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謁見前の控え室でお父様が待っていてくれた。ささっと抱き上げられて、頭をなでなで。うん、お父様いつもと変わりない。
「あなた、ドルト公爵にお会いしましたわ!!」
「なに!あいつまたフラフラしていたのだろう!何か因縁でもつけられたか?」
「大丈夫ですわ。ただ……揃って登城したことを訝しんでるかもしれません。」
「……そうか。ソフィアを守るためにも気をつけよう。」
「そうですわね。」
お父様は再び頭をなでて大丈夫だと言った。
ビビたちは控え室で待機して、ソフィアに呼ばれてから登場することになり、本人たちはワクワクしていた。ソフィアはちょっと不安を覚えつつ……両親と兄と一緒に謁見のために別室へと案内された。
部屋に入ると、既に国王陛下と王妃陛下が部屋の中央のソファで待ち構えていた。
揃って挨拶をと頭を下げたところで、ヒョイっと持ち上げられた。
エッ!!驚いて顔を上げると陛下の満面の笑みが飛び込んできた。
ハッ??
「ソフィア~!!久しいな~!こんなに大きくなって~!!」
私を抱き上げてクルクル回っている。
イヤ、陛下!!挨拶もまだなのに……突然何を……と思っていたのだが……
「アレク!!ずるいわ!私にもソフィアを貸してくださいな!!」
貸す?のですか?王妃様……
「エリーナ!まだ私の番だ。まだまだソフィアは渡さない!!」クルクル、クルクル。
「もう、いつもあなたはそう言って自分ばっかり!!ソフィア~!!こちらにいらっしゃい!」
エッ!!?そう申されましても……
ソフィアが困り果ててオロオロしだした時、
わざとらしい両親のため息が聞こえた。
「陛下、エリーナ王妃。まずはお掛けになって落ち着いてください。本日は報告の為に我が公爵家は参ったのです。」
「…………、ベン、そう堅苦しい事を申すな…。」「そうよ、ベン。私はまだソフィアを抱きしめてもいないわ。」
有難いことに両陛下はソフィアとシリウスを生まれた時から可愛がってくれている。
特に王子しかいない両陛下にとって、女の子は特別らしい。
両陛下も両親も独身の頃どころか、それこそ子供の頃からの付き合いがあるので、皆仲がよく気の置けない友人同士なのだ。
何故か両陛下の間でソフィアの引っ張り合いまで始まり、ソフィアは両腕を右に左に広げられていた。えー―っ、待って!!
「陛下!!エリー!!」
お母様の声が聞こえたと同時に
「「はいっ!!」」両陛下の引っ張り合いは終わりソフィアは解放された。
さすがお母様、助かりました……。
改めて、それぞれが席に着く。
「ごほん。本日は我が娘、
ルルヴィーシュ・ソフィアが創生の魔法を使う者となり、守護する者を得ることになりましたこと、御報告申し上げます。併せて守護する者の紹介と現状の魔法による完成品を献上を致します。」
「うむ。わかった。」
「ではまず守護する者のご紹介を、ソフィア。」
「はい。」私は立ち上がり、入り口近くの広いスペースがある場所まで移動した。
何となく、それっぽいかなと両手を広げ
「ビビ。トット。ポポ。」優しく呼んでみた。ぽぅっ、といつもより大きい光で、三人が現れた!??えーっ!!い、いつもより大きい!!
いつもはソフィアに三人共に乗れるくらいなのに……今、目の前に居るのはそれぞれが1.5メートルぐらいの大きさ!!
な、なんで?何してるの?と動揺する公爵家の者たちをよそに、
『ソフィアを守護する者、ビビである。』
『同じく、トット。』
『ポポだ。よろしく頼む。』などと言っている……、……。
「あ、あのビビ?トット、ポポ?」とソフィアが発したところで、
キャハハハハ―!!アハハハッ!ウフフ、アハハ―!!
……やっぱり……。
『『『ソフィア!!ビックリしたぁ?』』』
「もぅ、ビビ!トット!ポポ!何してるの!!どうして今そんなことするの!!」
ビ 『ソフィア。ごめーん。』
ト 『皆に楽しんでもらおうと思ったの。』
ポ 『怒らないでーソフィア―。』
三人はいつもの大きさに戻るとソフィアに擦り寄ってきた。
しょうがないな……と思いつつ「大きくなれるのね?」と聞くと『もっと、大きくなれるよ、見る?』とポポが言うので、慌てて大丈夫だと断った。この場でこれ以上騒ぎたくない……。
恐る恐る振り返ると、両親と兄は諦めたように苦笑を浮かべ、両陛下はキラキラした瞳で見守っていた。アハハ、ハ。
この様子で大丈夫だと判断したのか、アルベルト第一王子とエドモンド第二王子が呼ばれた。王子たちは興奮したようにビビたちに寄って来て、次々と質問攻めにしながら、恐る恐る撫でていた。
次は完成品のお披露目となったところで、ビビたちがボールを持って来ていた。サッカーボール位の大きさがある。
「あっ、勝手に!!それまだ完成してないのに!」
『どうして?もうこうやって遊べるよ!』ポポがぽ~ん、としっぽでボールを弾く、それをビビが耳で飛ばし、トットが翼で打ち落とす……危ない!!ここは王城なのよ!何かにぶつかったら!と思ってブルリと震えた。
「ダメよ!ここでボール遊びなんて!!」慌ててボールを取り上げる。
もぅ、と振り返ると、あーっ、男子三人がボールをガン見、し、て、る。
王族しか入れない、特別な中庭に面する応接間に移動した。
中庭ではビビ、トット、ポポ、アルベルト王子、エドモンド王子、お兄様がボールあそびに夢中だ。咲き誇る花々があるからボールは無理だと言ったら、ポポがささっと結界を張った……結界の中ならね、しょうがないね……。
両陛下と両親は応接間のソファで創生の魔法について話をしたり完成品を検分している。今後の方針を決めているようだ。
ソフィアは何故か両陛下の間に座らせられ、紅茶とお菓子をいただきながら、たまに質問に応えるという状態。
途中で黒い長いローブを着て、スラリとした青年がやって来た。ローブには銀糸で細やかな刺繍が入っていて、上質な物だとわかる。何より艶やかな黒髪と黒の瞳が印象的だった。日本人を思い出した…。懐かしいな…なんて思ってると、彼は魔法省の長官でジルだと紹介された。
魔法省。特殊な魔法や強い魔力、魔道具の開発から管理まで、魔法に関することは全てを管轄とする。
秘匿事項も多い為、採用にはハードルが高いと聞く。
その長官ともなればエリート中のエリート。ジル様、すごい!!と思いながら挨拶をした。
今後、創生の魔法を使う者として魔法省への出入りが許されるという。
そして、ドリエントル国のために創生の魔法を使う必要がある場合は協力してほしいと両陛下から頼まれた。
もちろん否はない。ソフィアとしても貴重な魔力を持っているのならば、国のために、民のために使うのは喜びだ。
両陛下に快諾し、今後は体調もみながら月に1、2回は魔法省を訪れる事になった。
「ソフィア孃、創生の魔法という大変貴重で偉大な魔法を知る機会を得たこと、何事にも変え難い幸せにございます。
どうぞ、どうぞ宜しくお願い致します。
何か不都合がございましたら、何なりと私にお申し付けください。」
ジル様の丁寧な言葉に恐縮しながら、
「ジル様、私はまだまだ魔力も少ないですし、知識も足りません。何より体調に不安が残るため、ご希望に応えられるか……。ただ、創生の魔法を使う者としてこの国、そして民の力になりたいと思っております。至らぬ点を克服するため努力しますので、よろしくお願い致します。」と応えた。
ジル様はとても嬉しそうに優しく微笑んで、深々とお辞儀をした。
本日はこれで失礼しますと応接間をあとにして行った。
せっかくだから夕食を共にと両陛下から強引に誘われ、中庭を見やった両親は諦めたように頷いた。
いつもより早めの夕食を王家とルルヴィーシュ公爵家の全員が揃っていただいた。
アルベルト王子は金髪、碧眼。
陛下とよく似ている。エドモンド王子も金髪、碧眼だが兄王子よりも薄い色合いだ。
王妃がプラチナブロンドに水色の瞳なのでエドモンド王子の方が王妃の色合いが強いのかもしれない。
アルベルト王子はサラサラの髪だが、エドモンド王子は少しふわふわしていて、王妃の髪質に似ている。
そんなエドモンド王子が食事中に言い出した。
「ソフィアにエドモンドお兄ちゃんと呼ばれたい!!」……でた!君のお兄ちゃんもそんなことを言ってたよ……。
「エドモンド!ダメだよ。私だって頼んだのに結局、アルベルト様で我慢してるんだ。」
「だって、兄上だって、シリウスだってお兄ちゃん呼びされてるだろ?僕だけ誰からもお兄ちゃんと呼ばれてない……。」いやいや、私もそうだし、しょうがなくない?
エドモンドは8歳、それが現実だ。
「うーん、気持ちはわかるけれど……私だって呼ばれてないのに……。」なんで?なんで気持ちわかるの?しかも、アルベルト様が判断することじゃないよね?
「アル、エド!!ソフィアの兄は私だけだ!
」おぉ、お兄様!珍しく?正論!!
「いや、それは前も言ったけどずるいだろう!」
……
…
また、始まった。聞こえないふりをして、食事に集中する。ビビたちは、最初から食事に集中してパクパク美味しそうにしていた。
「ふふっ、ソフィアは人気者ね。皆、ソフィアに夢中だわ。」王妃様が誤解が含まれる発言をする。
「あらっ、それはそうよエリー!家の娘は最高に素敵なのよ!!」お、お母様!?
「そうだな。我々のソフィアは最高に可愛い!!」
「我々とは何だ!!アレク!!ソフィアは私の!私とリリーだけの愛しい愛しい娘だ!!」
……もう、収集がつかない。無の境地だ。無になれ、ソフィア!!
周りの賑わいに一切口出しせず、ただひらすらに食事をするソフィアだった。
やっと夕食を終えたソフィアたちは、暗い外に比べると明るく光る、魔法灯に照らされた回廊を抜けて帰途についた。
エドモンド王子は晴れて
「エドお兄ちゃん。」とソフィアに呼んでもらえることになった。
アルベルトとシリウスは猛抗議したが、陛下の「ソフィア、内々だけの呼び名だから。」との鶴の一声だった。……はい。
そんな賑やかに過ぎ去っていく一行を、暗闇に紛れてドルト公爵が憎々しげに見ていたのには誰も気付かないのだった。