第047話 タンクの力
シズル、ちーちゃん、カナタ、瀬能の4人がダンジョン祭に参加することが決まったようなので、俺達はダンジョンへと向かうことにした。
ダンジョンに着くと、シズルと俺はいつも通り、空間魔法の早着替えで装備に着替える。
そこで俺は気づいた。
「シズル、お前、ダンジョン祭にその恰好で参加するのか? ダンジョン祭は他の学生もいっぱいいるぞ」
「あー、どうしようかな?」
「違う装備にしたら? どうせ防具なんかあまりいらないと思うぞ」
ダンジョン祭は低階層だし、シズルのスピードなら当たらんだろ。
「じゃあ、そうしようかな」
そうしろ。
お前は扇情的すぎる。
俺はシズルの格好を注意すると、他のパーティーメンバーを見る。
「それでどうする? ボス部屋に行くって、言ったけど、ダンジョン祭のために、お前らの練習でもいいぞ」
俺はダンジョン祭に参加するのならそっち優先でもいいかと思い、尋ねた。
「いや、ボス部屋に行こう。君達はオーク相手に苦労するメンツでもないだろうし、奥に行って、レベルを上げたほうが効率的だ」
「じゃあ、そうするか。瀬能のスキルを見せてくれ」
「いいよ」
瀬能はそう言って、俺達にステータスを見せてくれた。
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名前 瀬能レン
レベル13
ジョブ 重戦士
スキル
≪身体能力向上lv2≫
≪デコイlvー≫
≪鉄壁lv4≫
≪怪力v1≫
☆≪痛覚耐性lvー≫
≪空間魔法lv2≫
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「おおー、強そうですー」
「タンクって、感じですね。すごいなー」
「まあまあ、かな」
後輩共は本当に素直でかわいいな。
ちーちゃんにも、この純粋さを分けてあげたい。
「空間魔法がありますね」
「色んな防具を持っているからね。タンクは早着替えが必須なんだよ」
シズルは同士を見つけて喜んでいる。
本当に空間魔法が好きだなー。
その後、俺達のスキルも瀬能に見せ、お互いのスキル確認を終えた。
「これならボス部屋も余裕そうだな」
「まあ、ボクは何回か倒してるから大丈夫だよ」
瀬能はボス部屋を経験しているようだ。
「そういえば、お前らはボス部屋に行ったことあるのか?」
シズルはもちろん俺と行ったことがあるが、他のヤツらはどうなんだろう?
「あたしは1回だけだね」
「僕も1回ですね。まあ、見学だけですけど」
カナタは立花達と一緒に行った時だろうな。
「私は≪フロンティア≫で何回かありますよ。例によって、何もしてませんが……」
アカネちゃんはこれから頑張ってもらうんだから落ち込むなって……
「貢献度はともかく、全員が行ったことはあるわけだな。じゃあ、説明はいらんか。ちーちゃん、後衛は任したわ」
「了解」
ちーちゃんがいると、楽だわー。
「シズル、瀬能。俺はレッドゴブリンを倒したら、適当に遊んでるから」
「まあ、それでいいよ。ボクがデコイでゴブリン達を集めるよ。雨宮さんは遊撃でいいかい?」
瀬能はシズルにも確認する。
「はい。投擲を当てないように気をつけます」
「あまりに気にしなくてもいいよ。タンクにはどうせ味方の攻撃も当たる。ただし、忍法なんかの威力が高いのを使う時は教えてくれよ。さすがに死ぬ」
「わかりました」
「神条も頼むよ。君の一撃はヤバそうだし」
「わかってるよ。俺が攻撃する時は基本的にお前より前に出る。魔法を使う時はシズル同様に指示する」
特にパンプキンボムはヤバいだろ。
「それで頼む。後衛は大丈夫なのか?」
「ちーちゃんがついてるから大丈夫だ。弱いけど、判断能力に優れた人だ。瀬能、お前も俺と同様に前衛だ。リーダーをやりたいなら、ちーちゃんみたいな後衛を任せられる人間が必要だぞ」
前衛はどうしてもパーティー全体が見えないからだ。
特にパーティー内に経験の浅いヤツがいると、ちーちゃんみたいな人材が重要になる。
「そのようだね。しかし、ああいうエクスプローラは貴重だから、中々見つからないんだよな。前途多難だ」
「あげないぞ」
「わかってるよ」
タンクがリーダーをやるのは難しいだろうからな。
まあ、お前は高い志のために頑張ってくれ。
「ルミナちゃん、こっちは終わってけど、そっちは?」
どうやら後衛の確認は終わったらしく、ちーちゃんがこっちにやってきた。
「こっちも終わった。瀬能がタンク、シズルが遊撃だ。瀬能は今日が初日だから、なるべくフレンドリーファイアーは避けてくれ」
「わかってるよ。じゃあ、行く?」
「そうだな。よし! 行くぞ! お前ら、ついてこい!」
俺はパーティーに気合いを入れ、10階層のボス部屋へと向かった。
ちなみに、やっぱり掛け声は揃わなかった。
もう、やめようかな?
◆◇◆
俺達はその後、適当にモンスターを狩りながら10階層のボス部屋へとやってきた。
道中に何度かモンスターと戦闘になったのだが、危なげもなく、倒すことができた。
タンクである瀬能が加わったことにより、パーティーが以前よりグッと安定したからだ。
瀬能は前評判通りの優秀なエクスプローラだった。
低階層の雑魚モンスターとはいえ、オークなどの巨体モンスターに対しても、決して、後ろに行かせなかった。
俺達もそんな瀬能を見て、安心して攻撃することができたのだ。
特に近接戦闘を苦手とする後衛連中(特にちーちゃん)は、以前よりもスムーズに魔法を放つことができ、余裕を持って、10階層までやってこれた。
前衛2人、遊撃1人、後衛3人か……
特化型が多いが、バランスのとれたパーティーができたな。
あとはダンジョンを攻略しながら、個人のレベル上げと連携強化をすれば、20階層以降も行けそうだ。
東京本部に来てからというもの、低階層ばかりだったから、不満だったんだよなー。
俺はレベル24であり、適正階層は20階層以降なのだ。
他の連中に合わせる必要があったため、雑魚狩りばかりだったのは、正直、欲求不満である。
『ズメイや立花がいたじゃねーか』
物事には、限度っていうものがあるわ!
あんな化物とはやりたくない。
俺は適度に強い相手に勝ち、称賛されるのが好きなのだ。
そういう意味では、10階層のボスであるレッドゴブリンは良い感じかもしれん。
俺にとっては絶対に負けない相手だが、十分に強い敵だ。
さて、華麗に倒し、称賛を得るとしよう。
「10階層についたな。カナタ、アカネちゃん、無理はせず、ちーちゃんの指示通りに動け。怖くなったら逃げてもいいぞ」
「大丈夫ですよ。皆さん、頼りになりますし、神条さんがいれば、怖くないです」
「私も大丈夫でーす。センパイがレッドゴブリンを倒してくれるなら、あとはゴブリン軍団だけですしー」
後輩2人も大丈夫そうだな。
「じゃあ、行くか」
俺達はボス部屋に入っていった。
ボス部屋に入ると、毎度お馴染みレッドゴブリン君が部屋の真ん中に座っている。
この前はサエコのバカが俺に見せ場を与えず、倒してしまったが、今日は違う。
俺達がレッドゴブリンに近づくと、レッドゴブリンが立ち上がった。
そして、奥から大量のゴブリン達が現れた。
「行くぞ! ラブリーアロー!!」
俺はレッドゴブリンに魔法を放った。
俺のラブリーアローがレッドゴブリンの右足に命中すると、レッドゴブリンは叫び声をあげながら膝をつく。
そして、俺はそんなレッドゴブリンにダッシュで近づくと、ハルバードをレッドゴブリンの脳天に叩き込んだ。
レッドゴブリンは今度は叫び声をあげることもできずに倒れ、煙となって消えた。
俺、つえー!
俺はレッドゴブリンを瞬殺すると、ゴブリン軍団やパーティーメンバーから距離をとった。
ゴブリン軍団がパーティーメンバーに襲いかかろうと走って近づくと、瀬能がデコイを使った。
瀬能はデコイを使ったあと、1メートルくらいある盾を片手で持ち、デコイによって、集まってきたゴブリンをシールドバッシュで押し戻している。
その隙にシズルや後衛のちーちゃん達がゴブリンに攻撃を開始した。
シズルは投げナイフを投擲したり、相手の隙を見ては近づき、短剣で確実にゴブリンの急所をつき、倒している。
ちーちゃんやカナタは魔法を使い、アカネちゃんは槍で攻撃している。
ゴブリンの数はあっという間に減っていき、最後の一体は瀬能が剣で切り裂き、煙となって、消えた。
「ふぅ。お疲れさま」
「お前、すげーな」
瀬能は息を吐き、仲間を労った。
俺はそんな瀬能に近づいて声をかけた。
「そうかい? そう言って貰えると嬉しいよ」
「ああ、2年のツートップって言われてるのもわかるわ」
「ありがとう。君の方こそ、本当にレッドゴブリンを一撃だったね。さすがに二つ名持ちのプロは違う」
「ありがとよ。これからも頼むわ」
「任せておいてくれ」
俺は瀬能と握手する。
「しかし、お前らだけでも十分にやれるじゃん。ここからアカネちゃんが抜けたとしても、優勝できるんじゃねーの? それくらいの力はあると思うぞ」
このメンツならプロでも通じるくらいの実力はあると思う。
「難しいよ。それくらいに≪フロンティア≫は圧倒的なんだ」
「ちょっと信じられん」
「君はお姉さんや妹さんとダンジョンに行ったことないのか?」
「ないね」
「1度、ダンジョンで彼女達を見るといい。あれこそチートだ」
そんなにすごいんだろうか?
普段の2人しか知らないから、とても信じられない。
「そんなことより、これからどうするのさ? 11階層に行く?」
ちーちゃんが聞いてくる。
「時間もあるし、少し、覗いて行くか」
俺達はアイテムや魔石を回収すると、11階層に向かった。
11階層はこれまでの洞窟系ダンジョンから遺跡系ダンジョンに変わる。
通路の広さ自体は変わらないが、これまでの岩肌が剥き出しの洞窟とは違い、レンガが積まれた構造になっている。
そして、ここからは出てくるモンスターの種類が変わる。
これまではオークやゴブリンが中心であったが、11階層以降は魔法を使うモンスターや毒持ちなど、状態異常にしてくるモンスターが出てくる。
これまでとは格段に難易度が異なるのだ。
「ここから先はこれまでとは違い、無傷で突破は無理だ。ようやくアカネちゃんが活躍できるな」
「やっとですー。これまで皆さんが怪我しないから、暇で困ってましたよ。皆さん、じゃんじゃん怪我してくださいね」
「頼りにしてるよ」
瀬能はアカネちゃんの言葉に苦笑する。
「お前らに状態異常を回復できるレベル3のポーションを渡しておく。いっぱいあるから遠慮なく使え」
「いいのか? 安くはないだろう?」
「俺は元々、状態異常に弱いグラディエーターだったから、たくさん持ってるんだ。今は状態異常に強い魔女だし、俺は使わない」
川崎支部にいたころのパーティーは全員が前衛タイプだったので、ポーションはいくらでもストックがあるのだ。
今思うと、ひどいパーティー構成である。
「じゃあ、貰っておくよ。ボクは状態異常に弱いからね」
俺はアイテムボックスからレベル3のポーションを取り出し、瀬能に渡す。
瀬能もアイテムボックスを持っているため、すぐに収納した。
「ちーちゃん、アカネちゃん。お前らは瀬能が状態異常で動けなくなったら、すぐに治せ。前衛では瀬能が最優先だ」
「わかった」
「了解ですー」
タンクは一番攻撃を受けるので、状態異常にもなりやすいのだ。
そして、タンクがいなくなると、後衛がピンチになる。
ウチのパーティーはバランスが取れているが、特化型が多い。
つまり、誰かを失った時に崩れやすいということである。
その最たる者がタンクなのだ。
「よし、じゃあ、軽く探索してから帰ろう」
俺は探索を始めようと歩きだした。
「あれ? いつもの掛け声は?」
シズルが疑問に思ったらしく、聞いてきた。
だって、お前ら、揃えてくれねーじゃん。
攻略のヒント
状態異常には、毒、麻痺、眠りなどがある。
これらの状態異常は≪ポーションlv3≫か≪回復魔法lv2≫のクリアヒールで治すことができる。
『はじまりの言葉』より