表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/11

第八話「大聖女、伝説級に会敵する」


 確か(たお)した魔物の証明に体内の魔石と討伐部位の確保、売り物になりそうなところを()ぎ取れば、(なにがし)かの報酬が得られるはずだ。


 例えば、今の狼型を含めて獣型は毛皮や牙が売れるはずだ。


 ガラクティカ様がその辺りをご存じと思っていたが特に指示がなかった。


 今のところ丸まま死骸(しがい)を収納してきている。


 もしかしたら解体はまとめてするお積もりなのか?



 討滅(とうめつ)し続けて森の奥へ奥へと魔物を求めて進んだ。


 遠くに見えていた山々に手が届きそうな所まで来てしまった。


 たどり着いた森の奥に湖を見つけ(ほとり)に降り立つ。


 聖女宮の料理人に持たせてもらった昼食を食べるのに、丁度良いと思える。


 そこは森の背とも言える山々からの()き水でできた湖のようで、魔物にも安息地(オアシス)となる所だろう。



 (みぎわ)(たたず)んで水面(みなも)に映る森の緑と空の青に見惚(みと)れていると(にわか)に水面が波立った。


「下がれ‼」


 何が起こったのかと呆けて見ていた私達にガラクティカ様が叫ぶ。


 水面からは触手と丸い頭を(のぞ)かせる魔物が現れた。


 まごつく私たちは逃げる間もなく伸びてきた触手に捕まってしまう。


 私の探索では水中の魔物が判別でき(にく)いようだ。


「はあああーっ!」


 ガラクティカ様は私に絡まった触手を()り裂くと、返す刀でクリストの触手も両断した。


「助かりました、ラクティー様──」


「まだよ。引摺(ひきず)りこまれないよう下がれ!」


 悠長に礼を言っている場合ではなかった。


 獲物を逃がすまいと新しい触手を伸ばして魔物が陸に押し寄せてくる。


 失った触手に怒りを表しているのか威嚇(いかく)しているのか、波打つように黒い体色を変えて水上に姿を現す。


 それは頭の下から触手が生えた()(ぎょう)をしていた。


 顔とおぼしき所に飛び出た巨大な目玉が二つ、覗いているが鼻も口もなかった。


 つくづく()()(れつ)な生き物だ。魔物だけに。


「なっ、何ですか? あれ!」


山烏賊(セルポンダ)ね──」


「「山烏賊(セルポンダ)?」」


 ガラクティカ様は、剣を下ろし仁王立ちで魔物──山烏賊(セルポンダ)を見据え、その問いに答えて下さらない。


「クレスト、早く森の方へ!」


「ああ、逃げよう!」


 ぼんやりとガラクティカ様の体が赤い魔法光を放ち始めていた。


 体に()いついた触手を引きはがせぬまま私たちは(あわ)てて彼女の(そば)から離れた。


 魔法光を発する時はガラクティカ様が強力な魔法を放とうとしているからだ。


 這々(ほうほう)(てい)で湖から離れた私たちが()の陰から見ていると、(から)め取ろうと伸ばしてきた触手を物ともせずガラクティカ様は魔法を練り上げていく。


 臨界に達し、その姿を輝かせ、するりと触手を()けて(つぶて)のごとく山烏賊(セルポンダ)の頭へ飛び出した。


 (かか)げた小剣も魔法光を放ち輝いていて、その攻撃で山烏賊(セルポンダ)の頭を軽く貫くと思えた。


 が、体表に現れた魔法障壁とぶつかって火花を散らすに(とど)まり、その軌道(きどう)()らす。


 空に()れたガラクティカ様の輝線はそのまま上空に伸びると旋回(せんかい)し、直下に魔物を(とら)える位置まで来ると降下の軌道を描き始める。


 地上ではその間にす早く体を回し、うねうねと触手を揺らして待ち受ける山烏賊(セルポンダ)がいた。


 それを気に留めもせずガラクティカ様は降下する。


 剣を掲げた姿勢でそれに激突するが、またしても障壁に(はば)まれるとキンと(かん)(だか)い音を上げ()ね飛ばされて、樹々(きぎ)の中に消えてしまう。


「ラクティー様!」


 森では()()ぎ倒す音、枝葉を揺する音が木霊(こだま)する。


 隔絶した闘いを呆然と私たちは眺めているしかなかった。


 とは言え、頼りのガラクティカ様が離脱してしまい慌てる。


 樹の陰に隠れ探索魔法で(あるじ)の位置を探ると、かなり奥に反応があった。


 それが健在な反応で安堵(あんど)する。


「私たちにラクティー様の掩護(えんご)はできないかな……」


「ムリムリ。せめて物理攻撃なら何かしらできそうだけど近寄っても触手に捕まるだけだろ?」


「そう、だよね……」


 ガラクティカ様と魔物との魔法抗力は拮抗している。


 今は魔物に捕まらないで足手まといにならないようにしているしかない。


 できることは短剣を構えているくらいなものだが。


 幸い、山烏賊(セルポンダ)が陸に上がり向かっては来ず水際で待ち受ける姿勢に変わりない。


 そこへヒュンヒュンと音を立てて森の中から炎の槍が山烏賊(セルポンダ)に飛来する。


 ガラクティカ様が飛ばされた方向だ。


 数本が逸らされ飛散、いくらかは魔物の前で霧散した。


 ところが山烏賊(セルポンダ)は激しく体を揺らして(いか)っている。


 体表には波立つ模様が表れて、その反応はあるいは動揺しているのかも知れなかった。


 炎の槍のわずかが突き立ったのだろうか。


 立て続けて炎の槍が(しゅう)()のごとく撃ち込まれると、(あら)かた霧散しているが逸らされる物はなかった。


 障壁をすり抜ける炎の槍に恐れをなしたか、山烏賊(セルポンダ)が重々しく水中へ後退していく。


 水際では分が悪いと分かったのか。

 

 山烏賊(セルポンダ)の周りに魔法の残光がまとわりついて、その姿が良く見えなくなっていた。


 闘いの行方を(うかが)っていると香ばしい匂いが漂ってきた。


 山烏賊(セルポンダ)が魔法の槍で()げた匂いなのか?


 その触手の動きがぎこちなく、頭が苦しむように揺れているのは炎の槍が効いているのだろうか。


 乱撃のあと炎の槍の追撃はなく、山烏賊(セルポンダ)にも動きがない時が過ぎる。


 攻防の推移が分からず水に(ぼっ)しつつある魔物の動向を見守る。


 気が付くと体表の色の変化が無くなり、モヤの薄れゆく中で山烏賊(セルポンダ)()(けん)に剣を突き立てたガラクティカ様がいた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ