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ドルト公爵はイライラしていた。


最近、宰相の娘が登城し始めたからだ。

回数は多くないが、病弱な娘が何故突然……

王城に居たと報告を聞く度に怒りが湧いてくる。

王妃になるために何か動いているのではないかと、ドルト家に恩がある貴族や使用人を使って探りを入れたが、全く収穫がない。


「父上。大丈夫ですよ。病弱な令嬢が王妃になど……無理に決まってます。

むしろガブリエラより王子と年頃の近い令嬢たちの方を気にされた方が。

あれだけ王城に通っても、ガブリエラは王子に会えない状態なのでしょう?

ならば今のうちに勉強をさせておいた方がよいのでは……。」

「ロベルト!父親の私に指図するな!今のうちから、王子らに顔を売るのが重要だ!

お前が将来宰相になって、ガブリエラが王妃。その事だけ考えておけ!」


「……失礼しました。」


「ロベルト様。大丈夫ですか?」ロベルトの侍従は心配そうに声を掛けた。

「大丈夫だ。心配ない。」

「次期公爵であるロベルト様より、ガブリエラ様ばかり大事になさる旦那様には困ったものです。」

「こら。誰かに聞かれてはいけない!

……だが、少し疲れたな……。明日は街に出掛けてみるか……。」

「それはようございます。丁度私も出掛けたかったのです!」

「ははっ、調子がいいな。なら、忍びでな!」

「かしこまりました。」




朝、朝食に向かう時、ステラが言った。

「お嬢様。今、使用人たちの中で鉄棒が人気なのですよ。お嬢様のようにクルクル回る事は出来ないのですが。」

「あらっ。使ってくれてるのね。良かったわ。最近は見に行ってなかったから、気にはなってたのよ。」


「お父様。お母様。おはようございます。」

「ソフィア、おはよう。」

「おはよう。今日はさくらに行く日だったかしら。」

「はい。朝食後には出掛ける予定です。

お兄様、おはようございます。今日は宜しくお願いします。」

「ソフィ、おはよう。あぁ、任せておけ!今日は天気も良くて、いい日になりそうだ。」

「シリウス。ソフィアを頼んだぞ。」

「はい。父上。」


順調に進んでいる、さくらオープンへの日々。

今日は大量に豚汁を作り、店先で配る予定なのだ。

だいぶ気温も下がってきたところ、温かいものを配布して料理の宣伝をしたい。

今日は厨房スタッフも多めに連れて行く。

ビビたちやシロはさくらに連れて行けないが、呼ばれれば瞬間で移動するからと簡単そうに言っていた。



さくらではテオとローラが既に働いていた。どのくらいの人達に配れるか分からないが、少しでも多くの人にさくらの店の味を知ってもらいたい。

「唐揚げも揚げて、串に刺して配りましょうか。」

「お嬢様、良いですね!僕、唐揚げ大好きです!!」

「おいおい、宣伝の為だぞ!つまみ食いするなよ!」

「分かってますよ~。でも、味見くらい必要でしょ?」


ワイワイ話をしながらも、手はしっかり動かして調理は進む。

前もって許可はもらっていたが、騎士団の詰所にも挨拶に行く。

予定どおり行う事の連絡と、忘れずに差し入れ。なんと、今日も第一騎士団の担当でアレン隊長が対応してくれた。

騎士たちが見回りを兼ねて様子を見に来てくれるという。助かります……騎士の姿があると周りも安心するから。


店に戻り、いよいよ配布を始めた。

職人街の人達が昼食に入る時刻、香りに誘われたように一人、また一人と集まって来る。

オープンを控えての宣伝だと分かると、あっという間に話が伝わりどんどん人達が列になっている。テオとローラを中心に次々に配っていくと、ちらほら感想も聞こえてきた。

「食べた事ない味付けだが、肉も入って満足感があるな。体も中から温まる。」

「俺、知ってるぞ。味噌とかいうサチヨの店で売ってる調味料らしい。」

「おー!こっちの揚げてある肉も美味いな!熱々だ!」

「日替りで昼食を出す店らしいぞ!」

「この味とボリュームなら、高いんじゃないか?」

「それが、そうでもないらしい。俺たち相手に商売するみたいだからな。」

「なら、値段も期待できるか。味はいいみたいだし、一度来てみるか。」

「いいな。楽しみが出来た!」


職人たちの中に商店街の店員たちも混じり始める。交代で休憩なのだろう。仕入れに利用している店の店主も居たようで、テオとローラが笑顔で言葉を交わしている。

騎士たちが警邏してくれている姿も見えた。

順調だわ。ソフィアも背の低い子供たちに配り始める。なかなか列に入れず、遠巻きに見ている子供がいたのだ。

「どうぞ。食べてみて。」ソフィアが差し出すと嬉しそうに「ありがとう。」と言う子供たち。「熱いから気を付けてね!」

生活の余裕がない家庭の子供たちらしく、日中は小さいながらも働いているようだ。

ステラに補充を頼みながら、集まって来た子供たちに配っていると

「これはなんと言う食べ物だ?」と聞かれた。顔をあげて見てみると、働いている子供たちとは違った様子の子供と青年が居た。

簡素な服装で平民のようにしているが、明らかに質が良い仕立てだ。裕福な家の子のお忍び姿そのもの……。

「はい。豚汁と唐揚げと言います。今度オープンする、さくらという店で出す予定の料理です。お試しください。」差し出した唐揚げを受け取ると、ちょっと躊躇したがパクリと食べた。

「……、……美味いな。そちらも貰えるか?」

「勿論です。熱いですので、気を付けてください。」

豚汁も美味しそうに食べている。青年と二人で楽しそうに食べているので、気に入ってくれたらしい。

再び子供たちに配ろうとすると

「ソフィ!一人で外に出るな!」お兄様がやって来た。

「ごめんなさい。ステラが追加を取りに行っていて……、……ん?」

お兄様がソフィアを飛び越え、先程のお忍びの様子だった子供を見ている。



「……ロベルトだろう?久しぶりだな。」

「これはシリウス様。ご無沙汰しております。」……知り合い?やっぱりお忍びだった?貴族の令息だったかな?

「お兄様。こちらは?」

「あぁ、ソフィアは初めてだったか……。

ドルト公爵家のロベルト様だ。」

ロベルト?ドルト公爵家の?

「初めまして。ご挨拶が遅くなり申し訳ございません。

ルルヴィーシュ公爵家が娘、ソフィアにございます。以後、お見知りおきくださいませ。」

「貴方がソフィア嬢……。

あぁ、すまない。こちらこそ挨拶もせずに失礼した。ドルト・ロベルトだ。宜しく頼む。」

「ロベルト。今日は何か要件でもあるのか?」お兄様が厳しい顔で聞いている。

「いや、今日は忍びの街散策でな……侍従と二人だけで来ている。たまたま賑わいを見つけたので、寄らせてもらった。」

お兄様は疑わしそうにしているが……。

その時、ソフィアのエプロンを小さな手が引っ張った。見ると3歳くらいの女の子とソフィアと同じくらいの男の子の兄妹。

「おねーちゃん。たべものくれてるの?」

ソフィアは屈んで女の子に目線を合わせた。

「そうよ。どうぞ、食べてみて?」

二人に手渡すと兄が妹を手伝ってあげながら、食べている。

「おいちぃ。おかーしゃんにもあげたいね。」妹が兄を見ながら言った。

「お母様はお仕事なの?」

「かーちゃんは今、風邪ひいて寝てるんだ。」兄の方が答えてくれる。

「まぁ、大変。熱があるのかしら?」

「熱は下がったけど、咳が続いてる。」

「咳が……。ステラ!」

「はい、お嬢様。こちらに。」

「スースークリームを分けてあげて。後、豚汁と唐揚げも持ち帰り出来るようにしてあげてちょうだい。」

「かしこまりました。」

「二人とも。このお姉ちゃんからお母様にお土産を受け取ってね!早く治るといいわね……。首元と足元、冷やさないようにしてあげてね。」

「ありがとう。」ぺこりと兄が頭を下げると妹も真似をした。手を振って別れると……

お兄様とロベルト様、侍従からじっと見つめられている……えっと……何か微妙な雰囲気で居たところでしたわね……。


「はぁ、ソフィア。もう店に入ろう。」

「はい、お兄様。でも……

一つ言わせてもらうと、ロベルト様たちは本当にお忍びでいらっしゃった途中のようでしたわ。」

「ソフィアがそう言うなら、そうなのだろうな。」

「ふふ。それではロベルト様。失礼致します。」

「あぁ。シリウス様。ソフィア嬢。驚かせてすまなかった。……その、料理は美味しかった。」


ソフィアは微笑みを浮かべると、丁寧にお辞儀をし、シリウスの後ろを歩いて行った。




「ロベルト様……驚きましたね。あれが噂のソフィア嬢ですか……ガブリエラ様とはまるで……いやっ、、、

あのお歳であの容姿、佇まい。民に対する態度まで……。」


「ははっ、父上も随分と無謀な事をなさろうとするもんだな。私も考えを改めなければ……。」



しばらくじっと店の方を眺めていた二人は、無言で帰路につくのだった。






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