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公爵領に戻る日が近づき、使用人たちは準備に忙しい。

お母様は度々戻って領地の経営をしていたが、社交シーズンが終わったので今回はしっかり腰を据える。

お父様は宰相の仕事があるので変わらず王都生活だ。

「寂しい寂しい寂しい寂しい……。」

最近のお父様の口癖。

「ベン。毎年のことでしょう?公爵領は王都から最も近いのだし、そんなに寂しがることないでしょう?」

「リリーは冷たい。私は一人残される……。」

「父上、申し訳ありません。」

「お父様。今年はさくらのこともありますし、何度かこちらに来ようと思っています。例年より早めに戻って来ますから!」

「シリウス。ソフィア。我が子たちは優しいな。」はぁぁ、とお母様はため息をついていた。



次の日。

「公爵領にもどるのか。寂しいな。しばらくシリウスとソフィアに会えない。寂しいな……。」

……、……。

「兄上と二人になりますね。寂しいです。

ここにも春まで来なくなるのですね。僕、寂しいです。」


「アル。エド……。二人して父上のようなことを……。二人とも忙しい時期だろう?公務もあるだろうし、勉強もせねばならんはずだ。」

「ソフィア。今年はこちらで年越ししたらどうだ?ベンフォーレも居るだろうし、王都は賑やかになるぞ!」

「アル!勝手な事を言うな!」

「ソフィア。お兄ちゃんと一緒に初売りに行かないか?きっと楽しいぞ?」

「エド!王子が初売りなど行かないだろう!」

「アルベルト様。エドお兄ちゃん。そうしたいのはやまやまですが……私にも公爵家令嬢として領地でやらねばならない事がございます。お父様が帰れないので、その分お母様の力にもなりたいのです。申し訳ございません。」

「「うぐっ!!」」

「ふん。正論だな、ソフィ偉いぞ!」

しゅんとしてしまった王子たちに

「さぁ、こちらをどうぞ!」とソフィアはおでんを差し出した。

温め機能の魔道具の上でほかほかである。

「これは?」

「おでんです。好きな物をお取りしますので、仰ってください。」

「う~ん。これとこれ。あとこれ。」

ステラが横に来て手早く取り分けている。

「僕はこれ、これとこれ。」

「熱いですので、気を付けてくださいね。」

フォークに大根やら玉子を刺して、ふぅふぅ言いながら食べている。

「中まで味が染みているな!こんなに塊みたいな大根、初めてだぞ!」

「野菜は好きじゃないと思ってたけど、これは好きだ!」ロールキャベツも入れてみたけど、二人共に気に入ったようだ。


身体の中から温まって、のんびりし始めたのでソフィアは準備していたビンを取り出した。中身はミントタブレット、勿論アルベルト様にだ。

「アルベルト様。こちらを。」

「!っ、創ってくれたのか?ありがとう!」

アルベルト様は嬉しそうに受け取り、沢山あるなと満足している。

そんな様子をエドモンド様は嬉しそうに見ていた。良かったわ。

まだまだ今日は帰らないとの雰囲気をみせるので、ソフィアはとっておきの物を出す事にした。

一度私室に戻り、持って来たのはオセロだ。

この世界にチェスはある。紳士たちは嗜みとして覚えるのだろうが、オセロは準備もルールも簡単だ。上手いか下手かは別にして、子供でも手を出し易い。

「これは何だ?ソフィ、私も初めて見たぞ!」

「領地に持って行こうと思っていたのです。オセロと言います。」

ルールを説明すると、早速三人は食い付いた。ソフィアはおやつの準備をするからと言い、三人で順番に対戦してもらう。審判は要らないのだが……シロが審判すると言っていた。シロも領地に行くのでしばらく会えなくなる、寂しいのだろう。



厨房で調理を始める。前から作りたいと思っていた物があったのだ。

前世のコンビニ、レジ横……サラ的に思い出すのはアメリカンドッグとフライドポテト!!ついつい目がいってしまうもの、だった。

この世界のパンケーキ生地を応用するので作るのは簡単だ。どちらも揚げ物だなと思ったが、たまにはいいだろう。フライドポテトは細めのものがサラの好みだった。よく油を切って盛り付ける。厨房のスタッフが興味津々にメモを取っていたので試食用にと沢山分けてあげた。

フライドポテトに塩を振り、ケチャップとマスタードを準備して、アメリカンドッグと一緒にトレーに乗せて運ぶ。談話室では上着を脱いで、本気モードの勝負が行われていた。リラックス効果のあるハーブティーをステラに頼み、ソフィアはケチャップとマスタードを片手で何とか持つと、絞り口を近づけて二本の線を出しながらアメリカンドッグに文字を書き始める。カタカナだ。

アルベルト・エドモンド・シリウス・ビビ・トット・ポポ・シロ・バルト・ステラ。最後にソフィア。赤色と黄色が所々交差して綺麗だ。ビビたちとシロは文字数が少ないから最後に♡を付けた。

ちょうど、香りに釣られてビビたちがやって来た。『『『お腹空いた~!!!』』』

おやつがあると言うとニコニコしている。

兄たちにも声を掛け、ドーンと並んだアメリカンドッグと山に盛られたフライドポテトを見せる。

「えっと……ソフィ。これは?」

「アメリカンドッグとフライドポテトです。サラの好物でした。」

「なるほど。で、何か文字のように見えるのは……。」

「皆さんの名前です。前世のカタカナと言う文字ですね。」

「これが名前……。」自分の名前と言われて

よく見たいのだろうが、ソフィアは温かいうちに食べて欲しい。

「はい。アルベルト様、エドモンド様、お兄様。でこちらから、ビビ、トット、ポポ、シロ。そして、バルト、ステラ、私ね。ささっ、冷たくなる前に食べてください。」

ソフィアにしてはちょっと強引とも言える勧め方の為に、皆慌てて食べ始めた。


「んっ!美味い。」もごもごかぶりつきながら、お兄様が言う。

「まわりの少し甘めの生地が絶妙です、お嬢様!」珍しくステラもテンション高めだ。

「おいちぃ。」シロはケチャップと格闘しながら食べている。ふふっ可愛いわね。

ビビたちは既にフライドポテトにも手を出している……熱々だねぇー!ホクホク――!

こちらも気に入ってもらえたらしい。

……王子たちが大人しいので、様子を伺うと……

「兄上!このように美味しいものも春までお預けになるのですね……。」

「エドモンド!言うな!寂しくなる……。」

おいおい、王子たちよ!そんなにしんみりする場面だろうか……今年はお父様といい、王子たちといい大袈裟すぎる。例年より様々な出来事があり、一緒に居ることも楽しいことも多かったのは事実だが……。


「おとーしゃま。これもどうじょ。あちあちでおいちぃでしゅ。」

シロがフライドポテトをフォークでブスブス刺し、アルベルト様の口に押し付けている。

アルベルト様は一瞬驚いた顔をしたが、シロでは仕方ないと思ったようで口を開いて食べていた。

「おいちぃでしゅか?」

「あぁ、美味しいな。シロ、ケチャップを付けているぞ。こちらにおいで。」

シロを抱き上げ優しく拭いてあげている様子は微笑ましい。

シロはエドモンド様にもフライドポテトを差し出しそうな勢いだったが

「シロ、僕は自分で食べるから!」と慌てて断っていた。

シロのお陰で持ち直してきたようだ。


日も暮れてきた頃、渋々王子たちは帰城する気になったようだ。

「アルベルト様。エドお兄ちゃん。こちらをお持ちください。」

差し出したのはオセロだ。二人共、楽しんで遊んでいたので冬場の暇つぶしにはなるだろう。

「ソフィア。いいのか?」

「はい。勿論ですわ。少しでも癒しになればいいですけれど。」

「ソフィア。ありがとう!父上と母上にも教えてあげるよ!」



いよいよ出発という前に陛下と王妃に挨拶し、王妃様にはこっそり化粧品を渡した。

魔法省にも鉛筆、消しゴムをお土産に顔を出す。

悩んだのだが騎士団にも寄って、見本となる数十個の肉まんとレシピを置いてきた。

最後にさくらへ。

ソルとエマもすっかり即戦力となり、元気に働いている。ダンとララはやはりしばらく会えないのが寂しいと言っていた。ダンとララ用にエプロンを作り、皆の為に創ったハンドクリームと一緒にプレゼントする。

「テオ様。ローラ様。困った事があれば遠慮なくローレンに連絡してくださいね。それでは宜しくお願い致します。」

「はい。かしこまりました。ソフィア様もどうかお気を付けて!」




王都から公爵領までは馬車でも一日まではかからない。お母様の言う通り近いのだ。

それでも、領地に戻るとなると一仕事なので、荷物は多い。

今回はソフィアが創生の魔法を使う者となり、初めて公爵領の本邸に戻る。既にお父様から本邸家令のルーカスには伝えられ、王都邸と同様に箝口令が敷かれた上で屋敷の者には知らされた。それはそれは大騒ぎだったらしく、今回の帰りを待ちに待っているらしい。しかも守護する者たちも同行と聞いて、気合いが入りまくっているとか……。

馬車の中、ビビたちはハイテンション。まぁ、いつもの事だが……

『ソフィア~!公爵領では何するの?』

「ん~。ルーカスに話を聞いてからかしら。あぁ、ルーカスは本邸の家令でローレンのお兄さんよ!」

『ローレンのお兄さんが居るの?すごーい!』

「ルーカスの娘たちも居るわよ、ふふっ。まぁ、会ってからのお楽しみね!」

「シロのあそぶのあるぅ?」

「シロの?そうねえ。お庭はとぉーっても広いわね。お馬さんもたくさんいるわ!」


カラカラと快適に車輪を回しながら馬車は公爵領に入った。

窓から外を見るとだんだんと民家が増えていく。本邸は公爵領でも王都寄りに建てられているのだ。公爵家の家紋入りの馬車に手を振る子供達も居る。

いよいよ屋敷が見えて、外門を潜ったところからずらりと騎士たちが並んでいた。

ルルヴィーシュ公爵家の騎士団だ。規模は限られており、ドリエントル国騎士団との合同演習なども義務付けられている。


ゆっくり馬車止めまで辿り着き、

お母様、お兄様、ソフィアとシロが降り立つ。こっそり後を振り向くと……

やっぱり、予想していたが……大きくなったビビ、トット、ポポが続いていた。



使用人たちは皆、一糸乱れぬ体勢で頭を下げている。

「奥様。シリウス様。ソフィア様。無事の御到着、何よりでございます。使用人一同、お待ち申し上げておりました。」

一歩前に出たルーカスが慇懃に礼をする。

「ルーカス、ご苦労様。こちらがビビ様、トット様、ポポ様。そしてシロよ。」

『『『よろしく頼む。』』』

「おねがいちまちゅ。」

「ようこそおいで下さいました。光栄にございます。さぁ、まずは屋敷にお入り下さいませ。」




さぁ、公爵領での生活だ。

シロは緊張しているようで、ソフィアの手をぎゅっと握っている。そんなシロのことをお兄様も撫でてあげていた。

「シロ。私もソフィも一緒だから大丈夫だよ。たくさん遊ぼうな!」

お兄様の言葉を聞いて、少し安心したように頷くシロだった。






誤字、ご連絡いただきありがとうございます。

訂正しました。


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