第七話「大聖女、魔物討伐に奮戦す」
【前話は……】
ガラクティカと見習いマルタは聖女宮でそれぞれの修練の日々を送りつつ、王都を脱け出す謀略をめぐらす。
◇
受渡しの日、鍛冶屋に赴いたガラクティカ様は、小剣を手にするとその足で冒険者協会へ向かった。
付き従うのは、探索魔法による斥候役の私と収納魔法を用いた荷物持ちのクリストの二人だ。
これは前からの予定していた通り。
他の者たちには留守を委せガラクティカ様の不在が露見しないよう隠ぺいを図ってもらう。
ギルドで常時依頼していると言う討伐対象の魔物を調べると、また慌ただしく街壁門に向かわれる。
ええっと……依頼を受注とか、しなくて良かったのだろうか?
身元の隠ぺいがばれることなく、ギルド証の確認をされるとすんなり王都の大門を出られた。
門を出る分には緩いし、ギルド証があれば門の出入りを優遇される。
目指す所は近郊の森と聞いている。
近郊の魔物の森というのは、遠く北の山脈の麓、大魔境の森につながった緩衝地であり、そちらからあふれて彷徨い来る魔物を、常時依頼の討伐で間引いていると言う。
「はあ、やっと城壁から離れたわね。歩くのは大変。何もしていないのに疲れてしまったわ。次からは馬車を使いましょう!」
城壁の見張りの目が届かぬところまで離れるとガラクティカ様が盛大にため息をつかれた。
「森に行くのには飛んで行かれるのでしょう? 壁の外に馬車残していくのは不審です。賛成できません」
「そうですね。外に留めおくのは危ないですし、見張りに人を取られます……。門を出て間をおかず王都にもどっても明らかに怪しいです」
「仕方ないわね。馬を収納できればいいのに。さあ、掴まって」
荷物持ちのクリストの収納魔法に生き物は収められない。従って、街の出入りに馬車が使えない。
私たちはガラクティカ様にすがって森へ飛翔した。
まず見つけたのはウサギ型の魔物だった。
角兎と言うのだそうだが、ガラクティカ様には不可をいただく。
森の外縁辺りにうじゃうじゃいるのだから、それでいいと思うだが手間ばかりで鍛練にならないと宣われる。
「三哩(四百メートル強)先に大型犬ほどの魔物……三頭います」
次なる魔物を求め潅木地帯を越えて森へ深く、彷徨うと四つ足の犬型と思われる魔物が見つかった。
「森凶犬かしらね? もう少しマシな、強いヤツはいないの?」
「強い弱いは判りませんが、ウサギに比べても大きいです。ひとまず戦ってみては?」
「……それもそうね」
ウサギよりは意に沿うだろうと犬型を薦めると渋々ながら討伐緒戦に決まる。
魔物の進行方向をふさぐようにガラクティカ様が降り立つと、一瞬警戒して立ち止まったが、すぐ我々を獲物と認識した。
犬もどきの魔物は囲むように散らばって駆けよってくる。
私たちはガラクティカ様の傍から離れ距離を取り闘いぶりを見守る。
抜剣して中段に構えたガラクティカ様は、正面から跳びかかってくる一頭をひと振りで斬り伏せる。
思う以上に危なげなく斃される。
「ラクティー様! 左に来ました!」
気づくと左に回りこんだ一頭が私たちに跳びかかる位置まで来ている。
それから逃れるようにガラクティカ様に近づくと、彼女は体を躱して前に出て横薙ぎに一閃、二頭めをたおした。
「後ろ! 後ろに来ました!」
背中を向けたところへ右に回った三頭めがもうそこまで迫っていて肝を冷やす。
すかさずガラクティカ様は我らをかばうように翻って跳びかかってきた犬の口中を刺突して、三頭めがたおれる。
「今のは危なかったですよ」
「あなたたちも自分の身は護りなさいよ。腰の短剣は飾り?」
「……うえっ?」
「…………」
無理やり連れてこられた上、ひどい言い様に唖然として、クリストと顔を見合せる。
私は探索魔法で探すだけで名ばかりの斥候だし、クリストは荷物持ちなのに……。
ともかくガラクティカ様がいきなり魔物討伐などできるのかと思っていた我々の不安は杞憂だった。
私たちの覚悟を除いて。
「……次、いくわよ」
「はい……」
それからもガラクティカ様の飛翔で飛び回り魔物を探して回る。
「ほら、一匹そっちに行ったわよ」
「は、はい!」
「タイト、ガンバレ」
「お、お前なあ……次は代われよ」
「いや、オレはちゃんと荷物持ちしてるし、ほらよそ見してると危ないぞ?」
「あっ! もうそこまで来てる」
短剣を構えて待ち受けるところに狼型の魔物が跳びかかってきた。
それに合わせて短剣を突き出すとうまく眼窩を貫いた。
幸い牙にも爪にもかからず、か擦った程度でケガらしいケガはしなかった。とんだまぐれ当たりだ。
急所を貫いたせいで最期のあがきもなく、痙攣して狼は果てた。
「や、やった。……クリスト、見たか? って、いない」
一頭まぐれ討伐したのに気をよくして、クリストを振り返るとそこには居らずガラクティカ様の元で狼たちを収納していた。