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第048話 アカネちゃんの決意


 俺達は11階層を軽く探索し、モンスターを適当に狩っていた。

 

 11階層に出てくるモンスターはハイゴブリン、ゴブリンメイジ、ウルフだ。


 ハイゴブリンやゴブリンメイジは10階層までに出現するモンスターであり、俺達のパーティーにとっては、何も問題はなかった。

 そして、11階層から出現するのが、ウルフである。

 このウルフは厄介なことに毒持ちである。


 ウルフは体長1メートル程度の狼だ。

 

 当然、狼であるため、素早く、油断すると、すぐに懐に入られてしまう可能性が高い。


 探索中に何度かウルフに遭遇したが、接近する前に俺やカナタの魔法で倒したので、そこまでは問題はなかった。

 しかし、ハイゴブリンと同時に複数現れた時はさすがに瀬能がダメージを受けた。

 だからといって、ピンチになるほどではなかったが、アカネちゃんは嬉しそうにヒールを使っていた。

 

 俺達はこれまで低階層でスキル確認や腕慣らしを行っていたため、ダメージを負うことがなかった。

 ダメージを負わなければ、当然、回復魔法も使用しない。

 そのため、アカネちゃんはパーティーに加入してからは、槍で攻撃するくらいで、あまり活躍をしていなかったのだ。

 なので、ヒーラーが回復魔法で貢献できて、嬉しいのはわかる。

 

 しかし、仲間がダメージを受けて喜ぶなよとは思った。


 アカネちゃんは自分が≪フロンティア≫での存在意義がないことに気づき、活躍したくて、ウチに入った経緯がある。

 それを全員が知っているため、誰も文句は言わなかった。


 まあ、あんなに嬉しそうな表情をされると注意もしづらい。


 俺はアカネちゃんが嬉しそうなことに、良かったなと思ったところで、今回のダンジョン探索は終了にすることにした。


 そして、ダンジョンから帰還後、受付を待っている間に報酬の確認をすることにした。

 

「これからはこの6人で活動する。報酬はポーションなんかの必要経費を差し引いた均等割にしようと思う。なんか要望はあるか?」


 俺は受付フロアのソファーに座っている女子3人に話しかける。

 

「特にないね」

「私もですー」

「私も」


 女子達は特に不満はないようだ。


「カナタは?」


 続いて、弟子のカナタにも確認する。


「神条さん達と同じで良いんですか? 僕は神条さん達と比べると、弱いし、貢献できませんよ?」

「かまわん。今回の探索で言えば、一番モンスターを倒したのはお前だ。しかし、お前の力だけでないことはわかるだろう?」

「はい。ボクだけなら一体も倒せなかったと思います」

「パーティーは誰もが貢献してる。その貢献度は数値化できないし、俺の独断で決めると、不満が出る。こういうのは均等割りするのが一番だ。それが一番揉めない」

「わかりました」


 まあ、均等割りでも、揉めるんだが、このメンバーなら大丈夫だろ。


「お前は何か要望があるか? 聞くだけなら聞いてやるぞ」


 俺は今日が初めてである瀬能にも確認する。


 実を言うと、報酬で一番揉めやすいのはタンクである。

 一番、痛い思いをするからだ。

 

「特にないよ。リーダーに従う」

「ないの? 報酬を多くしてくれって、言うかと思ったが」


 意外だ。

 

「言わないよ。ボクは君の元で勉強がしたいんだ。君のやり方を見ているから好きにしてくれ。それを見て、ボクがパーティーやクランを作る時の参考にするつもり」

「そうか。じゃあ、教えてやる。俺は前衛ばかりのクラン≪ファイターズ≫にいた。その時に教えて貰ったが、前衛があまり危ない目に遭っていない後衛を批判すると、すぐにパーティーは崩壊するぞ」


 ≪ファイターズ≫はそうやって追い出された前衛も多く所属していたのだ。

 そいつらが東城さんに諭されるのを聞いたことがある。


「なるほどね」

「ちーちゃんに聞いてみろ。ちーちゃんこそ前衛に頼りきりのザ・後衛だ」

「あんた、言い方が悪いよ。でも、確かに、批判されると腹立つね。こっちだって、魔法で攻撃や回復をして、貢献してんだからね」


 ちーちゃんは俺達の会話を聞いてたらしい。

 目の前にいるんだから当たり前か……

 

「別に批判するつもりもなく、聞くんだが、前衛の方がダメージを受けることについては、どう思ってるんだ?」

「仕方がないとしか思えないよ。それがあんたらの仕事。あたし達は後ろで援護することが仕事。それが嫌なら前衛だけでパーティーを組めばいい」


 ちーちゃんらしい考えだな。

 しかし、俺が言うのもなんだが、相変わらず、トゲトゲしい人だなー。

 

「確かにそうだね。すまない。別に後衛批判をするつもりではないんだ」

「わかってるよ。あんたはリーダーになりたいんだろ? だったら、公平な目でパーティーを見るんだね」

「参考になるよ」


 瀬能も納得したらしい。

 

「まあ、この考えだけが正解じゃないし、お前はお前の考えでリーダーやれよ。ただ、パーティーメンバーを差別するのはダメだぞ。嫌いなヤツをクビにしたりすると、すぐに掲示板で叩かれる」


 そして、悪評が広まり、誰もパーティーに入ってくれなくなるのだ。

 怖いねー。

 

「わかってるよ。それだけはしない」

  

『ピーンポーン。お待たせしました。受付番号18番の方、7番の窓口にお越しください』


 俺達が報酬やパーティーの貢献度について話していると、俺達の順番になったらしく、いつもの無機質な機械音が聞こえてきた。


「よし、俺らの番だ。――マイちーん、ただいまー」


 俺は他のメンバーを放っておき、さっさとマイちんの所に向かった。


「彼、さっきは良いこと言ってたけど、彼自身は結構、差別的じゃない?」

「自分を絶賛するシズルやカナタと、文句を言うあたしやアカネとの対応の差を見ればわかるだろ。あいつを真似しちゃダメだよ」

「大丈夫。反面教師としても見てるから」


 おい、聞こえてんぞ!


 その日は報酬を貰い、均等割りしたところで解散にした。




 ◆◇◆


 


 翌日、俺達≪魔女の森≫は昼休みに集まり、ダンジョン祭に参加するために職員室に集まった。


「すみませーん。ダンジョン祭に参加希望なんですけどー」


 俺はパーティーリーダーらしく、先頭で職員室に入り、近くにいたメガネをかけた年配のおばさんに声をかけた。


「はいはい。ちょっと待ってね。担当は伊藤先生だから――」


 伊藤先生は俺とシズルのクラスの担任である。


 伊藤先生が担当なのかよ。

 ……知らなかった。


 俺はシズルの方を向き、確認する。


「前に言ってたじゃん。聞いてなかったの?」

「うん。聞いてなかった」


 興味がなかったもので……

 すみません。


「待たせたな……って、なんだ、神条か……お前もダンジョン祭に参加するのか?」


 俺がシズルの方を向いていると、後ろから声が聞こえてきた。

 振り向くと、伊藤先生がいる。


「どうもです。俺は批判が怖いので、参加しません。ウチのパーティーから4人ほど参加希望です」

「それが正解だ。お前もプロなら大人しくしてろ。それで? 後ろのヤツらか? 5人いるが……」


 この場には参加しない予定のアカネちゃんもいる。

 参加はしないけど、ハブは嫌だそうだ。


「参加するのは2年の斎藤さんと瀬能さん、それと中等部3年の斎藤カナタ君です。あとシズル」

「中等部も参加か。まあ、姉の方もいるし、いいか。そっちの女子は不参加だな?」

「そうでーす」


 伊藤先生の問いかけにアカネちゃんが元気良く答えた。

 

「なるほど。≪フロンティア≫を抜けたから気まずいのか…………神条もか?」

 

 詳しいね。

 まあ、教師だし、知っているか……


「姉と妹にこれ以上嫌われたくないでーす」

「ホノカちゃんが怖いでーす」


 俺とアカネちゃんのダメコンビが答える。


「……事情は聞いているが、早めに仲直りしろよ」

「「したいでーす」」

「ハァ……教えておいてやる。今回のダンジョン祭で≪フロンティア≫は打倒≪魔女の森≫らしいぞ」

「「え!?」」


 何故に?

 アカネちゃんのせいか!


「何でですかー!?」

「今年の優勝候補は≪フロンティア≫と1組の江崎ハヤト率いる≪勇者パーティー≫だ。だが、お前らが参加すれば、お前らが優勝候補筆頭になる。何せ、神条がいるからな。柊のこともあるだろうが、当然、ライバル視されるだろ。まあ、神条妹は完全に私怨のようだったが」


 ホノカって、そんなに怒ってるの?

 シズルやカナタには悪いが、参加は取り止めにしてもらおうかなー。


 ってか、ハヤト君、パーティー名を≪勇者パーティー≫にしたんだ……

 なぜ、ハヤト君は嫌がっているのに、勇者街道を突き進むのだろうか?


「あのー、やっぱり参加は取り止めになりません?」


 アカネちゃんはバツが悪そうに、後ろの4人に問いかける。

 気持ちはすごいわかる。


「柊、本当に神条妹と仲直りしたいなら、お前も参加しろ。参加して、自分は≪魔女の森≫でやるんだっていう決意を見せろ。じゃないと、いつまでも嫌われたままだぞ」


 伊藤先生は教師らしいことを言っている。


 そうかもしれないけど、その場合は俺だけが嫌われたままになるんですけど……


「で、でも、」

「でも、じゃない! 神条妹はお前に捨てられたと思ってるぞ」


 アカネちゃんとホノカは小さい頃から仲良しだった。

 

 気の小さいアカネちゃんを気の強いホノカが引っ張っていたのだ。

 そして、ホノカに誘われる形でダンジョン学園に入学し、同じパーティーに入った。


 それなのに、急にパーティーを抜け、しかも、移籍した先は兄のパーティーである。


 納得は出来ないだろう。

 

 お姉ちゃんには気づかれたが、ホノカにもアカネちゃんがパーティーを抜けた理由を説明したほうが良いように思えてきた。


 しかし、その場合に責められるのは、おそらく、俺である。


 どうしよう?

 俺だけが嫌われたままなのは嫌だ。

 でも、アカネちゃんが可哀想とは思う。

 うーん……


「アカネさん、参加したら? ホノカさんに言いづらいのなら参加して、頑張ってる姿を見せたらどう?」


 カナタがまさかの賛成にまわった。

 

 これはマズい流れだ。


「そうだね。アカネちゃん、参加したら?」


 シズルもカナタに追随する。

 こいつはそう言うだろうな。

 良い子ちゃんだし。


「≪フロンティア≫と決別する意思を見せつけなよ」


 ちーちゃんは少々、攻撃的な意見だが、やはり賛成のようだ。


「ボクも参加したほうがいいと思うよ。結果はともかく、良いとこを見せなよ」


 瀬能もか……

 これで俺以外は全員賛成らしい。


 皆に参加を勧められたアカネちゃんが上目遣いで俺を見てくる。

 というか、伊藤先生を含めて、全員がパーティーリーダーの俺を見ている。


 反対しづらい……

 反対したらマズいのはわかる。

 しかし、このままでは、俺だけがホノカに嫌われたままになる。

 

 嫌だ!


「アカネちゃん、参加しなよ。あいつはバカだけど、わかってくれると思う」

「わ、わかりました! 私も参加します。そして、≪フロンティア≫に勝ちます!」


 俺が内心とは逆に参加するように促すと、アカネちゃんが拳を握りながら、勝利宣言をした。

 

「アカネちゃん、その意気だよ」

「アカネさん、頑張ろうね」


 シズルとカナタはアカネちゃんの決意が嬉しいようで、優しく声をかけている。

 

「これで5人になったね。ルミナちゃんが出ないから≪フロンティア≫に勝てるかは、わからないけど、頑張ってみよっか」

「だね。少なくとも、柊さんには活躍して貰わないと」


 やる気がなかった先輩2人もアカネちゃんのために頑張るようだ。


 俺以外の全員が決意を固めたアカネちゃんに頷きながら肯定している。


 イイハナシだなー。


 

 ハァ……


 

 結局、俺を除いた5人でダンジョン祭に参加することになった。

 出場種目はモンスター狩りと6階層までのタイムアタックの2種目である。


 なんかすごい疎外感を感じる。




 

攻略のヒント

 東京本部のダンジョン祭は4日間にかけて行われる。

 

 1日目 罠解除

 2日目 アイテム回収

 3日目 タイムアタック

 4日目 モンスター討伐

 

 各分野で優勝したパーティーには賞品が授与される。


 参加希望のパーティーは伊藤先生のところに申請するように。


『ダンジョン学園東京本部生徒への配布資料 ダンジョン祭について』

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