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第029話 ちーちゃんの過去


 思わぬところでパーティーメンバーを加える事に成功した俺は、アカネちゃんにカナタの事を聞くことにした。


「アカネちゃんは斎藤カナタって知ってる?」

「カナタ君ですか? 知ってますよ~。同じクラスです」


 おおー。

 アカネちゃんを仲間にして良かったわ。


「マジで? そいつがパーティーに誘っている人の弟なんだわ。そいつに話を聞きたくて中等部に来たんだよ」

「なるほど~。カナタ君、まだ残ってたから教室に行きましょうか」


 アカネちゃんはさっきまでの落ち込みようが嘘のように元気になっている。


 良かったけど、俺はお姉ちゃんにホノカ、そして、≪フロンティア≫のリーダーに話をつけないといけない。

 あ、一応、≪Mr.ジャスティス≫にも話しておかないといけねーわ。


 俺はアカネちゃんとは対照的に面倒くさくなってきて落ち込む。


「センパ~イ。早く行かないとカナタ君が帰っちゃいますよ」


 俺はやれやれと思いながら、アカネちゃんの後を追った。


 アカネちゃんに案内してもらい、カナタとアカネちゃんの教室につくと、教室内にはまだ10人ぐらいの人が残っていた。


「えーと、あ、カナタ君、いた!」


 俺はアカネちゃんが指を差した方を見ると、確かに前に見たちーちゃんの弟がいた。


「お~い、カナタ君!」

「え? あ! 神条さん!」

 

 カナタは自分の席で本を読んでいたのだが、アカネちゃんがカナタを呼ぶと、嬉しそうにこちらにやってきた。

 

「……えさまだ……」

「きゃ! ほんとだ。おねえ……」


 アカネちゃんがカナタに声をかけたため、教室に残っている人達から注目を集めてしまった。

 

 俺は高等部であり、悪い意味で有名人なので、俺が注目されるのはわかる。

 しかし、普段であれば、嫌な顔をされるのだが、何故か嬉しそうである。

 

 いつのまにか、俺は人気者になったのだろうか?


「こんにちは! 神条さん、どうして中等部に?」


 相変わらず元気いっぱいな弟君である。

 

 どうでもいいが、お前、アカネちゃんを無視するなよ。


「よう、お前に聞きたいことがあってな。アカネちゃんに案内してもらったんだ」

「そうで~す」

「僕に? 何です?」


 カナタはキョトンとした顔で聞いてくる。

 

「まあ、ちょっとな。お前、これから時間あるか? 場所を変えたいんだが……」


 俺は周りを見て、言いにくそうにした。

 

「あー、注目されてますもんね。神条さん、人気だから。どこにします?」


 ……マジで俺は人気者になったの?

 いつのまに?

 俺のそっくりさんでもいるのだろうか?


「じゃあ、食堂に行きましょうよ。センパイ、おごってくださ~い」


 アカネちゃんは俺の袖を引っ張りながらおねだりした。


「カナタ、食堂でいいか? おごってやるよ」


 ウチの学園の食堂はランチだけでなく、普通に喫茶店みたいにいつでも軽食やお茶も頼める。

 

「いいんですか? ありがとうございます!」

「私は? 私もですよね?」


 お前は帰れ!




 ◆◇◆



 

 俺はカナタと2人で話したかったのだが、アカネちゃんに帰れと言ったら、しがみついてきて、うるさかったので、結局、3人で食堂に向かうことにした。

 

 食堂に着くと、人はまばらにしかおらず、俺達はこれ幸いと、窓際の隅に座り、各自、コーヒーなどを頼んだ。

 ちなみに、アカネちゃんはずうずうしくケーキセットを頼んだ。

 正式にパーティーに入ったら、こき使うことが決定した。

 

「神条さんと柊さんって仲良さそうですけど、知り合いだったんですか?」


 カナタが俺とアカネちゃんを交互に見ながら聞いてくる。

 

「ふふ、わかります~? 実はとっても仲良しさんなのです」

「こいつは妹の幼なじみでな。昔から顔を知っている程度だ」

「ひどーい。センパイも幼なじみじゃないですか~」


 俺とお前って、幼なじみなのか?

 幼なじみの定義がよくわからんが、違うと思うぞ。


「神条さんの妹さんって、神条ホノカさんですか?」

「そうそう。知ってるのか?」

「ええ、≪賢者≫で有名ですし、柊さんと同じ≪フロンティア≫のメンバーですから。同じ名字だからもしかしてって思ってたんですけど、やっぱり兄妹なんですね」


 まあ、神条なんて珍しい名字は他にいないだろうな。

 カッコいいだろ?


「まあな。同じ≪フロンティア≫の神条ミサキは姉だな」

「センパイの家は仲良し一家なんですよ」


 ほぅ、良いこと言うな。

 よし、お前の分は払わないでおこうかと思ったが、お前もおごってやろう。

 感謝しろ。


「へー、良いですね。ウチも姉がいますが、最近はあまり話さないです」

「そうなのか? 実はお前の姉のことで聞きたいことがあったんだけど」


 あれ?

 ちーちゃんを調べよう大作戦は頓挫しちゃった?


「何です? 姉さんって、神条さんのパーティーに入ったんですよね? もしかして、直接聞きにくいことですか?」


 こいつは都合のいい解釈をしてくれるな。

 

「え? さっきパーティーに誘ってる人って言ってませんでした?」


 お前は黙ってろ!

 そのケーキを取り上げるぞ。


「まだ、パーティーに入ったばかりだからな。人のプライベートにズケズケと立ち入るつもりはないんだ。ただ、ちーちゃんがパーティーで活動中に不安げな表情をする時があってなー。俺もパーティーリーダーとして、気になっているんだよ」


 俺はカナタの都合のいい解釈にのっかり、適当にホラを吹く。

 

「センパイって、相変わらず、嘘つきですよね」


 うっせー!

 お前がお漏らしした時に泣きながらノーパンで家に帰ったことをばらすぞ。


「そうなんですか……やっぱり神条さんほどの人になると、そんな細かいところまで気が付くんですね。本当に神条さんはすごいなー」

「カナタ君、大丈夫かな? 将来が不安な人だなー」


 俺もちょっと不安だわ。

 結婚詐欺師に気をつけろよ。


「まあ、俺はパーティーリーダーとしての経験も長いからな。それで、ちーちゃんって、前にパーティー内で、揉めたりしなかったか?」

「ええ、実はそうなんです。姉さんは去年、パーティーを組んでたんですけど、トラブルがあってパーティーを抜けたんです。それからは固定パーティーに入らず、ずっと野良エクスプローラですね」


 やはり、ちーちゃんは前のパーティーで何かがあったようだ。


「やはりか。すまんが、どんなトラブルか教えてくれるか? 俺もちーちゃんを悲しませたくないし、出来たら、同じようなトラブルは避けてやりたい」

「神条さん、姉さんのために、そこまで考えてくれるなんて……」


 カナタは俺の素晴らしさに感動している。

 どうやら俺に対する尊敬の念が増したようだ。

 

「なんか、盲目って、言葉が浮かんじゃいましたよ」


 小動物が小声で何か言っているが、気にしないようにしよう。


「それで? 一体何があったんだ?」


 俺はアカネちゃんを無視し、カナタからさらに情報を引き出すことにした。

 

「はい。姉さんって、レアジョブの≪学者≫じゃないですか? でも、神条さんもご存知の通り、≪学者≫って、魔法はすごいんですけど、弱いですよね。それなのに、姉さんって、言い方は悪いですけど、でしゃばりというか、張り切る癖があるんです。だから、色々と指示を出すんですけど、前衛の人からしたらうざいみたいなんですよね。しかも、姉さんって、あんな見た目なんで、余計に煙たがられちゃって」


 まあ、前衛からしたら、後衛を守りながら戦っているのに、後ろから、あれこれ指図されたらうざいわな。

 気持ちはわかる。


「それだけか? 確かにうざいかもしれんが、ちーちゃんの指示は的確だったぞ」

「ええ、煙たがられるだけなら良かったんですが、同じ後衛のメイジの男の人が姉さんを庇ったんですよ…………最初は」


 …………なんか読めてきた。


「庇って恩を着せて、コクられでもしたか? そんでもって、ちーちゃんが拒否したか?」

「…………はい。そして、パーティー崩壊です。その男の人は一般職のメイジで、レアジョブの姉さんに嫉妬もあったみたいです。パーティー解散時には相当な事を言われたようでした」


 おそらく、恩を着せて、ちーちゃんより優位な立場で付き合いたかったんだろうな。

 それで自分の自尊心を満たす。

 ダメなパターンだ。


「なんか最低な男ですね。下心がスケスケじゃないですか。しかも、レアジョブに嫉妬なんて、小さいですよ」


 お前もさっき似たような事を言ってただろ。

 まあ、お前も小さいか。


「まあ、僕も一般職のメイジですので、気持ちはわからないでもないですが、ちょっとひどいですよね。姉さん、泣いてましたし」

「なるほど、わかった。悪いな、カナタ、身内を詮索するような真似して」

「い、いえ! 僕も姉さんの事は気になってましたんで。神条さん、改めて、姉さんの事をよろしくお願いします」

「おう! 任せておけ!」


 カナタが頭を下げてきたので、俺は心配をかけないように明るく了承した。


 これでちーちゃんがパーティーに入ってくれない理由は判明した。

 あとはこれを持ち帰ってシズルとシロに相談だな。

 

「ところで、カナタ君はお姉さんとパーティーを組まなかったんですか?」

「僕は去年まで川崎支部にいたから姉さんとはパーティーを組めなかったんだよ。こっちに来たときは、姉さんはもう誰ともパーティー組まないって感じだったね」


 本当は弟となら組んでも良いんだろうな。

 ただ、ちーちゃんもカナタも後衛だから組んでも欠点を補えない。

 

「そういえば、お前はパーティーを組んでるのか? この前、ダンジョンに行くって言ってただろ」


 俺は前に協会で会った時のことを思い出した。

 

「え!? カナタ君、こんな時にダンジョンに行ってるんですか? よく行けますね」

「僕はパーティーを組んでないですが、最近はBランクの人がダンジョンに連れていってくれるんですよ」


 あー、そういえば、そんな事を言ってたな。


「Bランクのエクスプローラがよく連れていってくれたな。暇じゃねーだろうに」

「≪正義の剣≫のメンバーですよ。例の暴行事件の調査とは別に、≪正義の剣≫や≪ヴァルキリーズ≫の人が学生の引率してるんですよ」


 引率?

 おとりじゃねーだろうな?


「大丈夫かそれ?」

「低階層しか行きませんから大丈夫ですよ。本当は姉さんもって、話だったんですが、姉さんは神条さん達と行くからって断られたんですよね」


 この前、協会でカナタとちーちゃんが話していたのはそういう理由か。


「へー。私達には行くなって言うくせに、他の学生の引率はするんですね」

「お前らは半分が女だから危ねーよ。あの雑魚共にウチの姉と妹を任せられるか」


 特にお姉ちゃんはかわいいから危ない! あとホノカも。

 まあ、お姉ちゃんはここにいる小動物とは違って、こんな時に深層に行くような馬鹿じゃないから大丈夫だろう。


「センパイのパーティーは全員が女子じゃないですか」

「お前が暴行犯だとしたら、俺を狙うか?」

「狙わないです。むしろ、逆に絡まれて殴られそうだから近づかないですね」


 そうなんだが、イメージが悪いな。

 

「確かに、強くて有名な神条さんを狙う人はいませんよね。姉さんも安心できると思います」


 アカネちゃんとカナタは同じようなセリフなのだが、意味が正反対だな。

 まあ、アカネちゃんの方が正解なのだが。


 俺はカナタからの聞き込みをこの程度にしておき、ちーちゃんがパーティーに入ってくれない原因とアカネちゃんがパーティーに加入してくれることをシズルに報告することにした。

 


 


攻略のヒント

 エクスプローラのパーティー解散原因の1位はパーティー内の実力格差である。

 次点で男女関係を含む人間関係である。

 3位はパーティーメンバーの引退によるものである。


『週刊エクスプローラ パーティー解散原因』


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