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「お父様っ!!ソフィアがアルベルト様と一緒とは本当なのですか!!」

「ガブリエラ。帰ってくるなり、何だ?疲れているんだから、騒がしくするな!!

そうだ、そのとおりだ。アルベルト殿下はルルヴィーシュの本邸に行かれてる。」

「何故ですの?私とは会ってもくれないのに、あんな貧祖なソフィアのところになど!」

「ガブリエラ。私は少しお前を甘やかし過ぎた…。礼儀作法くらいはしっかり身に付けていなくては困る。直ぐに家庭教師から学べ!今後は王家の前で私に恥をかかせるな!私も今は商会が忙しいのだ。とにかく、春までは大人しくしていろ!いいな!!」


何で?何で私が怒られるのよ。礼儀作法くらい知っているわ。お父様ったら、ご自分の失態を私に押し付けて!!こんなことなら領地でお母様とパーティーでもしていた方が良かったのに。んっ!そうね……領地の方が楽しいかもしれない。そうだわ。明日にでも戻ればいいのよ!!ほほほほ、お父様の八つ当たりなんかに負けないわ。

そうと決まれば早速準備ね……楽しみだわ。




ソフィアは公爵家騎士団の建物に居た。ここには騎士の執務室から生活する寮まで、全てが詰まっている。それ故に巨大な三階建ての建物なのだ。武骨な雰囲気ではあるが、掃除も行き届いていて清潔感がある。

「お邪魔します。料理長はいるかしら?」

ひょこっと顔を覗かせたソフィアに

「お嬢~!!」と駆け寄って来たのはこの建物の料理長だ。


男性陣は竹とんぼがよりよく飛ぶためには、羽の角度が…削り方が…と言って本邸に戻って行った。

よって、やって来たのはソフィアとステラだけ。ビビたちもシロもお兄様たちについて行ったから。


「料理長。突然ごめんなさい。もうすぐ騎士たちが帰って来ると思ってお邪魔したの。肉まんというのを作りたいのだけれど、許可してもらえるかしら?」

キラリと料理長の目が光る。

「それは、王都邸や国家騎士団。そして憧れの!お嬢が開いたさくらで作ってるものですかい?」

「んっ?まぁ、そうね。皆レシピを知ってるわ。」

「それなら、俺にも教えてもらえるでしょうか?」

「もちろんよ!知りたい料理は全て教えるわ!新たに作りたい料理もあるし……うふふっ。材料や設備が整えば色々と挑戦したいと思ってるの!」

更に光り出した目で料理長は叫んだ。

「お嬢の作りたいものは俺の作りたいものだ――!!」??…?全然理解できないが、OKが出たと理解する。テンションMAXのようなので

「ありがとう。感謝するわ。」と冷静に答えた。

何か新しいものと考えていたが、時間が差し迫っていたので今日は断念した……日を改めてまた考えよう!料理長はのりのりのようだし、ここなら本邸より自由がきくかもしれない。本邸にはお客様がいらっしゃることがある為、公爵令嬢が呑気に料理しているのがはばかられた。


「料理長、今夜のメニューは?」

「たった今、白紙になりました。」

「えっ?どういうこと?私がやはり邪魔だった?!」

「違いますよ~お嬢~!逆です!

お嬢が来てくれたので、お嬢の作るものが今夜のメニューになりました!!」ソフィアは軽く目眩がした。これは話をしても押し切られるパターン。時間もないし、悩むだけ無駄だと割り切り、食材を見て回る。自分専用エプロンで身を覆い戦闘モードだ。

「ステラはまず、肉まんをお願い!」

「かしこまりました。数は?」

「そうねぇ。200個で足りるかしら料理長?」

「大丈夫だよ~!」軽い。料理長、いささか軽くはないだろうか。

「よし!今夜はとんかつよ!!あとは味噌汁よね、根菜でいいかしら。そして、とんかつには千切りキャベツ――!」

勢い付いたソフィアは料理長に指示をし、まずは肉まんで騎士たちを労うように準備する。厨房全体に活気が漲り、キビキビとした作業が始まった。

騎士たち仕様のビック肉まんが出来上がっていく。

「ステラ!大きいから、蒸しあがっているかの確認を気をつけて!」

「はい。お嬢様!」出来上がった肉まんは魔道具の上で温めておく。

「お嬢~!そろそろ腹ぺこ騎士が帰って来ますよ~!」

「手洗い!うがい!肉まん!!よ!!

夕食にはまだかかるわ。」

「了解でーす!」


「ただいまぁー。腹ぺこだ―!」

「料理長~。今夜はなんすかぁ?」

ガヤガヤと騎士たちが帰って来る。

「お前たち!まずは手洗い!うがい!!」

「なんすか料理長、珍しいこと言いますねぇー。」

「うるさい、さっさとしろ!それが済んだら肉まんだ!」

騎士たちの足がピタッと止まった。

「肉まん!!あの肉まんですか?」

「あぁ、あの肉まんだ。」

!!うぉぉぉっ、分かりました――と叫んで騎士たちは水場に向かう。

あの肉まん?そんなに有名なの??不思議に思いながらもソフィアは手を休めない。

確かに公爵領は王都に近いし、国家騎士団とも交流があるから知っているのかもしれないが……なんか期待値が高い……うぅぅぅ。


「お嬢様、ありがとうございます。」と言って騎士たちは肉まんにかぶりついていく。

「お口に合えばいいですけ……」

「う、美味~い!!」あっ、合ったようだ。

「熱々で肉汁ジューシー!」

「いつか食べたいと思って憧れたが、まさか今日がその日とは!」

憧れた?肉まんに??謎の会話が聞こえていたが、ソフィアに余裕はない。何しろ騎士たちが次々と食堂にやって来ている。

「料理長、とんかつを揚げ始めます。熱々を提供したいので揚がったものから配膳を!」

「かしこまりました~!!」


少しずつ夕食が始まり賑やかになっていく。遠くから「お嬢様~!美味しいで~す!!」「ありがとうございま~す!」と声が聞こえる。最初は応えていたソフィアだが、途中で「うるさい。お嬢は今、忙しいんだ。お前たちの為なんだから邪魔するな!」と料理長が叫んだ。うふふ、喜んでくれて良かった。

全てのとんかつが揚げ終わり、やっと椅子に座る。ふぅ、疲れたけどやりきった感があるわね。

ステラと二人、一足先に肉まんで休憩をさせてもらう。

ちょうど食べ終わった頃、騎士団長がソフィアの元にやって来ていた。

「お嬢様。ありがとうございます。私も先に頂いてしまいました。新しい美味しさに手が止まらなくなりまして、挨拶が遅くなりました。」

「騎士団長。お仕事お疲れ様でした。寒い中、大変だったでしょう。少しでも皆さんの身体を癒せたならいいのですけど。」

その時『『『ソフィア~!』』』

来た!ビビたち。そしてアルベルト様とお兄様、もちろんバルトも。

騎士団長はじめ、皆が畏まった礼をとる。あぁ、気にしないでいいとアルベルト様が手を振った。

「ソフィ。何をしてるかと思ったら、料理か?今日は何だ?」

「肉まんと、とんかつですわ。」

「「とんかつ!?」」

「はい、とんかつです。食べますか?」

「「もちろんだ!」」

それなら俺がと料理長が準備に掛かってくれた。

騎士団長とアルベルト様、お兄様とソフィアの四人が席に座り談笑を始める。ビビたちは騎士たちの間を駆け回り、ちょっかいを出して遊んでいた。

「明日、私たちも温泉に行けることになったぞ!」

「まぁ、本当ですか。嬉しいですわ!これも騎士団皆様のお陰ね!ありがとうございます、騎士団長。」

「いえ。勿体ないお言葉です。」

う~ん、やっぱり……気になるわね……。

「あの、騎士団長?もしかして肩こりとかあります?」

「?肩こりですか……いえ、気にしたことはありませんが。」

「ちょっと手を貸してもらえますか?」

「私の手をですか?お嬢様に?!」

「大丈夫だ、騎士団長。ソフィにやらせてやってくれ。」騎士団長は複雑そうな顔をしながらも右手を出してくれた。

ソフィアはポケットからハンドクリームを出し手に塗ると、ゆっくりとマッサージを始める。さすが騎士の手……皮膚も厚くゴツゴツとしているが、大きくて温かい、優しい手だ。少しずつ揉みほぐしていくと段々と力が抜けていってるのが伝わってきた。

「いかがですか?何か変化ありますか?」

「夕食を頂いて身体が温まったはずなのですが……何といいますか、じんわりと全身に温かさがめぐる気がします。これは何でしょう?」

「マッサージ効果ですね。先程、騎士団長の肩が凝り固まっているように見えました。寒いとどうしても血流がわるくなりますから。」

「何だか身体が軽くなった気もします。」

周りには騎士たちが集まって来ていた。

「皆さんも真似してみてください。力は要りません。ゆっくりと揉みほぐすのです。寒いと筋肉も強ばり、怪我に繋がります。湯船に浸かってマッサージするのもいいですよ。」

首なんかはこのリンパ腺に沿って、腕はここのツボを、と次々と騎士団長を揉みほぐす。最初は抵抗があったようだが、今はされるがままだ。

「次はふくらはぎです!」気持ち良さそうになっていた騎士団長だが

「はっ!ふくらはぎ?!さすがにお嬢様にそれは!」と言っている。

「いいですか!?健康は正義なのです!皆で健康になる!!それが全てです!!」

ソフィアもだんだん発言がおかしくなってきたなと自覚したが、間違ったことは言ってない。周りの騎士たちが率先して騎士団長のふくらはぎを出してくれた。真似をしていた騎士たちも実感が得られた故の協力だ。

騎士団長本人は……健康は正義……と呟いている……。

逞しいふくらはぎを筋に沿って揉んでみる。

「うっ。」と騎士団長が呻いたので

「痛かったですか?」と慌てて聞く。

「痛いのは痛いのですが、嫌な痛みではなく……ほぐれる痛みと言うのでしょうか…...。」

「そうですか、かなり張っていますし…ちょっと痛いかもしれません。でも、きっと楽になるので少し我慢してください。」

頷いた騎士団長のふくらはぎをゆっくりと血流がよくなるようにと揉んでいく。

最初は痛いと言っていた騎士たちも、だんだんと効果がわかってきて、揉んだ脚とまだの脚では全然違うと言っている。


食堂が一転、ソフィアによるマッサージ講習会へと変貌していた。


すっかりリラックスした様子の騎士団長、そして騎士たちや料理長、料理人たちに見送られ

「明日は宜しくお願いします。しっかり湯船で温まってくださいね。

おやすみなさ~い!」と大きく手を振りながら本邸に戻った。

お兄様たちはとんかつに満足したようで、また食べたいと言っている。

何だかんだと忙しい一日だったわね……早く休まないといけないわ。



明日は待望の現地調査への同行だ!!

私も身体を温めて、明日に備えよう~!



ソフィアは満足感と共に眠りについた。






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