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ソフィアは寝込んでしまっていた。

充分に気をつけていたはずだが、やはり簡単に健康優良児になるはずはない。

久しぶりにゼーゼーと息苦しく、公爵家の専属医師から処方された薬とスースークリームのお世話になっている。

枕元には兄とビビたち。そして、ふわふわのぬいぐるみ……ではなく『シロ』。


やはり公爵家主催のお茶会以降、シロは当たり前のように動くようになった。まだあまり上手ではないが、話すことも出来る。

ビビたち曰く『魔力を少しずつ与えたから』らしい……。へぇー。

シロの元々の素質もあったと言われたが、ソフィアにはよく分からなかった。



トテトテトテ。シロがタライの水を替えて、タオルを絞り額にのせてくれた。

「シロ。ありがとう。」

「シロ、ソフィアのびょーきなおしゅ。」

「直ぐによくなるわ。シロが看病してくれてるもの。」ケホケホ。

うぅぅぅ、とシロが泣きそうな顔をすると直ぐに兄が抱き上げて膝に乗せて撫でていた。

うふふ、皆心配してくれてるのに不謹慎だけど、シロ可愛い。妹みたいね。きっと兄もそう思っているに違いない。


創生の魔法が使えるようになってから、なんだかんだと頑張り過ぎたわね……。魔力量を増やしたくて、魔法を使い過ぎていたのかもしれない。鍛錬しなければ、魔力量は増えないのだ。一度、しっかり休むべきね……ソフィアはゆっくりと瞳を閉じ、眠りについた。




国王の執務室では、国王と宰相がソファに移動し休憩中。

「ベン。ソフィアの容態はどうだ?」

「医師は疲れが溜まってしまったためで、休養するのが重要だと。」

「そうか。ソフィアは頑張りすぎてしまうからな。」

「創生の魔法を得たことで、余計にでしょう。」

「だろうな……、時にベン。」

「何ですか?」

「ソフィアが創生の魔法で創るものは、何からヒントを得ているか聞いてるか?」

「……、……さぁ。本を読むのが好きな子ですから、そこからの知識かと。」


いつもは宰相として動揺など見せないベンフォーレであるが、自分の事をよく知るアレクサンダーからの、しかも愛娘についての問いとなると普段どおりにはいかなかった。


「ベン。私はソフィアを可愛く思っている。創生の魔法の有無には関係なくだ。創生の魔法を使う者の誕生は嬉しいが、国としても私個人としても大切に守りたいと思っている。その為には正しく理解しておく事は重要だろう。決して、ソフィアが不都合を感じる事がないようにしたいのだ。」

「……、……。」

「ベン!」

「……分かった。近いうちにリリーと共に報告に来る。」

「そうか。ありがとう。」

「ああ。」二人は黙って、紅茶を飲んだ。




ソフィアが寝込んで5日になった。ソフィアの体調を心配しながらも、父は仕事に、母は社交に忙しくしている。

母のところには、先日のお茶会の御礼の手紙や新たな招待状が今まで以上の勢いで届いているらしい。更には、また公爵家にお招き頂きたいと……。アイスクリームと化粧品が社交界の話題になっているらしい。

「困ったわね。」なんて母は言っていたが、顔は全く困ってなかったので心配はしていない。

兄も家庭教師との勉強があるのだが、終わると直ぐにソフィアの元にやって来る。



今日もシロがせっせとソフィアのお世話をする。ビビたちはソフィアの側には居るが、寝ていることが多い。

そんな時、シロが勢いよく寝室を出てソフィアの私室の扉の前まで走って行った。

コンコンとノック音。来客?と思い、ステラが対応する様子に耳を澄ます中

「おとーしゃま!!」シロの喜ぶ声が聞こえた。お父様?

シロはビビたちと同じく父と母の事は愛称で呼ぶ。ベンとリリーと呼ぶのだ。兄の事はシリウスと呼ぶし、お父様とは誰のことだろうかと首を傾げる。


ステラの後から顔を出したのはアルベルト様だった……。


「あっははは、アルお前、あっはっは、お父さんだったん、だな。あっはっは―。」兄は目尻に涙を滲ませるほど笑っている。

「知らん。ソフィアにプレゼントしたクマが勝手に言ってるんだ。だいたいこれは何時から動いたり話したりするようになったんだ!」アルベルト様は抱きついてくるシロに戸惑いながらも、兄の言葉に怒りを含ませる。

「シロだよ。おとーしゃま。」

あっはは!あっははは!兄は笑いが止まらなくなっていた。

「シロおいで。」ソフィアはシロを呼ぶとステラに頼んで身体を起こしてもらい、背中にクッションを当ててベッドに座った。

「アルベルト様、このような格好ですみません。」ソフィアが頭を下げる。

「いや、こちらこそすまん。急に見舞いに来てしまった。体調はどうだ?」

「だいぶ呼吸も楽になりましたし、大丈夫です。後は体力が戻ればと。」

「そうか。無理せずゆっくり休め。」アルベルト様はソフィアの頭をゆっくり丁寧に撫でてくれた。

「おとーしゃま。シロも!」シロが頭を差し出している。苦笑いしながらもシロの頭を撫でたアルベルト様にシロは喜んでいた。


「シロ、アルベルト様は王子様よ。どうしてお父様なの?」

「だって、おとーしゃまがシロを作って、ソフィアのところに連れてきてくれたの。おとーしゃまがシロのふわふわもおめめもお洋服も全て選んでくれたのよ!」なるほど、細かく指示して注文してくれた=お父様、なんだろうな。

アルベルト様は反応に困っていたが、魔法で動くようになったとはいえ可愛らしいぬいぐるみを雑に扱うことも出来ない様子だった。

「アルベルト様、この屋敷内のことでしょう。どうか、シロの呼びたいように呼ばせて頂けませんか?」ソフィアが弱った顔で懇願すれば、アルベルトに否はない。

「わかった……、では屋敷内に限り……!!

もしかして、ソフィアはお母様なのか?」

「??ソフィアはソフィアだよ、おとーしゃま。」

「……、……そ、そうか。」

一瞬、ピクリと反応して笑いが止まった兄だったが、また笑い出してしまった。

はぁ、お兄様ったら……。


アルベルト様はお見舞いにお花とフルーツを持って来てくれたらしい。後で頂きますと伝え、少し兄と共に話をすると帰って行った。シロは終始アルベルト様にくっついていて、帰ると聞くと泣きそうだったが、また来るよとアルベルト様に抱っこされて、泣かずに我慢していた。可愛い。




国王の執務室。ソフィアもやっとベッドから起き上がれるようになった頃……。

アレクサンダー、エリーナ、ベンフォーレ、リリアンヌの国王夫妻と公爵夫妻が揃っていた。

「ベン、リリー急にすまないな。しかし、ソフィアの負担を軽くするには、我々の情報共有は不可欠だろう。宜しく頼む。この件については親友として協力させてくれ。」

「アレク、ありがとう。ソフィアは早く皆の役に立たねばと気負っているようだ。今回の病もそのせいだったのだろう。親として情けない……。

だが、ソフィアの創り出すものについては、ソフィアにしか思い付けないものなのだ。我々が出来る事は限られている……。」

「……、ソフィアの創るものは何を参考にしているのだ?」

「……、……ソフィアには……前世の記憶がある。」

「「!?、!!」」アレクとエリーが息を飲んだ。エリーは慌ててリリーを見たが、リリーはゆっくりと頷いていた。

「前世?ソフィアには違う自分の記憶があるというのか?」

「そうだ。しかもこの世界とは全く違い、様々なものが進化している異世界と呼ぶようなところの記憶だ。そこでサラという人生を歩んだという。」

アレクとエリーは悲痛な表情を浮かべていた。

「あんなにまだ小さいというのに、それを理解して受け入れていると……。」

「ああ……。サラの大人になるまでの経験も、全てソフィアの中にあるらしい。」

「創生の魔法で健康になって、皆に還元したいと言ってたわ。」

「なんという事だ……。」

暫く沈黙が流れたが、アレクが口を開く。

「それで、前世の異世界とやらを知るソフィアにしか思い付かないという訳か。」

「そうだ。ソフィアの願う材料を揃えたり、我々が使える魔法で手伝う事しか出来ない……。」

「まずは異世界とやらがどんな場所だったのか聞いてみないといけないな。」

「屋敷で聞いた限りでは、あまりに技術が優れていて……我々では理解出来なかった……。」

「そうか。そんな記憶があるのでは、ソフィアが焦るのも仕方がないか。」

「それでもソフィアは一つ一つ確実に丁寧にと進めているわ。でも、体力は追いつかないのでしょう。」リリーは辛そうに言った。

「ソフィアがやりたい事を制限するのは得策ではないと思う。だから、親としては静かに見守ってやりたい。しかし、アレクの言うように異世界についてもっと話を聞くべきなのかもしれないな。」


ソフィアは前世の知識を早く活かしたいと焦っているのかもしれない。

一人でやらなくていいのだと、皆が協力するからと伝えてやらねばと四人で話をする。

その為にゆっくりと語らう時間が必要だ。

忙しい四人にとってなかなか難しいが、今しっかり伝えなければ、ソフィアは一人で突っ走っていきそうな気がした。

どうやって時間を捻出して、どこで話をするか……四人は話し合いを続けるのだった。









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