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第025話 雑魚なちーちゃん!


 俺がダンジョン学園東京本部に編入して、早くも1ヶ月が経った。

 

 俺はパーティーメンバーを勧誘するために、クラスメイトの相談を乗るなど、心を入れ替え、良い人を装っている。

 そのおかげもあり、クラスでもそんなに浮くこともなく、普通に話すくらいには馴染んでいた。

 

 ただ、不満があるとすると、男子より女子のほうが話す機会が多いことだ。

 俺が男なら喜ばしいことなのだが、残念ながら、今は女である。

 当然、女子もそのつもりで話しかけてくる。

 

 一方、シズルはというと、完全にクラスに馴染んでおり、友達も多く出来たようだ。

 

 よかったね(けっ!)。


 そして、肝心のパーティーメンバーの勧誘は、まったく成果が出ていなかった。


「いい人、いないね」

「だなー。俺の評判以前の問題だわ。まさか、こんなに早くパーティーが組まれていくとはね」


 俺とシズルは昼休みに教室で一緒に弁当(自作)を食べながら項垂れている。


 実はこの1ヶ月で多くの新入生が既にパーティーを組んでしまったのである。

 

 本来なら、1年生がパーティーを組み始めるのは、授業や実技などでパーティーメンバーを見極めた後の夏休み前ぐらいが普通である。

 

 しかし、昨年、今の2年生はその期間を過ぎても、パーティーをあまり組まなかったらしい。

 

 学生同士のパーティーを推奨する学園は、これを良しとせず、今年の1年生には、パーティーの斡旋を行ったのだ。

 結果、多くの1年生は既にパーティーを結成しており、有望な人材は残っていなかった。


「どうする? 色々と聞いて回ってるけど、1年生は難しそうよ」


 弁当を食べ終えたシズルが弁当箱を仕舞いながら聞いてくる。

 

「俺も同期のエクスプローラに聞いてみたけど、やはり学生とは組みたくないらしい」

「うーん。やっぱり学生同士がいいよね。こうなったら、2年生に声をかけようよ。2年生は優秀な野良エクスプローラが多いって、警備員の榊さんも言ってたじゃん」

「言ってたな。2年生ねぇ。俺はCランクで、エクスプローラとしては先輩とはいえ、1年のパーティーに入ってくれるもんかね? 俺だったら嫌だわ」

「そうは言っても、他にいないよ。声だけかけてみようよ。もしかしたら、いい人がいるかもしれないよ?」


 まあ、他に手はないか。


「しかし、いきなり先輩に声をかけるのか? その時点でマイナス評価だろ」

「お姉さんに紹介してもらったら? ルミナ君のお姉さんって、気さくな人だし、知り合いも多いでしょ」


 お姉ちゃんか……

 確かに、昔から友達は多かったな。


 シズルはお姉ちゃんっていうか、ウチの家族と面識がある。 

 俺は医務室で寝ていたから知らないが、シズルのお母さんを助けたことの感謝と俺が女になってしまったことの謝罪をしたらしい。


「なるほどね。よし! お姉ちゃんに聞いてみよう!」


 俺はお姉ちゃんのいる2階の教室へ向かうため、立ち上がった。


「今から行くの!?」

「昼休みはまだ時間がある。お姉ちゃんの所に行ってくる」


 学校でお姉ちゃんに会えるぞ!


「嬉しそうねえ。ルミナ君って超シスコンだよね?」

「家族を想って何が悪い? ウチは複雑な家庭だから家族愛が強いんだよ」

「それにしても、お姉さんへの執着が強すぎるよ」


 うっせー!


「気のせいだ。とにかく、今から行ってくるわ」


 俺は呆れているシズルを放っておき、ウキウキしながら姉の教室へ向かった。




 ◆◇◆


 


 姉のいる2組に着くと、俺は教室に入り、姉を探す。


 えーと、お姉ちゃん、お姉ちゃん……

 あれ? お姉ちゃんは?


 俺は教室を見渡し、お姉ちゃんを探すが、数人の生徒がいるだけで、見当たらない。


「ルミナ君、どうしたの? 学校で会うのは珍しいね」


 俺の後ろから玉を転がすような美声が聞こえてくる。

 

 俺が後ろを振り向くと、いつも通り天使な姿をした姉が立っていた。

 どうやら今、教室に戻ってきたようだ。


「あ、お姉ちゃん。ちょっといい? 相談したいことがあるんだけど」

「相談? 本当に珍しいね。まあ、座りなよ。そこが私の席だから」


 姉はニコニコしながら自分の席を指差した。


「ありがと。それで相談なんだけど、お姉ちゃんの学年で野良をやってるエクスプローラを知らない?」

「ああ、ルミナ君、パーティーメンバーを集めてるもんね。うーん、何人か知り合いはいるけど、野良をやってる人って、なんらかの理由があるから野良なんだよね。入ってくれるかな?」

「その辺はこっちで考えるから有望なヤツを教えて。出来たら、シズルがRainであることも考慮して欲しい」

「注文が多いね。でも、まあ、シズルちゃんの事を考えればそうよね。ふふ、ルミナ君もちゃんとその辺を考えるようになったんだ」


 お姉ちゃんは嬉しそうに笑っている。

 

 お姉ちゃんの中の俺って、どんだけダメなヤツなんだよ。


「いや、パーティーリーダーはそういうものだから。あと、俺は気が利く人間だから」

「……………………そうだね。え、えーと、優秀な野良の人だったね。何かジョブやスキルで希望ある?」


 お姉ちゃんは目線を下に逸らした。


 え? 俺って気が利くよね?


『お前は自分が好きな人とそうでない人の対応に差がありすぎる』


 シロがわざわざ念話で伝えてくれる。


 うっせーわ。


「希望を言えば、ヒーラー。次点でメイジかタンクかな」

「なるほどね」


 お姉ちゃんは頷くと、周囲をキョロキョロしだした。

 そして、隣に座っている女子に声をかける。


「ねえ、ちーちゃんは?」

「ちーちゃん? さっきまでいたけど、トイレじゃない?」

「そっかー。ありがと」


 ちーちゃん? 誰それ?


「ちょっと待ってね。すぐに戻ってくると思うから」

「いいけど、その人が野良なの?」

「うん。すごい優秀な子だよ」

「ふーん。そういえば、お姉ちゃん達って、≪正義の剣≫に入ったんだよね? ロクロ迷宮に出る暴行犯の情報って入ってる?」


 春休みにクラン≪正義の剣≫に入るか悩んでいたお姉ちゃんパーティーは結局、≪正義の剣≫に入ることにしたらしい。

 

 以前、マイちんから聞いたロクロ迷宮に出没する暴行犯はまだ捕まっていない。

 そのため、俺達もダンジョンの奥に向かうことが出来ていなかった。

 

 ≪正義の剣≫はその暴行犯を追っており、≪正義の剣≫なら何か知っていると思ったのだ。


「あー、正直、あまりそっち方面の情報は入ってない。むしろ、事件解決まではロクロ迷宮に行かないように言われてる。クランリーダーが動くみたいで、すぐに解決するとは言ってたけどね」

「へー、≪Mr.ジャスティス≫がわざわざ動くんだ。じゃあ、解決は早そうだわ」


 ≪Mr.ジャスティス≫。

 本名、木田セイギ。

 名前がセイギだから≪正義の剣≫というクラン名をつけ、二つ名もそのまんまになった男。

 

 非常にダサいが、Aランクのエクスプローラで実力はトップクラスである。


「だと良いんだけどね。ルミナ君も気をつけてね。シズルちゃんもいるんだから」

「わかってるよ。まあ、もし、俺の前に現れたら、そん時がそいつの最後だわ」

「色んな意味でやめてね……あ、ちーちゃんが戻ってきた。おーい、ちーちゃーん!」


 お姉ちゃんは教室に入ってきた女子を見つけ、元気いっぱいに手を振る。

 相変わらず、かわええ。


「ミサキ、ちーちゃんはやめろ」


 やけにパンクな格好をした身長が170センチくらいの女がそう言いながら近付いてくる。

 彼女は背中くらいまであるであろう黒髪をサイドテールにしており、ダルそうな立ち振舞いだ。


 ヤンキー?

 どう見ても、ちーちゃんって感じじゃねーぞ。


「いいじゃない。ちーちゃんはちーちゃんでしょ」

「ハァ……で、その女、誰?」


 ため息を吐いたちーちゃんとやらは、俺を指差しながらお姉ちゃんに聞く。


「私の弟。かわいいでしょ? ルミナ君、この人がさっき言った優秀な野良のちーちゃん」


 その言い方だと野良犬みたいだぞ。

 

「どうもです。よろしく、ちーちゃん」

「ちーちゃん言うな。弟? 女にしか見えないが…………あー、例の。……で、その弟ちゃんがどうかしたの?」


 ちーちゃんは俺のことを知っているらしい。

 

「あのね、ルミナ君がちーちゃんとパーティーを組みたいんだって」


 いや、別にこの人じゃなくてもいいよ。


「あたしと? 何でさ?」

「ルミナ君はパーティーメンバーを探しててね。私に誰か紹介して欲しいって言ってきたの。ちーちゃんは優秀だし、固定のパーティーを組んでないでしょ? だから、薦めたの」

「ふーん。でも、あたしは誰とも固定パーティーは組まないよ。面倒くさいし」


 ちーちゃんは面倒くさそうに手を振る。

 

「まあまあ。ルミナ君はCランクだし、仲間のシズルちゃんもすごい優秀なんだよ」

「いや、ミサキがその優秀なルミナちゃん達と組めばいいだろ」


 それだ!!

 ちーちゃん、頭良い!!


「私はもうパーティー組んでるもの。ルミナ君、ちーちゃんはね、≪学者≫なの」

「≪学者≫!? ちーちゃん、すげー!」

「……ちーちゃん言うな」


 ≪学者≫は近接戦闘の適性は低いが、メイジ系とヒーラー系の魔法を両方こなせる魔法系の万能ジョブだ。

 

 同じ魔法系の万能ジョブの≪賢者≫より、近接戦闘は苦手としているが、魔法でみれば≪賢者≫より優れている。 


 しかし、≪学者≫には見えねーよ。

 ホノカの≪賢者≫といい、魔法職の適性は信用ならんな。


「≪学者≫ならルミナ君の要望にぴったりでしょ? 1回組んでみなよ。絶対に上手くいくから」

「まあ、あたしは野良だから臨時に組むならいいよ」


 どうやらこのファンキーな≪学者≫は1回だけ組んでくれるらしい。


「えーと、じゃあ、お願いします。今日の放課後とか空いてます?」

「ああ、いいよ。確か、あんたのパーティーは2人だったね。あたしが入っても、3人だからあまり奥には行かないよ。最近は物騒だし。あと、報酬はどう分けるの?」

「ウチは今、6階層なんで、そんな奥まで行かないです。報酬は等分かな」

「等分? いいのかい?」

「まあ、貢献度で分配すると揉めるしね。ちーちゃんはレベルいくつ?」

「………………ちーちゃん言うな。レベル10だよ」


 結構、高いな。

 これなら問題なさそうだ。


「じゃあ、放課後、協会のロビーに待ち合わせでいいですか?」

「ああ、いいよ」

「ルミナ君、いい人が入ってくれてよかったね」


 お姉ちゃんはちーちゃんがウチのパーティーに入ってくれたことを喜んでいる。

 

「だね。紹介してくれてありがとう」


 俺も紹介してくれたことに礼を言った。

 

「……いや、あたしは臨時で…………」


 ちーちゃんが小声でボソボソ言っているが、俺とお姉ちゃんは無視する。

 

「ルミナ君達、2人だけだったから心配だったんだー」

「お姉ちゃん、心配かけてごめんね。でも、もう大丈夫だよ。ちーちゃん、これからよろしく」

「………………いや、あたしは……」

「「よかった、よかった!」」

「……………………」


 ちーちゃん、弱えー!


 ところで、ちーちゃんの名前は何て言うの?


 

 

攻略のヒント

 ダンジョン学園では、パーティーを組む時は学生同士を推奨している。

 学園設立当時はプロのエクスプローラに学ぶことも重要だと考え、プロのエクスプローラとのパーティーも推奨していたのだが、報酬の分配や生活リズムの違いなどからトラブルが絶えなかった。

 そのため、学園が推薦するプロのエクスプローラ以外は極力、学園の学生同士で組むことを勧めている。

 なお、高等部の学生と中等部の学生がパーティーを組む場合は、学園の許可が必要である。

 

『ダンジョン指南書 パーティーを組む際の留意事項について』


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[一言] 押しが弱いちーちゃん!
[一言] 万能職業で何でも魔法が使える代わりに経験値がたくさん必要な賢者より本による魔法を使う学者のほうが強いのかな?古代文字とかも読めそうだし、でも強い魔法は、使えないよね?
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