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第058話 レッドオーガ


 俺は4階層に降りて、すぐに違和感を感じた。

 そして、ものすごい嫌な予感がする。


「ハヤト君、止まれ」


 俺は思わず、ハヤト君を呼び止めてしまった。


「どうした?」


 俺が急に止めたので、ハヤト君だけでなく、土井やロリ姉妹、そして、伊藤先生もこちらを訝しげに見てくる。


「少し、待ってくれ」


 俺は嫌な予感を確かめるため、≪索敵≫を使った。

 しかし、≪索敵≫を使っても、何も感知できなかった。


「おい、シロ。何か感じないか?」

「…………相棒、帰ったほうがいいぞ」


 シロも何かを感じとったらしい。

 この言い方からして、それが危険なのはわかる。

 

 だが…………


「お前、この先に俺の愛しい姉と可愛い妹がいるって、知ってて、言ってんのか?」

「…………そうだな。じゃあ、進め。ヤバいのがいるぞ」


 ヤバいのねぇ……

 ここ4階層だぞ。


「先生、何かヤバいらしいです。俺は行きますが、帰っていいですよ」


 俺はそう言って、奥へ走り出した。

 後ろで伊藤先生の怒鳴り声が聞こえてきたが、どうでもいい。

 俺にとって、大事なのはお姉ちゃんとホノカだ。


 俺は奥へ走り続けているが、進む度に、嫌な予感が濃くなっていく。

 この先にヤバいのがいるのは間違いなさそうだ。


「う、うわぁー!」

「キャー!!」


 奥から悲鳴が聞こえてきた。

 俺はさらに足を速め、現場へと急行する。


 そして、岩肌の通路を抜けると、広間へと出てきた。

 

 そこには倒れている多くの学生がいた。

 その学生達が何故、倒れているかは、部屋の真ん中にいるモンスターのせいだというのは一目瞭然であった。


「オーガか!」


 何故、4階層にオーガがいる!?

 

 オーガはこのロクロ迷宮では知らないが、川崎支部のダイダラ迷宮では、20階層以降にしか出ないモンスターだ。


「意味わからん。しかも、色が赤い……」


 オーガの肌の色は灰色である。

 しかし、このオーガは赤い肌をしており、明らかに普通じゃない。


「こいつはレッドオーガというオーガの特異種だ」

「特異種? 何だ、それ?」

「たまにモンスターの中には変わったヤツが生まれることがある。そいつらの特徴は知能が高いことだ」


 知能が高い……


「お前か?」

「そうだ。基本的にモンスターは生まれた階層から動かない。しかし、俺っちがそうであったように、知能が高い特異種は階層を移動する。こいつも奥から来たんだ」


 シロが何階層で生まれたかは知らないが、こいつと出会ったのはエクストラステージだ。

 確かに、あそこで生まれたわけではなさそうだし、移動してきたんだろう。


「なるほど。ダンジョン祭で、他のエクスプローラがいないから、こんなところまで上ってきているのか」


 本来ならば、もっと奥の階層で見つかっただろう。

 しかし、今は見つけるヤツも、報告するヤツもいない。

 ダンジョン祭が行われている4日間で、ここまで上ってきたのだろう。


「一応、聞く。強いか?」

「ズメイよりも強い。ブレスや状態異常攻撃はないが」

「そうか……」


 俺はレッドオーガを観察する。

 レッドオーガは体長2、3メートルはある。

 大きさ自体は普通のオーガとは変わらない。

 しかし、手には斧が握られている。

 そして、俺をジッと見たまま動かない。


「なんか、ガンくれてんな」

「知能があるって言ったろ。この場で一番強いヤツを警戒してるんだよ」


 俺はレッドオーガを睨み返そうと思ったが、レッドオーガの足元にホノカがいることに気づいた。


 俺はそれを見た瞬間、頭に血がのぼるのがわかった。

 そして、気づいたら足が動いていた。


「死ねぇぇ!!」


 俺が真正面から突っ込むと、レッドオーガは低く構え、俺を迎え撃とうとしていた。


「ラブリーアロー!!」


 俺はそんなレッドオーガの顔面にラブリーアローを放った。

 すると、レッドオーガはラブリーアローを躱すために、右に避けた。


 それが狙いだよ!


 俺は最初から躱されるのはわかっていたため、最初から躱した後に、狙いを定めていた。


「死ねぇーい!!」


 俺はレッドオーガが避けた先に、ダッシュの勢いのまま蹴りを放った。

 すると、レッドオーガの腹に俺の渾身の蹴りが突き刺さる。

 

「オゴゥ!」


 俺の蹴りを食らったレッドオーガはそのまま後ろに飛んでいった。


「ホノカ!!」


 俺は飛んでいったレッドオーガを放っておき、倒れているホノカに近づく。


「ホノカ、ホノカ!!」


 俺はホノカを抱き上げ、必死に名前を呼ぶ。


「お、お兄ちゃん?」

「ホノカ、無事か!?」

「うん。でも、お姉ちゃんが…………」


 俺はこの広間に姉がいないことには気づいていた。


「他のヤツらは? お前の所にもプロがいただろ?」

「私達のパーティーで残っているのは私とハジメ先輩だけ、プロの人もあっという間にやられちゃった……」


 佐々木とやらは生きているらしい。

 お姉ちゃんを庇って、死ねよ。


「相棒、レッドオーガは知能があるって言ったろ。ヒーラーを先に潰すのが定石だ」


 チッ! めんどくさそうなオーガだな!

 

 知恵ある敵が一番厄介なのだ。


「神条! 後ろだ!!」


 俺はいつのまに追いついた伊藤先生の声に反応し、抱き上げたホノカを突き飛ばしながら立ち上がり、後ろを振り向いた。

 すると、目の前には、俺が蹴飛ばしたレッドオーガがゆっくりと斧を振りかぶっていた。

 そして、すぐにその斧は俺を目掛けて振り下ろされた。

 俺は右こぶしを握り、振り下ろされた斧を力一杯殴りつける。


「お兄ちゃん!!」


 ドンッと変な音が俺の耳に届いた。

 そして、俺の手を見ると、俺の拳が裂けている。

 しかし、俺が殴ったレッドオーガの斧は完全に砕けていた。


 俺は右こぶしの痛みを我慢し、斧を不思議そうに見ているレッドオーガの顎目掛けて後方宙返りしながら蹴りを放った。


「ムーンサルトぉー!!」


 俺のムーンサルトはレッドオーガの顎を撃ち抜いた。

 しかし、レッドオーガは少しよろめいただけで、すぐに体勢を立て直した。

 俺は地面に着地すると、着地した勢いでレッドオーガ目掛けてジャンプし、レッドオーガの顔面に跳び蹴りを放った。

 俺の跳び蹴りを食らったレッドオーガは今度こそ後ろに倒れた。


「ハァハァ……痛い……」


 俺は右手を見る気になれない。

 何故なら、俺の右手が焼けるように熱いのだ。


「お兄ちゃん!!」


 ホノカが俺に近づいてきた。


「ハイヒール!!」


 ホノカは俺の右手に回復魔法をかけてくれた。


「お前、ハイヒールを使えるんだな。そりゃあ、アカネちゃんもウチに来るわ」

「黙ってて!!」


 ホノカはもう一度、俺にヒールをかけるようで、詠唱を始めた。


「シロ、あいつ、強いわ」

「一応、効いてるとは思うぞ。しかし、レッドオーガが振り下ろした斧を殴って壊すなんてやベーな、お前」


 他に方法があったか?

 避けろと言われても、避けられないぞ。


「武器が欲しいな」


 素手で、あのレッドオーガを相手にするのは厳しい。

 

「≪破壊の戦斧≫は?」

「家」


 荷物持ちをするつもりだったので、アイテムボックスの容量を食う武器は持ってきていない。

 

「……何を持ってきている?」

「箒」

「ダンジョンでは油断するなって、後輩にキメ顔で言ってなかったか?」

「医者の不養生だな」


 何にせよ、厳しい。

 しかし、やるしかない。


 レッドオーガはすでに立ち上がり、こちらをジッと見ている。


「あいつ、何で来ないんだ? チャンスだろ?」


 レッドオーガは俺を見つめたまま動かない。


「知能があるから何か考えがあるのか? うーん、わからん」


 本能のまま襲ってくる普通のモンスターとは違い、知能がある……か。


 こいつ、楽しんでるな。


「おい、レッドオーガ、ちょっと待ってろ。もう少ししたら殺してやるから」


 俺はレッドオーガに話しかける。

 すると、レッドオーガは2、3歩後ろに下がった。


「相棒の言うことを理解してるな」

「ありゃあ、戦闘狂だ。ただ闘いたいだけ」


 俺は空間魔法の早着替えを使い、魔女のコスプレから≪知恵者の服≫に着替えた。


「ハイヒール!!」

 

 そして、ホノカが詠唱を終え、ハイヒールをかけてくれる。

 すると、伊藤先生がやってきた。


「神条、さっき江崎達に応援を呼びに行かせた。応援が来るまで待とう」


 ハヤト君達が無事なら俺が死ぬことはないわけだ。


「応援? 誰を呼ぶんだ? 足手まといはいらんぞ」

「何を言っている? 一人でやるつもりか? 勝てる相手だと思っているのか?」

「あんたこそ何を言っている? 引退して鈍ったか? その応援とやらは、あのレッドオーガにダメージを与えられそうなのが来てくれるのか? ≪Mr.ジャスティス≫が来ても、役に立たないぞ」


 俺の一撃必殺の攻撃をあれだけ受けているのに、レッドオーガはピンピンしてる。

 あの防御力を越える攻撃力を持っているヤツはこの東京本部にはいない。

 東城さんなら余裕そうだが。


「それは……しかし、お前一人では無理だ」

「俺しか対処できないのをわかってるじゃねーか。わかったら下がってろ! 邪魔だ」

「お兄ちゃん……」


 ホノカが心配そうに見つめている。


「ホノカ、お前も下がってろ。そして、絶対に死ぬなよ。佐々木とやらが、どこにいるのかは知らんが、全滅だけはするな」

「うん。お兄ちゃん、あれに勝てるの?」


 俺はホノカの頭に手を置く。


「何も問題ない。俺はああいう筋肉バカとは相性がいいんだ」

「お前もパワーごり押しのバカだもんな」


 うっせーわ!


「神条、お前の言う通り、あれに対処できるのはお前だけだろう。だが、本当に勝てるのか? あれはレベル30以上は必要だぞ」

「お前、俺の二つ名を知らねーの? ≪陥陣営≫だぞ」


 意味は出会った敵を必ず打ち破る。


「わかった。お前に任せる。これを使え」


 伊藤先生はそう言うと、アイテムボックスから剣を取り出した。


「これは?」


 俺は伊藤先生から剣を受けとると、それを観察する。

 その剣は黒いロングソードであり、安物ではないことは見ればわかった。

 

「私が現役時代に使っていた剣だ。性能は保証する。壊しても構わないから使え」

「わかった。周りで寝ている連中を退かしてくれ」

「ああ」


 俺は伊藤先生から貰った剣を下げ、レッドオーガを見つめる。

 ヤツは未だに待ってくれている。


「待ってくれているのは嬉しいが、なめられている気がするな」

「多分、雑魚狩りに飽きたんだろ」

「シロ、お前も下がってろ」

「おい、俺っちはお前の相棒だぞ」


 シロが俺を非難してくる。


「普通にやって勝てる相手じゃない。俺は必ず死ぬからお前は下がってろ」

「弱気か?」

「バカ言うな。ただでは死なねーよ。あいつを殺してから死ぬ」


 俺は奥の手を使うつもりなのだ。

 伊藤先生には悪いが、≪破壊の戦斧≫と比べると、この剣では心もとない。


「灰の化身を使うのか……わかった。俺っちも下がってる。念話でアドバイスはしてやる」

「頼むわ」


 俺はそう言うと、身を屈め、手を地面についた。

 すると、俺の肩にいたシロが腕を伝い、地面に降りた。

 そして、シロも後ろに下がっていった。


 その間に伊藤先生や無事だった学生達が周りで倒れている学生やプロのエクスプローラを担ぎ、後ろに下げ終えていた。


「これで邪魔はいなくなったぞ。待たせて悪かったな。さあ、やろう! お姉ちゃんを殺したお前は死刑だ!」


 俺は剣を構える。

 すると、レッドオーガも腰を落とし、低く構えた。


 レッドオーガが笑った気がした。

 そして、俺も笑っている気がする。



 

 

攻略のヒント 

 みんな~、今日のモンスター紹介は強敵中の強敵、オーガだよー。

 

 オーガって知ってる?


 オーガはどのダンジョンでも、20階層以降にしか出ないんだよ。

 

 すごい力を持ってるモンスターで殴られでもしたらバラバラになっちゃうよ~。

 怖いよね~。


 しかも、魔法や状態異常に耐性があるんだー。

 そんな強いオーガだけど、なんといっても恐ろしいのは顎の力。

 オーガは近づくと噛みついてくるんだ。

 そして、噛みつかれたら、もう……ね。


 え?

 あきちゃんはオーガと戦ったことがあるかって?

 

 ふ、ふ、ふのーふー。


 私は一人で倒したこともあるんだよー。

 

 すごーい!


 オークを倒せたら初心者卒業だけど、オーガを倒せたら上級者だね。

 まあ、エクスプローラの中にはオーガを一撃で倒す人もいるんだけどね。


 誰とは言わないけど、あのバカだよー。



 そのうち、エクスプローラ紹介もしていくからみんなちゃーんと、毎日チェックしてね?


『≪モンコン≫ことBランクエクスプローラ春田秋子のブログ』より


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― 新着の感想 ―
[気になる点] オーガが話の分かる戦闘狂なので不快感がかなり薄いですけど、お姉ちゃんが殺られたって点で怒りマックス状態です。 けれど、ルミナくんそれほど暴走しているようにもみえないのは、スキルが仕事…
[一言] 佐々木は仲間置いて逃げたか! パーティー解散だな!!やったぜ
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