第082話 魔女、空を飛ぶ
夏休みの宿題も終わり、空を飛ぶテストのために、学校にやってきた俺達は許可を得るために職員室へとやってきた。
「失礼しまーす!」
俺は声をかけ、職員室の扉を開ける。
「はーい……って、神条か。何だ、その格好? またコスプレか?」
俺が職員室に入ると、担任の伊藤先生が応対してくれた。
ちなみに、俺の格好はダンジョン祭の時に着ていた魔女のコスプレである。
これから空を飛ぶんだから仕方がないね!
「せんせーい、空を飛ぶんで、校庭を借りて良いですかー?」
「……お前は何を言っているんだ? 暑さとゾンビで頭をやられたのか?」
伊藤先生はこめかみを押さえながら言う。
「いやいや、ゾンビを倒したら、レベルが上がりまして、新しい魔法を覚えたんですよ」
「それが空を飛ぶ魔法か……だから、そんな格好で箒を持っているわけか」
魔女が空を飛ぶなら、当然、箒は必須アイテムである。
「そうでーす」
「うーん……ダンジョンは閉鎖中だしな。まあ、今日は部活もやってないし、いいぞ」
「あざまーす!」
俺とシズルは校庭を使う許可が下りたので、伊藤先生と共に校庭に行く。
……………………。
「…………何で、ついてくるんです?」
俺は後ろで当たり前の顔をして、ついてくる伊藤先生に声をかけた。
「いや、気になったんで。それに危ないから見ておかなくちゃいかん」
取って付けたように、教師っぽいコメントを言わなくてもいいよ。
「まあ、いいですけど」
シズルと二人っきりを邪魔してきやがる。
まあ、俺の肩にシロもいるんだけど。
俺は校庭に着くと、早速、飛んでみることにした。
「よっしゃ! 飛ぶぞー!」
「ところで、何て名前の魔法なの?」
「マジカルフライ」
「あれ? 普通だ」
普通かな?
まあ、他のメルヘンマジックに比べれば、普通かもしれん。
「空を飛ぶこと自体がメルヘンだからな」
俺はそう言いながら箒に股がる。
「あ、やっぱり箒に股がるんだ」
「まあな。行くぞー! そーれ、マジカルフライ!」
俺は魔法名を言い、マジカルフライを発動すると、俺の体が1メートルほど浮き上がった。
「おー!」
「飛んでるなー!」
俺が浮き上がると、シズルと伊藤先生は拍手をしながら歓声をあげる。
「ふふん! すごいだろう?」
「すごい、すごい! でも、箒に股がってて、痛くないの?」
シズルが夢のないことを言ってきた。
「痛くないぞ。ってか、別に箒が飛んでいるわけじゃないし…………ほら?」
俺は空に浮いたまま、箒を股がるのを止め、その場で直立する。
それでも俺は箒を持ったまま、その場で浮き続けた。
「へー。ルミナ君自体が浮いているからかー」
「まあ、そうだな。ちなみに、お前を持てば、お前も飛べるぞ」
「そうなの!? やって、やって!」
俺は一度地面に降りると、箒を地面に置き、シズルをお姫様抱っこする。
「この格好なの?」
「別におんぶでも何でもいいぞ」
よく考えれば、おんぶのほうが良かったな。
ほら、俺の背中に……ね?
「んー……これでいいや。飛んで、飛んで!」
今の間は、もしかして、俺の下心を見破られたかな?
マズい、マズい。
俺は何でもないですよーと、不純な心は持っていない表情を作った。
「じゃあ、飛ぶぞー! マジカルフライ!」
「おー!」
俺はシズルをお姫様抱っこしたまま、1メートルほど浮き上がった。
「おー! 飛んでる!」
「すごいだろう?」
「うん! ちなみに、どこまで飛べるの?」
「別に高度に指定はないからどこまでも飛べるぞ。まあ、怖いからあまり高くは飛ぶ気はないけど」
俺はそう言って、ゆっくりと上昇し始める。
そして、10メートルくらいで止まった。
「うわー! 高いねー!」
シズルは大興奮である。
「すげーなー!」
俺も大興奮である。
別に、煙でも馬鹿でもないぞ!
俺は高度を保ちつつ、周りを移動したりしたあと、地面にゆっくりと降りた。
そして、お姫様抱っこを止め、シズルを降ろした。
「すごい魔法だね!」
「だろ? 苦労したかいがあったわ!」
合宿遠征から帰ってきてから、10日は肉を食えなかったくらいに苦労した。
「これは何人でも飛べるの?」
「俺が持てればな。脇に2人抱え、1人を背中にしがみつかせれば、3人は飛べる」
このマジカルフライの最大の利点は精神力をほとんど使わないことだ。
重量が増えても、俺に肉体的な負担があるだけで、精神力に影響はない。
俺は力があるし、たとえ、冷蔵庫だろうと、持って飛ぶことが出来る。
いや、冷蔵庫なんか持たねーけどな。
「便利な魔法だねー。エクスプローラを引退しても、宅配便ができるじゃん。魔女の宅配便」
「まあ、それを意識した格好だからな。やらねーけど」
箒に黒のローブで空を飛べば、あんなイメージになるだろう。
でも、俺は金髪だし、三角帽子を被っている。
そして、黒猫ではなく、白蛇だ。
「ルミナ君、テレビに出たら? すぐに有名になれるよ」
「俺は協会からマスコミの取材を受けるなと、厳命されてるから無理だ。まあ、俺だって、テレビに出るつもりもねーし」
晒し者になるつもりはない。
どうせ、ネットで笑われる。
ってか、俺はすでに有名だ。
悪名ですけどね。
「神条、その魔法を外で使うのは当分やめろ。ちょっと航空法とかを調べてみる」
「航空法? 俺は飛行機じゃねーぞ」
「いや、別に飛行機じゃなくても、色々と規制があるんだ。人間がどうかはわからないから問い合わせてみる」
まあ、空を飛ぶ人間なんていねーか。
いや、パラグライダーとかはどうなんだ?
うーん、わかんね!
伊藤先生に任せよう!
「めんどくせーんだな。まあ、どのみち、外ではあまり使わねーよ」
目立ちたくねーし。
「そうしろ。まあ、さっきの高度くらいなら問題ないと思うぞ。ちょっと高いが、ジャンプしたようなものだ」
なるほど。
ものは考えようなわけだ。
エクスプローラの中には、あのくらいはジャンプで飛べるヤツもいるだろう…………多分!
「そうしまーす」
「よしよし、じゃあ、次は私な!」
ん?
「え? 先生も飛ぶんですか?」
「おい、雨宮は良くて、私はダメなのか? 恩師である担任に冷たいヤツだなー。あー、そういえば、来月の文化祭の時には三者面談があるなー」
こいつ!
教師のくせに俺を脅してやがる!
ってか、自分も空に飛びたいからついてきたな。
「俺は別に悪いことしてないから、親に何を言われても問題ねーよ…………いや、ちょっと待って」
はたして、本当に大丈夫か?
何かマズいことをしてないだろうか?
最近は誰かを殴った記憶はないし、問題も起こしていないと思う。
しかし、俺が意識していないところで、ヤバいことをしている可能性もなきにしもあらずだ。
悲しいが、自分で自分を信用できない。
「先生も飛びます?」
「よし、飛ぶ!」
「ダメだこりゃ……」
シズルがやれやれと首を振った。
いや、本当に何もしていないよ?
念のためだよ。
この後、伊藤先生を抱えて空に飛ぶと、どうやら俺達の様子が職員室から見えていたらしく、他の先生達も校庭にやってきた。
そして、断ることもできないので、順々に先生達を空の旅に連れて行くこととなった。
内申点、上がんねーかなー?
攻略のヒント
みんな~、やっほー!
あきちゃんだよ~。
今日も予告通り、有名なエクスプローラを紹介してくよー。
第2回目はこの人!
村松サエコさんでーす。
みんなも知ってるよね。
そう、クラン≪ヴァルキリーズ≫のリーダーである≪戦姫≫だよー。
サエコちゃんはあきちゃんと同じ第二世代なんだよ。
っていうか、同級生でーす。
あきちゃん、サエコちゃん、≪ヴァルキリーズ≫の副リーダーのショウコさん、あと、クーフーリン君は同じ大学の同級生なんだよねー。
知ってた?
今回はショウコさんとクーフーリン君は置いといて、サエコちゃんの話をするねー。
サエコちゃんはスピード重視のファイターで、剣を使うのがすっごい上手なんなんだよ。
でも、Bランク!
Aランクになるには何かが足りない!
あきちゃんはサエコちゃんに怒られそうだから何かは言わないよー。
だって、すぐ怒るんだもん(←言っちゃってるー!)
サエコちゃんは女子エクスプローラの立場を作った立役者なんだよ。
まあ、皆も知ってるよね。
≪ヴァルキリーズ≫を立ち上げたんだ。
≪ヴァルキリーズ≫は最初は馬鹿にされてたけど、徐々に頭角を現して、今じゃトップクラスのクランなんだからすごいよね。
ちなみに、あきちゃんも誘われたことがあるんだよ~。
ってか、今も誘われてる。
でも、あきちゃんは気ままにやりたいから断ってるんだ!
じゃあ、この辺で、裏話を1つ。
サエコちゃんが≪ヴァルキリーズ≫を作った本当の理由は、当時、仲間だったけど、よくケンカしてた≪陥陣営≫ことルミナ君を追い出したかったからなんだよー。
親友のショウコさんが小学生だったルミナ君を可愛がってたからねー。
ププ、嫉妬です!
小学生に対抗するばか…… じゃなくて、友達思いな人なんだ!
(追記:上記は個人の感想や思い込みなので、事実と異なります。……グスッ……ヒック)
次の更新では、ショウコさんを紹介しまーす。
みんなちゃーんと、毎日チェックしてね?
『≪モンコン≫ことBランクエクスプローラ春田秋子のブログ』より