第053話 ダンジョン祭開催
「お前はこの忙しい時にとんでもないものを持ってきたな」
東京本部の本部長が俺だけを見ながら言った。
俺達はダンジョンから帰還後、マイちんの所に行き、嘘をつけなくなるという≪真実の水≫を提出した。
マイちんに効果を説明すると、マイちんは自分では対処できないと言って、本部長を呼びに行った。
本部長は俺達の所にやってくると、本部長室に来いと言われ、俺達は本部長室に連れていかれたのである。
そして、冒頭の言葉をいきなり言われたのだ。
「未発見のアイテムを協会に報告するのは、全エクスプローラの義務だ。俺は義務を果たす真面目なエクスプローラなんだよ」
俺は胸をはって答える。
「ね? センパイって、嘘つきでしょ?」
アカネちゃんが後ろで、他のパーティーメンバーにいらんことを言っている。
ちょっと黙ってろ!
「ハァ……義務を果たしてくれたのは嬉しいし、感謝する。お前のことだから、自分に使われたらたまらんと破棄するかと思ったのだが」
「そんなことするわけないだろ。俺はやましいことなんてない!」
ドキドキ。
「ほら? ね? ね?」
俺が後ろを見ると、アカネちゃんは後ろで楽しそうに俺を指差し、他のパーティーメンバーに同意を求めていた。
お前、後で覚えておけよ!
俺はアカネちゃんのおねしょ遍歴をちーちゃんにばらすことに決めた。
「ハァ……この忙しい時に……これ、どうすればいいんだ?」
本部長は頭を抱え、悩みだした。
「例の加藤に使えば? そうしたら、お前らも会見しやすいだろ」
加藤は暴行事件の罪を認めていない。
そのため、協会の不祥事を発表する予定の政府や協会は頭を抱えているのだ。
協会や政府はこの事件をさっさと終わらせ、風化させたいのだが、加藤は否認しており、たとえ、証拠があっても、罪が確定するには時間がかかってしまう。
しかし、加藤が自白すれば、その辺もスムーズにいくだろう。
詳しくは知らねーけど。
「おお! なるほど! お前がそんな頭の良さそうな事を言うなんてな!」
「おい!」
俺だって、頭は悪くないぞ…………多分!
「よし! 上の連中に、その方向で進めてもらうとしよう」
「じゃあ、あとはお前らに任せるわ。あ! 高く買い取れよな」
「買い取り額は上の連中に説明をしてからだ。なに、安心しろ。なるべく高くなるようにしてやるから」
本部長は悩みの種が1つ取れたのが嬉しいのか、景気の良いこと言ってきた。
「それで頼むわ。じゃあ、俺達は帰る」
「おう、助かったぞ。お前は早く帰って、勉強しろよ。Cランクが落第なんて、シャレにならんぞ」
「うっせー!」
マイちん、チクりやがった!!
俺はマイちんに憤慨するが、シズルに自分が悪いんでしょと言われ、何も言い返すことができなかった。
その後、俺達は本部長室を後にし、協会のロビーまで戻って来た。
「じゃあ、今日は解散だな。お前らは明日からも頑張れよ。でも、無理はするな」
俺はパーティーメンバーにリーダーらしく声をかけた。
「君も補習を頑張れよ」
「落第はやめてね」
瀬能とちーちゃんが苦笑しながら答える。
「わかっとるわ!」
俺は今度からは絶対に赤点を取らないと決意する。
「わからないことがあったら教えてあげるから、ちゃんと勉強するのよ」
「神条さん、ダンジョン祭では敵同士ですが、頑張ってください」
シズルとカナタは本当にいい子だなー。
他の連中も見習ってほしいものだ。
「お前らは結果を気にせず、ダンジョン祭を楽しめよ」
さて、問題はアカネちゃんだ。
「センパイ…………」
アカネちゃんは不安そうに俺を見つめてくる。
「アカネちゃん、ホノカはあんな事を言ってたけど、あいつがアカネちゃんを嫌うことはない」
「はい」
「ちゃんと自分で説明すれば、わかってくれると思う」
「はい」
最初からそうすれば良かったのだ。
俺が変にかばってしまったので、余計にこじれてしまった。
アカネちゃんには、悪いことをしてしまったと思っている。
「まずはダンジョン祭を頑張れ。お姉ちゃんもホノカに説明してくれるらしいし、その後、自分の言葉で伝えろ。きっとわかってくれるから」
「はい!」
アカネちゃんは元気よく、良い返事をした。
頼むぞ、アカネちゃん!
俺はアカネちゃんの後ろにいる他のパーティーメンバーを見ると、連中も頷いてくれた。
俺はこいつらにアカネちゃんを任せることにした。
◆◇◆
あれから1週間が経ち、ダンジョン祭が開催された。
ダンジョン祭は今日から4日間の日程で行われ、初日が罠解除、2日目がアイテム回収、3日目がタイムアタック、4日目がモンスター討伐である。
今日は初日のため、朝から学校で開会式があるのだが、俺はサボった。
どうせ、学園長が長々と話すだけだし、俺が参加するのは3日目のタイムアタックからだ。
シズルと出かけようかと思ったが、シズルは律儀に学校に行くらしい。
特に予定もない俺は今日と明日は家でゴロゴロすることにした。
ちなみに、先週の補習はなんとかクリアした。
先週末の補習最後の日に追試験があったのだが、シズルだけでなく、ちーちゃんと瀬能も追試験対策を手伝ってくれたため、余裕で合格点を取れた。
あいつらを仲間にして、本当に良かった!
「いやー、無事、補習も終えたし、今日と明日はゆっくり過ごすかね。最近は忙しかったからなー」
「まあ、自業自得だがな。ちゃんとお礼を言うんだぞ」
俺がベッドの上でゴロゴロしながら言うと、枕元にいるシロが忠告してきた。
「わかってるよ。感謝、感謝」
「お前はどうしようもない人間だが、人に恵まれてるな」
「どうしようもないは余計だが、そうだな」
仲間に恵まれ、友人に恵まれた。
マイちんや東城さんも気にかけてくれる。
あとは家族だな。
「アカネちゃんは上手くやるかね?」
「大丈夫だろ。あれは説明不足なうえに、お前とホノカが言い合ったのが悪い。ちゃんと話せば、納得する」
こいつは俺より頭が良いうえに、人付き合いも上手なんだな。
「やっぱり俺が悪いのかー。まあ、そうだろうなー。アカネちゃんとホノカが仲直りして、俺は大丈夫かね?」
俺はいつも助けてくれるシロに相談することにした。
「お前はアカネよりも簡単だぞ。ホノカに謝れ。それで解決する」
シロはあっさりと解決策を提示してきた。
「はい? お前はあいつの陰険さを知らないからそんなことを言うんだよ」
「お前、前もそんなことを言ってたが、これまで一度もホノカに謝ってないだろ?」
それどころか、会ってすらねーよ。
「どうせ、謝っても許してもらえないし」
「お前なー、謝りもせずに、どうやって関係改善を図るんだよ。この前は言いすぎました、アカネちゃんはこういう理由でウチにくることになったんです、ごめんなさい。これで仲直りできるぞ」
「……マジで?」
そんな簡単なことで?
「ミサキが匙を投げるのもわかるわ。お前、悪いことをした時に、ミサキには謝るけど、ホノカには謝らないだろ」
…………あれ?
俺はシロの指摘に図星をつかれた気持ちになった。
これまで、お姉ちゃんに謝ったことは何度もある。
しかし、ホノカに謝った記憶が…………ない。
「そ、そうかも」
「多分、無意識に姉と妹を差別してるんだよ。姉は年上だから従う、妹は年下だから兄に従え……だ。妹はそれをわかってるから腹が立つんだよ」
俺はシロがあまりにも人間の感情に詳しいことに驚く。
こいつ、本当にモンスターか?
実は元人間だが、悪い魔女に蛇にされたんじゃねーだろうな?
「だから、お前はこのダンジョン祭でアカネとホノカが仲直りできたら、すぐにホノカの所に行って、頭を下げろ」
「そ、それで大丈夫なんですか!?」
俺はベッドの上で正座になり、シロのありがたいお言葉を拝聴する。
「お前らは仲良し家族なんだろ? 兄貴が頭を下げてるのに、それをいつまでもグチグチ言うわけねーだろ」
俺はシロがとてもかっこ良く見えてきた。
「な、なるほどー。しかし、何でもっと早く教えてくれなかったんだよ」
「教えるも何も、普通はさっさと謝るだろ。俺っちもまさか相棒がここまで謝らないとは思わなかったわ。謝りもせずにグズグズと泣いてよー。うぜぇどころかバカじゃねーの?」
そこまで言わなくても良いのに……
「お前とアカネはホノカの性格を決めつけすぎだ。ちゃんと理由を説明し、謝るだけだよ」
「は、はーい。ありがとうございました」
俺はシロに丁寧に頭を下げ、感謝を申し上げた。
「わかったら出かけようぜ。俺は外が良い」
シロは家でゴロゴロするより、出かけたいらしい。
「まあ、いいけど。行きたい所でもあるのか?」
「別にないが、俺っちは外の世界が見たいって言っただろ」
まあ、家はいつでも居れるしな。
俺はベッドから降り、窓まで行き、外を確認した。
今日は夏らしく晴天であるが、暑そうだなとは思った。
しかし、シロの要望に答え、外に出ることにした。
「じゃあ、買い物にでも行こうかね」
「何か買いたいものでもあるのか?」
「シズルにダンジョン祭の格好を注意したけど、よく考えると、俺の格好もなかなかだなーと思って」
俺の≪知恵者の服≫は胸を強調しているうえ、左肩が露出している。
うぶな高校生には刺激が強すぎるかもしれない。
俺、かわいいし。
「まあ、お前の服も相当だからな。いいんじゃね?」
「よし、じゃあ、行くか」
俺達は協会前にある武具販売店に行き、ダンジョン祭用の服を買うことにした。
攻略のヒント
ダンジョン祭における各部門の優勝賞品は以下のとおり。
1日目 罠解除部門 lv3ポーション
2日目 アイテム回収部門 魔法袋(中古)
3日目 タイムアタック部門 安眠枕
4日目 モンスター討伐部門 天使の靴
最優秀チーム 帰還の結晶
『ダンジョン学園東京本部生徒への配布資料 ダンジョン祭について』