第073話 昼を満喫しよう!
東京(千葉)を出発し、6時間かけて、名古屋支部近くの宿泊施設に到着した。
道中のバス内は、皆、盛り上がっており、楽しそうだった。
しかし、前にいた俺達はあまり楽しくはなかった。
なぜなら、土井の車酔いがひどかったからである。
俺や山崎、そして、伊藤先生は土井の介抱で旅を楽しむどころではなかったのだ。
「ああ、疲れたー」
俺はバスから降りると、腕を空に向かって伸ばす。
「あいつは?」
バスから降りてきた山崎が俺達を疲れさせた元凶を探している。
「トイレに駆け込んでいった」
「あいつ、大丈夫かよ」
山崎は心配を通り越して、呆れている。
「さあ? それよりも、帰りもあれなのか?」
「帰りは早めに来て、後ろの席を確保したほうがよさそうだな」
「だなー」
俺と山崎は帰りは遅刻するまいと決心した。
「お前らは講堂に行ってこい。土井は私が見てくる」
俺達は土井のことを伊藤先生に任せ、集合場所である宿泊施設にある講堂へと向かうことにした。
講堂に到着してからも地獄だった。
エアコンがない講堂はクソ暑い。
それなのに教頭の話が長かったのだ。
やれ、自覚がどうとか、節度を守れだとか、ただただ長い。
もはや、誰も聞いていないだろう。
そんな長い話もようやく終わり、待ちに待った自由行動の時間となった。
俺とシズルは講堂の前で、一緒に海に行こうと誘っていたアヤとマヤを待っている。
ちなみに、土井とハヤト君も約束していたのだが、土井は無理だろう。
「教頭のヤツ、マジうぜえ!」
「長かったねー。誰か熱中症で倒れるんじゃないかと思った」
倒れてくれたら、もっと早く終わっていたのに!
「お姉さま、Rainさん、お待たせー」
「ごめんねー」
俺達が愚痴っていると、アヤとマヤがやってきた。
「よう!」
「あれ? ハヤト君は?」
そういえば、いない。
「ハヤトはタケトの様子を見てから来るって」
「タケトは昔から乗り物に弱いから」
あいつも優しいねー。
まあ、バスで6時間も付き合った俺のほうが優しいがな!
「さっさと海に行こうぜ。暑いわ」
「だね!」
「レッツゴー!」
俺達はテンションアゲアゲで海へと向かった。
海に到着すると、すでに多くの学生が海にいた。
この浜辺はほとんど宿泊施設の客しか使わないらしい。
そのため、宿泊施設は俺達の学校の貸し切り状態である。
「お~」
「海だー!」
「きれい……」
女子共は海を見て感嘆の声をあげた。
「お前らは着替えて来いよ。俺は場所を確保してくる」
俺は海に感動している女子3人に声をかける。
海のすぐ近くに宿泊施設が管理している更衣室があるのだ。
「いいの? ルミナ君は?」
「俺は女子更衣室にも、男子更衣室にも入れねーよ。とう!」
俺は変身ヒーローのようなポーズをとると、いつもの早着替えで水着に着替えた。
水着姿になったので、俺の腹付近にいたシロは俺の左肩にニョロニョロと移動する。
「おー」
「お姉様、カッコイイ!」
アヤとマヤが拍手してくれる。
こいつらはこうやって俺を盛り上げてくれるから好きなのだ。
「というわけだから、行ってこい」
「ルミナ君、日焼け止めは塗ったの?」
日焼け止めですって?
バカなヤツだ。
俺にそんなものは必要ない!
「プリティーガードで防げるから大丈夫」
そう。
俺のプリティーガードは日焼け止めの効果もあるのだ!
すごいだろう?
「へー、すごいね! 私にもかけてよ」
「私も」
「よろしく」
まあ、日焼け止めなんか塗ってたら時間かかるし、そんなに精神力もかからないから、いいか。
「プリティーガード!」
俺は3人にプリティーガードをかけてやる。
「よし! お前らは着替えてこい」
俺はそう言って、一足先に海へと向かった。
シズルも早着替えがあるのだが、シズルはダンジョン以外ではあまり使わない。
まあ、女子には女子の付き合いや考えがあるんだろうよ。
俺は男だから知らん!
海辺の砂浜に着くと、潮の香りと砂浜の暑さで海に来たなーと実感する。
「おー、海だー!」
初めて海を見たシロが感嘆の声をあげた。
こいつは海が見たかったらしく、出発前から珍しくテンションが高かった。
「どうだ?」
「外に出てきて良かったぜ!」
「良かったな」
「ああ!」
俺は適当な場所を探すと、シートを敷き、パラソルを立てて、女子3人を待つ。
「いやー、今年の夏はいいなー…………チッ!」
俺は海を見ながら幸せな気分に浸っていると、場違いなヤツらが視界に入ってきた。
「やあ、ルミナ君」
場違いなヤツらの先頭にいる≪Mr.ジャスティス≫が声をかけてくる。
「何しに来た? ここは学生のみが許された楽園だぞ。おっさん共は消えな。通報すんぞ!」
やってきたのは≪Mr.ジャスティス≫、≪教授≫、クーフーリン、そして、≪白百合の王子様≫である。
「おー! 本当にクソガキみたいだね。久しぶりだなー」
≪白百合の王子様≫ことユリコが俺に近づき、肩を組んできた。
俺の肩にいたシロは頭の上に避難する。
「離れろ。そして、ユリコは死ね!」
こいつにはさっさと退散してもらわないと困る。
もうすぐ、シズルが来るのだ。
「とんだ挨拶だな。というか、お前、私の電話を無視するなよ」
「いや、どうせ、くだらない妄言だろ。飽きたわ」
うぜぇし、長いし、キモい。
「妄言も言い続ければ真実になるんだぞ。いやー、しかし、あのクソ生意気だったガキがこんなになっちゃって!」
ユリコはさっきから手つきが怪しい。
「どうでもいいが、ケツを触んな! 胸を触んな!」
「ケチケチするなって。で? Rainは?」
「死ね!」
俺はその言葉を聞いて、ユリコの顔面に裏拳をお見舞いしてやった。
しかし、ユリコは華麗に俺の裏拳を回避し、距離を取った。
「殺すぞ!!」
「おー、こわっ! 相変わらず、気の短いヤツだなー」
「シズルに手を出したら殺すからな!!」
「そうか、お前もようやく女の花園の美しさに気づいたのか」
このバカは何を言ってるんだ?
「いや、元から女が好きだから。俺、男だから!」
「女同士は素晴らしいぞ!」
ダメだ、こいつ……
話が通じねー。
「で? 何しに来たんだよ?」
俺はユリコでは話にならないと思い、まともそうな≪Mr.ジャスティス≫に聞くことにした。
「いや、挨拶だよ。僕達はこれから4人でニュウドウ迷宮に行くんだけど、その前に声をかけておこうと思って。江崎君は?」
「あいつはパーティーメンバーが車酔いでダウンしたから様子を見に行ってる」
「土井か?」
同じくハヤト君のパーティーメンバーであるクーフーリンが反応した。
「ああ。弱すぎだろ、あいつ」
「大丈夫かね? ≪Mr.ジャスティス≫、俺はちょっと見てくる。ついでにハヤトに伝えてくるわ」
「頼むよ」
クーフーリンは土井の所に行くらしい。
クズで有名なこいつにもパーティーメンバーを気遣う心があるんだなー。
「どれ、私も行くか」
≪教授≫もついて行くらしい。
行け、行け!
俺の視界から消えろ!
そして、二度と現れるな!!
≪勇者パーティー≫の2人は宿泊施設がある方向へと歩いて行った。
「何? 予定でも変わったのか?」
「いや、4日目の朝に迎えに行くから用意しておいてねってだけだよ」
朝からかよ……
まあ、報酬が良いから我慢してやるけど。
「了解した。じゃあ、ユリコを連れて、早く行け!」
「冷たいなー。私達は親友じゃないか」
「誰が親友だ!!」
そういえば、この前からユリコと俺が親友であると、噂が流れていたな。
事実無根なのに。
……………………。
こいつ、さっき、『妄言も言い続ければ真実になるんだぞ』って言ってたな。
「お前か!?」
俺はユリコに迫った。
「どうした?」
「お前、俺とお前が親友だって、噂を流したな!!」
「まあまあ、気にするなって」
ユリコはそう言って、再び、肩を組んできた。
「いや、別に親友じゃねーだろ」
「これからは親友だ!」
ユリコはそう言って、俺の身体を撫でてくる。
触り方が非常にいやらしい。
「なあ? お前、もしかして、俺を狙ってる?」
「狙うって何だ? ただのスキンシップじゃないか」
あ、ヤバい。
こいつ、マジだ!
俺、男だよ!?
「お前、見た目が女なら誰でも良いの?」
「うん」
わかっていたことだが、こいつは頭がおかしい。
「サエコに絞れよ。俺は男なんだぞ……って、手を入れるな!!」
下の水着にこいつの手が侵入してきたところで、さすがに払って止めた。
「ケチだなー。お前に楽しいことを教えてやろうと思ったのに」
ユリコは俺から距離を取り、アホなことを言っている。
「俺もお前に楽しいことを教えてやろう!」
俺はそう言って、構えた。
「おーい、2人共、やめなよ」
俺とユリコが対峙すると、≪Mr.ジャスティス≫が止めてきた。
「これ以上はマジで教師を呼ぶぞ。そして、お前らをランクダウンさせてやる」
「もう行くからやめてくれ。ほら、ユリコさん、行こう」
「仕方がないなー。これ以上問題を起こすと、私は≪レッド≫になってしまうからな」
こいつ、≪ブラック≫かよ。
何をしたらそうなるんだ?
いや、大体わかるけど。
「じゃあ、ルミナ君、4日目の朝に迎えに行くから」
「じゃあな。寂しくなったら電話して来いよ。すぐに行くから」
「消えろ!!」
俺は中指を立てて、追い払うと、2人はようやく姿が見えなくなった。
「すげーヤツだな」
シロが俺の頭の上で呆れながら言った。
「なあ、あれと≪教授≫が俺と同類って、ありえないよな?」
「まあ、あの2人とはベクトルが違うな」
どう考えても、俺はあの2人と比べると、まともだ。
ちょっと素行が悪いだけである。
「終わった?」
俺とシロが話していると、シズルとロリ姉妹がやってきた。
当然、水着姿である。
水着を買いに行った時に一度見ているが、この海のシチュエーションだとより映えて見える。
シズルの肌がまぶしいぜ!
「お前ら、いたのか?」
「実は結構、前からね。あれが≪白百合の王子様≫?」
「そうだ。絶対に近づくなよ!」
「うん。そうする」
シズルは素直に頷いた。
俺とのやり取りを見ていたのなら、ユリコの恐ろしさがよくわかっただろう。
「すごい人だった」
「もしかしたら、あれが私達の仲間になる可能性もあったと思うとゾッとする」
アヤとマヤも引いている。
「まさか、あいつが俺を狙うとは思わなかったわ」
今、思えば、サエコも≪Mr.ジャスティス≫も警告していたな。
あれは俺が殺されるのではなく、襲われるという意味だったみたいだ。
「手を入れられてたね」
「がっつり触られたわ。死ねよ」
これまでは外から見ていただけだったが、当事者になると、ヤツの恐ろしさがよくわかる。
「今度の依頼はあいつに加えて、≪教授≫もいるんだよなー。最悪だ」
「頑張って、としか言えない」
嫌だわー。
「相棒、そんなことより、海を楽しもうぜ」
お前は気楽だな。
でも、確かに、今はこの夏を楽しむことのほうが重要だ。
何しろ、目の前には、肌色面積の大きいシズルがいる。
あと、一応、チビ2人も。
「よし! あのアホの事は忘れて遊ぼう!」
「おー!」
「イエーイ!」
「海だー!」
俺はその後、シズル、ロリ姉妹と海を満喫しつつ、戯れた。
多分、人生で一番楽しい時間ではないかと思う。
ちなみに、遅れてきたハヤト君はハーレム状態だったので、むかついた俺がジャイアントスイングをし、海に放り投げてやった。
10メートルは飛んだな。
しかし、ハヤト君は意外にも怒らず、むしろ楽しそうだった。
ドM?
まったく、業が深い男だね。
攻略のヒント
『魔女っ娘クラブ』緊急連絡!
合宿遠征では、お姉様に迷惑がかかるので、なるべく写真や握手をお願いしないように!
特に水着姿の写真はNG!!
皆で節度を守って、お姉様を応援しよう!
『とある怪文書 魔女っ娘クラブについて』より