第054話 タイムアタック
ダンジョン祭が開催された初日にシロと買い物に行き、新しい防具を買った。
その翌日も適当にぶらつき、久しぶりの休みを満喫することができた。
そして、3日目、俺は今日の種目であるタイムアタックにハヤト君の≪勇者パーティー≫に助っ人で参加することになっている。
そのため、新しい防具に着替え、朝早くから協会へと向かうことにした。
協会に着き、中に入ると、ロビーには50人位の学生や教員、そして、雇われのプロのエクスプローラ達がいた。
タイムアタックは、参加者が一斉にスタートすると、ダンジョン内でゴチャゴチャしてしまうため、時間を置いて、タイムを計るのだ。
その順番はランダムであり、ウチの≪魔女の森≫は午後かららしく、ここにはいない。
俺はハヤト君達を探す。
すると、端の方のソファーに、見覚えのあるでかい男を発見した。
俺はそのでかいクラスメイトに近づき、挨拶をする。
「よう、土井。おはようさん。待たせたか?」
「神条か、おはよう。まだ、遅刻じゃないし、問題ないぞ」
土井は俺に挨拶を返した。
「他のヤツらは? アヤとマヤはともかく、ハヤト君が来てないのは意外だな」
ハヤト君は真面目な人間であるため、こういう時には早めに来るヤツだ。
ちなみに、マヤとアヤは普通に遅刻するようなヤツらだ。
「ハヤトは説明を聞きに行っている。アヤとマヤは……そのうち来るだろ」
ハヤト君はもう来てたらしい。
そして、やはりアヤとマヤはまだ来ていない。
「ふーん、お、アヤとマヤが来たぞ」
俺は協会の入口から入ってきたアヤとマヤを見つけ、土井に伝える。
そして、アヤとマヤと一緒に入ってきた男がいることに気づいた。
その男には見覚えがあった。
3人は俺と土井に気づき、こちらにやってくる。
「……おはよう、お姉様」
「……おはよう、タケト」
アヤとマヤはいつもの双子芸を披露する。
「おう、おはよう」
タケトが挨拶を返すが、俺はアヤとマヤの隣にいる男が気になっているため、挨拶を返さなかった。
「久しぶりだな、≪レッド≫…………えっと、≪レッド≫でいいんだよな?」
そいつは昔、俺が殴り飛ばしたクーフーリンである。
「久しぶりだな。Aランクにはなれたか?」
俺は嫌味たっぷりに笑い、クーフーリンをからかう。
「チッ! まだだよ。って、やっぱり、≪レッド≫か。女になっても、底意地の悪い顔は変わらねーな」
クーフーリンは舌打ちをし、軽口をたたく。
「お前が東京本部に来るとは思わなかったぞ。追い出されたか?」
「お前と一緒にするな。ここの本部長に誘われたんだよ」
「勇者のパーティーに入れって?」
「ああ、俺はソロだからな。良い機会だし、勇者様の仲間も良いかもなって思ったんだよ」
クーフーリンは珍しいソロエクスプローラである。
しかし、その実力は高く、ソロでBランクになったのはこいつしかいない。
「よく学生のパーティーに入ったな? 昼間は何してんだ?」
学生とプロが組まないのは、生活リズムが異なるからだ。
「昼は1人でダンジョンだ。俺はソロが長いし、問題ねーよ」
なるほど。
だから、本部長はこいつを誘ったのか……
協会が問題児であるこいつを何故、期待している勇者パーティーに入れたのか疑問だったのだが、こいつの話を聞いてようやく理解した。
「なるほどねー。ちなみに、もう1人は誰になるんだ?」
他にソロっていたっけ?
「……第一候補はお前の親友だよ」
「親友? 俺に親友なんていたっけ?」
誰?
昔のパーティーメンバーか?
「ユリコだよ。≪白百合の王子様≫だ」
「ユリコ!? あいつは東京本部出禁だろ!?」
確かに、俺はユリコと仲が良いし、最近はよく連絡を取っているが、親友ではない。
断言する。
「それを解くって話だ。あいつは野良だし、実力は本物だからな」
確かに、ユリコは強い。
しかも、≪踊り子≫であるため、パーティーを強化できる逸材でもある。
「でも、≪ヴァルキリーズ≫が黙ってないだろ」
過去にユリコがやらかした≪悲しきヴァルキリーズ事件≫がある。
この事件から≪ヴァルキリーズ≫はユリコを嫌悪している。
「もちろんだ。それがあるから6人目が難航している。別の候補も同時進行で探しているみたいだ」
俺は衝撃の事実に驚いた。
そして、アヤとマヤをまじまじと見る。
「あいつ、ロリもいけるんだよなー」
「そうなのか? アヤとマヤも大人になるのか……」
クーフーリンもアヤとマヤを見る。
「え? どういうこと?」
「もしかして、私達、ピンチ?」
俺はアヤとマヤがあっという間に落とされ、未成年に手を出したユリコが再び、追放される未来が容易に想像できた。
「ユリコはやめとけ。あいつはマジでやるぞ」
俺はクーフーリンに注意しておくことにした。
「…………お前が言うならそうなんだろうな。やはり、別の人間にしてもらうわ」
クーフーリンも余計なリスクを負いたくはないのだろう。
「そうしろ、そうしろ。ユリコが捕まれば、お前も仲間だと思われるぞ。そして、お前はAランクどころか俺と同じCランクだ」
「絶対にユリコはやめとくわ!」
それが正解だ。
ユリコに近づくと、こっちも損をする。
遠くから見ている分には面白いヤツではあるのだが。
「で? お前、何しに来たんだ?」
こいつは当然、ダンジョン祭には出られない。
そして、審判をやるようなヤツでもない。
「仲間の応援だな。暇だし……あ、今日はウチの連中を頼むわ」
「ん? ああ、といっても、索敵しかしないぞ」
「こいつら、そっち系のスキルが皆無なんだよ。ローグがいないのに、よくダンジョンに行こうと思うよな」
「学生なんて、そんなもんだ」
「ふーん、ところで、お前のその恰好は何だ?」
クーフーリンが話を変え、俺の格好にツッコんできた。
「私も気になってた」
「私も」
アヤとマヤもツッコんできた。
昨日買った俺の防具は黒のローブである。
そして、頭には黒のとんがり帽子である。
つまり、完全に魔女スタイルなのだ。
「似合うだろ?」
「似合う、似合わないの前に暑くないのか?」
黒だし、長袖であるため、暑そうに見えるようだ。
「ちゃんと、涼しいぞ。温度調整の魔法がかかっている」
「ってことは、ダンジョン産か。お前は金の使い方がおかしいな」
このローブも帽子も性能は低いし、たいした値段じゃなかった。
ただのコスプレ用にしか見えんかったくらいだ。
「似合うだろ?」
俺は女の服を褒めるセンスもないクーフーリンを放っておき、アヤとマヤに話を振った。
「似合う、似合う。でも、箒は?」
「黒猫は?」
あー、宅〇便のイメージか。
「シロ、出てこい。やっぱり、この格好には使い魔が必要だ」
「はいはい、浮かれてんなー」
シロがニョロニョロと服から出てきて、シロは俺の左肩に乗った。
そして、俺はアイテムボックスから杖を取り出した。
「これでどうだ? 箒はないけど、魔女っぽいだろ」
俺はポーズを取り、アヤとマヤに披露する。
「うーん、白蛇はかわいいけど、悪い魔女にしか見えないなー」
「やっぱり、箒がいると思う。ちょっと待ってて」
白のバレッタを付けたアヤがそう言って、どこかに行った。
多分、箒を探しに行ったのだと思うが、箒ってあるのかね。
「皆、何してるんだ? アヤはどこかに行くし、神条はコスプレしてるし」
後ろから声が聞こえたため、振り向くと、そこにはハヤト君がいた。
「よう、おはようさん」
俺は手を上げて、ハヤト君に朝の挨拶をする。
「ああ、おはよう。今日は手伝ってもらって助かるよ。クーフーリンさんもおはようございます」
ハヤト君は俺に挨拶を返し、年上のクーフーリンにも挨拶をする。
「おう、おはよう。ハヤト、今日は頑張れよ」
「はい。でも、もう総合優勝は無理なんですよねー」
そうなのだ。
まだダンジョン祭の日程は半分しか終わっていないが、この時点で総合優勝はほぼ決まってしまっている。
もちろん≪フロンティア≫だ。
≪フロンティア≫は1日目と2日目の競技をぶっちぎりで優勝した。
そのため、俺達が3日目、4日目を優勝したところで、1日目と2日目に参加していない俺達では総合点で追いつけない。
「まあ、仕方ねーよ。総合優勝は来年に取っておけ」
「ハハハ、頑張ります。それで、アヤはどこに行ったんだ?」
ハヤト君が俺に話を振る。
「多分、箒を探しに行った」
「箒? 何でだ? 掃除でもするのか?」
「俺の格好を見ればわかるだろ」
俺は腕を広げ、自分の全体像をハヤト君に見せる。
「ああ、そういうことか…………何で、神条はコスプレしてるんだ?」
ハヤト君がもっともなことを聞いてきた。
「前にダンジョンで俺と会っただろ? あの服で参加するのはどうかと思ったんだよ」
「ああ、あれか…………」
ハヤト君達とは、俺とシズルがダンジョン探索していた時に、偶然、遭遇したのだ。
クラスメイトの土井以外のハヤト君とロリ姉妹はそれが初対面であった。
ハヤト君はその時を思い出しているようだ。
……………………。
「もし、お前が俺の格好じゃなくて、シズルの格好を思い出しているなら殺すぞ」
「っ!? そ、そんなことないぞ! 確かに神条の格好では、ダンジョン祭に参加しない方がいいなと思ってただけだ!」
それにしては慌てすぎじゃね?
「Rainさんよりお姉様を思い出す。つまり、ハヤトはRainさんよりお姉様が好み」
「ハヤト君、ごめんなさい。私、好きな人がいるんです」
「お前らが俺をからかっているのはわかった」
ハヤト君も気づいたらしい。
「おまたせー。箒、あったよー」
俺とマヤがハヤト君をからかっていると、アヤが箒を持って、戻ってきた。
アヤが持っている箒は例の竹ぼうきだ。
「よくあったな」
俺は今時、そんな箒があるんだと感心した。
「用務員のおじさんが貸してくれた。これで完璧」
アヤはそう言って、俺に箒を渡す。
俺はそれを受け取ると、箒にまたがりポーズを取る。
「これでどうだ?」
「うーん、何でだろう? やっぱり悪そう」
「モデルが悪いんだろ。見ろよ、あの目つき」
アヤが首をひねり、クーフーリンが悪い所を指摘してきた。
「ふん、どうせ、悪い魔女だよ。もういいや。ハヤト君、説明を聞いてきただろ。はよ、話せ」
俺は箒にまたがるのをやめ、ハヤト君に今日のタイムアタックの詳細を聞くことにした。
「ああ、俺達はトップバッターだ」
「そうなの? 朝一で来いって言われてたけど、くじ運が良いのやら、悪いのやら」
タイムアタックは邪魔がいない最初が有利だ。
しかし、後の方が別パーティーの時間が分かるため、有利でもある。
結論、どっちが良いかはわからん。
「それと、俺達の担当は伊藤先生だ。ちなみに、明日のモンスター討伐も伊藤先生だそうだ」
「げ、担任じゃん。嫌だなー。先週、補習だったからすげー会いたくない」
プロのエクスプローラが補習なんて、恥でしかない。
そして、その生徒の担任は何してるんだって話になる。
不出来な生徒でごめんね。
「補習かよ。大丈夫か、お前?」
「そのセリフは聞き飽きたわ」
クーフーリンが呆れて言ってくるが、その反応はもうお腹いっぱいである。
「まあまあ。追試験はクリアしたんだろ? ならいいじゃないか。それと、頼まれてた君のパーティー≪魔女の森≫の担当も聞いてきたぞ。≪ヴァルキリーズ≫の長谷川さんって人らしい」
≪ヴァルキリーズ≫の副リーダー、長谷川ショウコだ。
「くそっ! やはりショウコが来たか!」
「知り合いか?」
「昔の仲間だ。でも、あいつはウチのシズルを狙っているし、ちーちゃんも勧誘しそうだ」
シズルはともかく、ちーちゃんは押しに弱いから心配だ。
「まあ、大丈夫だろ。仲間を信じろよ」
ハヤト君は人望があるからそう思うのだ。
俺に人望なんてない。
ホント、自分で言ってて、悲しくなるな。
「そろそろ時間だぜ。行って来いよ。俺はその辺でブラついているから」
「そうします。じゃあ、皆、行こうか。神条、頼むぞ」
「はいよ」
俺達はクーフーリンに促され、ダンジョン入口へと向かった。
いよいよ、タイムアタックの競技が始まる。
攻略のヒント
ダンジョン祭1日目
競技種目:罠解除
優勝チーム:≪フロンティア≫
記録:1時間で8つの罠を解除
ダンジョン祭2日目
競技種目:アイテム回収
優勝チーム:≪フロンティア≫
記録:1時間で指定アイテムを12個の回収
『ダンジョン学園東京本部玄関前掲示板 ダンジョン祭成績』より