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第066話 合宿先は天国と地獄


 ダンジョンに泊まる練習をすることに決めた翌日、俺は学校に行こうと思い、シロに声をかけた。


「お前、家にいるか?」


 シロは昨日からクーラーの下からまったく動かない。


「俺っちも行く~」


 シロはそう言うが、まったく動く気配がなく、とても行けそうには見えない。

 

「行くのはいいけど、俺の服の中は暑いと思うぞ」

「お前が汗臭くなっても我慢する」


 とんでもないことを言い出した。

 

「お前、殺すぞ。俺は汗なんか、かかねーよ」

「昔のアイドルみたいなことを言うなよ」


 何でお前が昔のアイドルを知ってるんだよ。


「めんどくせーな。もう家に居ろよ」

「嫌だ。俺っちも行く。そうだ、あの魔女の服を着ろよ。あれなら涼しい」


 俺がダンジョン祭でコスプレしてた魔女の服は見た目は黒で暑苦しいが、温度調整の魔法がかかっているため、中は涼しいのだ。


「嫌だよ。ああいうのは、たまにやるからウケるんだ」


 普段からやってたら、そういう人になっちゃうだろ。

 

「お前、こだわりがあるんだな」

「当たり前だろ。もう仕方がねーな。帰りに温度調整がかかったアイテムを買ってやるから、今日は弁当箱を入れる保冷バッグに入ってろ」


 保冷剤を入れてるから涼しいだろ。


「そうするー」


 俺が手に持っていた保冷バッグを開けると、シロがニョロニョロと保冷バッグに入っていった。


 こうして見るとホントに蛇だな。


 俺は保冷バッグを閉め、遅刻しそうなので、急いで学校へと向かった。


 

 なんとか遅刻せずに学校に着いた俺は、自分のクラスに向かう。

 

 家を出て、これまでの間に幾度となく、野郎共の下卑た視線を足や胸に感じる。


 なるほど。

 よく男のエロい目線は、女は気づいていると聞いたことがあるが、確かに、よくわかるな。

 

 俺は薄着なうえ、足むき出しな格好をしている。

 学校に来る途中でも、学校に着いてからも、おっさんや学生など、大抵の男が俺を見てきた。


 うーん、もしかして、普段、シズルのことをエロい目で見ていることもバレているかもしれん。

 気をつけよう。


 俺は人の振り見て我が振り直せと思い、気をつけることにした。


 教室に着いたため、俺は自分の席に行く。

 

 この間、2回目の席替えがあった。

 俺は一番前になったうえに、また、シズルとは離れている。

 どうやら俺はハヤト君みたいな主人公にはなれないようだ。


「おはよう」


 俺の隣にいる土井が挨拶をしてきた。

 こいつは以前も俺の隣だった。

 

 何故、こいつなんだろう?

 普通、シズルが隣になるんじゃないのか?


「ああ、今日も暑いな」

「本当にな」


 俺は適当に土井と雑談をしていると、担任の伊藤先生がやってきた。

 

 日直が挨拶をし、先生が挨拶を返すと、夏休みの合宿遠征の話になった。


「あー、夏休みの合宿遠征の場所だが、名古屋支部が管理するニュウドウ迷宮に決まった。資料を配ろう」

「は?」


 俺は伊藤先生の言葉に思わず、声が出てしまった。


 名古屋だと!?

 教師共は何を考えている?


「先生、名古屋ですか?」


 俺は聞き間違えかと思い、もう1回、聞くことにした。


「資料を見ろ。名古屋だ。お前の言いたいことはわかるがな」


 バカじゃねーの!?

 名古屋には≪白百合の王子様≫がいるんだぞ!?

 俺は殺され、シズルを奪われてしまうじゃねーか!


 俺は配られた資料に目を通す。

 どうやらマジで名古屋のようだ。

 泊まる所は海に面した旅館らしく、なかなか良い所だ。

 それに不満はないし、むしろ、楽しみなくらいである。

 しかし、名古屋はマズいだろ。


「あと、部屋割りは裏面に書いてあるから確認しておけよー。じゃあ、ホームルームはこれで終わる」


 伊藤先生はそう言うと、そそくさと教室から出ていった。


 俺は裏面を確認すると、出席番号順で部屋を割り振られていた。

 もちろん俺は昨日、ちーちゃんから聞いた通り、皆とは違う部屋である。

 

 端の方に注意書きがしてあった。

 ※303号室 神条ルミナ、神条ミサキ、斎藤チサト


 まあ、わかっていたことだから、これはいい。

 俺はそんなことよりも、すぐにシズルの席に向かった。


「シズル、お前は合宿遠征の日に風邪引け」

「いきなり何? 嫌よ」


 シズルが拒否してきた。

 

 そりゃそうだ。

 あんなに楽しみにしていたのだから。


「シズル、名古屋はマズい。あそこにはド変態がいるんだ」

『お前もド変態じゃねーか』


 保冷バッグにいるシロがツッコんできた。


 お前はちょっと黙ってろ!

 

「ド変態って?」

「お前も聞いたことはあるだろう。≪白百合の王子様≫だ。あいつは東京本部を追い出され、名古屋に島流しにあったんだ」


 ≪悲しきヴァルキリーズ事件≫である。


「確かに、聞いたことあるけど、あれって本当なの? ってか、ルミナ君のお友達じゃないの? 仲良しって聞いたことがあるけど」


 クーフーリンも言っていたが、何故、あいつと仲良しという噂が広まっているのだろう?

 別に、仲が悪いわけではないが、そんなに仲良くもないぞ。


「まあ、この際、俺とあいつの関係はどうでもいい。あいつは絶対にお前を狙っている。間違いない」

「いや、そんなことを言われても……」


 確かに、そんなことを言われてもだろうな。


「あいつは頭がおかしいヤバいヤツなんだよ」

「すごいこと言ってるね……でも、私は行くよ。大丈夫、先生だっているのよ」


 多分、この学園の先生では、あいつを止めることはできないだろう。

 シズルが俺の言うことを聞くとは思えないし、こうなったら、俺がユリコに殺される前にやってしまおう。


「お前は俺が絶対に守ってやるからな」


 俺はシズルの肩に手を置き、頷きながら言った。


「どんだけなのよ……」


 どんだけなんだよ!


 その後、授業が始まってしまったため、俺は席に戻った。


 

 午前中の授業が終わり、昼休憩になったため、俺は昼飯の弁当をかっ食らい、職員室にいる伊藤先生の所へ向かうことにした。

 ちなみに、弁当を入れている保冷バッグを開けたら、ちょっとびっくりした。

 シロがいることを完全に忘れていたのだ。

 

 俺は職員室に着き、伊藤先生を呼び出してもらうと、職員室の隣にある応接室で話すことになった。


「なんだ、神条? まあ、用事はわかるが」


 先生は弁当を食べながら聞いてくる。


「おい! 合宿遠征の行き先が名古屋って、何を考えている」

「当初の予定地は博多支部だったんだ。しかし、あんなことがあっては無理だ」


 博多支部は暴行犯の主犯である立花がいた協会だ。

 今も被害者や立花の仲間がいないか調査中であり、ダンジョン学園博多支部の学生は、近くの協会に通っているらしい。

 とても、ウチの学生が行けるような所ではない。

 

「それで、何で名古屋なんだよ。あそこはユリコがいるんだぞ!」


 ある意味、立花よりも恐ろしい。

 

「≪白百合の王子様≫か……私達だって、それは理解しているが、ここの学生全員が泊まれる施設は名古屋にしかなかったんだ」


 中等部、高等部の学生が全員泊まれる施設は限られる。

 ましてや、急に言われても無理だろう。


「もういっそ、中止にしろよ。お前らはユリコのヤバさを知らないからそう言うんだ」

「そんなか? 確かに、≪白百合の王子様≫はよく問題行動を起こすが、それはお前も同じだろ。≪陥陣営≫、≪白百合の王子様≫、≪教授≫は日本の三大恥エクスプローラだぞ」


 何だ、それ?


「俺はその2人と同格なのか? マジでショックだわ……」


 クレイジーサイコレズと世界の嫌われ者じゃねーか。

 俺はちょっと素行が悪いだけだろ!


「知らなかったのか。それはすまんな。まあ、気にするな。先生はちゃんとお前の事をわかってるぞ」


 伊藤先生はうんうんと頷き、理解ある教師っぽいことを言っている。

 

 もう、遅せーよ。


「あいつは俺のシズルを狙っているんだよ!」

「なんかフォローが出来ないセリフが聞こえたな。やっぱりお前はダメだ」


 この人、前から思っていたが、手のひらを返すのが早えーわ。


「なあ、中止にならない?」

「無理だな。今さら中止になんかできるわけないだろ」


 まあ、そうだろうなー。


「もう、ユリコを殺すしかないか……」

「不穏なことを言うな。名古屋支部の支部長にちゃんと話はしてあるし、大丈夫だよ」


 支部長くらいで止められるのなら、あいつは追放になってねーよ。


「ハァ……憂鬱だなー」

「心配性だな。お前が≪白百合の王子様≫に話せばいいだろ。親友なんだろ?」

「いや、最近よく言われるが、あいつと親友になったことはない。誰から聞いたんだよ」


 どうなってんだ?


「さあ? どっかで聞いたな。誰から聞いたんだっけ?」

「もういいよ。別に、あいつとは親友じゃねーよ」


 あいつと親友と思われるのは嫌だが、必死に否定すると、逆に怪しくなってしまう。

 本当に迷惑なヤツだ。


「そうか。まあ、安心しろって。あ、そうそう、お前の部屋割りは見たか?」

「ん? ああ、お姉ちゃんとちーちゃんと同室だろ。昨日、ちーちゃんに聞いた」

「斎藤姉から聞いてたか。お前がわがままを言うからそうなったんだ。間違いを犯すなよ」


 伊藤先生は箸を俺に向けて注意してきた。


 行儀が悪いぞ!


「女同士だぞ? 間違えなんか起きるか。それこそユリコと一緒にすんな!」

「まあ、そうかもしれんが、一応な。斎藤姉はもちろんだが、神条姉にも手を出すなよ。出したら即退学だからな」


 こいつは何を言っているんだ?


「ちーちゃんはともかく、何で、お姉ちゃんに手を出すんだよ? 姉だぞ」

「いや、お前の姉に対する執着心が怖い」


 バカじゃねーの?


「どこの世界に姉に手を出すヤツがいるんだよ。エロ漫画の見すぎだ」

「お前がそのエロ漫画みたいな存在だろ。自分の中学の時のアダ名を忘れたのか?」


 エロゲ野郎でーす。


「何で、知ってんの?」

「お前がこの学園に編入する時に調べた。まあ、ひどい経歴だったな」


 うーん、普通、そこまで調べるか?

 よっぽど、俺がここに編入するのが嫌だったみたいだ。

 俺がこの学園で先生達の評判が良いのは、そのギャップによるところが大きいのだろうな。


「コホン、まあ、嘘や悪い噂が混じっていると思うな、うん。とにかく、お姉ちゃんにもちーちゃんにも手なんか出さねーよ」


 ありえない。

 それをしたら俺の男としての人生が終わる。


「ならいい。あ、それとお前の風呂は特別に貸切にしてやったぞ」

「貸切?」

「ああ、お前を男風呂にも女風呂にも入れるわけにはいかないだろ」


 俺も嫌だわ。


「全員が入り終わったあとに入ればいいのか?」

「いや、貸切ができる露天風呂があるんだ。普段は家族連れやカップルが使うらしい。海に面していて絶景らしいぞ」


 へー。

 それはいいな。


「ありがとうごさいます」

「まあ、せっかくだし、楽しめ」

「しかし、皆に悪いなー」

「とはいえ、お前だけ入れないのはマズいだろ」


 イジメになっちゃうね。

 泣いちゃうね。

 教育委員会にチクっちゃうね。


「それもそうかー。お姉ちゃんとホノカでも誘おう」

「…………お前らの家族関係に口を出す気はないが、頼むから間違いはやめてくれよ」


 何を言ってんだ、こいつ?

 

 



攻略のヒント

アナ「い、今欲しいものは、な、何ですか?」

Mr.ジャスティス「良い剣が欲しいですね」

竜殺し「ポーションだな。まだまだ需要に対して供給が足りていない」

白百合の王子様「君」

陥陣営「ゲーム機」


『テレビ番組 日本のトップエクスプローラを丸裸』より

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