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「騎士団に出入りしているだと?!」

「はい。間違いありません。魔法省の者も一緒だったと。」

怒りからバサバサと机の書類を撒き散らしながら、ドルト公爵は側近の報告を聞いている。

「あの小娘は何をしているんだ!!」

「それが……サッカーなるものの発案者で、厨房では料理もしていたと。」

「なんだ、それは!!急に王城にやって来るようになったと思えば!……チョロチョロしおって!

ならば、ガブリエラも騎士団に行かせよう。ふん、我が公爵家の贅を尽くした料理でも出せばよい。そうだ、それでいい。早速、手配させよ!」

「かしこまりました。」




ソフィアはさくらに向かっていた。魔道具の設置された箱からはいい香りが漂っている。

「ソフィ。それは差し入れなんだろう?何が入っているんだ?」馬車の中で香りにつられ、お兄様が我慢できずに聞いてきた。

「お兄様。着いてからの楽しみだと言ったではありませんか。もう少しお待ちください。」

「そうは言うが、いい香りが馬車に充満している。魔道具で温めているから尚更だ。……、……早くさくらに着くといいな。」

ソフィアをちらちら見ながら話していた兄だったが、着くまで無理だと諦めたのか馬車の小さい窓から外を眺め始めた。

お待ちかねのさくらに着き、馬車から降りたところ

「おねーちゃん!」可愛らしい声と共に女の子が飛び付いてきた。

ん?あ――っ、あの時の!女の子の少し後ろには兄と両親らしい夫婦も見える。

「こんにちは。お母様、元気になられたのね?良かったわ。」

「うん。おねーちゃんのおかげだって!これ、おれいのおはな!」綺麗に束ねられたピンクのコスモスを差し出された。

「まぁ、綺麗ね。ありがとう。嬉しいわ、早速飾りましょう。」女の子の頭を撫でてあげると、恥ずかしそうにしている。ふふっ、可愛いわね。

「あ、あの。私はこの子たちの父親でございます。先日は妻も含め大変お世話になったと。ありがとうございました。このとおり妻も元気になりました。」

両親が女の子の横に来て、深々と頭を下げている。

「いいえ。大したことはしてませんわ。お元気になられたのであれば、私も嬉しいですから。」

「それで、その……。この馬車の紋章……。もしかして……、」

「ソフィア様?どうなさいました?」

テオがなかなか入ってくる様子のないソフィアたちを心配して、さくらから顔を出した。

店は今日の営業は終わり、一段落している時間。

「テオ様。ごめんなさい、大丈夫よ。そうだ皆さんも一緒に中でおやつにしましょう!」

兄妹の両親は戸惑っていたが、外は寒いからと半ば強引にさくらに入ってもらう。


皆で椅子に座り、ホカホカの肉まんを食べている。

「ソフィア様。これはまた、美味しいですね!」

「ソフィ。肉まんというのか?これは、これからにピッタリの食べ物だな。熱々だ。」

「おねーちゃん!おいしい!」

「そう?いっぱい食べてね!」


皆、食べ終わり一息つくと

「……、あの貴方様は。」

あぁ、自己紹介もまだだったわ。お兄様を見ると、うんと頷き姿勢を正した。

「私はルルヴィーシュ公爵家のシリウス。隣は妹のソフィアだ。」

「遅くなってごめんなさいね。」

「ルルヴィーシュ公爵家の御嫡子様と御令嬢様!!……こ、これは大変失礼しました。

私はソル。妻のエマ。息子ダン、娘ララです。この度は大変お世話になりました。私が出稼ぎに行っている間に、妻が風邪を拗らせてしまったようで。」一家は慌てて立ち上がったが、お兄様が手で制すると、おずおずと座り直していた。

「まぁ。それではソル様はお留守でしたのね。」

「ダン。ララ偉かったな。」お兄様も二人を褒めている。

「はい。恥ずかしながら出稼ぎ先が潰れてしまい、帰って来たところなのです。妻が寝込んでいるのも知らず、子供たちを不安にさせました。」

「仕事先はどちらでしたの?」

「港町で輸入品を扱う商会の下働きでして……様々な事をしておりました。」

「食品を扱ったことは?」

「魚を加工するために捌いたりはしておりました。」

「そうなのね。それにしても……国外との貿易が難しくなったのかしら?……ん――っ、まぁ、それはまずは置いておいて……。

ソル様は次のお仕事、お決まりになっているのですか?」

「それが、なかなか難しくて。王都になければ、また離れた所でかと……。」

「そう、テオ様。どうかしら?」

「はい。まずは少し捌いてみてもらってからと。」

「そうね。ソル様!少し魚を捌いてもらっていいかしら?」

「魚を?勿論構いませんが……。もしかして。」

「ええ。テオ様が合格を出したら、ここで働いてもらいたいわ。」

「いいんですか?本当に?」

「勿論。まずは腕前を見てからね、ふふっ。ステラ。エプロン出してあげて!」

「かしこまりました。お嬢様。」


「とーちゃん!がんばって!」

ダンが声を掛けると、エプロンを着けながらソルはやる気をみせていた。


厨房にはテオとローラ、ソルが入って行った。邪魔にならないようにシリウスとソフィア、バルトとステラ、ダンとララはテーブル席で待機している。妻のエマは祈るように手を組んでいた。

「エマ様。大丈夫ですよ。」

「はい。ありがとうございます、お嬢様。

……主人は最初、王都の商会勤務だったのです。それが、港町に変わり仕事も様々しなければならないようになって……私も働きに出たいのですが、子供たちがもう少しおおきくなってからと……。」

「そうだったのですね。お互いさぞ心配なされたことでしょう。心労も風邪を拗らせた要因だったかもしれませんね。

ソル様の勤めていた商会というのは?」

「はい。ドマフ商会です。」

「ドマフ……お兄様!」

「あぁ、分かった。任せておけ。」


ソルが厨房から戻って来た。少し遅れてテオとローラもやって来る。

「ソフィア様。」とテオがにっこり微笑んだ。ソフィアもほっとする。

「ソル様!」

「は、はい。」

「合格です!これからはさくらで、テオ様とローラ様を支えてくださいね!!」

「あ、あ、ありがとうございます。精一杯頑張ります!!」

あなた!とーちゃん!と家族は抱き合って喜んでいる。

「あと、提案なのだけど。開店している時間、ホール担当としてエマ様にも働いてもらってはどうかしら?お昼の時間だけだし、ダンとララには休憩室に居てもらっても問題ないかと思うんだけど……。」

「まぁ、ソフィア様。それはいいですね!子供たちも安心ですし、私の将来の働き方について参考にもなります!」ローラは即答だ。

テオは苦笑いをしながらも

「エマ様がよろしければ、そうしてもらうと助かります。」と答えた。

エマはびっくりしたような顔をしていたが、直ぐに泣きそうな顔に変わり

「ありがとうございます。」と深々とお辞儀をして、しばらく動かなかった。


早速、明日から働いてもらうことになったので、労働条件や賃金についての契約をする事にした。こんなに条件も賃金もよくていいのかと驚く夫婦に、ルルヴィーシュ公爵家のお陰なのだとテオとローラが力説している。

居づらくなった私たちは帰ることにして、ダンとララにまた会う約束をした。

「最後に一つだけ!

健康のために食事を提供しようとしているのですから、働き過ぎで体調を崩すのはいけません!休憩やお休みは必ずしっかり取ってください。お願いしますね!!」

ソフィアが拳を握って語っているのをテオとローラは微笑みながら、ソルとエマはぽかんとしながら聞いていた。

言う事は言ったとばかりにソフィアは兄たちと一緒に帰路につく。




数日後、騎士団団長室にバロン料理長が居座っていた。

「バロン。そろそろ分かってくれ。ルルヴィーシュ公爵家がよくて、ドルト公爵家が駄目とは言えないだろう。」

困った様子なのはジャック副団長。

「ソフィア様には俺が頼んだんだ。ドルト公爵家には誰も頼んでいない!しかも、俺の仕事場を荒らしやがって!厨房は俺が仕切ってるんだぞ!!」

はぁ。何でこんな事になったのかとジャックは頭痛がした。

二日前、ドルト公爵から騎士団に夕食を提供したいと申し入れがあった。

ルルヴィーシュ公爵家に対抗しているのは明白だったが、意味合いは全く違う。

騎士たちの為に美味しく身体づくりに適した食事をと、料理長が求めて準備したルルヴィーシュ公爵家。

ドルト公爵家は言わば、勝手に押しかけて来て豪華なフルコースを出し、恩を押し付けている。

「バロン、すまんな。今回だけだ。今後はないと誓う。どうせ今日で懲りるだろうしな。」アーサー団長が言えば、渋々バロンも頷いた。


コンコン。

「失礼します。準備が整っております。」

「あぁ、今行く。団長、バロン。参りましょう。」三人は全く気乗りしない夕食の為に食堂に向かう。

しーんと静まり返った食堂には騎士たちが集まっていた。

団長の姿を見て、ガブリエラが急いでやって来る。

「団長。今日は我がドルト公爵家のシェフが腕によりをかけて準備致しました。きっと、満足いただけますわ。さぁ、テーブルマナーなど気にせず召し上がってくださいませ!!!」静かな食堂にガブリエラの声が響き渡っている。

「ありがとうございます。では、有難く頂こう。」

団長の声で騎士たちは食事を始めた。

カチャカチャとフォークとナイフの音だけがする。

「おほほ。皆さん、美味しい料理にビックリなさっていますのね!お役に立てて嬉しいですわ!!」


何で疲れた身体でこの料理だ?

食った気がしねぇ。直ぐに腹が減りそうだ。

何で恩着せがましい態度なんだ?あの嬢ちゃん……あの歳で偉そうにしてるんだな。

この間のソフィアちゃんと大違い……。

同じ歳なんだろ?全然違うな……。

あぁ、ソフィアちゃん!

ソフィアちゃんの料理がいい!!

また、来てくれないかな?バロンとも仲良くしてたし……ソフィアちゃん、ソフィアちゃ~ん!!

騎士たちはカチャカチャと音が鳴るのに合わせ、小声でブツブツ言ったいた。

巻で食べ終えた騎士たちにガブリエラは満足しているが、この時間が耐え難いからだとは気付いていない。

「余程、美味しかったのですわね。そうだ!定期的に開催致しましょうか?」

「いいえ、ガブリエラ公爵令嬢。我々は今日で満足です。

騎士にとっては食事も訓練ですので、華美さは必要ありません。」

団長がきっぱりと答えると、ガブリエラは意味が分からないような顔をしていたが

「そうですか。分かりました。充分にドルト公爵家の夕食の素晴らしさを分かっていただけたのですから。おほほほほ。」


団長、副団長、料理長が皆、笑顔を貼り付けてはいたが、内心は二度と来るなと思っていた。




ルルヴィーシュ公爵家執務室。


「父上。ドマフ商会が潰れたと……。

ドルト家が何かしているのでしょうか?」

「ドマフ商会か……貿易……よし、調べさせておこう。ところで、

さくらに入った一家は大丈夫だったか?」

「はい。ローレンから報告がありました。

何も問題はないようです。」

「そうか。ソフィアのこと、頼んだぞ。」

「はい。勿論です。ソフィアは我が公爵家の天使ですからね。」

「あぁ、最近は随分とお転婆になったがな。ははっ。」

「そうですね、考えてみればこの数ヶ月で随分と。ふふ。」



親子の秘密会話の時間だが……

結局ソフィアの話で終えるのだった。


そして、それが嬉しい父と兄である。










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