第039話 パーティー名なんてどうでもよくね?
実家でアカネちゃんを巡る修羅場を終えた後、アカネちゃんと別れ、家に帰った。
そして、翌日、俺は学校を休んでいた。
「なあ、相棒、大丈夫か?」
ベッドで伏せている俺の枕元にいるシロが心配そうに聞いてくる。
「シロ、今まで世話になったな……俺はもうダメだ」
「相棒ぅ、妹に嫌われたくらいで死ぬなよぅ……」
「シロ、カミソリを持ってないか?」
「持ってるわけねーだろ。どうやって持つんだよ」
ですよねー。
「ああ……風呂場にあるカミソリを持ってきてくれ」
「あれで切らないほうがいいんじゃね?」
確かに、あれは特殊なカミソリだし、なんか嫌だな。
「…………それもそうだな。じゃあ、ロープ、持ってね?」
「持ってるわけねーだろ。俺っちがロープみたいなもんだろ」
「…………先にネタをつぶすなよ」
せっかく、じゃあ、お前がロープの代わりになってくれって言おうと思ってたのに。
「相棒、姉と妹のことはあまり気にするな。いずれ分かってくれるさ」
「だと良いな」
このまま、一生嫌われたらどうしよう?
ウッ! 気分が……
「シロ、今まで世話になったな……俺はもうダメだ」
「お前、それ何回目だ? いい加減、飽きたぞ」
ひどい。
もう、一生、このまま女で過ごそうかな?
そしたらアカネちゃんを≪フロンティア≫に返し、姉妹とも仲直りできる。
俺、天才じゃね?
『お前が女のままでもアカネは≪フロンティア≫に帰らねーよ。覆水盆に返らずって知ってるか?』
目の前にいるのに念話してくんな!
あと、お前、実は俺より頭が良いだろ。
「携帯貸せ」
「いいけど、何すんだ?」
お前には手がないぞ。
「援軍を呼ぶ」
「誰だよ?」
「いいから貸せ」
「テーブルの上にあるだろ。勝手に使え。俺は寝る」
どうでもいいけど、どうやって使うんだ?
俺は気になってシロを観察することにした。
シロはベッドから降りると、テーブルの脚をつたい、テーブルの上の携帯まで到着した。
シロが携帯をジッと見ているかと思ったら携帯の電源がついた。
ん!?
そして、シロが見ているだけで携帯が勝手に操作されている。
「お前、どうやって、携帯を動かしてんだ?」
「念力」
「マジで!? スゲー!」
「いいから寝てろ」
はーい、おやすみなさい。
「……で……ル……」
何か聞こえる。
誰?
俺は意識を覚醒され、起き上がると、そこにはちーちゃんがいた。
「おはよう、ルミナちゃん」
「何だ、ちーちゃんか……」
ちーちゃんはいつものパンクスタイルである。
おそらく学校帰りだろう。
「シズルじゃなくてごめんね。あんた、ひどい顔してるよ」
「どうせ、ブサイクだよ……」
俺はちーちゃんに塩対応で返事を返す。
「重症だね。いつもならこんなに可愛いのに、とか言うのに」
「昨日からこんな感じだ。ずっとベッドでウジウジと泣いてる」
シロが呆れたようにちーちゃんに告げる。
「泣いてねーよ」
「そんなに目を腫らして何、言ってんの?」
「これは生まれつきだよ」
生まれつき、出目金なんだよ。
「ダメだ。完全に精神が死んでる」
「相棒は普段は強い言葉を言うくせにメンタル弱いからなー」
ちーちゃんとシロはため息を吐きながら呆れている。
「で? 何しに来たんだ? ダンジョンなら行かねーぞ」
とてもそんな気分にはなれない。
「わかってるよ。今のあんたを連れていってもすぐに死にそうだわ。今日はあんたのお見舞いに来たんだよ。で? 大丈夫?」
「大丈夫に見えるか? ってか、何でウチを知っているの?」
「シズルに教えてもらったんだよ」
プライバシーの侵害だな。
「あっそ。シズルは? ちーちゃんに家を教えておいて自分は来ないのか?」
なんて薄情なヤツなんだ。
今度から冷血女と呼ぼう。
「シズルはお見舞いのために買い物に行ってる。何か作るんだってさ」
なんて親切なヤツなんだ。
今度から熱血女……は違うか。
「中等部組は?」
「あの子達は実習だから来ないよ。そんな事よりシャワーでも浴びてきなよ。そんな顔でシズルに会うのかい?」
「ハァ……ちーちゃん、冷蔵庫にあるもん、適当に飲んでて」
俺はノロノロと立ち上がり、風呂場に向かう。
洗面台の鏡を見ると、確かに、ブサイクな金髪女が死んだ表情を浮かべている。
俺は服を脱ぎ、シャワーを浴びることにした。
シャワーを軽く浴び、バスタオルで体を拭くと、そのバスタオルを体に巻き、頭をタオルでターバンのようにし、部屋に戻る。
「あ、ルミナ君、お邪魔してます。大丈夫?」
いつの間にかシズルも来たらしい。
「ああ、シズルか。いらっしゃい。全然、大丈夫」
俺は手をヒラヒラと振り、大丈夫アピールをした。
「大丈夫じゃなさそうだね」
「そんなことないよー」
「ダメだ、こりゃ」
シズルまで呆れている。
俺はシズルと話しながら、髪を乾かすために鏡台(買った)の前に座った。
そして、化粧水で顔をケアし、ドライヤーで髪を乾かす。
「…………ルミナちゃん、完全に女だね」
「すごい。違和感がまったくない」
「うるせーな。お姉ちゃんがやれっ、て…………シクシク」
……お姉ちゃん。
「いい加減、うざくなってきたなー」
「泣き方が完全に男に捨てられた女だ」
「ずっとこんな感じ?」
シズルが俺を指差しながらシロに聞いた。
「そう。もうめんどくさいからお前らを呼んだ」
お前ら、帰れよ。
俺は髪を乾かし終えたので服を着る。
「下着の付け方も慣れてる……」
「ちーちゃん、帰れ」
こいつ、さっきからうるさい。
「ゴメン、ゴメン」
「ハァ……」
「それで、アカネはウチのパーティーに入るのかい?」
「まあ、入ることにはなったよ。妹には嫌われ、姉は落ち込んでしまったがな」
マジで修羅場だったな。
「ま、まあ、時間が解決すると思うよ。でも、これで5人だね。パーティーはあと1人、入れるけど、どうするの?」
シズルは根拠のない慰めをしてくれる。
「残り1人で欲しいのは前衛だ。出来れば、タンクがいい」
「そうだね。シズルもルミナちゃんも攻撃寄りだから、防御に長けたヤツが必要かな」
ちーちゃんはこの前まで野良エクスプローラだったくせに詳しいな。
「ちーちゃん、当てはない?」
「ないね」
使えねー。
「シズルは?」
「ないねー」
使えねー。
「ルミナちゃんは?」
………………。
「ないな。まあ、急がなくてもいいか。当面は5人で活動する」
これから11階層以降に行くが、この辺なら5人でも問題はない。
「わかった。一応、こっちでも探してみるよ」
「あたしも探してはみるよ。期待はしないでね」
大丈夫。
まったく期待してないから。
「今度、他の2人も連れて、自己紹介を兼ねたスキル確認をするか」
「そうだね。特殊なスキルを持ってる人がいるし」
「お前か?」
俺はちーちゃんの言葉を聞いて、シズルを見た。
「魔女っ娘ルミナちゃんのことだよ」
「お前の忍法も相当だぞ」
俺とシズルは変人枠を押し付け合う。
「あんたら2人共だよ。その辺や役割なんかも決めておこうか。ところで、協会にパーティー申請する?」
あー、したほうがいいかね?
「どっちがいい? 俺はどっちでもいいぞ」
俺はシズルに確認することにした。
「私はあまり詳しくないけど、申請すると良いことあるの?」
「そんなにない。他のパーティーと揉めた時に協会が介入してくれるから便利くらいか? まあ、あとは俺がCランクだからその恩恵をお前らも受けれるくらいだな」
「それって、大きいメリットじゃん」
「Cランクのメリットって、たいしたことないぞ。待ち時間がないとか、アイテムの優先売買権とかだ。これも俺がやればいいだけだ」
パーティーメンバーの誰かが珍しいものを買いたいのならば俺が買えばいいだけだ。
まあ、パーティーを抜ける時にアイテムの所有権で揉めるがね。
「うーん、申請することで、デメリットでもあるの?」
「さっき、他のパーティーと揉めた時に協会が介入してくるって言っただろ。単純に邪魔。もっとシンプルに解決できるのに」
殴ればいい。
「パーティーを協会に申請します。これは副リーダーによる決定です」
「賛成」
2人は俺の言葉で申請することに決めたようだ。
「いや、別に反対はしてないぞ。じゃあ、今度、協会に行く時に申請するか」
「パーティー名はどうすんのさ?」
パーティー名ねぇ……
「≪デンジャラスキラーズ≫はどう? カッコよくない?」
俺は素晴らしいパーティー名を思いついたので言ってみた。
「嫌」
「ルミナちゃん、それはない」
カッコいいと思うがねー。
「じゃあ、≪ワイルドハンターズ≫は?」
「野蛮な名前ばっかだね」
「前から思ってたけど、ルミナ君って、横文字好きだよね? もっと良いのないの?」
もう思い付かない。
「お前らは何かねーの?」
「シンプルに≪冒険者たち≫は?」
「シンプルすぎるわ!」
そんな歌がなかったか?
お前、元歌手だろ。
「こういうのはパーティーの理念や目的、もしくは、リーダーから取るもんだよ」
何故か詳しいちーちゃんが補足説明してきた。
そういえば、≪正義の剣≫や≪ヴァルキリーズ≫はそんな感じだな。
「じゃあ、≪男に戻り隊≫!」
「それはルミナちゃんだけだろ」
「私達が変な目で見られるよ。≪独裁政治≫は?」
「それは俺が変な目で見られるわ!」
シズルも相当ネーミングセンスないな。
あと、お前の中の俺がひどすぎる。
アカネちゃんの想像するDV男になってやろうか?
「チサトが決めろ。相棒もシズルもダメだわ」
「チサトさん、お願いします」
「わかった。まあ、あんたらの案はあたしも嫌だからね。うーん、≪魔女の森≫は? あんた、魔女だし」
「まあ、良いんじゃね?」
「俺らの案よりは良いか」
トイレットペーパーみたいだけど。
「じゃあ、それにしますか。この名前ならルミナ君のパーティーって、すぐに分かるし」
確かに、今のところ≪魔女≫は俺だけだ。
俺のパーティーって分かれば、ウチの女性陣が変な男に絡まれることもない。
「じゃあ、≪魔女の森≫に決定!」
「ところで、カナタ君とアカネちゃんには聞かなくてもいいの?」
「カナタは俺の意見に従う。アカネちゃんはスイーツな名前にする。聞いても無駄だ」
アカネちゃんは絶対に甘い感じな名前を言う。
そんなパーティー名、イヤだわ。
「確かに、そんな感じがするね。それで? いつ協会に行くの?」
シズルは納得したようだ。
そして、パーティー始動時期を聞いてきた。
「っていうか、いつ行けるのさ?」
「ちょっと待って。心の整理をするから」
1ヶ月くらいかな?
「相棒、早く行け」
「シズル、このシスコンを何とかしろ」
「ねぇ、早くに男に戻りたいんじゃないの? 私、ルミナ君の男の時の姿を忘れそうなんだけど」
え!?
あんなにカッコよく、お前を指導してやった恩人を忘れるの!?
「男の相棒とシズルの付き合いは数日だろ? 相棒が女になって、もう3ヶ月くらいになる。そりゃ忘れる」
「あたしは男のあんたを知らないけど、今のあんたはインパクトが強すぎるよ」
ガーン!
俺はショックを受ける。
確かに、俺はシズルを指導し始めて、2日後には女になっており、女になってからの付き合いのほうがはるかに長い。
俺がいくらカッコよかろうが、忘れるのもわかる。
俺はシズルの言葉を聞いて、焦ってきた。
このままではマズイ!
アカネちゃんの予想通り、シズルが不幸な人生を歩んでしまう!!
「よし! 明日の放課後、協会に集合な!」
俺はやる気を取り戻した。
「わかった。カナタとアカネにはあたしが連絡しておくよ」
「私も明日でいいけど、何で哀れんだ目で私を見るの?」
シズルは怪訝な表情をしている。
「シズル、俺がお前を救ってやるからな」
「この人、何、言ってるの?」
「くだらないことだ。気にするな」
「そう? ちょっと気になるけど、まあ、いいや。ルミナ君、ご飯、食べれる? うどん作ろうか?」
こいつは本当に優しいなー。
ダメだ、アカネちゃんのせいで、シズルの優しさがダメンズウォーカーとしか思えなくなってきた。
「悪い、頼むわ」
「じゃあ、あたしは帰るよ」
ちーちゃんは立ち上がり、帰ろうとする。
「チサトさんも良かったら食べませんか?」
「いいの?」
「はい。せっかくですし、皆で食べましょう」
この後、シズルが作ったうどんを3人で食べ、お開きとなった。
ちなみに、シロはうどんを食べず、ゆで卵を食べていた。
どうでもいいか…………
攻略のヒント
大手クランである≪正義の剣≫、≪ヴァルキリーズ≫、≪マギナイト≫、≪ファイターズ≫などはクラン名でもあるが、パーティー名でもある。
これらのクランはパーティーが大きくなって、クランになったためである。
『週刊エクスプローラ クラン名について』