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今日のお茶会はアフタヌーンティーのような形式だが、子供も参加なので昼過ぎ、普段よりは早めに始まった。
皆、華やかに着飾って広々と張られたテントの下に集っていた。
席に着いたのを見計らって、紅茶が注がれる。お母様の挨拶を以てスタート。
見たところ、社交デビューしたてのご令嬢がお母様と一緒に参加している貴族が多い。
後は、お兄様と同世代の令息・令嬢。
なるほど、公爵家のお茶会といえば格式があり、社交デビューしたての令嬢には最高の場だろう。
公爵家の嫡子と仲良くなるのも、将来のためには重要だ。あぁ、やはり異世界だなぁ……とソフィアは他人事のように思った。
ソフィアもちょこんとシリウスの隣に座って、厨房スタッフの工夫を凝らした軽食やお菓子を頂いた。美味しい。料理長はじめ、皆で頑張ってたからなぁ~。
スケッチしたものに色鉛筆で色を入れ、細かく彩りを工夫していた。少しでも役に立てばと色鉛筆の新色を創ってみたソフィアは、嬉しそうに彩りも楽しんだ。
ひと通り頂いて、席を移動したり、お母様に挨拶をする為に席を立ち始め、会場はどんどん賑やかになる。そうなると子供たちはテントから出てしまうなぁ……とソフィアが心配した時
「皆様!今日は我が公爵家で改良したデザートがありますのよ!是非、ご賞味くださいませ!!」お母様の透き通るような美声が響き、皆、足を止めて席に戻る。
メイドたちが次々とテーブルに大皿を並べる。大皿には小ぶりのケーキ。いつもよりは何故かひんやりした空気感があるが……
「どうぞ皆様、お食べになって!!」
お母様がニコニコと微笑みながら勧めた。
ケーキはすでに先程出ていたので、不思議そうにしながらも数種類ある中から好みのものを選んで口に運ぶ。
「!っ、まぁ~!!これは冷たい!公爵夫人!!これはアイスクリームではないかしら?」
「あらっ、流石ですわね!これは我が公爵家で改良した、アイスクリームですのよ!お味はいかがかしら?」
「こんなに冷たく、固まったまま提供できるなんて、素晴らしいわ!」
「味も工夫されて、どれも美味しいわ!全種類頂けるかしら?……おほほほ。」
「お母様、半分ずつにして全種類をいただきましょう!!」
「色合いや味の組み合わせも素晴らしいわ!素敵なデザートね!!」
皆、口々に美味しいと言ってくれた。
最初から生地に練り込んだフルーツや、後から混ぜ合わせたもの。砕いたナッツ類をいれたもの、トッピングだけにしたものと様々なバリエーションを組み合わせたアイスクリームケーキだったのだ。良かった。
ソフィアは料理長が待機してる場所を見つめ頷いた。
令息・令嬢の皆様にはあちらに別の楽しみ方がありますわよ。
お母様が指し示したテントには、まるで前世のアイスクリーム店のような場所が設営されている。アイスクリームショーケース・ディッシャー・アイスクリーム用カップ・木のデザートスプーンなどは創生の魔法とお兄様の氷の魔法を駆使してやっと完成したものだ。おかげで寝不足感が否めない。
忘れずにアイスクリーム用ワッフルコーンも創ってある。サイズは2タイプ。
貴族の女性が大きいワッフルコーンにアイスクリームをのせて、スプーンで掬いながら食べるのはどうにも……イメージが湧かなかった。
私は兄に手を引かれて、注文の見本とばかりにアイスクリームを選ぶ。
「私はワッフルコーンに、ん~っ、チョコミントを。」はい、お嬢様はどれになさいますか?
「私はカップでストロベリーをお願いします!」かしこまりましたと料理長自ら準備し、手渡してくれた。
「「ありがとう!」」二人で微笑むと近くに設置されたベンチに座った。
兄のアイスクリームは、前世と同じようなワッフルコーンにディッシャーでチョコミントアイスクリームをのせたもの。端の方に木のスプーンが刺してある。
私のは大きめにカットされた苺がところどころに見える、ベースはストロベリーアイスクリームのもの。小さいワッフルコーンが逆さまにアイスクリームの上に斜めに乗っていて可愛い。帽子みたいだ。木のスプーンも忘れず付いてカップに入っていた。ふふっ、懐かしいわね。
この世界でもこのスタイルのアイスクリーム店が出来たってことかしら?!凄いわ!
お兄様が「どうぞお好きなものをお召し上がりください。」と言うと、子供たちはワクワクした様子でこれが美味しそう、あっちのも捨て難い、などと吟味しながら並んでいた。
少しすると、カイル様がカップに3種類もいれて、ウキウキとやって来た。
「はぁ、カイル……。アイスクリームは逃げないと思うが……。」
「シリウス!人気のものからなくなるんだぞ!!食べれなくて夢に出たらどうする!?」
「……、……。」きっとどうもしないだろう。兄も私もそう思う……。
話をしながら楽しんでいると、ゾロゾロと足音がした……あぁ、たぶん、いつもの、ね。
「公爵夫人、突然すまないな。皆にも突然で驚かせたな。」
やっぱり、……でた!!
「これはこれは、ようこそおいでくださいました。心より歓迎致します。
アルベルト第一王子殿下。ご機嫌麗しゅうございます。エドモンド第二王子殿下。」
「はは。堅苦しいのはなしだ。一応忍びの訪問だ。今日はアイスクリームの披露目があると聞いてな!あっ、あれだな!!」
素早くアイスクリームショーケースを見つけると兄弟は足速にやって来た。
周りに佇む子供たちを見て、なるほどシステムはわかったなどと言っている。
アルベルトはワッフルコーンに、どうしても決めかねるからダブルでのせてくれと言う。
因みにアーモンドとブルーベリーがいいらしい。う~ん、なかなか……。
料理長が困った様子なのでソフィアがつくることにした。
ワッフルコーンに重そうなブルーベリーアイスクリームをのせ、軽く押し込む。その上にアーモンドアイスクリームをバランスよくのせ、木のスプーンを刺した。最後に砕いたアーモンドをトッピング!
慎重にアルベルト様に手渡すと、ありがとうソフィア!とひどく満足そうな顔をしてシリウスが居る方へ歩いて行く。
この世界の初ダブルはきっとアルベルト様になったことでしょう……。
「エドモンド殿下はどうなさいます?」
殿下呼びが気に入らないのか一瞬ムッとしていたが、公の場だ。仕方ないよね――!
「僕はチョコレートとアーモンド。」
「はい。」こっちもダブルか!!
アイスクリーム大好き兄弟だよね……。
ワッフルコーンに下にチョコレートアイスクリーム。上にアーモンドアイスクリームをのせて、木のスプーンを刺し、アーモンドをトッピング!「はい、出来ました。」ゆっくり手渡すとありがとうと言って喜んでいる。
良かった、良かった。
一緒にシリウスたちの元へ行き、皆で好みのアイスについて話していると、チラチラ視線を感じた。
他の子供たちかと思いきや御夫人方だった。
子供たちのように好みのアイスクリームを頼んでみたいらしい。
ソフィアはちょっと大きめに声を出す。
「お母様。新作の甘酒アイスクリームを頂いてみてくださいませ。」
「あらあらっ、そうだったわ。疲労回復。美肌効果があるのだったかしら?」
「そうです。適量を食べ続けるのが大事なのですわ!」
ソフィアはカップに甘酒アイスクリームを入れ、小さいワッフルコーンを逆さまにのせて木のスプーンを添えた。
「はい、お母様!」「あらっ、ふふ。可愛らしいわね。ありがとう。皆様も宜しければ召し上がってくださいませ。アイスクリームですので、冷たく美味しいうちにどうぞ!」
「そうね、折角ですものね。」
「王家の皆様にも認めらていらっしゃるほど、美味しいのですもの!」
「貴重な機会に感謝しなければ!!」と言いながら、気になっていたらしいアイスクリームを次々と頼んでゆく御夫人方だった。
夏にはやっぱりアイスクリームよね!うん。
「そうそう。向こうにある控えの方々のテントにも軽食はもちろん、アイスクリームも準備いたしておりますの。交代しながらになるでしょうが、是非、ご賞味くださいませ。」
とお母様が言った。
その言葉に、付き人としてやって来ていた使用人たちは目を見張り、頬を紅潮させるほど喜んでいるようだ。
どの屋敷の者も男女問わず、主人に対して願いを込めた目を向ける。もちろん主人たちも理解している。
微笑みながら、鷹揚に頷いていた。
良かったわと思っていると、
駄目押しとばかりにお母様が言う。
「今日は日程も長めで、申し訳ありませんもの。この暑い中、皆でアイスクリームを食べるのは素敵なことですわね、アルベルト殿下?エドモンド殿下?」
「あぁ、美味しいものは皆で食べた方がよい。」
「独り占めはダメなんだよね?兄上!」
「そうだ。皆で分かち合わねばな!!」
王子たちの言葉にお茶会の会場全体が優しい雰囲気になる。
他家の使用人たちは交代で休憩を始めた。
そのサポートをすんなりと行っている公爵家の者たちに、嬉しくなると共に感謝の気持ちが湧き上がった。いつも、ありがとう!!
さらに今日、一つ気付いたことがある。
流石に王子と言うべきか、アルベルト殿下もエドモンド殿下もオーラが半端ない……。
いつも兄たちと騒いでいる様子が普通になっていて、気にならなくなっていたが……同世代の貴族の子供たちの中に居ると、明らかに違いが分かる。今日の畏まった服装も相まって、アイスクリームを食べているだけなのにキラキラしている。
周りの令嬢たちもチラチラと恥ずかしそうに見ていた。
きっと普段一緒に居るお兄様に違和感がないのは、お兄様もオーラを放っているからに違いない……恐るべし……その中に居る私は皆にどう写っているのか……怖い……。
頑張れ!!ソフィア!今からよ!!
自分にエールをおくるソフィアだった。
実際は煌めくアメジストの瞳に5歳とは思えぬ佇まい。
透けるような肌と美しい髪のソフィアは充分なオーラを放っている。
アイスクリームを食べて満足した王子たちは、間にソフィアを座らせ、それぞれにソフィアの頭を撫でながら兄たちと話をしている。何故?気まずい気持ちのソフィアだったが、今日の参加者で最年少はやはりソフィアだった。恐る恐る周りを見たが、皆微笑ましく見てくれてるようだ。助かります……。
少し話をすると、お土産の化粧品とお菓子を持って王子たちは帰って行った。
お忍びなのは本当らしい。ドルト公爵家でもお茶会があるのに、こちらだけにというのは体裁が悪いのだろう。それでも王子たちはアイスクリーム、王妃様は化粧品が気になったというところか……。
夕方になって陽も傾いた頃、お茶会はお開きになった。来客の笑顔が輝いて見えたので、成功したのだとほっとする。
お見送りを済ませ、ふと自室の窓を見上げたソフィアは、置物のようにして外を見ているビビたちのシルエットを見つけた。陽の加減もあり、表情は見えないのだが……1、2、3…4。んっ?4?一人多い。そして最後に見えたシルエットはソフィアのよく知るものだった。
……やっぱり、そうなのだとソフィアは一人納得した。