2
ルルヴィーシュ公爵、ルルヴィーシュ・ベンフォーレは濃紺の髪にサファイアの様な瞳を持つ。引き締まった体型で背も高く武人のようにも見えるが、ドリエントル国の宰相だ。
剣術も得意としていたのだか、幼い頃から現国王の遊び相手・友人として過ごして来た経緯から
「ベンフォーレ。私と共に国を支えてくれ!!」「ベンとこの国発展について議論を重ねるのは有意義だな。」
「傍にベンが居ない未来は考えられない!!一人では仕事が捗らないのだ!!」と
当時まだ王太子だったデルモント・アレクサンダー・ドリエントルに言われ続け、絆されるように側近になった。
国王からは親友だと度々言われてるが、父は微妙な顔で応えている。きっと、ウザイと思ってるのだろう…
母、ルルヴィーシュ・リリアンヌは緩やかなウェーブの菫色の長い髪。瞳はエメラルドの輝きだ。忙しい夫を支え、公爵領の管理や社交にも積極的に参加する。ソフィアの理解者であり憧れの凛々しい公爵夫人である。
兄、ルルヴィーシュ・シリウスはスカイブルーの煌めく髪にグレーダイヤモンドのような瞳をしている。ドリエントル第一騎士団に所属する17歳、令嬢たちの人気は高いのだが妹を溺愛するのに夢中なせいか他に愛想は振り撒かない。次期公爵たる振る舞いを最低限するのみだ。
シリウス5歳の時、待ちわびていたこの日が遂にやってきた。
公爵家に待望の女の子が生まれたのだ。
生まれた時は比較的大きく元気な産声をあげた赤ちゃんに、屋敷中が歓喜に沸き立った。
ソフィアと名付けられ、可愛い泣き声で目の前に現れた妹にシリウスは震える手でそっと触れてみた。
「可愛い…!!小さい。ん―っっ可愛い可愛い…小さい……ぷくぷく…」
…
……
しかし、ソフィアが1歳を迎える頃には心配する状態が度々訪れるようになっていた。
月に数度は高熱を出し、公爵家が抱える医者が泊まり込みで待機しているのが常態化しつつある。
父は忙しい仕事の合間を見つけて、兄は家庭教師が来ていない時間はほとんどをソフィアの寝室で過ごした。
母のお腹にいる時から、二人は絶対に女の子だと決めていた。毎日毎日、母が呆れるほどお腹に話しかけていた。
「早くお父様にお顔を見せておくれ。可愛いドレスで一緒に散歩をしよう。公爵家の庭は広いのだぞ。可愛いうさぎもいるんだ。あぁ、でもお前の方が可愛いに決まってるんだが。」
「お兄様は絵本を読んであげるよ。女の子の好きな絵本も読む練習してるんだ。ふわふわの可愛いリボンも準備してある。きっと似合うよ。」
(男の子だったら…と後にソフィアは思った…)
そんな二人にとって、超絶可愛い娘・妹の苦しむ姿は身を裂かれるようなものだ。
ケホッケホッ、ゼーゼーと幼いソフィアは咳き込みながら寝ていた。苦しそうな発作。熱があるのに顔は青白く見える。
ベッドの両サイドから父と兄は自分が苦しいかのような顔をし、せっせと魔力で看病する。おでこのタオルを冷やしたり寒そうにする足元を温めたり、部屋の温度を一定に保つために空気を循環させたりするのだ。二人とも例に漏れず魔力量が多いので、道具を通さずとも魔法が使える。魔法具に魔力を流せば、この国の者であれば誰でもできることなのだが…
栄養を取り、薬を飲んで安静にしているしかない。
やれることはそうないのだ。医者の見立てでは、もう少し成長して体力がつけば落ち着いてくると言う。
心配と不安でベッドから離れない二人を適当な時間になると母が回収していく。屋敷ではよく見られる光景だった。