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第026話 ケンカはマイちんが見てない所でやろう


 ちーちゃんを見事、仲間にした俺は、放課後、シズルを連れて、待ち合わせをした協会に来ていた。


 協会内は、いつもなら学生を中心としたエクスプローラで賑わっているのだが、ここにいるエクスプローラは皆、顔が強ばっており、物々しい雰囲気であった。

 

 それは、先月からロクロ迷宮に出没する暴行犯が原因である。

 

 当初はすぐに収まるとされていたが、1ヶ月を過ぎようというのに、今だ、犯人の足取りは掴めていない。

 

 学生だけでなく、低ランクのエクスプローラもロクロ迷宮を敬遠しており、そういったエクスプローラは、高ランクのエクスプローラが同行した場合のみ、ダンジョンに入ることが許されている。


 俺達のパーティーは、俺がCランクであるため、ダンジョンに入ることは問題ない。

 しかし、俺はシズルのことを考え、6階層を中心に探索をすることにし、6階層より深層には立ち入らないようにしていた。

 

 しばらくは6階層でシズルの育成に力を入れていたのだが、最近はシズルの才能もあり、6階層でやることがなくなっている。

 俺はシズルの提案で、ダンジョン攻略を控え、仲間集めや後輩の指導を中心に活動をしていた。


「まだ、こんな感じかよ」

「だね。この人達って≪正義の剣≫?」

「ああ。だが、≪ヴァルキリーズ≫もいる。相手は女エクスプローラを中心に狙った暴行犯だからな。≪ヴァルキリーズ≫は黙っていないだろ」


 ≪ヴァルキリーズ≫は女エクスプローラが集まったクランであり、今回のような、女を狙った犯罪を嫌悪するクランだ。


「ウチのクラスの人もダンジョンに行く回数を減らしてるみたいね」

「特に女子がいるパーティーはな。とはいえ、仮にもエクスプローラだから、まったく行かないわけにもいかないだろう」

「うん。私達も気を付けようね」

「俺はいい加減迷惑だから、取っ捕まえて、ゴミ箱に捨てたいがな」


 どこのどいつか知らんが、マジでイラつく。

 俺は深層に行って、男に戻るアイテムを探したいのだ。


「やめてね。それで、私達のパーティーに入ってくれる先輩はどこかな?」

「えーと、あ! いた。あそこにいるファンキーな格好した人」

「え!? あの人? ≪学者≫って言ってなかった?」


 やっぱり、そう思うよな。

 どう見ても≪学者≫には見えない。


「気持ちはわかるが、お姉ちゃんが言うには優秀な人らしい」

「そうなんだ。でも、何か男子と話してるよ?」

「ほんとだ。彼氏か? まあ、声をかけてみるか」


 俺達はファンキーちーちゃん(と男子)に声をかけることにした。


「ちーちゃん、さっきぶり。その人、誰? 都合が悪いなら、ダンジョンは明日でもいいけど」

「……ちーちゃん言うな。大丈夫だよ。こいつは私の弟だから」


 へー。

 全然似てないな。

 中学生か?


 ちーちゃんの弟という男は、身長はそんなに高くなく、158センチの俺より低いくらいである。

 童顔であり、ファンキーちーちゃんとは似ず、真面目な印象を受ける。


「弟? どうも、今日からお前の姉とパーティーを組む神条ルミナだ」

「いや、だからパーティーは臨時で……」

「え!? 神条さん!? あの、≪陥陣営≫の神条さんですよね!? 僕、ファンなんです」


 ほー、中々、見所のあるヤツだな。


「ファン!? なぜ!?」


 シズルは衝撃のあまり、仰け反っている。

 失礼なヤツだ。


「前に川崎支部で助けてもらったことがあるんです。その時にすごく優しくて、しかも、オークを瞬殺してる姿がすごくかっこよかったんです!」

 

 ……まったく覚えていない。

 そんなことあったか?

 誰かと間違えてね?

 あと、絶対に俺は優しくなかったと思うぞ。


「あたしの実家は横浜でね。あたしは東京本部の寮生だったけど、弟は川崎支部にいたんだ。去年、こっちに引っ越した際に転校したんだよ」

「ふーん。川崎支部に居て、俺のファンになるなんて奇特な弟君だな」

「やめてほしいんだけどね。ほら、カナタ、自己紹介しな」


 ちーちゃんは弟に挨拶するように促す。

 

 そういえば、シズルもだが、自己紹介してねーわ。


「あの、僕、斎藤カナタっていいます。中等部の3年生です」


 カナタとやらは礼儀正しく頭を下げた。


 中等部の3年生ってことは、ホノカと同学年だな。

 あと、ちーちゃんは斎藤ちーちゃんか。


「どうも。知ってると思うが、神条ルミナだ。ちーちゃんにもまだ紹介してなかったが、こっちの美人さんが雨宮シズルだ」

「初めまして、ルミナ君とパーティーを組んでる雨宮です。今日はよろしくお願いします」

「あたしは2年の斎藤チサトだ。よろしく。あと、ちーちゃん言うな」


 なんと!

 ちーちゃんは斎藤チサトという名前らしい。


「姉さんが神条さんのパーティーに入るなんて、すごいなー」

「だから、今日だけ……」

「まあ、お前の姉さんは優秀だからな。俺が是非にと声をかけたのだ」


 ちーちゃんの実力、知らねーけどな。

 

「Cランクの神条さんに認められるなんて、すごーい! 僕も頑張ろう!」


 カナタはテンションが高いヤツみたいだ。

 

「ああ、頑張れよ。カナタもこれからダンジョンか? 変なのがいるから気を付けろよ」


 俺は元気いっぱいのカナタに忠告した。

 

「はい! Bランクのエクスプローラと一緒だから大丈夫です。……あ、すみません、神条さん。Bランクの人を待たせたら悪いので、僕はここで失礼します。姉をよろしくお願いします」

「任せておけ。パーティーメンバーになったからには、俺が責任を持って預かろう。心配は無用だ」

「ねぇ、人の話を聞いて」


 弟君は小声の姉を完全に無視し、あっという間に消えていった。


「すごい子ねー」

「真面目な子なんだけどね。いつも、あの勢いには圧倒されるんだ」


 見所のあるヤツだと思うぞ。

 そうだ! 弟子にしてやろう!


「素晴らしい子じゃないか。ちーちゃんにはあまり似てねーけど」

「ちーちゃん言うな。あと、あんた、昼の時とキャラが違わないか?」

「ルミナ君、お姉さんの前だと、いい子振るんです」


 うっせー!

 お姉ちゃんに嫌われたら責任とれんのか!?


「そんなことはどうでもいいんだよ。それより、ダンジョンに行こうぜ。最近、行けてないからストレスが半端ないんだ」

「まあまあ。この騒ぎもその内、収まるわよ」


 急かす俺をシズルがたしなめる。

 

「だといいけどね。それにしても、あたしも久しぶりに来たけど、変な雰囲気だね」


 ちーちゃんもこの物々しい雰囲気を感じとっているらしい。

 

「大手クランが2つも集まっておいて、暴行犯ごときを捕まえられねーから、焦ってんだろ。この場で油売ってないでさっさと捕まえろよ、無能どもめ!」


 本当に役立たずな連中だよ。


「聞き捨てならんな。我々は君達学生を守るために、ここにいるのだが」


 俺が憤慨して、愚痴を言っていると、それを聞いた≪正義の剣≫のメンバーが怒って、俺に絡んでくる。


「守る? 誰が? 俺には大人数で群がって、サボってるようにしか見えねーぞ」


 俺はカチンときた。

 

「ルミナ君、やめなよ」

「あたしを巻き込まないでくれる?」


 1人は俺を止め、もう1人は迷惑そうだ。

 だが、ストレスが溜まっている俺は止まらない。


「それで? お前ら、1ヶ月もそこで群がっているが、成果は出たのか?」

「な!? 我々はここで警備をし、怪しいヤツがいないか監視をしているのだ! 学生風情が偉そうな口を叩くな!!」


 学生風情って……

 お前は何様なんだよ。

 

「お前らは、昔から口ではご立派な事を言うが、群がることしか能がない雑魚集団だろ。たかが暴行犯ごときに人数を集め、何も成果をあげれてねーじゃねーか」

「口の聞き方には気を付けろよ。これ以上は女だからって容赦せんぞ」


 名前も知らない雑魚が俺を脅してきた。


 キャー! こわーい(笑)


「お前、俺が誰だか知らねーの? いいぞ。かかってこい。3秒で地面にキスさせてやるよ」

「貴様!!」


「その辺にしてもらえるかな」


 俺と雑魚が戦闘態勢に入ると、横から知っている声が聞こえてきた。


「止めるなよ、≪Mr.ジャスティス≫。俺はお前の部下に教育をしてやろうとしているんだ」

「だから、止めてくれよ。君の教育は過激すぎるよ」


 俺を止めてきたのはクラン≪正義の剣≫のリーダーで≪Mr.ジャスティス≫の二つ名を持つ、木田セイギである。


「君も下がるんだ。ピリピリしているのはわかるが、学生相手に何をしている」


 ≪Mr.ジャスティス≫は雑魚のほうを向き、注意した。

 

「そんな……木田さん、この女は我々を侮辱したんですよ! だから、ちょっと稽古をつけてやろうと思っただけです!」


 こいつは俺に稽古をつけてくれるらしい。

 いい度胸だ。

 

「そうだぞ。そいつと俺はこれから仲良く稽古するんだから、お前は消えろ。それとも俺が消してやろうか?」

「貴様!!」

「ルミナ君、頼むから黙ってくれないか。マイさんに言いつけるよ?」


 やめてー。

 怒られるー。


「………………」

「ハァ、ほら行くぞ」


 俺が弱味をつかれ、閉口していると、≪Mr.ジャスティス≫はため息を吐きながら部下を連れて離れていく。


 本当にマイちんにチクったらダメだぞ!


「ねえ、何でケンカを売るの?」


 シズルが俺を責めてくる。

 

「あんたって、本当に噂通りのヤツなんだね」

「いやいや、ケンカを売ってきたのは向こうだろ。俺は悪くないぞ」


 そう、俺は悪くない。

 悪いのは暴行犯とそいつを捕まえられない≪正義の剣≫だ。


「そう思うなら早く受付に行こっか。マイさんが待ってるよ」

「え?」


 俺はシズルの言葉を聞いて、気づいた。

 

 そうだ、ここって協会じゃん。

 チクるも何も、マイちん、ここにいるよ。

 ≪Mr.ジャスティス≫、騙したな!


 俺はシズルに促されるように受付を見た。

 そこにいたのは、見たことのない素敵な笑顔を浮かべているマイちんがいた。


 あわわ、ヤバイよ、ヤバイよ!

 誰か助けてー。


『相棒。あれはこの場にいるかもしれない暴行犯に相棒の強さを見せつけ、相棒のパーティーを狙われないようにした作戦だと言え』


 て、天才登場。

 諸葛亮孔明だー!

 シロ、お前はなんて賢いヤツなんだ。

 俺はお前の相棒で良かったよ。


『よせやい。当然の事をしたまでだぜ』


 俺はシロの圧倒的天才アイデアに感嘆し、マイちんの所に向かった。


「こんにちは、ルミナ君。今日もいい天気ね」


 俺が受付まで行くと、マイちんは素敵な笑顔のまま、変なことを言ってきた。


 て、天気?

 何を言っているの?

 怖いよ。


「こんにちわです。ハハハ、マイちんは今日もかわいいことを言うね」


 俺はマイちんの機嫌を直そう作戦を開始する。

 

「こいつ、どうしたの?」

「ルミナ君はマイさんの前でも、いい子振るんです」


 後ろの女、うるせーぞ!


「あら、ありがとう。嬉しいわ。そうそう、私、すごく嬉しいことがあったんだー」

「へ、へー、何です?」


 彼氏でも出来た?

 おめでとう!


「私が昔から知ってる子がいてね。その子はいつも、他人にケンカばっかり売ってる乱暴者だったの。でも、最近は心を入れ替え、すごくいい子になったのよ。後輩の指導を熱心にしたり、同級生の相談に乗ったりしてね。すごく評判も良くなって、その子をBランクに上げようって声もあるのよ。私は自分の事以上に嬉しかったなー…………………………さっきまではね!」


 マイちんの顔が般若に変わった。

 

 ひえー。

 あかん、もうダメだ。


『落ち着け、相棒! さっきの嘘を言え』


 そうだ!

 俺には軍師がついているんだ!


「いや、マイちん、あのね、さっきのはこの場にいるかもしれない暴行犯に俺の強さを見せつけて、シズルや後ろにいる新しい仲間のちーちゃんが狙われないようにする作戦なんだよ」

「へー、すごーい。で? 誰に言えって言われたの?」


 あれ?


「あのね、ルミナ君。私と貴方は長い付き合いなのよ。貴方は頭の悪い子じゃないけど、そういう小細工を思い付く人じゃないことくらいわかっているの。貴方は、暴行犯なんて俺の前に現れたらボコボコにしてやるぜ、って思う人なの」


 ルミナ君って頭いいのね、ビックリしたわ。

 って言うんじゃないの?


「どうせ、どこぞの白い蛇に助言でも受けたんでしょ? ねえ、どうしてそんな嘘をつくの?」


 あ、火に油どころかガソリンを注いだ気がする。

 助けてー、俺の軍師ー。


『すまん』


 軍師ー!!



 この後、めちゃくちゃ怒られた。

 




攻略のヒント

 マイちんに怒られそうになったから、嘘をついたらもっと怒られました。

 うえーん。

 

 今度からはマイちんのいないところでケンカを売ることにします。

 俺、天才!

 

『神条ルミナの日記』より

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