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ソフィアは毎日様々な材料の栄養素や成分のデータを創生の魔法で調べていた。
次々と蓄積されるデータをノートにまとめ、組み合わせを考える。
更に試作品を作成。創生の魔法でデータを確認。使用(試食)。完成。
時間は掛かったが、楽しい。前世の職場を思い出したりもした。
最近はビビたちもソフィアと共に居ることが増えた。日中は公爵家の森に行っていても夕方には戻って来て、ソフィアかシロに乗って眠っている。
ストレッチを日課にした。寝室の絨毯に更に厚めの敷物を敷いて行う。
更には散歩もしている。本当は軽くジョギングでもして体力を付けたいくらいのやる気があるのだが……皆に止められた……残念。
少しずつ散歩コースを変えて距離を増やすつもりだ。
充実した日々だ。最近は発熱もしていない。
お母様やステラにも試してもらっていた化粧品も好評で、今ではルルヴィーシュ公爵家の女性の愛用品となりつつある。
公爵家に仕える者、身だしなみも美しくと公爵夫人であるお母様の計らいでメイドや下働きの女性にまで支給される事になったのだ。
これには皆、声を上げて喜んでいた。
男性にも喜んでもらおうと傷薬や湿布薬。日焼け止めも沢山常備した。目薬が意外にも人気のようだ。
勿論、スースークリームも創った。お兄様はこれがあの、スースーするやつか!!と何故か感激していた。
休憩時のお茶菓子や飲み物も創ってみた。
夏にかけてのこの時期は熱中症注意だと徹底させなければ!!とソフィアは思う。
近くストレッチや肩こり改善のツボ押しを伝授せねばとも考えている。
登城までの日々、少しずつ完成品を増やしながら、健康になるために厨房スタッフやステラたちと協力して過ごした。
登城には完成品も持って行く事になっている。出来る限り性能の良い物をと改良する事も忘れない。
よし後は当日、無事に過ごせればいいな……。
準備してみれば、創生の魔法で創ったものは今のところたいしてない。
鉛筆(色鉛筆)。消しゴム。
後は化粧品、と言っても改良したにすぎないし、薬も数種。
食品もスポーツドリンク的な物くらいで後はデータを調べて改良した物ばかりでサチヨの店があったからこそ料理できた物が多かったなと改めて思う。
まだまだこれからだわ……ソフィアは感じていた。
因みにアイスクリームは魔道具の改良をお兄様がし、ソフィアが材料を考えた物として公爵家の改良品なので、報告はしない。
お母様がこの社交シーズンの公爵家主催のお茶会で、来客に振る舞うのを心待ちにしている。それまでに種類を増やしたいと思う、ソフィアだ。
お母様に喜んでもらいたい。
そして、当日。
お父様は先に登城し、宰相の仕事をしている。相変わらず忙しいようだ。
なので、お母様、お兄様、バルト、ステラ
、ビビ・トット・ポポとソフィアで公爵家の馬車に乗る。
後ろに続くもう一台の馬車には完成品とともに侍女二人が乗り。二台の馬車を囲むようにして、公爵家の護衛の騎士四人が騎乗して守っていた。
陛下からはあまり堅苦しくせず、お茶会のようにして面会する旨が書かれた手紙が届けられた。周りに悟られないようにだろう。
ソフィアはシンプルながらも質の良さがわかる上品なドレス、シリウスは貴族令息らしい仕立ての良い礼服姿。どちらもブルーの生地で合わせている。ソフィアは両親からプレゼントされたペンダントを着けてきた。何故か安心できるので嬉しい。
城門を抜け、馬車寄せまで行く。謁見の部屋までは遠いので、天気の良い今日は庭を散策しながら向かう。ビビたちは定番となりつつある、ステラのバスケットに入っていた。
王城の庭園は貴族に解放されている範囲も広いので、多くの貴族が咲き誇る花を愛でていた。綺麗ね、さすが庭師たちの技術が素晴らしいわ。そんな会話をしながら、城の奥へ向かって行く。知り合いの貴族たちに軽く挨拶をしながら、穏やかに歩を進めていたのだったが……
何か嫌な後ろ姿が見える……ソフィアたちからは少し離れた庭に配される噴水を見ている父と娘……あれって、やっぱり……気づくな!振り向くな!!とソフィアは祈っていたが……
「おや?これはこれは珍しい!!ルルヴィーシュ公爵家の方々ではありませんか。」
あーっ、やっぱりそうなるのねぇ……ソフィアはがっかりしたが、顔には微笑を浮かべ膝を折って丁寧に挨拶した。
「ドルト公爵閣下、ご機嫌麗しゅうございます。」お母様も丁寧に挨拶している。
ルルヴィーシュ公爵家とドルト公爵家はいわゆる犬猿の仲。とにかくお互い気に入らない……のだ。そしてドルト公爵家にはソフィアと同じ歳の娘がいる。
「ソフィア。あなた相変わらず辛気臭い顔ね。でも、王城に出向くくらいの元気はあるのだから、良かったですこと!!」後ろに侍女を三人も控えさせて言った。はぁ……。
「…ガブリエラ様。ご機嫌よう。お元気そうでなによりですわ。」
そう、娘の名はガブリエラ。真紅の髪にイエローサファイアのような瞳で赤いドレスを好んで着ている。
ドルト公爵はオレンジがかった茶色の髪でガブリエラより濃い黄色の瞳、少しお腹が出たどしっとした体型だ。外務大臣の職についている。
「まぁ、シリウス様!!ご機嫌麗しゅう。益々凛々しくおなりになられて!!私、見とれてしまいそうですわ!!」
「……、……こんにちは。ガブリエラ嬢……。」
「今日はお揃いでどうされた。何か急を要することでも?」探るように公爵が言う。
「いいえ。ソフィアがようやく心配なく外出をできるようになったので、王妃陛下にご挨拶に伺いましたのよ。」
嘘ではない、今日は王妃様も同席の予定だ。
「それはそれは。やっとガブリエラに追いついたのですな。良かったですな、はっはっは。」
お兄様がピキッと音がなりそうな雰囲気を醸し出したので、ソフィアは慌ててお兄様の手を握った。
「ほほっ。そうですわねぇ。ソフィアは屋敷内での学習は既に十分にできておりますから、心配はしてないのですけれど。」
「ハハッ……なるほどなるほど……。では、お気をつけて。」
「ありがとう存じます。失礼致しますわ。」
……、……。
会いたくないと思うと会う……
はぁ。ヤダヤダ。
何となくドルト公爵親子に睨まれているのを背中に感じつつ、先を急ぐのだった。