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ソフィアはこの先のことを考えていた。
闇雲に創るのは、体力的にも効率が悪い。
・魔法省に行き、創生の魔法で研究に協力する。(今のところは薬草の成分抽出、薬草の生育調査)
・定食屋を開店させる。(メニューを決めて調理法を確立する)
・ボールを完成させる。(騎士団に提供するならば……他にも……)
現在確実にやるべき事は分かるが、それに付随して創りたいものが多いのだ……。
う〜ん。ソフィアがとりあえず創るのは簡単なのだか、皆がやれるようにと考えると大変になる。
ん~、悩んでも駄目ね。一つ一つやりましょう!!とりあえず、お母様に生育に適した土をお願いして、お父様にはアルミニウムの手配が可能か伺って、養蜂場か養蜂店を紹介してもらう。
騎士団にボール提供するなら、運動靴?スニーカー?も創りたい。
あとは……プール!プールが創りたい!!
あっと、脱線だ。プールは後!と考えているとコンコン、扉がノックされた。
ステラが扉を開けると、入って来たのはお母様だった。
「お母様。どうされました?何か急用でも……。」
「ソフィア。違うわ、大丈夫よ。まずはこちらにお掛けなさい。」
ソフィアは机に向かっていたが、応接セットのソファに移動した。
ステラが紅茶を淹れてくれる。
「ソフィア、創生の魔法の作業をしていたの?見せてもらっていいかしら?」
お母様はソフィアが先程まで使っていたノートを見ている。
「もちろんです。」ソフィアが取りに行こうとすると先にシロが動いていた。
机からノートを取りトテトテトテとお母様に届けてくれる。
ふふ。可愛い。「ありがとう。シロ。」ソフィアが言うとシロは嬉しそうにした。
お母様も「ありがとう。」と受け取り、ノートを開く。
「日本語で書いてる方が多いので……内容についてなら説明致します。」
「いいの。こんなに頑張っているのね……。……、ありがとう、ソフィア。」ノートをソフィアに手渡すと、無理するのだけはやめてちょうだいね、と言った。ソフィアの身体が一番大事よ、と。
紅茶を飲んで一息つき、お母様は話し出した。「ソフィア!今度屋敷の別館でお泊まり会をしましょう!」お母様は手を合わせ、ウキウキと言い出した。
屋敷の別館とは、広い王都公爵家の敷地内にある。他国からの重鎮や、長期に滞在するお付きの者も多い来客のための建物。したがって、普段は使用してないが建物や内装も大変凝った造りになっている。
「どなたかをお迎えなさるのですか?」
「ソフィア……。あなたに相談なしに申し訳なかったのだけれど、国王夫妻に前世の記憶の事をお話ししたの。ごめんなさいね。」
「……、前世の記憶があることを……。信じていただけましたか?」
「勿論よ。むしろ、心配なさってたわ。あなたに負担が多過ぎると。
それでね、私たちも含め一度ゆっくりと話を聞きたいと思うの。私たち家族も忙しさを理由に、あなたの前世の記憶についてしっかり向き合えていなかったわ……。」
「それは、仕方のないことです。見た事もない異世界について理解するのは難しいし、ある意味不可能なことだと思います。」
「そうね。以前少し聞いただけでも、それは感じたわ。でも私たちは、あなたの為に出来ることは何でもやるつもりよ。あなたが、ソフィアが創生の魔法を使うためには前世の記憶は重要なことなのでしょう?
ならば、私たちは理解できるように努力します。」
「お母様。」ソフィアは周りの人達がどれだけ心配してくれていたのかに改めて気付いた。それで、お泊まり会などと言って時間をとってくれるのだろう。
言葉につまっていると、いつから居たのかビビたちがソフィアに乗って来た。
ビ 『じゃあ、私たちも理解のために協力してあげる~!』
ト 『ソフィアが思い出してから、ずっと作ってたものがや~っと出来たのよ~!』
ポ 『僕たち頑張ったから、すごいのできたよ~!お泊まり会でお披露目してあげる~!!』
疲れたねぇなんて言いながら、三人のテンションは高い。また、何か予想外のものかもしれないとソフィアは思った。
お泊まり会は3日後だという。社交シーズンなのに無理やり捻り出したのだろう。
お泊まり会といえ、場所は公爵家だ。
それまでの間、ソフィアはローレンから定食屋準備の進行状況を聞いて過ごした。
テオとローラが営業をしやすいように間取りは任せている。予定の広さを伝えたところ、予想外の大きさに固まってしまったそうだが、今はやる気をみせているという。
お泊まり会、当日。朝食後に両親、兄、ビビ、トット、ポポ、シロ、ローレン、バルト、ステラ、そしてソフィアと意外に多人数で別館に移った。
前日までにはピカピカに磨きあげられていたようで、どこも綺麗だ。ビビたちはすぐに探検だと言って、屋敷巡りに行ってしまった。シロもトテトテトテと頑張ってついて行こうとしていたが、ビビたちは素早いので……寂しそうに一人戻って来た。
兄と一緒にシロと手を繋いで、応接間に入る。まずはゆっくりしようかと思っていたのだか、早々に到着の知らせが入る。
えーっ!!そんな気配あった?と考える間もなく扉が開き「ソフィア~!」陛下から抱き上げられた。あはは。
陛下に続いて王妃、王子が二人と続く。
「アレク!何処から来た?!」
「あぁ、久しぶりに秘密の通路を使った。懐かしいな、ベン!」
「……、アレク!……まぁ、今日は仕方ないか。見つかる訳にはいかないからな。」
「おとーしゃま!」シロがアルベルト様に飛びついた。「まぁ、まぁ。アルベルト。いつの間に子供ができたの?」王妃様……。
「兄上、お祝いも申し上げず、失礼しました。」おいおい……。
「そうだったの。シロはアルベルト様の子供だったのね。似てないけれど、ふふ。」お母様~。
「そんな訳ないだろう―――!」到着間もないのに、騒がしい。
ワイワイしながらもなんとか落ち着き、皆がソファに座った。
紅茶を飲んでいると、ビビたちが帰って来た。『『『あ~っ、みんないるね~!』』』
ビ 『では、今よりソフィアを守護する私たちから貴重なプレゼントがあります。』
何か勝手に始まってしまった。
ト 『ソフィアには二つ。他の者は一つ。』
何がだろう?
ポ 『まずは、ソフィアこちらへ。』
全く分からないが、ソフィアはビビたちが一列に並んだ前に進み出た。
耳を出してと言われ、耳を隠していた髪を上げる。空中から七色に光る石を取り出しビビが右、ポポが左の耳にあてるとスっとピアスになって嵌った。痛みは全くない。
慌ててステラから鏡を借り見てみると、七色だったピアスが段々とソフィアの瞳の色に変わっていく。
『『『完成!!』』』とビビたちが叫んだ。
次の人~とビビたちは部屋に居る全員に石を嵌めていく。お父様と陛下、ローレンは金の台座のシンプルな指輪にしていた。他の人もノリノリでどこの位置のピアスにするか、悩んでいた。そして、皆の瞳の色になっていく。ふふ、綺麗ね。
何故かビビたちも嵌めていたが、色は七色のままだった。ビビは右耳。トットは首元。ポポはしっぽの付け根に嵌っていた。痛くはないらしい。シロはおとーしゃまとのお揃いに興奮気味だ。
これは、創生の泉から生みだされた大変貴重な石らしい。ソフィアがビビたちと出逢った頃から泉に魔力を流し、創ってくれていたという。
「ビビ。トット。ポポ。ありがとう!頑張って準備してくれていたのね。感謝するわ!
ところで、この石の効力は何?」何か凄い魔力は感じるのだが、ソフィアの創生の魔法とは違う気がする。
ト 『じゃあ、早速使う?』
ビ 『ソフィアはせっかちさん!ふふ。』
ポ 『はい、全員こちら側に座ってくださ~い!』
カーテン閉めて!椅子並べて!ソフィアはここに座って!とビビたちが指示をする。
言われたようにすると、並んだ椅子の向かい側の壁にいわゆるスクリーンのようなものが現れた。
ビ 『ソフィア。前世の記憶、思い出してみて!大体で大丈夫!補正機能あるから!』
「?、何でもいいの?」
ト 『いいよ。』
ポ 『僕は学校の記憶がいい。見てて楽しそうだったから~!』
学校?ん~っ、お兄様くらいの年齢がいいかしら?ソフィアは何となく小学校の風景を思い出してみる。
!!!!!スクリーンに懐かしい小学校の映像が映し出された!!!!!
「あぁ、小学校!私が通ってた学校だ!!」
ビ 『そうだよ。ソフィアが居た異世界が映し出されるんだ。さっき嵌めた石を持ってない人には見れないけどね。』
ト 『……残念ながら、ソフィアの前世の知り合いは弾かれちゃうから見れないんだ。』
ポ 『創生の魔法を使うのに役に立つといいなと思って……。』
「ありがとう、ありがとう!!とても助かるわ、ビビ、トット、ポポ、ありがとう!」
三人をぎゅっと抱きしめるとくすぐったそうにキャッキャッとしている。
そして、振り向くとそんな場合ではない人達がいた。陛下や王妃までぽかんと口を開けてスクリーンを見ていた。
タブレットやパソコンを使い授業を受け、グラウンドではサッカーや野球、プールでは水泳をし、学校が終わると車やバイクが走る町を帰って行く子供たち。
……いかん。一度止めよう。
ソフィアは思考を変えると映像が消えた。ふぅー。これは大変だ……。