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評判最悪男、魔女になる  作者: 出雲大吉
さらにおまけ!

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217/217

一年は短いようで長いし、長いようで短い


 春休みに行われていた補習もついに終わった。

 追試験も終わり、成績も悪くなかった。

 というか、無事に進級できた。


 俺は残っている春休みに遊ぶぞーっと思っていたのだが、残りは明日のみである。


 少なくね?

 これただの休日じゃん。

 しかも、遊ぶ相手の第一候補のシズルさんは用事があるらしい。

 まあ、こればっかりはしょうがない。


 用事が亡きお父さんの墓参りらしい。

 彼岸に行けよ!とは言えない……

 俺もめんどくさいから母親の墓参りに行ってないしね。


「明日、何しようかなー」


 俺はベッドで寝ころびながら天井を見上げる。


「最後の日だし、英気を養えば? 何か食べようぜ」


 それ、作るの俺だよね?

 英気を養うのはお前だよね?


「めんどいわー。うーん、買い物でも行くかなー」


 女子用の買い物は大抵、誰かと行くけど、誰かと行きたくないものを買いに行こうかな……

 下着とか……


「相棒、相棒。マイからデートのお誘いが来たぞ」


 俺の携帯を構っていたシロが教えてくれる。


「マイちん? まーた、なんかの依頼か?」


 そういえば、去年の今頃はシズルの依頼を受けてたな。

 あれから1年、まさか自分がこうなってるとは思わなかったなー。

 何しろ彼女が出来たんだぜ?

 しかも、俺も女になったんだぜ?

 すげーだろ。


「依頼じゃなさそうだな……奢ってあげるから昼ごはん食べに行きましょうだってさ」


 昼ごはん?


「デートじゃん」

「そう言ってんじゃん」


 マイちんが?

 マイちんと一緒に出掛けたことなんて子供の頃以来ないぞ。

 珍しいってレベルじゃない。


「マイちんと協会以外で会うって、すげーぞ」

「そんなにレアなんか?」

「レア、レア。あの人、プライベートのことを全然しゃべんねーし」


 俺、付き合いが長いけど、あの人の趣味も知らねーし、休日に何をしてるかも知らない。

 多分、彼氏はいないと思うけど。


「へー。何の用だろな?」

「もしかして、告白? どうしよう? 二股になっちゃう!」

「それはない……というか、断れよ……」


 マイちんを断るなんてそんな!


「冗談だよ。昔、冗談で付き合ってよーって言ったら鼻で笑われたし」


 地味に傷ついた。


「お前の言葉は重みがないからなー」

「しかし、マイちんがデートを誘ってくるとは思えん。裏があるな……」

「頼み事か……もしくは…………」


 シロが意味深につぶやく。


「何? 何だと思うん?」

「春は出会いの季節…………それと同時に…………」


 え!?

 別れ!?


「マイちん、辞めちゃうの!? ガーン!」

「ガーンって適当だなー…………って、マジで泣いてるし」


 マイちんがー。

 俺のマイちんがー。


「よーし! 泣きすがるぞー!」

「お前、それやめたら? 皆、ドン引きしてんぞ」


 うるさい!


「お前に良いことを教えてやろう。泣くとな、大抵、向こうが折れてくれるんだ」

「お前はいちいちクズいんだよ……」


 まあ、親なんかは泣いても許してくれないんだけどね。


「マイちんにオッケーって言っておいて。ついでにどことなく探っておいて」

「注文多いな……ちょっと待ってろ」


 シロはそう言って、携帯を操作をし始める。

 俺は再び、天井を見ながら悩む。


 男で行ったほうがいいか、女で行ったほうがいいか……

 別にどっちでもいいか……


「飯だけー?」

「知らね。あー、昼に迎えに来るってさ。あと、辞めないから泣くなだってさ」


 お前、何を言ったんだよ……


「マイちんに勝負下着で待ってるって言っておいてー」

「お前、アホだな………………えーっと、アホか、だってさー」

「あははー!」


 めっちゃウケるし。


「さっきまで泣いてたくせに…………お前の人生って楽しそうだな」

「楽しいぞー。ハッピー! いえーい!」

「寝ろ……飲み過ぎだ、バカ……」


 おやすみー。




 ◆◇◆




 翌朝、早めに起きた俺は準備を始める。

 朝からお風呂に入り、服を選び、着替える。

 化粧も少しだけし、髪を整える。


「シズルと会う時より気合入ってんなー」

「シズルと会う時に気合入れんわ。会う時は男だぞ」


 男はそこまで気合を入れるものじゃない。

 昔、多少、ラフでもいいから清潔感さえあればいいって、お姉ちゃんが言ってた。


 ところで、清潔感って何?


「こんなもんかなー」


 俺は立ち上がり、シロに聞く。


「いいんじゃね? パンツは?」

「ホノカにもらったやつ」

「マジでそれで行くんだ…………」


 まあ、何の勝負かは知らんがね。


 俺は準備を終えると、目をつぶり、コーヒーを飲みながらマイちんを待つ。

 そして、しばらくすると、玄関のチャイムが鳴った。


「来たか…………」


 俺は目をそっと開き、つぶやく。


「何をかっこつけてんだよ。お前、テンションたけーな」

「地味に最近、マイちんに会ってねーしな」


 この前、協会に行った時もいなかったし、あの50階層攻略以降、会ってなかったりする。


「行ってくるわ」

「おー! いってらっしゃーい!」


 シロは珍しくお留守番である。

 遠慮したのかな?


 俺は立ち上がると、玄関に向かい、扉を開けた。


「こんにちは。久しぶりね」


 扉の向こうには太陽を浴びる麗しき女性が立っていた。


「やっほー。マイちんの私服を見るのがめっちゃ久しぶりでビビってるわー」

「まあ、いつも制服だしね。ほら、行くわよ。今日は車で来たから」


 マイちんが言うように後ろには車が見えた。

 マイちんがそのまま運転席に向かったので、俺は助手席に乗り込む。

 そして、俺がシートベルトしたのを確認すると、マイちんが車を発進させた。


「どこ行くのー?」


 俺は行き先を何も聞いていないので、聞いてみる。


「適当なイタリアンでいいでしょ?」

「それでいいよー」


 ってか、何でもいいよ。


「マイちんって、車を持ってたんだね。知らんかった」

「この前買ったばかりだからね」


 道理で見た目も中身もきれいなわけだ。

 まるで俺みたい。


「新車? 協会の職員ってそんなに儲かるの?」


 この辺の都会住みで車を買うって結構な贅沢のような気がする。


「新車よ。おかげさまでそこそこの収入があるわね。専属の儲けがそのまま給料に比例するし…………あと、あなたのおかげでボーナスもあるし」


 俺のおかげじゃん!


「ルミナちゃんのおかげカーと呼ぼう」

「長いわよ。まあ、無理をしない程度に頑張ってね」

「はーい」


 マイちんのために頑張ろう!


 俺とマイちんが他愛のないことをしゃべりながら移動していると、車は来たこともない街に到着した。


「ここどこ?」

「私の家の近く」


 おー!

 マイちんってこの辺に住んでんのかー。


「あとで家に行こう」

「ダメ。私、家に人を入れたくない主義なの」


 彼氏も?

 いや、この話題は止めておこう。


「俺は気にしたことないなー」

「あなたはそうでしょうね。私は自分の家に誰かがいるのがすごく嫌なの。たとえ親でもね」

「仲良くしなよ」

「そういう意味じゃないわよ。昔からなんか自分の部屋に誰がいるのが嫌だったのよねー」


 プライベート的なやつ?

 それとも部屋がBLまみれとか?


「マイちん、秘密主義だもんね」

「そう?」

「マイちん、自分のことを全然しゃべんないじゃん。昔、職員を辞めるって話も急だったし」

「そうかな? 自分ではそんなことはないと思うんだけどな……」


 自分ではわからないものかもしれない。


「じゃあさ、マイちんって何が好きなの? 趣味とかあるじゃん」

「趣味…………読書?」


 何故か疑問形だし……


「何? BL?」

「そういうのも読むけど、何でそれ?」


 あ、マジで読むんだ……


「この前、双子ロリ姉妹が盛り上がってた。今、女子寮で流行ってるらしいよ」


 どんどんと侵食しているらしい。

 シズルさんは苦笑いだった。

 多分、ヤツはすでに侵食済みだと思う。


「学生は楽しそうねー」

「楽しくなかったら学校に行く意味ね―じゃん」

「勉強…………貴方はいらないか」


 いらなーい。


「もう補習は嫌ー」

「でしょうねー。先生達も苦渋の決断だったのよ。本来なら貴方達が50階層に挑むのは大反対だったのよ」

「まあ、そうだろうね。でも、結構簡単にオッケーが出たよね」

「報酬がトランスバングルだったからねー。禁止しても貴方は無視して行くだろうし。何かが起きるよりは≪正義の剣≫に任せた方がいいと判断したのよ」


 俺は退学になっても行ったね。

 他の連中もついてきたかもしれない。


「だからか……」

「まあ、無事で良かったし、ルミナ君は男の子に戻れたしねー。何故か女の子のままだけど…………」


 気にしない、気にしなーい。


「着いたわよ。ここ」


 マイちんはそう言って、駐車場に入っていく。

 着いた場所はレストランっぽい。


「よく来るの?」

「たまにね」


 マイちんはそう答えると車から降り、店に入っていく。

 俺はその後ろをついていった。


 店に入ると、店員に案内され、奥のテーブルに通され、マイちんと対面で座る。


「好きなものを頼んでいいわよ」

「おすすめは?」

「パスタ?」

「じゃあ、それにしよ」


 俺とマイちんはそれぞれパスタを選び、注文した。

 そして、注文したものが届くと、2人で食べ始める。


「美味しいね」

「でしょ。私、ここが好きなの」

「ねえねえ、何で俺を誘ったの? マイちんと出かけたのとかめっちゃ久しぶりじゃん。昔、ケーキバイキングに連れて行ってもらって以来だよ」


 ケーキバイキングなる物を知って、せがんで連れて行ってもらったのだ。

 なお、家に帰ったら姉妹からブーイングをもらった。

 自分達も行きたかったそうだ。


「前に言ったじゃん。ご飯を奢ってあげるって」


 ん?


「いつ?」

「もう1年以上経つわね……シズルの事をお願いした時」


 マジで覚えてない……

 そんなことを約束したか?


「新人指導の依頼?」

「そうそう。まあ、貴方はその時、ご両親とエクスプローラを続けるかどうかで揉めてたから覚えてないでしょうね」


 いや、それ以前に1年前のことを覚えている自信はない。


「奢ってもらうのにごめんだけど、遅くね?」

「それはごめんなさい。思い出したのが昨日なの。ルミナ君が男に戻ったなーって考えてたらそういえばって感じ」


 マイちんも忘れてたのね。


「なるほどねー。急に誘ってくるから焦ったわ」

「辞めないから泣いてすがってくるのは止めてね。やってることが≪白百合の王子様≫と一緒よ」


 あ、泣きそう……

 あんなヤツと一緒ってマジできつい……


「まあ、辞めないならいいか……」

「今さら辞めてどうすんのよ」


 それもそっかー。


「良かった、良かった」

「ねえ、ルミナ君。貴方、シズルと上手くやってる?」

「やってるよー」

「そう? なら良かった」


 従妹が心配なのかねー。


「大丈夫だよー。前はちょっと根暗女だったけど、最近は明るいし、楽しそうだよ」


 重さは変わらんけど。


「貴方って、ナチュラルに悪口を言うわよね…………」

「あいつ、すぐに無視するし、陰湿的なんだよ。昔からああなん?」

「貴方は悪口を言わないと死んじゃう病気か何か? そんなことはないし、それって、自分のせいじゃない?」

「そらそうだよ。あいつ、良い子ちゃんだし」

「開き直ってるし…………やっぱり心配だわ……」


 気にしすぎだよー。


「上手くやるから大丈夫だよ。俺、空気読めるから」

「読めてもその通りに行動しないのが貴方なのよねー」

「たまには褒めてよ」

「貴方は素直な良い子よ…………」


 素直……

 バカにしてない?


「ねえねえ、ご飯食べたらどっか行こうよー」

「いいけど、どっか行きたいところある?」


 うーん……


「じゃあ、マイちんの家」

「何でそこなのよ……」

「人の家に行くの楽しくない? 荒らすのめっちゃ楽しくない?」

「絶対にダメ」


 ダメかー。


「じゃあ、買い物でも行こうよ。元々、買い物に行こうかと思ってたんだよねー」

「そうなの? 何を買うの?」

「下着…………あ、ごめん!」


 俺はマイちんの胸部を見ておもわず、謝ってしまった。


「貴方、一つも成長しないわね! そのリアクション、何回目よ!」

「水族館に行こうよー。お魚さんを見に行こうよー」

「すぐに子供ぶって誤魔化そうとするし…………」


 やっべ……

 地雷を踏むところだったぜ。


「貴方、水族館が好きなの?」

「全然」

「何でなのよ……ドライブに連れて行ってあげるわよ」

「やったー」


 食事を終えた俺達はマイちんの車に乗り込み、あちこちに出かけた。

 春休み最後の日はとても楽しかったと思う。


 家に帰って、電話でシズルにマイちんの事を聞いてみると、やっぱり昔から自分のことをあまり話さない人だったらしい。


 でも、人のことは言うらしい。


 根暗女って言ったのを告げ口されてたよ…………

 シズルの『私、根暗なんだ。ふーん』っていう声が冷たかった。


 明日、学校で謝ろ……

 誠心誠意謝れば、あいつは良い子ちゃんだから許してくれるさ!


「相棒、そういうとこだぞ…………」


 どういうとこ?





攻略のヒント


ルミナ「おはようございまーす!」

伊藤先生「…………ああ、おはよう」

ルミナ「先生、クラスに誰もいないんですけどー?」

伊藤先生「…………今日は入学式だから2、3年は明日からだぞ」

ルミナ「せんせい、さようならー!!」

伊藤先生「…………はい、さようなら。気を付けて帰りなさい」



森本先生「あのー、さっき神条君に会いましたけど……」

伊藤先生「バカは今日からだと思ったそうです」

森本先生「…………今年度も頑張ってください」

伊藤先生「森本先生、クラスを受け持ちたくないですか?」

森本先生「あの子のクラスは嫌です」

伊藤先生「あいつ、早く卒業しないかなー……」


『職員室でのとある会話』より

おまけは以上になります。

お読み頂き、ありがとうございました。


また何かを思いついたら書くかもしれませんが、完結となります。

今までありがとうございました。

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