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魔法の炎が次々と放たれる。

港で始まった光景は、次第にあちこちで見られる事となり、民に恐怖をもたらした……


ドルト公爵領……主の暴挙が日に日に激しくなりつつあった。




「おはようございます!」

「ロベルト、おはよう。木の伐採の手伝い、今日も頼んで大丈夫かしら?」

「公爵夫人、勿論です!毎日、学びがあるので楽しくて仕方ありません!」

「ふふっ、ロベルトはいい表情をするようになったわね。でも、無理はしないこと!安全に行うこと!いいわね!?」

「はい!」

ロベルトとトーマスは、すっかり仲良くなった公爵家の騎士たちと馬で駆けて行った。


「ロベルト!乗馬、随分上達したな!」

「エドモンドさ……、エドモンド!ありがとう。毎日、教えてもらったお陰さ」


ロベルトは当然、公爵家令息としての教育を受けているので、乗馬は出来た。

しかし、王子たちやシリウスと比べると随分と技術に差があり、ルルヴィーシュ公爵領に来てから毎日練習をしている。

魔法についてもそうだ。ロベルトは雷の魔法を使えるにもかかわらず、今まで訓練する時間がまるでなかった……役立てる事が出来なかった……でも、今は役に立てる事がある。

その事がとても幸せで、満たされた気持ちを与えてくれた。


ルルヴィーシュ公爵領の人達はとても友好的で直ぐに仲間として認めてくれた。

勿論、自領の人達も親切で優しいが……それはあくまで自領だからだと思っていた。常に己が守るべき民だから……

しかし、ここは主同士が犬猿の仲であると言われている、敵地。そして、自分は敵の息子である。

それなのに、ここの人達は一人の子供として当たり前のように受け入れてくれた。

感謝の気持ちでいっぱいになる……

もしかしたら……自領の人達も一人の人間として自分を認めてくれていたのかもしれない……

それを勝手に立場の問題だと思い込んで、どこか距離を置いて接していたのは自分なのかもしれない……ロベルトはそう感じ始めていた。


『ロベルト~!今日はここの木~!縦にシャーシャーシャーで根元をドーン!わかったぁ?』

「トット分かったよ。皆危ないから、離れて!」

安全を確認すると、ロベルトの手から激しい光が凄まじい速さで放たれた。

ピカッピカッピカッ!ズバーン!

ドッドォーン!!

「「「ぅおおお~!」」」

「ロベルト様!どんどん腕が上がってますね!!」

「トーマス!あぁ、昨日もトットが指導してくれたんだ!こんな経験をさせてもらえるなんてな……」

「ロベルト様……本当に……。私もバルトや騎士の皆さんに護衛の為の訓練をしてもらっています。傷ができたと思えば、ソフィア様の傷薬で直ぐに治りますし……領地で年越しの心配をしていたのが、違う世界での事のように、つい思ってしまうのです」

「確かに違うように思ってしまいそうになるな……しかし、あれも現実。

ルルヴィーシュ公爵領を見習って、我々が改革しなければならない現状だ。

その為にもこの機会、全力で少しでも多くを吸収しよう!」

「はい!ロベルト様!!」

「おいおい、二人とも。あまり気負いすぎるなよ!」

「アルベルト様!」

「ここにはここの良さ。ドルト領にはドルト領の良さがある。

第一、ドルト領には港があるんだぞ!海がある……そう、本来は栄える場所なのだ。その本来の姿を取り戻せればいい」

「そうだぞ、ロベルト!もう、仲間は沢山出来た。陛下も父上も仲間なのだ。まずは父上たちが判断される……その後になってからが、私たちが対応する番だ。その為の充電期間を陛下は下さったのだと思う」

「シリウス様……」


「お兄様~!!お昼ですよ~!」

騎士団長の馬に乗せられて、ソフィアがやって来た。森から出て、昼食が準備されている広場まで戻ると、既に美味しそうな香りが漂い、食欲をそそる。


「今日はハンバーガーとクラムチャウダー。そして、フライドポテトです!」

騎士たちに合わせてか、凄いボリュームのハンバーガーが並んでいる。

ルルヴィーシュ公爵領に来て、初めての料理に出会うのは日常になっていた。そして、食事前の「手洗い!うがい!」はソフィアによって、徹底されている。その為か、水場もしっかり整備してあり、不便はない。

「準備が出来た方からどうぞ〜!デザートにフルーツもありますからね~!ビタミン補給して下さ~い!」

「ソフィア様~!今日も抜群に美味いですぅ!!」

「おかわりあるっすかぁ~?」

「クラムチャウダーはありますよ~!あぁ、そうそう。作業がひと区切りつきそうだから、今夜はお疲れ様会だとお母様が仰ってました。だから、午後でしっかり仕上げるようにと!」

「「「ぅおおお!やったぁ~!!」」」

「しっかりやるぞ――!」

「「「おぉー!!!」」」


「ロベルト様。お疲れ様です。こちら試食していただけますか?トーマスもどうぞ!」

「ソフィ。何で二人だけ特別なんだ!ズルイぞ!」

「お兄様……これはフィッシュバーガーなのです。海のあるドルト領では普及しやすいかな?と思いまして」

「魚?魚ですか……。なるほど、これならランチに持って行けそうですし、広場で販売すれば人気が出そうですね」

「お魚は身体に良いのです。調理方法も様々ありますし、味噌汁にも、鍋にでも……

工夫次第で評判になるかもしれませんね!多くの栄養素を摂ることは健康に欠かせませんから!」

「なるほど……ソ、ソフィア……美味しい!魚がホクホクだよ!」

「ふふふっ、そうでしょ?私も味見しましたから、実は自信がありましたわ」

「ソフィ!!お兄様にもくれ!」

「私も食べたい!」

「僕もだ!」

「はい、分かってます。お兄様、アルベルト様、エドお兄ちゃん!」

『ソフィア~、苺に甘いやつかけて~』

『僕も~!』

「ビビ、ポポ、お疲れ様。練乳でしょ?れんにゅう!」


賑やかに食事をする。ルルヴィーシュ公爵領では当たり前かもしれないが、ドルト公爵領では……ロベルトとトーマスにとっては、楽しくて温かい、そして美味しい特別な時間だった。



建築士ロックは笑みを浮かべながら作業現場を確認していた。

昨年、公爵家から舞い込んだ温泉施設建設の仕事は奇跡だと、今でも時々思う。

泉質の素晴らしさに施設の斬新さ、潤沢な資金に労働環境の良さ!!

そう、労働環境が非常に良い!!

ロックは今、ルルヴィーシュ公爵家の敷地内に建てられた、一軒家に住んでいる。

以前は公爵家専属の音楽家が使っていた家だが、隠居して故郷に戻ってしまい、定期的に掃除はしているものの空いていたらしい。

しかし、当初はその予定は全くなく、領地内に借りていた一軒家から通っていたのだ……が、、、

妻ローズが暴走した……あれはソフィア様からお土産を頂いて、家でローズが無言でどら焼き、大福、羊羹を食べた後だった。

「あなた!!」

「ロ、ローズ。どうした?急に!?」

「私たち公爵家に住み込みで働かせていただきましょう!!」

「はっ?住み込み?そんな無理だろう。私は何とかお願い出来たとしても、君は雇われてる訳ではないし……」

「私、メイドとして働かせていただけるよう、お願いをしに伺います!」

「メイド~?……ローズ、メイドだって簡単に雇ってくれる訳じゃない!今、募集してるかも分からないじゃないか」

「あなた!この素晴らしいお菓子を作ったのも、下さったのも公爵家令嬢のソフィア様だと仰ったわよね!?」

「あぁ、そうだよ。その通りだ」

「こんな素晴らしいお菓子を作られるお嬢様にお仕えしなくて、どうするのです!

私は、今この奇跡に感動しています!長年、探し求めていた出逢いが遂にやって来たのです!!」


・・・これは止めても無駄かもしれない。


ローズは子爵家の二女だった。同じく子爵家の三男として生まれたロックとは幼なじみなので、子供の頃から知っている。

ローズは昔から食に関心が強く、特にお菓子には目がなかった……

「あなた!公爵夫人にお話してくださいな」

「えっ?そんな我儘は言えないよ……今回は人生最大の仕事かも知れないんだ。変な事で躓く訳にはいかないんだよ」

「へ、ん、な、事!?」

ヤバイ、言い方間違えた――!!

「嫌、違うんだ。ローズ、君の気持ちはよく分かる。うん、分かるが、雇われている立場として、その……妻も雇ってくれと言うのは……さすがに……」

「ふ~ん。まぁ、そう言われれば確かに。

分かりました。私自身が動いてみます。貴方に迷惑をおかけしないように気を付けますわ」


その後ローズは、お土産のお礼状として切々と自分の気持ちを綴った手紙を公爵夫人に送ったと言い、二日後には面接に行き、五日後には家の荷物が纏められていた。

あっという間に引っ越しだと言われ、連れていかれたのが公爵家本邸より少し離れた一軒家である。離れたと言っても庭園を挟んでいる程度、きっと実家の事までしっかり調べられ、無事に許可されたのだろう。

そう裕福ではない子爵家同士ではあったが、自分たちの家族たちの堅実さに感謝している。

ローズが働き始める前にと、夫婦で公爵夫人に呼ばれた。

そこで知らされたのは、またもや奇跡の話である。創生の魔法を使うソフィア様。守護する者。動くぬいぐるみシロにクマ兄弟。

夫婦で呆然とするしかなく、言葉もなかったが……公爵夫人は、うふふふふっ、驚くわよね……では、明日からよろしくね!と軽く言っておられ……

はい、と返事するのがやっとだった。


そうして今、現実として受け止めている毎日が非常に楽しい。

家も快適、安心安全の上、洗練された美しさが漂っている。流石公爵家!というものだ。

ローズも生き生きと仕事をし、毎夜、嬉しそうに今日の出来事を話してくれる。

なんて幸せな生活だろう!!

ロックは確認作業を続けた。今夜はお疲れ様会なのだ、絶対に楽しいに決まっている!!




ドルト公爵は、側近も怯える程に凄まじい形相で、炎の魔法を使い続けていた。


―燃えろ、燃えてしまえ!都合が悪い物など消してしまえばいい!

ドルト公爵領は美しい豊かな場所でなければならないのだから!

ははっ、はははっ、はははは ―


一方で海岸沿いでは、小舟が忙しなく行き来している。



陸と海で同時に都合が悪い物を隠す作業が連日連夜、続けられていた。





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