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第059話 死闘


 シロを含め、すべての人間を後ろに下がらせたため、俺の視界にはレッドオーガしかいない。


 俺はそんなレッドオーガと自分の戦力を比べてみる。

 レッドオーガは、先ほどの俺の攻撃を食らっても、ほとんどダメージを受けていないことから、防御力は相当なものだろう。

 また、スピード自体はたいしたことはなさそうだが、攻撃力は言うまでもなく、ヤバい。


 そんなレッドオーガと比べて俺は、スピードでは分があるし、攻撃力も負けていない。

 しかし、防御力に差がありすぎる。


 俺はグラディエーターだったころと比べて、力が落ちている。

 そして、それ以上に防御力が落ちているのだ。

 あのレッドオーガの攻撃を何回も受けると、厳しいだろう。


 うーん、スピードで撹乱するのが良いと思うが、俺はそんなタイプじゃない。

 下手に小細工をすると、墓穴を掘りそうだ。

 リスクはでかいが、殴り合いをしたほうが勝算はありそうだな。


「よし!!」


 俺は文字通り、気合を入れた。

 すると、俺の体から赤いオーラみたいなものが出て、すぐに消える。

 スキル≪気合≫の赤の化身である。


 赤の化身で戦える時間は5分間だ。

 5分を過ぎたら、全身に激痛が走り、まともに戦えなくなる。

 しかし、このレッドオーガは出し惜しみが出来る相手ではない。


「待たせたな。行くぞ!」


 俺は戦闘開始の宣言をすると、強化したスピードに乗り、レッドオーガにダッシュで近づいた。

 そして、レッドオーガの胴体目掛けて、ロングソードで切りつけた。

 しかし、レッドオーガはそれを太い左腕で防御する。

 俺の剣を食らった左腕から血が吹き出たが、レッドオーガはそれをものともせず、空いている右腕で俺の顔面に殴りつけてきた。


 クソッ!


 俺は躱せない体勢だったため、逆に頭を突きだし、頭突きで防御する。

 直後、頭にズシンと、ものすごい衝撃が走った。


 俺は気が遠くなるのをなんとか耐え、持っているロングソードで突きを放った。

 しかし、レッドオーガは俺の突きを後ろにバックステップして躱した。


「あー、クラクラするー」


 頭にもろに食らったため、視界がぐにゃぐにゃと揺れる。

 しかし、赤の化身の効果時間は5分しかないため、休んでもいられない。

 俺は隙を見せるように、わざとロングソードを大振りで振り下ろそうとした。

 すると、レッドオーガはカウンターを狙い、低く構え、俺に殴りかかってきた。


「バカめ!」


 俺は途中で振り下ろしを止め、バックステップで後ろに下がり、バックステップの反動を利用し、低く構えたレッドオーガの顔面に跳び蹴りを放った。

 俺の跳び蹴りは狙い通り、レッドオーガの顔面に当たった。

 しかし、レッドオーガは少しのけぞりはしたものの、すぐに体勢を整え、俺に殴りかかってきた。


「ぐっ!」


 レッドオーガの拳が俺の腹に刺さった。

 レッドオーガの怪力を食らったため、吐きそうになる。


 おぇ!

 キツい。

 泣きそう……


 俺はなんとか耐えるが、ダメージが大きすぎる。

 まだ2発しか食らってないのに、ギブアップしたい気分になった。

 それでも俺は気力を振り絞り、俺のセクシーな腹に触っているレッドオーガを力一杯殴った。

 俺に殴られたレッドオーガはダメージがあったのか、距離を取った。


「ハァハァ……強い。ってか、俺が弱い……」


 正直、ここまで弱くなっているとは思ってなかった。


 強力な魔法が使えるようになり、状態異常の耐性も得た。

 おそらく、今、ズメイと戦えば、以前よりは楽に倒せるだろう。

 しかし、このレッドオーガ相手にはグラディエーターの時のほうが良かった。

 こいつは魔法が使えないし、状態異常攻撃もないからだ。


 力は≪怪力≫のスキルを上げたから少しはマシになっている。

 だが、防御力が本当にない。


 瀬能のように防御力を上げる≪鉄壁≫を取れば良かったと思うが、前衛の適性がない魔女では、そんなもの取ろうと思えば、とんでもないポイントが必要だ。

 そして、前衛の適性のあったグラディエーターの時はそんなものは必要なかった。


 ままならねー。


 俺は自分の弱さを嘆くが、そんなことも言っていられない。

 目の前の強敵はすでに体勢を整え、突っ込んでくる気満々だ。


 俺は今の自分の長所を生かすことにした。


「ラブリーアロー!」


 俺は魔法でレッドオーガの左足を狙った。

 すると、レッドオーガは俺の魔法を無視するように突進してきた。


 レッドオーガは魔法に耐性があるため、魔法は効かないと思ったのだろう。

 しかし、俺が放ったラブリーアローはレッドオーガの左足を貫いた。

 いくら耐性があろうと、まったく効かないわけではないのだ。

 ましてや、俺の魔法は見た目は悪いが、威力は桁外れである。


 レッドオーガは突進の勢いのまま足を貫かれたため、前のめりに倒れてきた。


「死ねや!!」


 俺は前のめりに倒れこんでくるレッドオーガの顔面にカウンターで殴りつけた。

 殴られたレッドオーガは後ろに吹き飛んだ。

 吹き飛んだレッドオーガはすぐに着地し、体勢を整えようとするが、足元がふらついている。


「食らえ!!」


 俺はそんなレッドオーガの脳天にロングソードを振り下ろそうとした。


「ウガアァーー!!」


 すると、レッドオーガは咆哮をあげた。

 その咆哮は凄まじい声量であり、周囲がビリビリと振動しているかのようだった。

 そして、レッドオーガから赤いオーラみたいなものが出て、すぐに消えた。


 ん?

 は?

 え!?


「まさか!?」


 レッドオーガはさっきまではふらついていたのに、今は足元がしっかりしている。


「クソッ!」


 俺は構わず、レッドオーガの脳天に、ロングソードを振り下ろした。

 しかし、レッドオーガは俺が振り下ろしたロングソードを左手で簡単に掴んだ。


「え? は、離せ!」


 俺はレッドオーガに掴まれたロングソードを必死に抜こうとするが、まったく動かない。


 クソッ!

 って、やべ!!


 レッドオーガは左手でロングソードを掴んだまま、空いている右拳を握り、大きく振りかぶってきた。


 俺はロングソードを諦め、ロングソードから手を放し、両腕を顔の前で交差させ、狙われている顔面をクロスアームブロックでガードした。


「ぶっ!!」


 直後、とんでもない衝撃がガード越しに伝わってきた。


 力が上がってる!?

 間違いなく、赤の化身を使ってるぞ!


 俺は自分の専売特許を使われたことがショックであったが、それ以上に凄まじい威力で気を失いそうになる。


「クソが!!」


 そんな衝撃にも、なんとか踏みとどまった俺は、このままではマズいと思い、レッドオーガに蹴りを放とうとした。

 しかし、足が上手く動かなかった。

 どうやら、ダメージが相当あるようだ。


 そして、レッドオーガはそんな隙だらけの俺を見逃すわけもなく、また、拳を握り、振りかぶってきた。


 死んだかもー……


 俺はもう一度クロスアームブロックでガードする。

 レッドオーガはそんなガードなんて関係ないという様子で、ガードの上から俺を殴った。


「ぐっ!」


 ダメージが足にきている俺は今度は踏ん張ることが出来ずに吹き飛ばされてしまった。


「お兄ちゃん!!」


 吹き飛ばされている間に、ホノカの悲鳴のような叫び声が聞こえてきた。


 ダメだこりゃ……

 力は互角でも、防御力に差がありすぎる。


 俺は諦めたい気持ちになるが、なんとか意識を保った。


『相棒、気休めにしか聞こえんだろうが、向こうも効いてるぞ』


 シロが念話で本当に気休めにしか聞こえないことを言ってくる。


『なんかアドバイスない?』

『ヤツが使ったのは赤の化身だろう。効果は5分だ』


 そりゃあ知ってるが、その前に俺の赤の化身の効果が切れるし、それまでに俺の体がもつとは思えない。

 もちろん、シロだって、そんなことはわかっているだろう。

 つまり、どうしようもないわけだな。


 もう、灰の化身を使うしかない……


 灰の化身を使えば、3分間だけ、人の身を越えた力を得ることができる。

 ただし、3分後に必ず死ぬ。


 俺は長くエクスプローラをやっているため、死んだことは何回もある。

 正直、良い気持ちじゃない。

 しかし、このままやっても、どうせ死ぬだろう。


 なら、やるしかない!


 俺はなんとか上半身だけ起こし、ホノカを見る。


 そんな心配そうな顔をするなよ……

 俺が弱いみたいじゃねーか。


 俺は覚悟を決め、なんとか立ち上がり、レッドオーガを見る。

 ヤツは余裕そうな笑みを浮かべている。


 あれは勝ったって顔だな。

 なめやがって!!


「殺す!!」


 俺は目を閉じ、灰の化身を使った。

 すると、体の痛みが消え、体の芯から熱くなるのが分かった。


 効果は3分。

 一気に決める!!


 俺は余裕をかまし、隙だらけのレッドオーガに突っ込んだ。

 勝ったと思っていたレッドオーガは、急に元気になった俺に驚くも、すぐに我を取り戻し、突っ込んでくる俺を迎撃しようとする。

 しかし、灰の化身で強化された俺は、レッドオーガの反応よりも早く接近した。

 俺は反応が追い付いていないレッドオーガの足元まで来ると、ジャンプし、レッドオーガの顎に跳び膝蹴りを放った。


「グゴッ!」


 俺の跳び膝蹴りを食らったレッドオーガの体は衝撃で宙に浮いた。

 俺は宙に浮いたレッドオーガ目掛けて、宙にいたまま、蹴りを振り下ろす。


「食らえ!!」


 俺の蹴りはレッドオーガの肩に当たり、宙に浮いていたレッドオーガは地面に叩きつけられた。


 そして、すぐに地面に着地した俺は、起き上がろうとしているレッドオーガの顔面を殴りつけた。

 レッドオーガは吹き飛んでいく。


「さっきのお返しだ! バーカ!!」


 吹き飛ばされたレッドオーガは、先ほどの俺と同様に、立ち上がりはしたものの、ふらついている。


 チャンスだ!!


 俺は近くに落ちていた伊藤先生のロングソードを拾い、ふらついているレッドオーガに切りかかった。

 レッドオーガは先ほどと同様に、左腕でガードするが、強化した俺の力はレッドオーガの太い腕ごと体を切り裂いた。


「ウガァー!!」


 レッドオーガが叫び声をあげ、片膝をつく。

 レッドオーガの切られた左腕は落ち、胴体からも血が噴き出ている。


「とどめだ!!」


 俺は叫び声をあげるレッドオーガの首をはねようと切り付けた。


 ガキンッ――


 レッドオーガの首にロングソードで切りつける瞬間、レッドオーガは顔を前に出し、ロングソードに噛みついた。


 ガキッキ、ギンッ――


 そして、レッドオーガはロングソードを噛み砕いた。


 クソ!

 噛みつきか!!


 オーガの特に恐ろしいのは顎の力である。

 ダンジョン産の防御力が高い鎧や盾だろうと、簡単にかみ砕いてしまう力がある。


 噛みつかれるとヤバいが、武器を失った俺には手段がない!


 俺はレッドオーガの噛みつきを見て、および腰になってしまった。

 すると、レッドオーガは片膝をついた態勢のまま、俺にタックルをしてくる。


 俺はタックルしてきたレッドオーガの顔面にカウンターで殴りつけようとするが、レッドオーガの口が半開きであることに気が付いた。

 しかし、このままではタックルをまともに食らってしまうため、俺は仕方なく拳を振り抜いた。


 グチャッ!


 嫌な音が俺の耳に響いた。

 俺の手に、足を止めたレッドオーガが噛みついていた。

 レッドオーガはニヤリと笑うと、首を横に振り、俺の手を引きちぎった。


「――ッ!!」


 俺の耳に先ほどと同様に、嫌な音が響くと、声にもならない悲鳴が俺の口からもれた。

 灰の化身を使っているために、痛みをあまり感じないはずだが、痛みと喪失感で、気力を失いそうになる。


「ガァー!!」


 そんな俺に、レッドオーガが再度、噛みついてくるが、俺はさせまいとレッドオーガの顎を蹴り上げた。


「ガァー、ガッ――」


 俺の蹴りを食らったレッドオーガはのけ反るが、右手を失った俺は体勢を崩し、膝をついてしまった。


 直後、レッドオーガに首を掴まれた。

 そして、そのまま持ち上げられてしまった。


「グッ、は、はな……」


 俺はこのまま首の骨を折られるのかと思い、暴れるが、レッドオーガの手は俺の細首から離れない。

 そんな俺を見て、レッドオーガは笑いながら、ゆっくり口を開けた。


 噛みつく気かよ!

 マズい!!

 動けない!!


 俺は焦るが、まったくレッドオーガを振り払うことができない。

 そして、意識を失いそうになる。

 そうしているうちにも、レッドオーガの顔が近づいてくる。


『相棒!! その大口開けているバカに、カボチャを食わせてやれ!!』


 シロから起死回生のアドバイスが念話で伝わってきた。


 もう何も考えられない俺はレッドオーガの空いている口に、残っている左腕を差し出した。

 俺を噛み殺そうとしていたレッドオーガは差し出された左腕を、本能的に噛みつこうとする。


「ぱ、ぱん、ぷき……」


 もはや声にならないが、詠唱破棄が使える俺の手の上にカボチャ爆弾が落ちてくる。

 直後、俺の左腕に噛みつこうとしていたレッドオーガは、俺の左腕ごとカボチャ爆弾に噛みついた。


「グガッ!?」


 いきなり現れたカボチャに噛みついてしまったレッドオーガはびっくりして事態を呑み込めていない。


 ドッカーン!!


 直後、カボチャ爆弾が爆発した。 


 俺の目には破裂するレッドオーガの顔がチラリと見えたが、そこで何も見えなくなった。


 レッドオーガはもちろんだが、至近距離でパンプキンボムを食らった俺も、ただでは済まない。


 俺は薄れていく意識の中で、ホノカの声が聞こえた気がした。




 

攻略のヒント

 オークを一人で倒せたら初心者卒業(Eランク)

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