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誕生日。
朝食に向かうソフィアの足取りは軽かった。
見た目は変わりなくとも、新たな自分になった気分。ウキウキする。
寝込む度に家族にも使用人たちにも心配をかけているのがソフィアは辛かった。
病状の苦しさと病弱な自分が嫌で嫌で悲しくなってしまう。
でも、改善させる希望ができた。いや、絶対に実現させる。前世からの思いだ。
やる、やれる、やらねばならない!!!
一人、前を見据えて決意していた。
「お嬢様。今日は体調もよろしいようですね。瞳もキラキラ輝いておいでです。天気もいいですし、素敵な誕生日になりますね!!」
ステラが嬉しそうにソフィアに声を掛けた。
うふふっとステラも楽しそうだ。
「ステラ、いつもありがとう。私、今日からバージョンアップしたのよ!!」
「バージョンアップ!?ですか?」
「そう。健康になるのよ!ステラに迷惑かけないように頑張るわ!!」
???
ステラはよく分からなかったが、いつも大人しく読書をしているソフィアが何だかハツラツとしている様子なので、その主の姿に満足した。
食堂に着くと、駆け寄って来たお父様とお兄様に両サイドから抱きしめられ
「ソフィア。5歳おめでとう!!5歳になって随分と可憐になったようだ!!!」
「………。」
「ソフィ。誕生日おめでとう!!お兄様は嬉しくて嬉しくて…うぅぅぅ。可愛くて可愛いくて……くぅぅぅ…。」
「…………。」
お父様、一晩寝ただけで可憐にはなりません…
お兄様、朝から泣きそうになるのは止めてください!!
「ソフィア、おはよう。5歳の誕生日おめでとう。素敵な一年になるといいわね。」
「お母様!ありがとうございます。日々、健康に過ごすことができるよう努力します。」
朝から嬉しい気分で、朝食を完食できたソフィアだった。
誕生会は小広間で行われる。少人数のためテラスから庭へと出られ、ハーブ畑やバラ園、ユリを眺めるのに適している会場にした。
この世界では一年中さまざまな花が咲いている。雪が降る短い間は難しいが、魔力によって季節問わず咲かせることができるのだ。
公爵家では母が土の魔法が使えることと、庭師の正確な技術により殊更美しい庭が保たれている。
今日も美しい花が咲き誇って、公爵令嬢を祝っていた。
朝食から自室に戻ったソフィアはステラがいれた紅茶をソファでのんびり飲んでいた。
ビビたち何してるかな?
と考えていると、ステラにそろそろご準備をと声を掛けられた。
そうだ、今日は誕生日会。しかも主役。
ビビたちのことは一旦置いておこう。公爵家の森に住んでいるのだ。いざとなれば、直ぐに会える。
今日のドレスは撫子色。あまり明るい色の物は好まないソフィアにしてはかなり明るい。
ピンク…と思ってしまう。
(今日は主役だ、よし。)
この世界はヨーロッパ風なので、日本人では慣れない華やかドレスが日常的だ。
今までは気にもならなかったが、前世の記憶を思い出した今は何だか落ち着かない気がする。前世では結婚をしてなかったので、ドレスアップしてお披露目する経験などしたことがなかった。七五三や成人式で振袖を着たけれど。
昨日までは普通のことと思ってたんだなぁ…
などと考えてるうちにテキパキとステラにドレスを準備され、着替えをした。
撫子ドレスはハイウエストで背中で大きなリボンを結ぶ物だ。スカート部分は軽やかな生地が幾重にも重なり裾に向かってふんわり広がっている。首周りと裾の部分には細かい蔓草の刺繍が施され森の動物も所々に佇んでいた。高級な生地には光沢があり、全体的に気品を感じる。
肩に届く位の真っ直ぐな髪は、サイドをドレスの共布のリボンで一緒に細かく編み込んでもらった。
最後にステラが鏡の前に置かれていた箱を開いて、ペンダントを取り出す。
ドロップ型のアメジスト。小さいダイヤモンドに囲まれている。グレーダイヤモンドのようなので、シリウスとソフィアの瞳が一緒になったペンダントだ。5歳の誕生日のお祝いに両親がプレゼントしてくれた。
大好きなお兄様と自分が一緒に居るようで、とても嬉しい。
ステラが丁寧にペンダントを着けてくれたので、鏡に写して見た。
うん、綺麗。キラキラしていて気分も上がる。
今日のパーティは少人数、家族揃ってお客様をお迎えすることにしている。
さぁ、張り切って主役を務めるぞ!!
ソフィアは益々足取りを軽くするのだった。