第052話 14階層とポーション
俺達≪魔女の森≫は13階層を突破し、14階層に到着した。
「ちーちゃん、14階層のモンスターは?」
俺はもはや担当になっているちーちゃんに14階層の出現モンスターについて聞く。
「14階層はウルフ、スケルトン、メイジアント、飛びクラゲの4種類だよ。しかも、一度に5体以上出る」
「急に難易度が上がるんだな」
「乱戦になったことを考えると、相手との相性で自分達が対峙するモンスターを決めておいたほうがいいね」
ちーちゃんは本当に勉強しているようだ。
多分、俺より詳しい。
「じゃあ、私が飛びクラゲを相手にするね」
飛びクラゲで厄介なのは麻痺になる触手だ。
しかし、飛びクラゲは鈍いため、素早いシズルは相性がいい。
「ボクはスケルトンだね」
スケルトンは特殊な攻撃はなく、脆いため、瀬能のような重戦士は相性がいい。
「じゃあ、僕と姉さんはウルフが相手かな」
ウルフは素早いうえに、毒持ちだが、魔法に弱い。
そのため、近づかれる前に魔法で倒すのが望ましい。
「私はカナタ君とチサト先輩の護衛ですかね? ピンチになったら言ってくださいね。回復しに行きますんで」
ヒーラーであるアカネちゃんは後ろで回復魔法を準備する。
もし、ちーちゃんやカナタの所にモンスターが来たら、自慢の槍で護衛か。
皆、理にかなっている。
自分の役割を良くわかっている証拠である。
しかし……
「すると、俺は?」
俺は一応、皆に確認することにした。
「メイジアントをお願いね」
「頼むよ」
「神条さんなら一撃ですよね」
「センパイは一番強いんですから、一番嫌な相手をお願いします」
やっぱり?
俺はちーちゃんを見る。
「あんた、リーダーだろ?」
はい、そうです。
結局、俺がメイジアントを相手にすることになった。
「精神力が尽きるまで、魔法を使おう」
「そんなに嫌か?」
シロが当たり前なことを聞いてくる。
「未だに、ハルバードで潰した感触が手に残っている。夢に出そうだわ」
俺がそう言うと、他の皆が嫌そうに俺を見る。
「そういうことを言わないで」
シズルが皆を代表して注意してきた。
ごめんなさい。
俺達は14階層攻略の方針が決まったので、奥に進むことにした。
俺達がダンジョンを進んでいると、俺は奥にモンスターの気配を感知した。
スルーしてーな。
「ルミナ君、奥に5体いるよ」
シズルも感知したらしい。
「お前、行くか? レベル上げしたいだろ」
「ってことは、メイジアントなのね? じゃあ、よろしく」
シズルはそう言うと、薄情にも後ろに下がっていった。
それを見た瀬能も下がっていった。
皆、薄情だなー。
「瞬殺してやる。パーンプキーン!」
俺はまだ相手が見えていないが、カボチャ爆弾を取り出した。
そして、それをメイジアントがいる奥に向かって投げた。
「食らえー!!」
俺が投げたカボチャ爆弾は奥の闇に消えた。
ドッカーン!!
そして、いつもの爆発音が聞こえてきた。
俺は≪索敵≫で生き残りがいないか探るが、いくら魔法に耐性があろうが、破壊力抜群のカボチャ爆弾なので、当然、全滅である。
「よし、魔石を拾うぞ!」
俺は後ろに逃げた連中に声をかけ、成果を拾いに行く。
「あんたがそれを使っていれば、私達は何もしなくても良さそうだね」
ちーちゃんはカボチャ爆弾の威力に呆れている。
「バカ言え。あと何回かしか使えねーよ」
ラブリーアローは燃費が良いのだが、パンプキンボムは殲滅力が高い分、精神力をものすごく使うのだ。
俺はメイジアントが残した魔石を拾い、魔法袋に入れていく。
「次はメイジアントが出ませんように」
「フラグですね」
アカネちゃんが余計なことを言う。
俺は気にしないようにし、魔石を拾い終えた。
そして、俺達はさらに奥へと進む。
奥へと進んでいると、再び、モンスターを感知した。
「くそ!」
俺は奥にいるモンスターの種類に思わず毒づく。
俺の反応を見たシズルと瀬能は何も言わずに下がっていった。
「パーンプキーン、ボーム!!」
俺はスキル名を言いながら、奥にカボチャ爆弾を投げた。
ドッカーン!
そして、爆発した。
もちろん、奥にいた5匹のメイジアントは全滅である。
「おい、小動物、もう余計なことを言うなよ!」
「はーい」
俺は後ろを向き、アカネちゃんに釘を刺しておく。
しかし、精神力がもうなくなってきている。
おそらく、パンプキンボムはあと1回しか使えないだろう。
「今日はこの階層までだな」
「まあ、あんたや瀬能はともかく、あたしらにしたら、適正階層よりも大分、上の階層だからね。このまま探索し続けたら、誰か死ぬと思う」
ちーちゃんは俺に同意し、誰かが犠牲になると予測しているが、最初に死ぬのはちーちゃんだと思う。
「適当なところで帰ろう。俺の精神力も尽きそうだし」
俺は奥に進み、メイジアントの魔石を拾う。
そして、またしばらく進んでいく。
「この先に小部屋があるね」
シズルの≪諜報≫が小部屋を見つけたらしい。
小部屋まで感知できるとは、俺の≪索敵≫と違い、便利だねー。
俺の≪索敵≫は敵しか感知できない。
「ちーちゃん、この先に小部屋があるの?」
俺は一応、ちーちゃんに確認する。
「あるよ。宝箱が良く出る小部屋だね」
ちーちゃんは地図を確認すらせずに答える。
それなのに、プチ情報まで返ってきた。
≪記憶術≫のスキルがあるとはいえ、この人の記憶力はどうなってんだ?
「だってさ。冗談だったのに、答えが返ってきたぞ」
「すごいね。私もビックリした」
シズルも驚いたようだ。
「シズル、今度のダンジョン祭では、ちーちゃんをでしゃばらすな。勧誘がうざそうだ」
俺はシズルに忠告する。
ダンジョン祭は全滅を避けるために、1人は教員かプロのエクスプローラがパーティーメンバーに入る。
そして、プロのエクスプローラの目的は自分のパーティーやクランに学生を勧誘することである。
本来ならば、学生にとってはアピールの場であるが、ちーちゃんを取られたくない俺からしたら迷惑だ。
「わかったけど、チサトさんだからねー」
「瀬能も頼むぞ」
俺は瀬能にも忠告する。
「一応、わかったけど、チサトさんは止まらないと思うぞ」
だよね。
「ちーちゃん、わかった?」
俺はシズルと瀬能では止められないと判断し、直接、ちーちゃんに忠告する。
「……覚えておくよ」
あ、これは無理だ。
俺もちーちゃんとはそこそこの付き合いなので、この反応では無理だと判断した。
この人は基本的に、でしゃばりなのだ。
「最悪は≪ヴァルキリーズ≫が担当になることだな。あいつらが一番欲しそうな人材だし」
おそらく、≪ヴァルキリーズ≫は副リーダーのショウコが来るはずだ。
そして、ショウコはシズルを狙っているため、≪魔女の森≫の担当に立候補する可能性が高い。
ショウコがウチのパーティーに当たったら、絶対、ちーちゃんに引き抜きをかけてくるだろう。
その時は戦争だな。
「あたしは≪ヴァルキリーズ≫には行かないよ」
ちーちゃんは≪魔女の森≫から移籍するつもりはないようだ。
「あいつらは強引だからなー」
「……あんたより?」
ちーちゃんはまだ、カナタを人質にしたことを根に持っているようだ。
「ごめんって。しかし、ショウコが来そうだしなー。サエコならまだしも、ショウコを殴るわけにもいかねーし」
ショウコはサエコがリーダーとして不適格な分、それを補おうと頑張っている。
俺にとって、≪ヴァルキリーズ≫のショウコとサエコは駆け出しのころの仲間だった。
サエコとはケンカばかりだったが、ショウコはパーティーメンバーの中で一番若い俺に、何かと気にかけてくれたヤツなのだ。
なので、あまり強引にはできない。
「サエコさんも殴っちゃだめでしょ」
シズルが非難してくるが、あいつが俺を殴ることの方が多い。
「めんどくさいなー。元≪正義の剣≫でウチに来たばかりのアカネちゃんは大丈夫だろうけど、シズルとちーちゃんはなー」
「大丈夫だよ。ここを離れるつもりはないから」
「私も抜けないよ」
ちーちゃんとシズルはそう言うが、心配である。
何しろ、俺は別パーティーに参加しているので、ショウコにとっては、鬼の居ぬ間になんちゃらだろう。
俺は心配だが、こればかりはどうしようもないと判断し、思考を切り替える。
「ハァ……まあいいか。じゃあ、小部屋に行くか」
俺達は会話を切り上げ、小部屋へと向かった。
小部屋の前に着き、中を≪索敵≫で探ると、モンスターの気配がした。
「ウルフが5匹いるな。ちーちゃんとカナタに任せるわ」
俺は小部屋内の様子を後ろの仲間に伝えた。
「瀬能、頼むよ」
「了解」
ちーちゃんが瀬能に盾になるよう言うと、瀬能は盾を構え、小部屋の扉を開ける。
扉を開けると、中には感知した通り、ウルフが5匹と宝箱が置いてあった。
そして、小部屋の中にいたウルフ5匹はこちらに気付き、一斉に襲い掛かってきた。
「うおぉー!!」
瀬能は襲い掛かってくるウルフに盾を構え、突っ込んだ。
ウルフは突っ込んだ瀬能に跳び掛かるが、瀬能はショートソードを取り出し、盾と剣でウルフをさばいていく。
「ファイヤー!」
「ウィンドー!」
瀬能が頑張っていると、カナタとちーちゃんは一斉に魔法を放った。
ちーちゃんが放った風魔法が一匹のウルフを切り裂き、倒す。
カナタが放った火魔法も1匹のウルフを焼き、倒す。
魔法を放った2人は再度、魔法を使うために詠唱を開始する。
2匹を倒されたことに怒った残り3匹がこちらを見て、詠唱中の2人に攻撃の照準を変えた。
「デコイ!!」
しかし、瀬能がデコイを使ったため、ウルフは強制的に瀬能に攻撃の照準を戻される。
「ファイヤー!」
「ウィンドー!」
そして、そのスキに詠唱を終えたカナタとちーちゃんが再び、魔法を放つ。
2人が放った魔法により、2匹が倒され、残り1匹となった。
最後の1匹は他の仲間がいなくなったことで動揺したのか、無意味に周囲を見渡し、逃げようとしている。
しかし、入口は俺達がふさいでいるため、逃げることができない。
そうこうしているうちに、瀬能がショートソードでウルフを切り付けた。
瀬能に切られたウルフはそのまま煙となって消えた。
「おつかれさん。瀬能、大丈夫か?」
俺はねぎらいの言葉をかけ、小部屋の中に入り、瀬能に近づいた。
「ああ、これくらいならなんとかなるよ」
とはいえ、瀬能も辛そうだ。
おそらく、毒をもらったのだろう。
そんな瀬能にアカネちゃんが近づき、ヒールとクリアヒールをかける。
「俺達の限界はこの階層だな」
俺はこのくらいの敵なら一人でも対処できるが、他のメンバーはレベル的にこの辺りが限界だろう。
「そうだね。さすがにこれを何回もやるのはキツいよ」
瀬能は弱音を吐く。
一番苦労するのはタンクである瀬能であり、瀬能が無理なら無理だ。
「今日はこの辺で帰ろう。今度からはこの14階層か前の13階層でレベル上げだな」
「まあ、君が補習をしている間にもレベル上げはしておくよ」
「頼むわ」
無理はさせたくないが、せめて、20階層には早めに行きたい。
「宝箱、開ける?」
シズルが小部屋中央にある宝箱に近づきながら、聞いてくる。
「罠は?」
「ないねー」
シズルの≪諜報≫によれば、罠はないようだ。
「じゃあ、開けていいぞ」
俺はシズルに宝箱を開ける許可を出した。
「開けるね」
シズルが宝箱を開けようとしたので、俺達も宝箱に近づいた。
「わ! なんか、液体が入った瓶があったよ」
シズルは宝箱を開けると、そう言いながら、宝箱の中に手を突っ込み、アイテムを取り出した。
シズルの手にあるのは青い液体が入った小瓶である。
「何これ? ポーション?」
シズルが俺に聞いて来るが、俺も見たことがなかった。
「俺も知らん。協会で鑑定してもらおう」
協会に頼めば、有料だが、鑑定してもらえる。
「ルミナ君が鑑定すればいいじゃん。ルミナ君、≪薬品鑑定≫を持ってたよね?」
そういえば、持っている。
魔女になった時に得たスキルだ。
これまで、使ったことがなかったので、すっかり忘れてた。
「よし、貸せ。やってみる」
「はい」
俺はシズルに手を伸ばし、謎の小瓶を要求すると、シズルは俺に小瓶を渡してきた。
「鑑定、鑑定……」
俺は鑑定したことがないので、何となく鑑定とつぶやきながら、手に持った小瓶を凝視する。
すると、頭の中に小瓶の情報が流れてきた。
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真実の水
飲んだものを正直者にするポーション。
これを飲用すると1時間は嘘をつけなくなる。
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…………なんか聞いたことないポーションが出てきた。
「どうだった?」
シズルが俺に謎の液体の詳細を聞いてくる。
「うーん、高くは売れそうだが、本部長案件だわ」
これすごいけど、マズくないだろうか?
少なくとも、俺は使われたくない。
過去のバレていない犯罪行為もバレてしまう。
「そんなにすごいの?」
「え、っと……」
これ、捨ててもいいかな?
本部長にこれを渡し、お前が飲んでみろって言われると、俺は免許を取り上げられそうだ。
「どうしたのさ?」
言いにくそうな俺にちーちゃんが聞いてくる。
「実は…………」
俺はとりあえず、このポーションの性能を伝え、意見を聞くことにした。
「ルミナちゃん、飲んでみな」
「嫌だ!」
ちーちゃんはとんでもないことを言う。
「センパイは嘘つきだから、飲んだらとんでもないことになりそうですね」
「お前が飲むか?」
「嫌ですー」
俺だって、嫌だわ!
「これ、どうする? あたし達じゃ、持て余すよ」
「だね。素直に協会に提出でいいんじゃないか?」
ちーちゃんと瀬能は協会に提出するに賛成らしい。
「神条さん、大丈夫です?」
カナタが心配して聞いてくる。
「協会の連中が俺に使おうとしたら、瓶を壊せ」
「わかりました!」
カナタは元気よく答えた。
「その発言でやましいことがあるのがモロわかりだね」
「まあ、そうでしょうねー」
ちーちゃんのするどい感づきにアカネちゃんが反応する。
「お前ら、俺が免許を取り上げられてもいいのか?」
「ダメだ、こいつ」
うっせー!
「私達に使用しないことを条件に提出でいいんじゃないですか?」
シズルが画期的な名案を提案してきた。
「それでいこう。高く売れると思うから、山分けな」
俺達はこのヤバいポーションを協会に売りつけることに決め、今日のダンジョン探索から帰還した。
ちなみに、ちーちゃんは先ほどのウルフ戦でレベルが上がったらしく、≪身体能力向上≫のスキルを取った。
どうやら、自分が魔法に偏っており、弱いことを気にしていたようだ。
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名前 斎藤チサト
レベル10→11
ジョブ 学者
スキル
≪集中lv3≫
≪エネミー鑑定lvー≫
≪空間魔法lv1≫
≪回復魔法lv2≫
≪水魔法lv1≫
≪風魔法lv1≫
≪身体能力向上lv1≫new
☆≪記憶術lvー≫
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攻略のヒント
ポーションは体を回復するだけでなく、姿を消せるポーションや髪が生えるポーションなど、様々な効果があるポーションも確認されている。
中には犯罪に使われる可能性が高いポーションもあるため、すべてのポーションは協会を通さなければならない。
しかし、協会を通さずに高値で取り引きされる闇取引が横行しており、対策が急務である。
『エクスプローラ管理対策会議 ポーションの流通について 協議録』より