都市伝説好きな少女と紫色の合わせ鏡
在籍する堺県立御子柴高校から帰った私は、百均で買った二枚の手鏡を合わせ鏡にして鏡面を覗き込んだの。
その目的は、オカルト界で有名な合わせ鏡の都市伝説の真相を私自身の手で暴く為なんだ。
自分の死に顔や悪霊が見えるとか、異世界に連れ去られるとか。
合わせ鏡の都市伝説は、とにかく諸説紛々だからね。
「さぁて…『細工は流々、後は仕上げを御覧じろ』ってね!」
鏡の向こうにいる筈の誰かに軽口を叩きながら、私は鏡面を覗き込んだんだ。
左右が反転した私の姿が写る鏡面は、薄紫色のフィルターが掛かっていた。
二十歳になるまで覚えていると不幸が訪れるという紫鏡。
別の都市伝説も混ぜてやったのは、挑発行為のダメ押しだった。
「クリアパープルのマニキュアを塗るのも手間だったんだから、何も起きなかったら勘弁してやらないぞ…って、おおっ!」
呑気な独り言を打ち切り、私は鏡面を凝視する。
『ウフフフ…』
薄紫色の世界にいた私の鏡像が、何とも言えない邪悪な笑みを浮かべていたからだ。
左右が反転したポニーテールは、生き物みたいにユラユラと揺れていたよ。
「むっ!」
危険な殺気を感じて身を屈めた次の瞬間、紫色の鏡面から白い手が伸びてきた。
あの手に掴まれていたら、きっと鏡の中へ連れ込まれちゃうんだろうな。
だけど、敵の第一撃が空振りに終わったからには、次は私が攻めに転ずる番だ。
「そ~れっと!」
そうして身を屈めた状態のまま、私は二枚の手鏡を叩きつけるように重ね合わせ、用意したガムテープで雁字搦めにした上でゴミ袋で包んでやったんだ。
『?!』
合わせ鏡の通路を塞がれた事で、敵は相当に狼狽えているみたい。
貼り合わされた手鏡が、ガタガタ震えているよ。
「うるさいわよ、飛鳥!さっきから何してるの!?」
「只のゴキブリ退治だってば、お母さん!」
咄嗟に母を誤魔化した私は、分厚い辞典を手鏡に叩きつけたんだ。
「ええい!」
そうしてダメ押しとばかりに全体重でプレスしたの。
『ギャッ…!』
鏡が粉々に砕ける音と一緒に小さな悲鳴が聞こえたのは、私の聞き間違いかな?
あの邪悪な鏡像は鏡面世界の魔物なのか、或いは私の自己像幻視なのか。
仕留めてしまった今では、確かめる術もなかったよ。
その後、例の鏡は粉々に砕いて捨ててやったの。
強いて霊障らしい物があるとしたら、その後一週間は鏡の中の私が半透明になっていた事位かな。
それよりも、二階で大騒ぎしてお母さんに叱られた事の方が余程に堪えたよ…