第019話 TSとはトランスセクシャルの略らしい……だから、日本語でお願いします
≪魔女≫へと転職した俺は、状態異常の耐性を得たのか、体が動くようになっていた。
俺は体を起こし、立ち上がる。
すると、体に激痛が走った。
いってー!
ダメージもあるが、これは赤の化身の反動だな。
俺は、痛みに堪え、ズメイを見る。
ズメイはシズルのすぐそばまで来ていた。
シズルはいつものエロ衣装のまま気絶しており、その姿は妙に艶っぽい。
そして、それに襲い掛かろうとしているボロボロのドラゴン。
俺は怒りが沸いてきた。
殺す!
そいつは俺のだ!!
俺は死にぞこないのズメイに、とどめを刺すため、落ちていたハルバードを拾おうとしたが、何故か、重くて持てなかった。
くそっ!
ダメージがデカすぎるせいか?
まあいい。
俺は持てないハルバードを諦め、アイテムボックスからサブウェポンのショートソードを取り出すと、激痛に耐え、走り出した。
ズメイは走ってきた俺に気づくと、狙いをシズルから俺に変え、ブレスを放とうとしてくる。
俺は大きく息を吸ったズメイの口に、持っていたショートソードを投げつけた。
すると、ズメイがブレスを放とうと、口を開けた瞬間、ショートソードが口の中に突き刺さった。
ズメイはその場で暴れだし、悶えている。
俺は再び、アイテムボックスから別のサブウェポンであるロングソードを取り出すと、暴れているズメイの中央の首を切り落とした。
すべての首を倒されたズメイは今度こそ煙となって消え、その場には、魔石と宝石が残された。
俺はそれらに目もくれず、シズルに駆け寄り、シズルの容態を見た。
シズルは気絶しているが、大きな傷もなく、無事そうである。
そのことに安心した俺は、緊張の糸が切れ、意識を失った。
◆◇◆
俺は知らない場所で目が覚めた。
ここはどこだ?
……あっ!
…………知らない天井だ……
空気の読めることに定評のある俺は、様式美を守った。
ってか、マジでここ、どこよ?
ズメイを倒したことまでは覚えているんだけど。
俺は体を起こそうとしたが、体が動かないことに気づいた。
ああ、赤の化身の反動か。
赤の化身の使用後は激痛を伴うだけでなく、ひどい筋肉痛にもなるのだ。
「よう、相棒。目が覚めたか?」
「あん? 蛇か?」
寝ている俺の耳元に白蛇が現れた。
「おう。ようやく目が覚めたな。お前さん、3日も寝てたぞ」
「…………3日!! おい、シズルは!? シズルの母親はどうなった!?」
シズルの母親はあと1、2日が山だったはずだ。
「落ち着け。あの嬢ちゃんの母親なら助かったらしいぞ。まあ、何せ、レベル7のポーションだからな。病気はよくわからねーけど、余裕で助けられるって」
「レベル7のポーションか。すげーな。まだ見つかってなかったはずだが」
現在、見つかっているポーションはレベル6までのはずだ。
やはり、あの試練の難易度はヤバかったみたいだな。
まあ、楽勝だったけどね…………ハァ。
ってか、俺の声、変じゃない? 風邪?
俺は風邪を引いたことないから、よくわかんねーけど。
「相棒が気絶してからのことを教えてやるよ。あの後、すぐに嬢ちゃんが目を覚ましたんで、俺っちが状況を説明したんだ。後は、ドロップ品や試練の報酬を回収し、あの帰還の結晶だっけ? あれで外まで帰り、相棒はこの医務室で治療と検査。嬢ちゃんはポーションを持って、母親の所に行ったな」
ってことは、ここは東京本部の医務室か。
初めて来たな。
「へー、なるほどな。まあ、シズルのお母さんが助かったのなら、良かったわ」
依頼達成!
やはり、俺は天才だったのだ!
「それはシズルに言ってやりな。あいつ、心配してたぞ………………色々とな。それと、すげー礼を言ってたな。今度会ったら、かっこよく振る舞えよ。勝負どころだぞ」
ほぅ、なるほど。
今、シズルは、お母さんが助かり、感謝の気持ちでいっぱいだろう。
そこで、俺が何も要求せずに、仲間だから当然だろ、的なことを言えば、シズルは堕ちるわけだ。
でもなー、あいつ、何でもするって言ってたからなー。
もったいないなー。
おっぱい、触らしてくれねーかなー?
「まあ、会ってから考えるわ。そういえば、外に出たいって言ってたけど、どうだ?」
「まあ、外っていっても、俺っちはお前のそばにずっと居たからな。まだ、よくわかんねーよ」
え? もしかして、俺のことを心配して?
いいヤツだ。
お前のエサはヨー○卵にしてやろう。
「そんなに心配させて悪かったな。お前のおかげで生きて帰ってこれたし、シズルの母親も助かったわ。ありがとな」
「よせやい。俺達、相棒だろ? 当然のことをしたまでだぜ。それと、俺っちはお前に使役されてるから、許可なくお前から離れられねーんだ。お前、全然、起きねーから退屈だったぜ」
こいつのエサは野菜クズだな。
俺と蛇が会話していると、ガチャと音がした。
すると、医務室にマイちんと本部長が入ってきた。
「おう、神、条? 目が覚めたか」
何で疑問系やねん。
「ああ、目が覚めたら、知らない場所だったから焦ったわ。どうせなら高級病院とかにしろよ。何で3日もこんな安っぽい医務室なんだ? 気が利かねーな」
せめて、実家にしろ。
「…………ああ、本当に神条なんだな」
「あん? 俺が天使にでも見えたか? いくら俺が聖人君子でも天使ってことはねーよ」
天使はおねーちゃん。
「ルミナ君(?)、落ち着いて聞いてちょうだい。あのね、貴方は今、ルミナ君に見えないの」
マイちんが目を踊らせながら言ってくる。
「え? 本当に天使に見えるの? 俺って、実は死んでるの?」
マイちんは医務室の棚に置いてあった手鏡を持って、俺のそばにやってきた。
そして、何も言わず、俺にその鏡を見せてくる。
ん!?
この女、誰!?
俺は鏡かと思っていたのは、どうやらタブレットかなんかだったみたいだ。
って、んな訳あるか。
「え、誰、こいつ?」
鏡の中の女は驚いた表情を浮かべ、何かを喋っている。
「相棒、すまねー」
蛇が謝る。
俺は蛇を無視し、鏡の中の女をまじまじと見つめる。
鏡の中の女は、かわいい顔をしているが、目が若干、つり上がっており、性格が悪そうである。
また、髪は黄金色に輝いており、シズルほどではないが、艶があり、見る人を魅了しそうである。
俺はこの顔を見て、どこか懐かしい思いがした。
「あ、い、う、え、お。お姉ちゃん、愛してる」
鏡の中の女は、俺が喋ってたことと、同じことを言ってるかのような口の動きをする。
俺のスキル≪冷静≫は教えてくれている。
これはお前だ、と
「はぁ!?」
俺は筋肉痛を忘れてベッドから飛び起きた。
すると、自分の腕に違和感を感じた。
俺は入院患者が着てそうな病衣を着ており、そこから見える俺の腕は細かった。
俺の腕は決して、太くはなかったが、こんなに細くはない。
この腕は簡単に折れそうなほどに細い。
そして、俺はそれ以上の違和感を己の胸部に感じた。
俺が下を向くと、本来なら、腹や股が見えるはずなのに見えなかった。
何故なら、胸部に大きな膨らみが見えるからである。
「…………これは夢か? もしくは、俺はあのズメイに殺されたのか? 異世界転生? あ、異世界じゃねーか」
俺は下を向いたまま、独り言をつぶやくと、マイちんと本部長を見た。
「なあ? 正直に答えてくれ。あんたらは俺がどう見える? 頼りがいのありそうなイケメンか? それとも、かわいい顔をしてるが、底意地の悪そうな金髪の女か?」
「…………底意地の悪そうな女だ」
「…………ごめんなさい、底意地の悪そうな女」
………………わかってはいた。
俺は着ている病衣をその場で脱いだ。
そこには予想通り、大きな膨らみが2つあった。
次に俺は自分の細い腕を股間へと持っていった。
…………ない。
なにゆえ!?
俺が2人を見ると、本部長は後ろを向いており、マイちんは俺に近づき、脱いだ病衣を直してくれる。
「服を人の前では、脱がないで」
「……ああ、そうだな。気をつける」
俺は何を言っているのだろうか?
「相棒、すまねー」
蛇が再び、謝ってくる。
「…………大体の予想はついているが、教えてくれ」
そう、俺のスキル≪冷静≫は何故こうなったかを教えてくれているのだ。
だが、俺は信じたくなかった。
「ジョブを≪魔女≫に変更したからだ。≪魔女≫は女にしかなれない。だから相棒は女になった」
やっぱりね……
「そうか……そうだろうな。まあ、仕方のないことだ。そうしなければ、俺は……俺とシズルは死んでいた」
「ああ。だが、謝らせてくれ。本当にすまねー」
蛇は本当に済まなそうに項垂れている。
俺はやはりな、と思ったが、中々、受け入れることが出来ない。
「質問に答えろ。ジョブを元に戻せば、もしくは、別のジョブに変えれば、男に戻れるか?」
「……無理だ。男にしかなれないジョブでもあれば、戻れるかもしれんが、少なくとも、俺はそんなジョブを知らない。すまん」
だろうな。
「元に戻る方法は?」
「1つある。ダンジョンのアイテムに≪トランスバングル≫ってのがある。それは性別を自在に変えることができるレアアイテムだ」
「どこにある? モンスターからのドロップか?」
「ダンジョン内の宝箱だ。何階層かは言えないが、深層だ」
…………深層か。
俺の進むべき道は決まったな。
「わかった。マイちん、本部長。俺はダンジョンの深層を目指すことにする」
俺がマイちんと本部長に宣言すると、2人は頷いた。
「まあ、そうだろうな。実はお前が寝ている間に医者や看護師がお前を検査した。結論はお前は完全に女になっている。正直、俺も動揺している。だが、そこの白蛇の言うことが確かなら、戻る方法は深層に行くしかなさそうだな」
「ルミナ君、無茶しないでねって言っていいのかわからないけど、私も協力するわ。貴方は叔母さんを助けてくれた。今度は私の番」
「ありがとう。俺の家族には?」
「話してある。今は別室にいる。後で呼ぶからちゃんと話せ。あと、ケンカはするなよ」
そうか、家族もいるのか。
何て話せばいいんだ?
あんなに言われたのに無茶しました。
ゴメンなさい、かな?
許してくれるかな?
まさかエクスプローラの免許を取り上げるってことはないだろうな?
……こんな状況じゃあ、さすがにないか。
俺が元に戻るには深層に行くしかないのだから。
これからどうするか?
あの試練から考えてみても、今の俺に足りないのは仲間だろう。
あの試練にしても、蛇が言うようにパーティーで挑む前提のものであったし、シズル以外にも仲間がいれば、もっと余裕で戦えたはずだ。
俺は鏡を持ち、もう一度、自分を見た。
鏡の中の俺は、もう動揺した表情は見せておらず、いい表情をしていた。
よし! やるぞ!!
俺は仲間を作り、ダンジョンの深層に挑む!
俺は心の中で決意を固め、拳を握りしめた。
しかし、本当に性悪っぽい顔だな。
攻略のヒント
エクスプローラ協会は他の病院や研究所と連携しており、ヒーラーやメイジなどのエクスプローラを派遣している。
病院や研究所も医者や研究者をエクスプローラ協会に派遣し、エクスプローラの体調や変化に対応している。
そのため、医者や研究者がエクスプローラになることもあるし、エクスプローラが医者や研究者になることもある。
『エクスプローラの手引き 引退後について』