タバコ
「何が良くてタバコなんか吸ってるんですか?」
いつも突っかかってくる生意気な後輩がいつものように突っかかってきた。
「何でだろうな?何も良くはないよ。」
初めたきっかけだって下らない。
昔から流されやすい自分だった。中学の時だったか、部活の先輩が原因だった。成長期の早かったせいか良くタバコを買うよう命じられ、逆らえるわけもなく買ってきた。
駄賃代わりなのかそれとも仲間に引き込んで口封じのつもりだったかその時必ず吸わされた。初めは噎せる自分を見て楽しんでただけだったのかも知らないが噎せなくなってからも吸わされた。
金のない中坊だ。カートンなんか手が届かないもんだから良く呼ばれた。その度その度吸わされた。
それから先輩は卒業した。やっとパシリから解放された。しかしその時には自らタバコが吸いたいと思うようになっていた。週に一本二本しか吸わないから依存症何てあるはずないのに何でだろな。それが初まりだった。
「吸ってみ?」
なんとなくあの日の先輩のように蓋を開けて差し出してみた。
「いやですよ!臭いじゃないですか。」
今の子は自由でいいな。
「連れないな」
「先輩のせいで彼女に臭い臭いと言われるんですから。女受けしないです、タバコ!それに天幕の中は本来禁煙なんですよ!」
ちょっと自由すぎるな。
「余計なお世話だ。まあ、悪かった。お前の前では吸わないよ」
バックの中を除き込むともう1カートンしかないタバコ。見積もり不足だったか。出発前は3ヶ月の滞在のはずだった。交代で入ってくるはずの隊は前線に吸われたらしい。そしてもう間も無くここが前線になる。タバコばかり入れてきて、スカスカになったバックはものをまとめるにはちょうどいい。適当に詰め込んでもまだ余裕がありそうだ。
それに比べて
「よし、こんなもんだろう!」
何も良くないし何もまとまってない。どうしたらそんなに大量の荷物になるのか?
「何がよしだ!お前何持ってきたんだ?」
さっきの仕返しをする様に少し強い口調で言ってみた
「何って色々ですよ。何が起こるかわからないから困った時に役に立ちそうな物とか、いつ食べれなくなってもいいようにおやつとか、色々です」
言い訳をする様にそれでいてなんの悪びれもなく言い返してきた。
「なんか持つか?」
ほんと手間のかかる後輩だ
「すみません。では、コレとアレと…
やれやれ
随分と長かった気がした。しかし一瞬の出来事のようにも感じる。
汚いスカスカのバックの後輩のカルパスを食べた。
まだ、タバコはやめられそうにない。