私は川を渡れない。
星空がシャンデリアのように煌めいてる空を見ながら、私は夜の散歩を嗜んでいた。
肌に冷たく撫でるように当たる夜風が気持ちよく、私は一人で、いや今日は二人で散歩をしている。
「うぅ、寒い」
「まあ、もう九月も終わりだし。 当然だよ」
当然だとそう言う彼は、御萩秋。幼なじみで、一年に一回だけ会う約束をしている。
今日は九月二十三日。九月も下旬へと突入し、夏の暑さは過ぎ去り、冬の冷たさが到来していた。
「いつもこうやって、一人で散歩をしているの?」
「そうだねえ。 夜は静かで散歩するのにはもってこいだからね」
自分から聞いておいて、ふーんと、少し興味なさげに返事をする。
何だ、こいつは。と思うが、今日しか会えないからそこは目をつぶってやった。
しかし、次こんな反応をするのならば殴ると思うが、秋には私の拳は当たらない。
「そういえば、御萩っておはぎ好きだったよね。 御萩がおはぎ好きってなんかおもろしくて好きだったな私」
「おいおい、そんな酷いこと言うなよ。 泣くぞ? 俺。でも、またあの商店街のおばさんのおはぎ食べたいな」
「美味しいよね。あのおばさんのおはぎ」
商店街のおばさんのおはぎは、町内でかなりの人気を誇る老舗のおはぎ屋なのだ。
「そろそろ川が見えてくる。 また一年後か」
「長いねえ……一年って。 私も一つ歳をとっちゃうよ」
「はは、何十年後かには、おばさんのお前と会うことになるのか」
「レディーにそんな言い方しない、アンタの好きなおはぎもう持って行ってやんないよ?」
「それは困る。 すまなかった」
「素直でよろしい。 ほら、川が見えてきたよ」
秋と他愛もない話をしていたら、彼岸花が地面いっぱいに咲き誇る綺麗な川へと着く。
こんな綺麗なのに、私の心は惹かれずに、哀しみで抉られていた。
ここでお別れか……。この川が見えたら私と秋はお別れだ。私にはこの川を渡る権利は無い。
「それじゃ、行くわ。 また一年後」
「うん、また一年後」
手を振りながら、秋は川の向こうへ行ってしまい姿が見えなくなってしまう。
二人で歩いた道を、私は一人で引き返す。
いつもは一人で歩いているのに、今日という日は何年経っても悲しく思う。
空には、暁月が昇っていた。
ではまた。