第072話 名古屋県じゃないよ、愛知県だよ!
無事(?)に水着を買い、合宿遠征の準備を整えたあの日から1週間が経ち、ついに合宿遠征に行く日になった。
俺はいつもより早起きをし、ダンジョン学園指定の制服に身を包んでいる。
合宿遠征は基本的に制服で行動しないといけないからだ。
これは私服だと、色々と問題が起きるかららしいが、何で問題が起きるかは知らない。
「うーん、本当に似合わねーな」
鏡の前には、金髪美人さんが制服を着ている姿が映っている。
入学式の時には、制服が届かなかったので着ていないが、制服が届いた時に、一度着たことがある。
その時にも思ったのだが、本当に似合わない。
「きっちり着ているから似合わないんだろ。少し、着崩せ」
「そうするか」
俺は上のボタンを外し、腕をまくる。
そして、スカートを折り込み、少し、短くすると、もう一度、鏡に映る自分を見た。
「ギャルだな」
「ああ、ギャルだ」
金髪がよりギャルっぽさを引き出している。
でも、さっきよりは似合っている。
「もうそれでいいだろ」
「そうするか……しかし、ちーちゃんっぽいな」
断言するが、ちーちゃんは絶対にギャルっぽい格好で来る。
「仲間ができて、良いじゃねーか。ほれ行くぞ」
時計を見ると、もう出る時間だ。
「行くか」
俺はシロを服の中に入れ、家を出た。
家を出て、学校に向かっていると、制服姿の学生が大勢いた。
普段は私服の学生も今日は制服なので、かなり目立つ。
中には、髪を赤や青に染めた学生もおり、中々にひどい光景だ。
おかげで、入学当初は目立っていた俺の金髪もあまり目立たなくなってきている。
しかし、金髪に染める学生はいない。
シズルいわく、俺のせいらしい。
理由はよくわからないが、良い理由ではないと思う。
俺は目が痛い光景を眺めながら、学校へと向かった。
学校に着くと、学校前の道路にたくさんのバスが止まっており、そのバス達に学生が群がっている。
「すげー光景」
1クラスにバスが1台だから、30台のバスがいることになる。
俺は自分のクラスのバスを探しながら歩いていると、中等部のバスの前を通った。
「おはようございます、お姉さま。写真、撮ってもいいですか?」
「……ああ」
先ほどから、こうして、中等部のガキ共によく止められ、握手してだの、写真を撮りたいだの言われる。
後輩だし、慕ってくれているのは、わかるから邪険にしづらい。
俺はアイドルか?
しかし、遅刻しそうだ。
「ありがとうございました。制服姿もとてもお似合いです!!」
「どうもー」
うーん、嬉しいような、嬉しくないような微妙な気分だ。
慕ってくれるのはすごく嬉しい。
ましてや、ガキとはいえ女子だ。
俺の人生でこんなにも女子にモテたことはなかった。
しかし、恋愛感情は皆無だし、少しバカにされているような気さえする。
「あのー、神条先輩、写真いいですか?」
また来た。
しかも、今度は男子だ。
正直に言うと、男子は嫌だ。
しかし、散々、女子に写真を撮らせておいて、男子を断るのはマズい。
一気に悪い噂へと繋がる。
俺はそういうのに馴れているから敏感なのだ。
「いいぞ。でも、遅刻しそうだから早くな」
「はい! ありがとうございます!」
それからもちょくちょくと後輩に捕まり、見事に遅刻してしまった。
「チョリース」
俺は自分のクラスのバスに着くと、暑い中、バスの前で立っている担任の伊藤先生に挨拶をした。
「遅い。あと、何だ、その恰好?」
「制服でーす。マジ暑いしぃー」
「…………遅刻するなって、言っただろ」
ツッコミ、プリーズ!
「いや、早めに来てたんだけどね。後輩達に捕まちゃってー。ほら、あーしって、マジ人気者だしぃー」
「そうか…………早くバスに乗れ。お前が最後だ」
ツッコミ、プリーズ!!
「はーい。先生もマジ乙でーす」
「…………ハァ」
お疲れですか?
担任に呆れられた俺はバスの中に乗り込んだ。
バスにはクラスメイト達がすでに乗り込んでおり、皆、座って、騒いでいる。
「チョリース、あーしの席はどこだし?」
「ここだ」
横から声がしたので見てみると、土井がいた。
そして、土井の隣は空いている。
「……また、お前の隣か。しかも、一番前じゃねーか」
「もうここしか空いてないんだ。来るのが遅かったな」
マジ卍ー。
「お前も遅れたのか?」
「いや、酔いやすくてな」
「誰か代わってー! おい、篠山、代われ!」
篠山はクラスメイトの女子だ。
ちょっとキツい性格をしている。
そして、後ろの方でシズルの隣に座っている。
「嫌よ。あんたが遅れたのが悪いんじゃない」
篠山は当然のごとく拒否してきた。
「土井の介抱をしてやろうって、優しさはねーのか?」
そして、俺にシズルを譲れ!
優しい女子はモテるぞ!
「ない。あんたがやりなさいよ」
「めんどくせーし、嫌だよ」
誰がするか!!
「本当に自己中なヤツ」
「ルミナ君、代わろうか?」
優しいシズルが不穏な空気になってきた俺と篠山の間に入る。
お前が俺と代わっても意味ねーよ!
バカか!?
「チッ! もういい。土井、絶対に吐くなよ!」
「努力する」
こいつ、大丈夫か?
すでに顔が青いぞ。
「愛しの雨宮の隣に座れなくて残念だったな」
通路を挟んで隣にいる山崎がからかってきた。
マジでロクな席じゃねーな。
「どうでもいいが、お前、制服が似合わねーな」
「うっせー。お前は何でギャルなんだよ? ナンパ待ちか?」
ちなみに、俺とシズルが町を歩いていると、よくナンパにあう。
そいつらがどうなったかは、あえて言うまい。
あいつらはしつこいから仕方がないのだ!
「ファッションだよ。こうしないと髪のせいで似合わないんだ」
「ふーん、スカートが短すぎね?」
そう言って、山崎は俺の足を見てくる。
「お前は当分、彼女ができそうにないなー」
「なんでだよ!?」
いや、わかるだろ。
俺とお前の会話を聞いている後ろの女子は、お前に引いていると思うぞ。
「言っておくが、お前に見せるために短いんじゃねーからな」
「ファッションか?」
「そうそう。お前はそんな短いスカートで見せびらかしておいて、見るなは、理不尽だろと思っている」
「い、いや、そんなことはないぞ」
動揺しすぎだ、バカ山崎。
「あと、スカートのことを聞いて、俺の視線が下に向いたスキに胸をガン見する作戦をしている」
「ひ、被害妄想だ!」
ギルティー!
「お前も女になればわかる。こっちは完全にわかるぞ」
「マジで?」
「マジマジ。俺は特にわかる。なぜなら、同じことを考えていたからな」
ってか、前にシズルによくしていた。
多分、あいつは気づいていただろうな。
女になって気づく自分のダメさ。
「そ、そうか」
「認めろ。お前は俺をエロい目で見ていたな?」
「い、いや、まあ……」
「山崎、サイテー」
「死ねば?」
後ろの女子が山崎を非難し始めた。
ざまあ(笑)
「ほら、彼女ができそうにない」
「お前、ハメたな!」
バーカ!
俺様の足を無料でみた罰だ!
「おーい、静かにしろー。全員揃ったから出発するぞー」
山崎が女子に責められていると、外で待機していた伊藤先生が乗り込んできた。
「神条、すまんが、そっちの袋を取ってくれ」
土井が青い顔で頼んできた。
「お前、大丈夫か? まだ出発すらしてねーぞ」
「ああ、大丈夫」
そうは見えないが。
「薬くらい飲んでこいよ。ほら、これを飲め、スッキリするから」
俺はアイテムボックスからミントティーが入った水筒を取り出し、土井に渡す。
「ああ、すまん。これは?」
「ミントティーだ。車酔いに効くぞ」
「女子力たけー!」
山崎、うるさい!!
土井は俺が渡したミントティーを飲む。
「それでもダメならこっちを飲め」
俺はアイテムボックスから違う水筒を出して、土井に渡す。
「これは?」
「ウォッカだ。お姉ちゃんと夜に飲もうと思っていたが、仕方がない。こいつを飲めば、車酔いなど吹き飛ぶ」
「いや、これはいい」
土井は俺のウォッカを突き返してきた。
「じゃあ、何がいい? あとは酎ハイとビールしかないぞ」
「いや、それもいい。このミントティーだけで十分だ」
大丈夫か、こいつ?
優しい俺が土井を心配していると、バスが出発した。
そして、俺と土井の会話を聞いていた伊藤先生に酒を没収されてしまった。
ちくしょー!
ところがどっこい、まだ持ってるんだなー!
攻略のヒント
ダンジョン学園東京本部 合宿遠征
1日目
7:00 集合
13:00 到着
13:30 自由行動
17:00 チェックイン
19:00 夕食
21:00 就寝
『ダンジョン学園東京本部合宿遠征 旅のしおり』より