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アルベルト様の誕生日が近づいてきた。


前世のものが欲しいとの希望を叶えるべく、ソフィアは創生の魔法を使って、作業している。

銀製の小さな四角い箱。

イニシャルの『A』と

前世の記憶から、誕生花の『ダリア』を隅に刻んだ。

ダリアの花言葉には「優雅」「気品」「栄華」「威厳」などがある。

王家のアルベルト殿下にはピッタリ!

箱に入れるミントタブレットも創る。

銀には殺菌効果も期待できるし、なかなか良いのではないか。うんうんとソフィアは満足していた。


そう。ソフィアは銀製のミントタブレットケースと中に入れるミントタブレットを創ったのだ。

スライド式にして、中身を補充出来るようにする。補充用のミントタブレットもビンに詰めた。鮮やかなブルーの箱に入れ、紺色のリボンで飾った。

完成―――!!しばらく悩んでいたものが解決して、ソフィアはほっとする。



誕生日前日。

忙しい中、いつものようにアルベルト様がふらっと公爵家にやって来た。

ソフィアが挨拶をすると、何やらそわそわしている。

はい、はい。分かってますよ。依頼の品ですねとソフィアはアルベルト様に向かい合った。

「アルベルト様。一日早いですが、お誕生日おめでとうございます。心よりお祝い申し上げます。

プレゼント、受け取っていただけますか。」

「!!ありがとう、ソフィア!!勿論だ!!」

ソフィアが手渡すと、談話室のテーブルに置き、「開けても?」と聞く。

「はい。どうぞ。」


談話室にはアルベルト様とお兄様。シロ。バルトとステラが居た。

皆、早く開けろとばかりの雰囲気……。

ゆっくりとリボンと蓋が外され、箱の中からピカピカの銀のケースが出てきた。


「ほぅ。美しいな。」

アルベルト様は手に取って眺めている。

カラッと音がして、中に何か入っているのが分かったらしい。

「ソフィア。これは何というものだろうか?」

「はい。ミントタブレットケースといいまして、中にはミントタブレットを入れてあります。少しだけスライドさせてください。」

そぉーっと静かにスライドさせるアルベルト様が可愛らしく見えた。

一粒出すように促すと、手のひらに出している。

「これがミントタブレットか?」

「はい。食べてみてください。」

ぽいっと口に入れたアルベルト様は初めての舌触りに目を見開いていた。

「飴とはちがうのだな。」

「はい。砂糖は入っていません。アルベルト様、もう少しスライドしてみてください。」

アルベルト様はまた静かに動かしている。

ふふ。こんな丁寧に扱われるミントタブレットケースなんて見たことなかったわ。

中にはいっぱいにミントタブレットが入っている。

「中身がなくなったら、箱に一緒に入っていたビンから補充してください。」

アルベルト様はビンを確認すると嬉しそうに頷いた。

「飴ではないので、スッキリすると思いまして。気分転換したい時や、身体を動かした後にいかがかと。」

「あぁ、そうだな。爽やかな気分になれそうだ!!イニシャルと花の模様もソフィアが入れてくれたのか?」

「そうです。前世の記憶で、アルベルト様の誕生花の中から選びました。ダリアです。」

「ダリア……。花には詳しくないが綺麗な花だな。」

「屋敷の庭園に咲いていますわ。お帰りにご覧ください。」

「そうしよう。ありがとう。ソフィア!!一生大切にするよ!」

「まぁ、一生は大袈裟ですわ。それより一つお願いがあります。」

「なんだ?」

「どうしても、カラカラと音がしてしまうでしょう?ですから、消音の魔法をかけてお使いください!」

「音も心地よいが?」

「駄目です!アルベルト様!王子がカラカラと音をならして歩くものではありません!!それを守ってくださるなら、今後の補充品にも責任を持ちます。」

「……、……。」

アルベルトは最初に聞いたカラッという音が気に入っていた。ソフィアからのプレゼント音になってしまったようなのだ。

しかし、中身がなくなっては元も子もない……。

「わかった。約束しよう。」

渋々、了承した。


周りはミントタブレットなるものがどんなものなのか、食べたくてうずうずしている。

「アル!ひとつくれ!」

アルベルト様は嫌そうな顔をしたものの、仕方なさそうに部屋にいた全員に一粒ずつ渡していた。

「ぉお、これはいいな!私にも創ってくれ、ソフィ!」

「駄目だ!これは私だけのものだ!!」

「何だよ、アル!独り占めはよくないだろう!」

「それは、そうだが……。これだけは特別だ……。」

真剣な顔で言うアルベルト様にお兄様の方が折れた。

「わかったよ、アル。ソフィには別のものを私だけに創ってもらうよ。」

お兄様は笑いながら言っているが、ソフィアはまた悩ませられるのかと、気が重くなるのだった。


一段落着いて、ソフィアは

「シロ。お父様にプレゼントあるのよね?」

と声を掛ける。

珍しくもじもじしていたシロだが、背中に隠していたものをアルベルト様に差し出した。

「おとーしゃま、おたんじょーびおめでとでしゅ。ぷれじぇんともらってくだしゃい。」


何故かシロはアルベルト様に対すると言葉が、ますますあやしい状態になるらしい。

不思議だが、可愛いからOK!


右手に薬ビン。左手に紙を丸めてリボンをかけたものを持って、両手を突き出している。

ふふ。ふふふ。

アルベルト様はタブレットケースを上着の内ポケットに仕舞うと

「シロ。ありがとう!」と受け取って、膝にシロを乗せソファに座る。

「これはソフィアとつくった、きじゅぐすりでしゅ。」

シロの好みでピンクのビンに入れられているからか、苦笑いしながらも

「可愛いビンに入っているな。」

とシロを撫でている。

「あぁ。ソフィが創った傷薬は効果が凄いぞ!公爵家では、それ以外を使う者がいなくなったくらいだ。」

「そうか。ありがとうシロ!ソフィア!」

「シロが頑張って混ぜ混ぜしたので、更に効果があると思いますよ!」

ソフィアの言葉に、シロは嬉しそうにアルベルト様を見上げていた。

「こちらは何だ?」

丸められていた紙を開くと、いつもの賑やかメンバーが全員描かれていた。

真ん中にはアルベルト様が大きめに描かれている。

シロが何歳レベルなのかは謎だが、なかなかに上手だ。しっかり個人の判別が出来る。

色鉛筆で一生懸命に色も塗っていた。

「シロ。上手だな!ありがとう!私室に飾るよ。」

シロは嬉しさが爆発したようで、アルベルト様にがっちり抱きついていた。


流石にアルベルト様も長居はできないようで、城に戻るのをお見送りする。

庭師に頼んでおいた、ダリアで作った花束を渡す。

最後に花言葉を伝えると照れたような顔で

「ありがとう。」と言い、帰って行った。


誕生日プレゼントを受け取る為にだけ来た、と思えるアルベルトの行動にソフィアとシロ以外は苦笑するのだった。




早めに就寝の支度をして明日に備えているはずのアルベルトは私室で赤・白・黄と色鮮やかなダリアを眺め、タブレットケースを眺め、薬ビンを眺め、満足感に浸っていた。

シロに描いてもらった絵も寝室に飾ってある。

まだ、全く汚れも見えないタブレットケースを柔らかい布で磨いてみてはカラカラと音を聞く。私室では音を聞いていいという自分ルール。


いつもは社交デビュー後の歳の離れた令息や令嬢、大人ばかりが招待されている自分の誕生日パーティーは退屈だった。

第一王子として、しっかりと役目を果たし泰然とした態度で望んではいるが、早く同世代が招待されるようにならないかとばかり考えていた。

挨拶にやって来る人数が多くて、うんざりする。でも、今年はこのミントタブレットケースを胸に忍ばせ、休憩時に一粒食べれば耐えられそうに思えた。

何となく、こっそりミントタブレットを食べる事を楽しみにさえ感じる。

はは。現金なものだなと自覚しながら、一粒取り出して食べるのだった。




その年の誕生日パーティー、

アルベルト殿下が穏やかな笑顔だったと噂になるのは、直ぐ後のこと。



数日後……王家の夕食。

「アルベルト。最近、嬉しそうに内ポケットに手を伸ばしているが……何だ?」

「……、父上。気のせいでしょう。」

「いや、間違いない。機嫌がいいのもそのせいだろう?」

「特に変わりないですよ。」

「……、……ソフィアか!?」

「……、何のことですか?」

「あはは。兄上はソフィアから誕生日プレゼントをもらったのですよ!」

「エドモンド!」

ガタッ!「なにっ!?何をもらった?」

「アレク!食事中ですわ。お掛けになって。アルベルトもプレゼントをもらったなら、私にも見せてほしいわ。」

「……、どうぞ。」

渋々、アルベルトは内ポケットからタブレットケースを出し、手のひらにのせる。皆に見えるようにすると、一粒ずつ出し配った。

直ぐにまた内ポケットに仕舞う。

触らせたくはないらしい……。

「これはなんだ?」

「ミントタブレットです。食べてみてください。」

「あらっ!甘くなくて、爽やかだこと。」

「ほんとだな。これはいい。我も欲しい。」

「駄目です!これは前世のもので、私だけのものになったんです!!」

「そんな報告は聞いてない!我もソフィアに頼む!」

「父上、駄目です!!これは譲れません!ソフィアからのプレゼントなんです!」

「それが狡い!我もソフィアからプレゼントが欲しい!」

エドモンドは父と兄の言い合いを笑いを堪えて見守っていたが……、王妃は我慢の限界だったらしい。

「アレク!!いい加減になさいませ!息子がプレゼントされたものを子供のように欲しがって!

今回はアルベルトの誕生日です!ソフィアがアルベルトにだけと約束したなら、そう認めるべきでしょう!!

食事中に騒ぎ立てて……これ以上は許しません!」

「……、……、……。わかった。許せ……。」

「アルベルト。貴重なプレゼントをもらったのだから、大切になさい。」

「はい。母上。ありがとうございます。」




ソフィアのプレゼントは本人の予想以上の影響を及ぼしたのだった……。




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