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朝晩がだいぶ涼しくなり季節が変わる頃、定食屋の建物が出来たと連絡が入る。

しかし、残念ながらソフィアは寝込んでいた。まだまだ季節の変わり目には弱い。

医者から気管支炎と診断された。


前世とは違い、自然豊かな場所で規則正しく生活してるが……そう簡単に体質改善はしない。体力よね、きっと。

年齢に伴った体力づくり!免疫力UP!

異世界に転生したのだから、前世のサラの分も頑張る!!

ベッドに横になり、いつものシロの看病を受けながら、ソフィアは決意を固めていた。


「早く、テオたちに会いに行きたいわねぇ。ケホッ。」

「お嬢様。健康が第一でございます。」

「分かっているわ。ステラ。早く治さないと心配性の人達が騒ぎそうだしね。」

毎日ソフィアの側に張り付こうとするお兄様や時間が空けばやって来る王子たち、帰宅すると真っ直ぐソフィアの寝室を目指すお父様と……寝ていても忙しいくらいだった。

お母様に一喝されるまでは……。



ようやく回復して今日は定食屋を見に行ける。お兄様とバルト。ステラと厨房のスタッフ二人。ローレンと護衛を三人という人数。馬車二台と護衛は騎乗という公爵家の移動らしい一行だ。

近くで馬車から降り、建物に向かうとテオとローラが外に出て迎えてくれている。

「シリウス様。ソフィア様。お待ちしておりました。お越し頂けて嬉しいです。ありがとうございます。」

「出迎えありがとう。今日は楽しみにしていた。よろしく頼む。」

今日のお兄様は公爵家の令息らしく凛々しい装いで、振る舞いも外用の仕様らしい……。

「テオ様。ローラ様。お久しぶりです。訪問が遅くなってごめんなさい。私も今日をとっても楽しみにしていたのよ。」

ソフィアは両手を組み、祈る様に瞳を輝かせている。アメジストのような瞳がキラキラと光って、今日のソフィアもがっちり令嬢仕様。

「お嬢様!さぁ、どうぞ中へお入りくださいませ!」ローラがいそいそと扉を開けてくれる。

中に入ってみると、落ち着いたウォールナットで統一されており、窓からは陽の光が沢山入り込む。温かい雰囲気がする空間だった。

カウンターが10席、テーブル席が5卓あった。なかなかの広さ。二階には個室も一部屋あり、公爵家の皆様専用です!と言われた。

働く人たちの休憩スペースも充分広く、仮眠できる部屋もあるようで、ソフィアはブラック企業のような働き過ぎは止めなければと心の中で誓っている。

厨房も設備が整っており、保管庫も立派なものだった。味噌や醤油と保管するものが沢山あるからね!


「過ごしやすそうな店になったんではないか?」

「シリウス様。これも公爵家の支援を頂けてこそでございます。感謝してもしきれない思いです。私たちはご恩を少しずつでも返せるよう精進いたします。」

「テオ。今までテオたちが繋いできたものに、ソフィアを始め私たちが惚れ込んだからこそ縁ができたのだ。これからも共に頑張ればいい。責任を背負い込んで無理しないようにな。」

「テオ様。私は提案させて頂きたい事がまだまだ沢山あるのです。一緒に頑張らせてくださいね!」

「シリウス様、ソフィア様……ありがとうございます。本当にありがとうございます。」

「テオ様!まだまだこれからです!

私の夢は皆の健康を食で支えることです!!

さぁさぁ、早速試作をしてみましょう~!」

ソフィアの外用仕様がすっかり剥がれた所で、クスクスと笑い声がした。


ローレンとお兄様がテーブル席に座り、何やら打ち合わせを始めていたが、ソフィアたちは早速試作するべく、厨房へ向かった。


「あらっ、そうだわ。ステラ!」

「はい。こちらに。」

ステラは包みを差し出した。中にはエプロンが入っている。男性用は紐を前まで回して結ぶタイプ、女性用はスカートエプロンだ。リネンでオーク色。

「試しに作ってみたのだけど……使ってみてくれるかしら。」

テオとローラ。厨房スタッフ二人とステラが着けてみてくれる。ソフィア用は特別仕様。もちろん小さいからだ……。

「しっかり洋服を覆えるので安心ですね。しかも可愛らしい!」ローラがくるりと回って喜んでいる。

「こんなお洒落なエプロンは初めてです……ちょっと照れくさいですが。」

「あらっ、テオ様。お似合いですよ!」

ソフィアの言葉にますます照れていた。

厨房スタッフたちとステラも、いつもと違うエプロンをお互い眺め褒め合っている。


「ところで、お店の名前は?決まったかしら。」

「その事なのですが、是非ともソフィア様に決めていただきたいと思っております。」

「お願い致します。」テオとローラがソフィアに頭を下げている。

「顔を上げてください。私でよければ、お受けしますから。」ソフィアが慌てて言い募ると期待した眼差しを向けられた。


そうねぇ。私がサチヨの店に日本を感じたように、今後もし転生者が来たら気付いてもらえるようにしたい。

「では『さくら』はどうですか?

この国には咲いてませんが、遠い国で春に咲くピンクの花です。もしかしたら、サチヨさんも知っていらしたかもしれません。」

「さくら……いいですね!優しい響きです!」

「私も気に入りました。お花の名前なんて素敵です!ありがとうございます、お嬢様!」

「そう?良かった。看板も作らないといけないわね。」


沢山書いてきたレシピを渡して、今日は何を試そうかと話をする。

「お嬢様、今日は何がいいですかね?」

「そうねぇ。だし巻き玉子は作ってみたことなかったわね。あとは、鳥の唐揚げと野菜スープ。だし巻き玉子はパンに挟んでみましょうか。」

皆でレシピを見ながら、準備する。

だし巻き玉子をソフィアが焼いてみせると、美しいと褒めてくれた。皆、順番に焼いてみていたが、なかなか難しいらしい。まぁ、そうだろうな。ふわふわジュワッとした感触を出すのはそう簡単ではない。

どんどん玉子焼きが増えていく。これ……食べきれないかも……。

何とか形になってきた頃、夢中で作っていた皆もその事に気付いてくれた。

唐揚げとスープは順調に仕上がり、大量のだし巻き玉子サンドウィッチがどどんと山積み状態。

「う~ん。せっかくだし宣伝でもしましょうか。もう少し唐揚げを揚げてもらえる?」

ソフィアは厨房でそう言うと、お兄様とローレンの所に向かった。



ローレンとお兄様、護衛二人とソフィアで近くの騎士団の詰所に向かった。

今日は第一騎士団の隊長が来ていたようで、驚きながらもソフィアたちを迎えてくれる。

「シリウス殿、ソフィア嬢。本日はどうなされました?ローレン様もお久しぶりでございます。」

「アレン隊長。急にすまない。実は差し入れをさせてもらえないかと思って訪ねた。」

護衛が抱えてきた大量のサンドウィッチと唐揚げを差し出す。

「差し入れですか?もしや、建設していた店舗の?」

流石、隊長!理解が早い!もちろん工事の前に公爵家が挨拶をしていたこともあるが。

ローレンは古くからの知り合い、お兄様も王城の剣術稽古でアレン隊長と面識があるそうだ。

「今日から、メニューの試作を始めたのです。どうしても大量に作ってしまうので、よければ騎士の皆さんに協力願えないかと。」

ソフィアが微笑みながらそう言えば、周りに待機していた騎士たちが、やった!と小さく声をだした。

アレン隊長は苦笑しながらも

「そういうことであれば、有り難く頂戴致します。」と言ってくれた。

出来れば感想を!とお願いしたところ、詰所に居た10人程の騎士たちが直ぐに食べてみてくれる。


「おぉ、美味い!初めてのサンドウィッチだが、上品な旨味がある!」

「こっちの鶏肉も柔らかくてジューシーだぞ!」

大量にあったものがどんどん減っていく。

慌ててアレン隊長も手を伸ばしていた。

飲み物も持参した。さっぱりレモンスカッシュ。詰所のカップを借りて皆に配る。

5歳にして可憐な容姿の美少女が手渡してくれるカップ。屈強な騎士たちも照れたような笑顔で受け取っていた。

「これは!また、爽やかな飲み物だな。レモンだが、シュワシュワしてる!」

「う、美味い!!」

あはは。身体の大きな騎士たちが子供のようにはしゃいでいる。


また差し入れに来ると約束し、オープンしたらお店もよろしくと宣伝も忘れず、ソフィアたちは戻ることが出来た。

良かったわ、料理の味を受け入れてもらえたみたい!ソフィアはほっとした気分だった。



皆で試食し、今後のスケジュールを打ち合わせてからソフィアたちは公爵家に戻る。

病み上がりだからと、早めに帰る約束をさせられていたのだ。

お父様の帰宅の知らせがあり、私室から玄関ホールに行くと直ぐにお父様がローレンと共に玄関扉から入っていらした。

「おかえりなさい。お父様。」

「父上、おかえりなさい。」お兄様と一緒に迎えると「ああ、ただいま。シリウス。ソフィア。」とソフィアをいつものように、ひょいっと抱き上げる。

「シリウス。今日の外出は問題なかったか?」

「はい。ソフィが『さくら』と店の名を決めました。

さくらではテオもローラも熱心に仕事をしており、騎士団の詰所に試作の料理を差し入れも致しました。」

「そうらしいな。帰りにアレンと偶然会ったが、感謝されたぞ。従っていた騎士たちからも興奮気味にお礼を言われた。何やら初めての料理が美味しくて、早くまた食べたいらしい。それに、ソフィアは凄い人気者になっているらしいぞ。まぁ、我が家の天使だから当然だが。」

「父上。それは間違いないですね。ソフィに惹かれないなんて、馬鹿ですから。しかし、気をつけなければ、騎士たちは男所帯ですから。」

「何か勘違いを起こしたら、潰すだけだがな……。」

お父様、お兄様……。話が物騒に変わってきています……。

それに私は5歳ですので、娘のように可愛がってくれるのでしょう?

はぁ。相変わらず過保護……。

この後の夕食の場でもあれこれ聞かれ、山のように注意事項を言い渡された。


はい。私は5歳児ですから、言いつけを守りますよ……。5歳児ですからね……。








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