領民たちへの炊き出しだ。


ソフィアやビビたち、創生の魔法については公然の秘密となっている。

あれだけの人々の前に姿を晒してしまったので、陛下はお披露目をする心づもりでいるようだが、時期については未定だ……


「今日は牛丼と野菜たっぷり味噌汁。牛丼は温泉卵のせでーす!」

「やった!俺、あれ好きなんだ!」

「俺も!!」


一気に華やかな雰囲気がして、領民たちも集まってくる時間になるのだった。



ガブリエラは親戚の老夫婦に預けられた。

退役してしばらく経つが、夫は元騎士団所属。妻は数多くの令嬢に礼儀作法を指導した人物だ。

厳しい指導もあるだろうが、多くの教え子に慕われる二人は愛情深い。

きっとガブリエラは少しずつではあっても、変われるはずだ。




こうしてドルト公爵領には活気を取り戻しつつ、更には発展しようと動き出した。









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