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「お帰りなさいませ。シリウス様。」執事のローレンは慇懃に礼をする。

侍従兼護衛のバルトを従えてシリウスが帰宅した。

「お兄様、お帰りなさいませ。お怪我はありませんか?」

「ローレン、今帰った。

ソフィア、ただいま。そうそう怪我などはしない。それより体調は問題ないか?」

「はい、お兄様。今日もつつがなく過ごせました。」

可愛い笑顔で迎えてくれた妹を本当は抱きしめたい。しかし、騎士団で鍛錬をした後はせめて着替えるまではと必死に我慢する。

過去に汚れの残った団服で抱き上げて、酷く咳き込まれたことがあるからだ。

成長したのだから以前のようにはならないとソフィアは言うが、シリウスは少しでも不安があることはしたくないのだ。

シリウスが早く自室で着替えを…もう少しソフィアの笑顔を堪能してから…と葛藤してると

「お邪魔するよ!」と軽やかな声が開けた

ままになっていた扉から聞こえた。

聞き慣れた声に「また、後を追いかけて来たのか!!」とシリウスは振り向きながら声を荒げる。

ローレンは「ようこそお越し下さいました、殿下。」と頭を下げていた。

ソフィアはまたか……と思いながら「ごきげんよう、殿下。」と挨拶をした。

「ソフィア、元気かい?今日も可憐だね。でも、殿下じゃないだろう?」

「はい。……アルベルト様、いらっしゃいませ。」

このちょっと友達の家に遊びに来ましたよ的なノリの青年は我が国の第一王子。

デルモント・アルベルト・ドリエントルである。国王と父の関係と同様、兄とは幼い頃からの友人であり第一騎士団では同僚として働いている関係だ。

王子でいる間は騎士団で鍛錬したいらしい。

ソフィアも当然幼い頃から知っている。

おうじしゃま・殿下・アルベルト様と呼び方は変遷しているが…


「何の用だ、アルベルト!!何でもう着替えている!!」

とシリウスは問うが、問題はソコだろうか…

「私は騎士団から一度自室に戻って、身支度を整えたからね。」

問題はソコらしい。

「また、あの通路を使ったな!!」

シリウスは顔を顰めて言うがアルベルトは涼しい顔で聞き流している。

一人の護衛を連れて、「さぁ、行こうか。」と慣れた様子でソフィアを談話室に促した。

シリウスは更に顔を顰めたが、まずは着替えと思ったのか自室へ向かって駆け出した。


アルベルト第一王子は度々ふらっと訪れる。先触れ…なんて知らないかのように公爵家にはやって来る。

本当に近所のお兄ちゃんみたいな感じだ。

王城と公爵家は比較的近い。近いとは言っても他からみればであって、広い城の敷地を抜け森のような場所も越えなければならない。それなのにこの王子の素早さ気軽さには兄の言っていた、あの通路の存在がある。非常時の秘密の通路であるらしいが、城から公爵家まではかなりのショートカット。アルベルトはこの通路を使ってやって来るのだ。そんなに気軽に通れるものかと思うが、以前は現国王が父に会いに来るのに使っていたらしい…黙認だ。


「グレープフルーツジュースが飲みたいなぁ。」談話室に向かいながらアルベルトが言った。

「では、お兄様にもそうしましょう。そうね、私もそうするわ。」ソフィアの言葉にステラは厨房へと向かった。

談話室に入るといつもの席にアルベルトが座り、扉の横に護衛が控えた。


「公爵家のフルーツジュースは美味しいよね。ジューサー?で作るのだろ?」

「そうです。父、兄と一緒に魔力を調整しながらやっと理想の回転でジュースにすることが出来たのですわ。フルーツも新鮮な物が王都に運ばれているので、栄養価も高いのです。」

「そうか。実はエドモンドが風邪を長引かせていてね…熱は下がったようなんだが、食欲が…」

バァーン!!

勢いよく扉が開かれた。

「……。」

「…お兄様、どうぞこちらにお掛けになって。」

兄はジロッとアルベルトを見るとソフィアの横に腰を下ろした。ピッタリと肘をあげるのも難しいほどに。

(いつものことだ。気にはならないが…若干お洋服が乱れてますよ、お兄ちゃん…)

「アル。用件はなんだ。」

「用がなければ、来てはいけないのか?親友と可愛い妹に会いに来たんだ。」

ソフィアは兄の洋服をさりげなく整えながら二人を見る。

「誰が妹だ!!ソフィアは私の可愛い可愛い、可愛い妹だ!!お前にはエドモンドがいるだろう。」(可愛いは要らなし、多いのでは…)

「私たちの仲だろう?ソフィアは私の妹だし、エドモンドはシリウスの弟だ。」

(いや、違う。それは違う王子よ!!私はシリウスの妹でエドモンドは貴方の弟だ。)

エドモンドはドリエントル国第二王子で15歳。アルベルトはシリウスと同じ17歳である。


何だかんだ言いながら、エドモンドが風邪をひいて食欲がないところまでいきついた。

グレープフルーツジュースを飲みながら「喉の痛みの強い風邪だったから、食事があまりできなかったようだ。」アルベルトは心配そうに言った。仲の良い兄弟なのだ。

ジュースと共に出された高栄養クッキーをつまんでいる。

「それでは特製ジュースをご用意しましょう。あとはスースークリームと喉の炎症止めドロップも。アルベルト様、失礼しますね。」ソフィアは一礼して談話室から退室するため歩き出した。

「これはサクサクタイプだな。私はしっとりタイプも好きなんだが。」

「なら、食べるな!!私が一人で食べる!コラッ手を出すな!!」

「違うよ。どっちも好きなんだ、もう一つくれ!!」

背中越しに二人の声を聞きながらソフィアは談話室を後にした。


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