第061話 ようやく合流
フッ、俺様の名前は神条ルミナ。
この春からダンジョン学園東京本部に通っているNO.1の学生さ。
……………………。
この流れ、もういいや。
コホン、俺は今、絶好調だ。
何故ならば、エクスプローラになり、すぐに≪レッド≫と呼ばれていた俺が≪レッド≫ではなくなったからだ。
エクスプローラの免許制度には、危険度判定制度がある。
これは犯罪やルールを破ったエクスプローラの危険度を色で表したものだ。
色は白→青→緑→黄→黒→赤と変わっていく。
もちろん、赤が一番ダメなヤツだ。
俺はこの中では赤だった。
だから、心無いヤツからは≪レッド≫と呼ばれ、毎夜、涙で枕を濡らしていた。
しかし、いつか報われる日が来ると信じ、真面目にエクスプローラをやっていた俺をちゃんと評価してくれた人がいた。
それは俺が通うダンジョン学園東京本部の学園長である。
学園長は日々、真面目に学園生活を送り、協会にも貢献し続けた俺が≪レッド≫と呼ばれていることに心を痛めておられたのだ(多分!)。
そして、この前のダンジョン祭で事件が起きた。
なんと、4階層に強敵レッドオーガが現れたのだ。
レッドオーガはオーガの特異種であり、本来なら、4階層に現れるわけがないらしい。
そんなイレギュラーが学生達を襲った。
プロのエクスプローラも同伴していたのだが、超強いレッドオーガの前に、何もできずに退場してしまった。
そこに現れたのが超々強い俺。
俺は超強いレッドオーガを華麗に倒し、皆の危機を救ったのだ。
そんな俺を評価した学園長の鶴のひとこえで俺の赤は黄に変わった。
危険度判定制度はたとえ、色が変わったとしても、貢献度や生活態度により元に戻ることができる。
しかし、赤や黒は2度と戻れないはずだったのに変わったのだ。
どうも学園長はかなりの権力者であるらしく、すぐに色を黄に変えると通達がきた。
黄に戻りさえすれば、俺の貢献度や生活態度により、白に戻ることも可能だ。
ついに、不当に評価されてきた俺に光が当たるようになったのだ。
これからは仲間と共に、ダンジョンを攻略し、金と女に囲まれる夢のエクスプローラ生活を送るぞ!!
「相棒、長い独白だったが、最初の目標は男に戻ることじゃねーの? お前、完全に忘れただろ」
俺の心を読める使い魔のシロがツッコんできた。
今、俺は自室にいる。
ダンジョン祭から1ヶ月が経過し、今は7月のとある日曜日。
夏、真っ只中だ。
俺は下着姿でこれからの夢の生活を妄想していたところである。
「忘れてないぞ。俺は男に戻りたいと思っているぞ。ホントだぞ!」
「わざわざ強調して言うなよ。余計に嘘っぽく聞こえるぞ」
シロがため息を吐きながら、ベッドで茹だっている。
こいつは蛇のくせに、暑さに弱いらしい。
お前、変温動物じゃねーの?
「嘘じゃないぞ! ハァ……しかし、暑い。まだ、朝の9時だというのに暑い」
「俺っちは寒いのは大丈夫なんだが、暑さはダメなんだよ~。相棒、クーラーをつけようぜ。もうすぐ、シズル達が来るんだろ? 客を汗だくにする気か?」
シズルの汗だく姿も見たいが、このままでは熱中症になってしまいそうだ。
「じゃあ、つけるわ」
ピッ!
俺がつけると宣言した直後、機械音が聞こえ、クーラーの電源がついた。
「あれ? 勝手についたぞ」
「俺っちの念力でつけた」
はえーよ!
ってか、すげー!
俺は仕方がないなーと思い、開けていた窓を閉めた。
「お前、なんで暑さに弱いんだ? 蛇だろ?」
俺はいつの間にかクーラーの真下に移動したシロに聞く。
「俺っちは具体的に言えば、蛇じゃねーよ」
「蛇のモンスターじゃねーの?」
じゃあ、なんだよ?
その姿でオークとでも言うつもりか?
「俺っちは特異種って言ったよな?」
「ああ、この前のレッドオーガと同じで、知能が高いレアモンスターだっけ?」
実際、こいつは俺よりも頭が良い気がしないでもない。
「そうだ。俺っちはなんとホワイトドラゴンの特異種なんだ」
…………………………。
「フッ」
「おい! 信じてねーな!」
シロが憤慨するが、そう言われても……ねぇ。
「お前がドラゴン? そんなに小さいのに?」
シロは体長30センチくらいしかない小さい蛇だ。
外にいる時は俺の服の中に入っているくらいである。
「大きさは関係ねーよ!」
「お前、魔法が使えないって言ってたよな? ブレスは吐けねーのか?」
ドラゴンと言えば強烈なブレスだ。
「吐けねーこともないけど、疲れるし、バカにされるから嫌だ」
ってことは、ショボいわけね。
まあ、こいつに戦力的な期待はしてないから、どうでもいいや。
「特異種って、強いんじゃねーの? レッドオーガみたいにさ」
この前のレッドオーガは通常のオーガと比べて、恐ろしく強かった。
なのに、こいつはドラゴンのくせに、オークよりも弱いらしい。
「別に特異種が強いとは言ってねーだろ。共通しているのは知能が高いってだけだ。強いヤツもいれば、弱いヤツもいる」
「じゃあ、お前は何が優れてるんだ?」
こいつの長所って、何?
「こうして喋っているだろう? そんなモンスターは他にはいねーよ。あと、念話だって出来るし、念力も出来るぞ。何より、お前の相談に乗ってやってるだろ」
うーん、その辺のことには感謝してるが、モンスターらしくねーな。
お悩み相談室じゃねーか。
「俗世に染まったドラゴンだな」
「知能が高すぎると、困るんだよ。お前、一生あのダンジョンに住みたいと思うか?」
「思わん」
「だろう!」
知能がないモンスターは疑問に思わないだろうが、確かに、下手に考える力があると、あのダンジョンは危険なくせに退屈だ。
こいつが外に出たがっていた気持ちもわかる。
「まあ、このまま俗世に染まりきってくれ」
「そうする。あと、お前はいい加減に服を着たら? そろそろ客が来るんだろ? いつまで下着姿でいるんだよ」
最近は暑くて、薄着で過ごすことが多い。
起きた時は肌着も着ていたが、さっき、暑くて脱いだのだ。
「もう少し、クーラーが効いたら着るわ」
まだクーラーもつけたばかりで部屋は暑い。
ピーンポーン
家のチャイムが鳴った。
「もう来たみたいだぞ」
「はえーよ」
誰だよ?
俺は玄関の覗き穴から覗くと、瀬能がいた。
「なんだ瀬能か……」
俺は瀬能ならいいやと玄関を開けた。
「おはよう……って、服着ろよ!」
瀬能が挨拶をしてきたが、俺の格好を見て驚いた。
「おはよう。まあ、上がれや。まだ誰も来てねーから」
「いや、服着ろよ」
瀬能はそう言いながら、靴を脱ぎ、家に上がる。
「悪いが、さっきクーラーをつけたばかりだから、まだ暑いぞ」
「いや、外よりはマシだよ。外はすごいぞ。あと、服着ろ」
瀬能は部屋に上がり、テーブルの前に座った。
「アイスあるけど、食べる?」
俺はキッチンの冷蔵庫の所に行き、麦茶をコップに入れながら聞く。
「ああ、くれ」
俺は氷を入れた麦茶とアイスをテーブルに置く。
「ほい」
「ありがとう。君は一応、女子の姿なんだから気をつけろよ」
瀬能は俺の姿を見ながら苦言を呈す。
「お前は興味ねーだろ。暑いんだよ」
「いや、興味なくても気になるし、他の人も来るんだぞ。カナタ君や雨宮さんに、このシチュエーションを見られると、マズくないか?」
確かに、カナタは男子だし、シズルには誤解されそうだ。
「それもそうだな。ハァ、じゃあ、着るわ」
俺は瀬能の言うことも、もっともだと思い、ベッドに置いておいた服を着る。
「あー、外に出たくねーな」
パーティーメンバーが集合した後、話し合いをし、ダンジョンにいく予定である。
「気持ちはわかるよ」
瀬能はアイスを食べながら同意する。
俺はその間に、服を着終えた。
「ハァ、これでいいだろ?」
「ああ。しかし、君、ミニスカートは穿かないんじゃなかったっけ?」
瀬能は俺の全身を見渡し、聞いてきた。
「暑いんだよ。女はスゲーよな。冬でも、ミニを穿くヤツもいるし、夏でもロングを穿くんだから」
「まあ、男子も夏でも長ズボンを穿くけどね」
そういえば、そうだな。
俺も普通に夏は長いのを穿いてたわ。
「お姉ちゃんとホノカに騙された」
以前、俺とホノカは、アカネちゃんを巡って、ケンカをした。
その後、無事に仲直りした俺達は、夏を前にして、姉も含めて買い物に出掛けた。
その時に夏は暑いから、ミニなスカートや足丸出しのショートパンツを買うように言われたのだ。
俺は何も考えずに、そうかもーと思い、買ったが、今、考えると、騙された気がする。
「まあ、確かに、暑いんだからいいだろ」
瀬能は特に気にしていないようだ。
ちなみに、この格好は今日が初お披露目である。
カナタはともかく、他のヤツらに何か言われそうな気がしてきた。
「うーん、やっぱりロングに変えようかな?」
「別に今さら誰も気にしないと思うぞ。というか、女性用の下着は良くて、ミニスカートが嫌な理由がわからないよ」
「そう言われると、そうなんだがなー。なんかミニスカートって、男子を意識してる気がしない?」
「しない。ファッションだろ。君は普段からエロい目で女子を見ているから、そう思うだけだと思うよ」
まあ、エロい目で見てるけど。
「女子はあまり気にしないと思うし、男子も今さら君がミニを穿こうと気にしないって。バッチリ化粧してた時点でもう遅い」
「なあ、男共は俺のことをどう思っているんだ? 変態? 女装家?」
今さら、気になってきた。
「最初はド変態って、噂になったな。でも、君が魔女のコスプレをした時から、ただのアホだと思われてるね」
アホって……
「お祭り事だし、楽しもうと思っただけなのに」
「わかってるよ。そもそも、エクスプローラなんて奇抜な人は一杯いるからね。皆、それの一種だと思ってるよ」
まあ、変なヤツは多いしな。
瀬能も違うベクトルで変だし。
「じゃあ、このままでいいか。アカネちゃんは絶対に何か言うからアイスをあげないでおこう」
「可哀想だろ。まあ、言うと思うけど」
だよな?
ピーンポーン
家のチャイムが鳴った。
「誰か来たかな?」
俺は立ち上がり、玄関に行き、ドアを開ける。
「おはよう。今日は暑いね」
「おはよ。早く中に入れて」
「おはようございます!」
「おはようでーす」
玄関のドアを開けるとシズルとちーちゃんとカナタとアカネちゃんの4人が一緒に来た。
「まあ、入れよ。一緒に来たのか?」
「たまたま。そこで一緒になったんだ」
シズルはそう答えると、靴を脱ぎ、部屋に上がっていく。
他の連中も上がっていき、テーブルの前に座った。
俺はその間、キッチンに行き、人数分の麦茶とアイスを取り出し、準備した。
「ほい」
俺はテーブルに麦茶とアイスを置く。
「ありがとう」
「あんがと」
「ありがとうございます!」
「どーもでーす。センパイ、そのスカート、似合ってますよ~」
皆はお礼を言ってくるが、やはり、アカネちゃんは俺の格好にツッコんできた。
「な? 没収してやろうかね?」
俺は瀬能にやっぱりなと告げる。
「やめとけって、可哀想だろ」
瀬能は苦笑しながら俺を諫める。
「え? なんです?」
アカネちゃんは何のことか分かっていないだろうが、アイスを取られまいと隠した。
「別になんでもない。それより、久しぶりに、このメンバーで集まったんだ。これまでの事とこれからの事を話そうか」
そう。
実はこのメンバーで集まったのは、ダンジョン祭以来であり、1ヶ月振りなのだ。
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『テレビ番組 日本のトップエクスプローラを丸裸』より