第086話 仲間って良いね!
シズルを除く4人のパーティーメンバーがシズルの誕生日プレゼントを決めて、少し経つと、シズルが家にやってきた。
「おはよう、皆、来てるんだね、ごめん」
俺が玄関でシズルを出迎えると、シズルは遅れたことを謝った。
「おはよ。まだ時間じゃないから大丈夫だ」
シズルは靴を脱ぐと、家にあがり、皆が待つリビングへと向かう。
「これで全員揃ったな。こうして6人で集まるのも久しぶりだな」
全員が席につくと、俺は皆を見渡しながら言う。
「だね。ダンジョンの封鎖も長かったし、暇だったよ」
ちーちゃんはそう言うが、この人が夏休みに遊び惚けていることをお姉ちゃんから聞いている。
「ちーちゃんはずっと遊んでただろ」
「それはあんたもだろ。ミサキから聞いてる。それで、今日はどこまで行くのさ?」
お姉ちゃんって、口が軽いんだなー。
「その前に、お前らに確認しておきたいことがある」
俺が待ち合わせ場所を協会ではなく、家に指定したのには理由がある。
「何さ?」
「アメリカのダンジョンでスタンピードが起きた。そして、その傾向は名古屋のニュウドウ迷宮でも確認されている」
「あんたが泣いて帰ってきて、ミサキに泣きついたやつだね」
いちいち、うるせー女だ。
「泣いてない。俺は今後もスタンピードは起きると考えている。それはロクロ迷宮でもだ」
「だろうね」
「そこでお前らに確認したい。俺の目的は深層に行き、男に戻ることだ。協会の調査員はロクロ迷宮の20階層まで調査し、スタンピードの傾向はないと判断した。しかし、20階層以降はどうなのかわからない。このまま深層に行って、スタンピードに巻き込まれる可能性もある。それでも≪魔女の森≫に残るか? お前らは学生だし、親御さんの意見もあるだろう。抜けてくれてもかまわない」
「………………」
俺達はすでにロクロ迷宮の15階層まで到達している。
学生であることを考えれば、もう十分だ。
このまま卒業しても、すぐにDランクにはなれるだろう。
「この前も言ったけど、私は残るよ」
シズルが沈黙を破り、言った。
「もう一度、確認するが、いいのか? お前は歌手として復帰する道もあるんだぞ?」
シズルは歌手として人気がある。
この容姿だし、芸能人として、いくらでも活躍できるだろう。
「もう歌手に戻る気はないよ。それに、ルミナ君を男に戻したい。私のせいで、ルミナ君は女の子になっちゃったし」
「前にも言ったが、それは気にしなくてもいい。女になったことで、気づいたこともあるし、得たこともある。それに、どうせすぐに戻れる」
ダンジョンの深層に行けば、男に戻れるのだ。
俺の実力があれば、不可能なことじゃない。
「私はルミナ君に男に戻ってほしい。それにルミナ君が男に戻ってもエクスプローラを続けるし、パーティーを抜けるつもりもない。そもそもパーティーを組もうって言ったのは私だよ?」
そうだったっけ?
俺が無理やりパーティーを組んだんじゃなかったっけ?
「…………そうか。じゃあ、そうしよう」
「忘れてたね」
シズルのジト目が怖い。
「…………いや、あの、俺が強引に誘ったんじゃなかったっけ?」
「私が誘ったんだよ。強引だったのはその後。抜けるのは許さんって言ってた」
あー、そうだった、そうだった。
「サイテー」
「センパイ、そういうところですよ」
女子2人が俺を責めてくる。
わかってますよ。
「まあ、シズルはこのまま続けるのはわかった。ありがとう。瀬能、お前は?」
今度は瀬能に話を振る。
「ボクも続けるよ。ボクはクランを立ち上げ、エクスプローラを変えたいんだ。前にも言っただろう」
「親は何て?」
「賛成してくれてるよ。だから、このパーティーは抜けないから安心しろ。少なくとも、卒業までは付き合うよ」
瀬能は将来的には≪魔女の森≫を抜ける。
しかし、俺が男に戻るまでは付き合ってくれると言っていた。
こいつは大丈夫そうだ。
「わかった。これからも頼む。さて、アカネちゃん、お前は?」
このびびりハムスターは怪しいと思っている。
「私は抜けませんよ」
「別に、無理に付き合ってもらわなくてもいいぞ」
「私はエクスプローラを続けるつもりですし、だったら、センパイの所が一番安心ですよ。最悪、逃げますから大丈夫です」
レアスキル≪逃走≫持ちは、後ろ向きな理由だが、付き合ってくれるようだ。
「おじさんとおばさんは?」
「センパイのパーティーにいることは知っていますし、男に戻るのを手伝ってやれって言ってます」
アカネちゃんの両親は昔から知っている。
おじさんとおばさんには、後で挨拶に行ったほうがいいな。
「わかった。おじさんとおばさんに説明に行くから後で付き合え。さてと…………」
あとは斎藤姉弟である。
問題はこいつらだ。
「あの僕は――」
「お前は黙ってろ」
俺はカナタの発言を遮った。
「ちーちゃん、お前はどうする? カナタのことは気にしなくていい」
俺が一番気にしているのはちーちゃんだ。
ちーちゃんは弟であるカナタがいるからこのパーティーにいる。
ちーちゃんこそ、俺が無理やりパーティーに入れた人なのだ。
ちーちゃんを失うのは痛いが、これ以上は無理やり付き合わせるのは無理だろう。
「私は残るよ」
「いいのか? エクスプローラを続けるとしても、もっと安全な≪ヴァルキリーズ≫に移籍してもいいぞ。なんだったら、サエコとショウコに言ってやる」
サエコは知らないが、ショウコはちーちゃんを欲しがってた。
俺が許可を出せば、すぐに引き抜くだろう。
「あそこに行くつもりはないよ。未だに、声をかけられているけど」
ショウコだな。
あいつはしつこいからなー。
「もう一つ教えてやる。協会がお前を欲しがっているぞ。はっきり言うが、お前は協会の職員のほうが向いている。お前が3年になったら、協会からスカウトが来る」
これはマイちんや本部長から聞いた話だ。
頭もよく、判断能力に優れているちーちゃんをスカウトしたいそうだ。
「そうなの?」
「ああ、協会は俺が譲るわけがないと思っているから本気ではないが、俺が許可を出せば、明日にでも毎日、スカウトが来るぞ」
協会は問題児である俺を敬遠している。
だから、一応、声をかけるが、来てくれたらいいな程度だ。
「うーん、協会の職員かー」
「給料は良いぞ。まあ、激務だがな」
マイちんが言っていた。
「いや、やっぱりエクスプローラを続けるよ」
「そうか。ウチに残るか?」
「いまさら、他のパーティーに行っても、上手くやれる自信はない。どうせ、煙たがれる」
まあ、そこは否定しない。
この人、一言多いからな。
「じゃあ、頼むわ。カナタは?」
「僕は神条さんについていきます! 強くなりたいんです!!」
でしょうね。
知ってた。
「よしよし、これからも教えてやるからな」
「お願いします!」
うんうん、実にかわいいヤツだ。
「じゃあ、皆、残るわけだし、ダンジョンにでも行くか」
皆が残ってくれるということで、俺はご機嫌で立ち上がった。
◆◇◆
全員が≪魔女の森≫に残ることになったので、俺達は協会へと向かった。
協会に着くと、すぐにマイちんの所へ向かう。
「やっほー」
「おはよう、ご機嫌ね」
俺が軽快に挨拶をすると、マイちんも挨拶を返す。
「まあね。ダンジョンに行くから申請して」
「その前に、ニュウドウ迷宮の調査、お疲れ様。報酬の安眠枕が手に入ったから渡すわ」
マイちんはそう言って、立ち上がると、奥から枕を3つ持ってきた。
「はいこれ」
「どうも」
俺は安眠枕をアイテムボックスにしまう。
「それとDカードを預かるわ。貴方の色を白にするから」
「あの話って、マジだったんだ」
ニュウドウ迷宮の調査依頼を受ける時に本部長が言っていたが、半信半疑だった。
「良かったわね。貴方が≪レッド≫になって、5年。ようやく戻れたのよ」
「どうでもいいけどね」
前は≪レッド≫と呼ばれることに抵抗があったが、もう気にしてない。
「私は嬉しいわ。このまま良い子でいてほしいものよ」
「俺は良い子だぞ」
「はいはい。今日はどこまで行くの?」
マイちんは俺の発言を軽く流した。
「できたら、20階層まで行きたい」
「貴方達は15階層でしょ? 大丈夫?」
「安眠枕も手に入ったし、泊まりで行くから問題ない」
「そう。20階層のボスはミノタウロスよ」
ミノタウロスはでかい牛人モンスターだ。
斧を持ち、すさまじい怪力を持っている。
「知ってる。雑魚だ」
「けっして、雑魚ではないのだけど…………」
「特殊攻撃のない脳筋だろ。俺のほうが強いからボコってやるぜ。10階層のレッドゴブリンと一緒」
何秒で倒せるか、賭けでもするかね。
「貴方がそう言うならそうなんでしょうね。でも、気をつけてね」
「はーい」
俺達はその後、申請を終えたため、ダンジョンへと向かった。
攻略のヒント
ロクロ迷宮20階層のボスはミノタウロスである。
ミノタウロスは青い肌をした巨大な牛型モンスターだ。
魔法は使ってこないが、斧を持っており、凄まじい力で繰り出される一撃は非常に危険だ。
特に後衛は一撃で死んでしまう可能性が高いため、要注意である。
対策方法は遠距離からの魔法が有効であり、間違っても接近戦は御法度だ!
『ダンジョン案内 東京本部 ロクロ迷宮』より