第022話 メルヘンな魔法
-ロクロ迷宮 第1階層-
何日か振りにダンジョンにやってきた俺達は、いつもの≪空間魔法≫の早着替えにより、装備品に着替えた。
俺は新防具の≪知恵者の服≫、シズルはふとももがまぶしい≪闇装束≫と≪疾風のマフラー≫である。
しかし、この≪知恵者の服≫って、左肩が出すぎじゃね?
しかも、胸を強調する感じだし。
どこが知恵者やねん。
まあ、スカートじゃないだけ、マシか。
「久しぶりに来た気がするな」
「そう? まあ、ルミナ君は色々あったもんね」
「相棒と一緒にいると、退屈しなくて助かるぜ」
俺は飽きさせない男(女)なんだよ。
「うっせー。それにしても、お前、大人しかったな。街中はともかく、協会なら外に出てきても大丈夫だぞ」
「相棒が注目を浴びて、ナーバスになってたから遠慮したんだよ。俺っちが出てきて、喋りだしたら、もっと注目を浴びたと思うぜ」
どうやら、こいつなりに気を使っていたらしい。
「さすが俺の相棒だな。お前の今日のご飯は焼鳥にしてやる」
「ひゅー! やったぜー!」
お前、どうやって、ひゅーって言ってるの?
まあ、今さらか。
「ねえ、シロって、モンスターだよね? ご飯、食べるの?」
「食べなくてもいいが、うまいからな。嗜好品だよ。お前らだって、スイーツとか食うだろ」
スイーツ(笑)
「なんか変な感じね。シロって本当に何者? モンスターっぽくないし」
シズルはついに核心に迫ってしまう。
バカ! 詮索するな!
こいつは後々、俺達の前に立ちはだかるラスボスなんだよ!
「…………相棒。俺っちは相棒と契約してるから相棒の考えてることは大体わかる。すまんが、相棒の期待には応えられない」
「え? お前って、俺達を騙してるんだろ? ダンジョンの深層にまで連れていき、 そこに封印されているお前の真の力を引き出させるつもりなんだろ?」
「なによ、それ?」
「すまん。そんな予定はない」
「じゃあ、俺達がピンチになった時に、やれやれって言いながら、隠していた力で俺達を助けてくれる予定は?」
「あったら、ズメイの時に使っている。前に言ったように、俺っちは魔法も使えないし、オークより弱い」
マジで?
じゃあ、何が出来るんだよ?
マスコットか?
「俺っちが出来るのは、アドバイスだな。あと、お前の耳元で応援してやれるぜ!」
「いや、応援はいい」
耳元で応援されても邪魔なだけだろ。
「じゃあ、お前、何で喋れるんだ? あんな所にいたし、何かあると思うだろ」
「まあ、それは確かに思うわね」
さっきまで俺の妄想に呆れていたシズルだが、これについては、シズルも同意してくるようだ。
「すまん。俺っちが喋れるのは、そういうモンスターってことだけだ。あそこにいたのは、他のモンスターに襲われないからだ。それ以上の理由はない」
思ったよりショボかった。
「じゃあ、何で私達の前に現れたの? 隠れてればいいのに。 襲われるかもしれないじゃない」
「まあ、事実、相棒には何回か殺されかけたな。姿を現したのは、何度も言っているが、外に出たかったからだ。人間に使役されれば、外に出られるからな」
「そ、そうなんだ。でも、使役されるって嫌じゃないの?」
「別にそうでもない。便利だぞ。相棒の考えてることがわかるし」
本当にわかるのか?
試してやる。
俺はシロのテレパシーを試すために、エロ衣装を着ているシズルのふとももをじっと見る。
「シズル、相棒はお前の足がエロいって思ってるぞ」
「…………それは私にもわかる」
なんと! シズルもテレパシーが使えるらしい。
「そ、そんなことより、レベルとスキルを確認しようぜ。何レベルだ?」
俺は呆れているシズルとシロを見て、誤魔化すように話を逸らす。
「ハァ……えっと、私はレベルが7になってるわ。スキルポイントは貯めていた分を合わせると18ポイントね。レベルがかなり上がっているわ」
「ズメイの分だな。前回、5ポイント貯めたことを考えると、やはりポイントは少ないな」
シズルはズメイ戦では、水遁の術を1回使っただけだから仕方がない。
「でも、これで≪投擲≫が取れるわ。あとは何にしようかな? ≪諜報≫と≪身体能力向上≫かな」
「それでいいと思うぞ。≪疾走≫か≪隠密≫でもいいが、まあ、次にしろよ」
「うん。そうする」
シズルはステータスを操作し、スキルを習得した。
「私はこんなものかな。ルミナ君は? ≪魔女≫になったんだし、何か変わったかな?」
「……見てみるか」
俺はステータスと、心の中で念じ、自分のレベルとスキルを確認する。
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名前 神条ルミナ
レベル22→24
ジョブ 魔女
スキル
≪身体能力向上lv5≫
☆≪自然治癒lv6≫
≪空間魔法lv2≫
≪怪力lv5≫
☆≪斬撃lvー≫
☆≪魅了lvー≫
☆≪気合lvー≫
≪索敵lv3≫
≪罠回避lv2≫
≪冷静lv2≫
≪隠密lv5≫
☆≪メルヘンマジックlv1≫new
≪薬品鑑定lvー≫new
☆≪使役~蛇~lvー≫new
☆≪魔女の素養lvー≫new
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おお! なんと、レベルが2も上がっている。
そして、ジョブは本当に≪グラディエーター≫から≪魔女≫に変わってる…………って、なんだこのスキル?
「……………………」
「……………………魔女っ娘ルミナちゃん」
俺は完全に停止している。
シズルは何とも言えない顔をしていたが、ふいにボソッとつぶやく。
≪使役~蛇~≫はわかる。
≪魔女≫になるために、シロと契約したやつだ。
≪薬品鑑定≫と≪魔女の素養≫もわかる。
魔女っぽいしな。
ただ、変なのが1つある。
なんだこれ?
俺の頭の中にある魔女のイメージは森の中にいる老婆である。
そういう意味では毒とか薬を作ってる気がするので、2つのスキルはわかるのだ。
ただ、もう1つの変なスキルは、魔女は魔女でも、幼女アニメのイメージになってしまう。
統一したらどうでしょうか?
「おい、シロ。≪メルヘンマジック≫って何だ?」
再起動した俺は、俺の露出した左肩にいる使い魔に聞く。
「メルヘンチックな魔法だ。確認してみろよ」
そのまんまじゃねえか。
王子様をカエルにでもすんのか?
俺はシロに聞いても埒が明かないと判断し、スキルを確認することにした。
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☆≪メルヘンマジックlv1≫
魔女のみが使える魔法。見た目はメルヘンだが、強力な魔法を使えるようになる。
使用可能魔法
ラブリーアロー、パンプキンボム
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☆≪魔女の素養lvー≫
魔法使用時に消費する精神力が半減する。また、魔法を習得するポイントが減少する。
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らぶりぃーあろー?
ぱんぷきん、ぼむ?
俺は再び、停止する。
「…………とりあえず、使ってみたら?」
シズルは停止した俺を可哀想な目で見ながら、魔法を使うように提案してくる。
俺は無言で壁の方を向き、魔法を使ってみることにした。
「らぶりーあろー」
俺は壁に向かって手をかざし、棒読みで魔法を唱える。
すると、俺のやる気のない手からハート型の矢じりをした魔法の矢が出てきて、壁の方に飛んでいき、壁に突き刺さった。
ダンジョンの壁は岩肌ではあるが、実際は、岩よりも固く、俺でも壁を削るのに苦労するくらいには頑丈である。
しかし、そんな強固な壁にラブリーアローがいとも簡単に突き刺さっている。
確かに、強力な魔法である。
「……見た目はともかく、強いな」
「見た目はともかく、すごい貫通力ね」
「だろ? 多少、見た目は可愛らしいが、威力はすげーだろ?」
多少?
お前、多少の意味をわかっているのか?
俺はもう考えるのをやめて、投げやりな気分で、もう1つの魔法を試してみることにした。
「パーンプキーン、ボム!」
俺はボムと言うくらいだから爆発魔法だと思い、今度は通路の奥に向かって、手をかざす。
すると、俺がかざした手の上からオバケの顔の形をしたカボチャが落ちてきた。
俺はそれを慌ててキャッチすると、そのカボチャのヘタの部分に導火線があることに気づいた。
その導火線は、すでに火がついていた!
「は!? マ、マジでー! わ、わ! せーい!!」
すでに着火済みであることに気づき、慌てた俺は、そのカボチャを思いっきり通路の奥に投げた。
力自慢の俺が全力で投げたので、カボチャは見えなくなってしまった。
数秒後、まぶしい光とともに、ドカーン、と爆発音が通路の奥から響いてきた。
ひぇー。
何だあれ!?
「あ、危ねー。ビックリしたわー。寿命が縮んだな」
「相棒、いきなり使うなよ。ビックリしたのは、こっちだわ」
「本当よ。死ぬかと思ったじゃない」
シロとシズルは何も言わずに魔法を使った俺を責めてくる。
ごめんね?
「悪い。あんなものとは思わなかった。パンプキンって何?」
「パンプキンはカボチャのことよ。あれはハロウィンとかでよく見るジャック・オー・ランタンね」
あー、なんか見たことあると思ったら、あれかー。
「なるほどね。しかし、威力はあるが、使いどころに困るな」
「使う時はちゃんと言ってね。逃げるから」
「相棒も≪投擲≫を取ったほうが良いんじゃねぇの?」
「確かに」
≪投擲≫は投げる威力も上がるが、それ以上に命中率が格段と上がる。
さっきの爆弾を投げミスして、味方の方に飛んでいったらヤバすぎる。
「俺も≪投擲≫を取るわ。パーティーリーダーがフレンドリーファイアはシャレにならん」
「そうね。全滅しなかったとしても、パーティーは解散になると思うわ」
俺もそんなリーダーは嫌だ。
「ハァ、≪投擲≫を取らないといけなくなるとは。俺は≪自然治癒≫を上げたくて、スキルポイントを貯めていたのに」
「相棒、その事で話がある」
シロが神妙な感じで喋る。
「なんだよ?」
「お前、≪破壊の戦斧≫を出して、持ってみろ」
「ここでか? 1階層だぞ。ったく、面倒くせーな。よいしょっとおおぉー!?」
俺はアイテムボックスから≪破壊の戦斧≫を取り出したが、あまりの重さに体勢を崩し、片膝をついてしまった。
「お、重たい。持てないことはないけど、こんなに重たかったっけ?」
「いや、何で持てるんだ? お前は≪グラディエーター≫からメイジ系の≪魔女≫になったからパワーが落ちてるんだよ。いくら≪怪力≫のスキルがあるっていっても、普通は持てねーぞ」
嘘だろ!?
≪破壊の戦斧≫は俺の代名詞だぞ。
あっ! そういえば、ズメイにトドメを刺す時、持てなかったわ。
あの時はダメージや赤の化身の反動で持てなかったと思っていたが、どうやらパワー不足だったようだ。
「マジかよー。≪投擲≫だけでなく、≪怪力≫も上げないといけないのかよー。≪自然治癒≫を上げたかったのになー」
俺はグチグチ言いながら、ステータスを操作する。
「げっ!? ≪怪力≫を上げるのにめっちゃポイントが要る。ってか、≪自然治癒≫に至っては、とんでもないポイント数が要るじゃん」
「お前は≪魔女≫だから、ファイター系の適性がないんだ。≪破壊の戦斧≫は諦めて、後ろで魔法使ってろよ」
俺が後衛?
俺がエクスプローラになったのは東城さんに憧れたからだ。
誰が後衛なんぞになるか。
俺はシロを無視し、≪投擲≫を習得し、≪怪力≫のレベルを上げた。
すると、さっきまでは≪破壊の戦斧≫の重さに耐えきれず、へっぴり腰だった俺だが、≪怪力≫のレベルを上げたことにより、いつもの頼もしい俺へと戻る。
「よいしょっと。まだちょっと重たいけど、まあ大丈夫か」
俺はそう言って、いつものように≪破壊の戦斧≫を頭上で回転させ、振り下ろす。
「なあ、相棒って、本当に人間か? メイジ系のヤツがそれを持てるだけでも、すげーのに、振り回すのかよ」
「人間だよ。ゴリラに見えるか? こんなに可愛らしいのに」
「少なくとも、そんなもんを振り回すヤツは可愛くねーわ」
「まあ、使えるならいいじゃない。ルミナ君は前衛をやりたいんだよ」
その通り。
やはり、シズルは俺の事をよくわかってる。
さすが、副リーダー!
「しかし、ファイター系はポイントを食うな。今後は、考えて使わねーと」
「この前のスキルの実を使ったら? 10ポイント貰えるんでしょ」
そういえば、そんなのあったな。
使うか……いや……
「スキルの実はお前が使え。お前はこの前のパワーレベリングのせいで、ポイントが少ないからな」
「いいの?」
「ああ。今後の事を考えたら、それがベストだ」
「わかった。ありがとう。じゃあ≪疾走≫と≪隠密≫を上げるね」
シズルはスキルの実を譲ってもらったことに感謝し、スキルを上げた。
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名前 雨宮シズル
レベル4→7
ジョブ 忍者
スキル
≪身体能力向上lv3→4≫
≪疾走lv2→3≫
≪空間魔法lv2≫
≪度胸lv1≫
≪隠密lv2→3≫
☆≪忍法lv1≫
≪諜報lv1→2≫
≪投擲lv1≫new
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その後、俺とシズルは2階層に行き、ゴブリン相手に体の調整を行った。
「今日はこんなもんか」
「ルミナ君、明日だけど、休みにしてもらっていい?」
「いいけど、何かあるのか?」
「うん。明日、病院に行って、お母さんに制服姿を見せようと思って」
「お母さん、まだ退院してねーの?」
「えっとね、体調も良いし、お母さんは退院したいんだけど、念のために検査しているの」
まあ、いくらポーションとはいえ、死にそうになってた人が一瞬で治ったら、検査ぐらいするか。
「わかった。明日は休みにしよう。お母さんって、いつ退院するんだ? 快気祝い、どうするよ?」
「あ、あの、それなんだけどね、ルミナ君がも、もし良かったら、うちに来ないかな? お母さんがお礼を言いたいらしくて、良かったら、しょ、招待したいって」
シズルが珍しく、しどろもどろになっている。
マジで?
お前の家に行っていいの?
なんかドキドキする。
お義母さん、娘さんを下さいって言っていいのか?
「ど、どうかな?」
「行くよ。絶対に行く」
「そ、そう。じゃあ、お母さんが退院して、準備が出来たら声をかけるね」
準備?
何の?
結納?
結納は違うか。
「わかった。待ってる。急がなくてもいいからな。お母さんにいつでも良いので無理しないで下さいって言っておいて」
「う、うん」
いやー、結婚の挨拶かー。
まあ、俺が向こうの親だったら、絶対に反対するな。
…………俺、女だし。
攻略のヒント
みんな~、今日は、モンスターの習性について、教えるねー。
モンスターって私達はモチロンだけど、他のモンスターも襲うことがあるの。
でも、それは食事のためじゃないんだよね。
普通の動物は食事目的以外では他の動物を襲わないのにねー。
不思議だね~。
何でか、知りたい?
教えてあげたいけど、それは調査中なんだー
ごめんね~
わかったら、このブログで報告するからみんなちゃーんと、毎日チェックしてね?
『≪モンコン≫ことBランクエクスプローラ春田秋子のブログ』より