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評判最悪男、魔女になる  作者: 出雲大吉
さらにおまけ!

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209/217

柊アカネは成長し、神条ルミナは成長しない(1/4)

おまけです。


「ルミナ君って、昔から目つき悪いんだね」


 シズルが愛する彼氏に対する言葉とは思えないことを言ってきた。


「いや、別に悪くないだろ。ほら、純粋そうな目じゃん」


 俺は携帯を操作し、自分の顔を拡大する。


「ルミナ君、純粋の意味を知ってる?」


 知らなかったらやべーだろ。

 言葉に出して説明しろって言われたら出来ねーけどな。


 俺は今、自室にシズルを招き、彼氏彼女がよくやってそうな昔の写真を見て、キャッキャウフフをしている。

 ただ、あんま褒め言葉が飛んでこない。


「うーん、もっと純粋な小学生の時の写真は実家だからなー。携帯には中学以降しかないわー」

「というか、自分の写真が多いね。しかも、最近のというか、女の子バージョンばっかり」


 女子って自撮り好きじゃん。

 俺もそれに倣ってるだけ。

 自分がどういう角度で写れば、可愛く見えるかを研究しているだけなのだ。


「お前は自分を撮らないの?」

「あんま撮らないね。以前は歌手やってたし、撮られることは多かったけど」


 シズルさんは天下のRainさんだからそうだろうね。

 グラビアやればいいのに。

 …………そうだ!


「こっち見てー」


 俺は携帯をカメラモードにし、シズルに向ける。


「撮るの? 別にいいけど、今?」


 シズルはカメラを向けても笑顔の一つもない。


「ニコッと笑ってみて」

「いきなり言われても…………」


 まあ、そうかもな。

 いきなり笑えって言われても難しいだろう。


「じゃあ、脱いで」

「殴るよ」


 シズルがニコッと笑ったが、その顔を撮る気にはなれなかった。


「冗談なのに」

「絶対に半分以上は本気だったね。自分のを撮ればいいじゃん」


 自分を撮ってどうすんだよ。

 使えねーわ。


 俺は立ち上がると、トランスバングルを使い、女になる。

 そして、姿見の前に立ち、自分の全身を見た。


「うーん、ダメだなー…………」


 やっぱ、自分はダメだわ。

 自分の事は好きだし、めっちゃかわいいと思うけど、そういう目で見れない。

 不思議だねー。


 俺は首を傾げながらも再び、シズルの隣に座った。


「…………あのさー。私はいいと思うんだけど、ルミナ君って、ほぼその姿でいるけど、これからもそうする気?」


 俺はこの前、性別を自由に変えられるというトランスバングルを入手した。

 これにより、俺は男に戻ることも出来たし、目的であったことも成し遂げた。

 まさしく、ハッピーエンドである。


 でも、現在の俺はほぼ女の姿で過ごしている。

 男に戻るのはシズルが家にやって来る時くらいだろう。


 特に理由はない。

 別にどっちでもいいし、どっちも俺なのだからどうでもいいのだ。

 だったら、女の姿の方がいい。

 だって、学校の連中やエクスプローラ共は神条ルミナ=女の姿なんだもん。

 いきなり、男の姿で学校に行ったら気まずくなるに決まっている。


「空気を読んでるんだよ。瀬能はともかく、ちーちゃんなんか絶対によそよそしくなるぞ」


 アカネちゃんやカナタは男の俺を知っているし、瀬能はそもそも俺の性別に興味なさそう。

 でも、ちーちゃんは気にしそうだ。

 なにせ、あいつとは一緒の部屋で寝たこともあるし。


「うーん、わからないでもないけど…………」

「まあ、どうでもいいじゃん。どっちにしろ、ダンジョンはこっちの姿じゃないとマジカルテレポートが使えねーもん」


 ダンジョンに行くのに今さら魔女の力を捨てる気にはなれない。

 グラディエーターも強いが、魔女の魔法は便利なのだ。


「まあねー。ねえねえ、他に自撮りじゃない写真はないの?」


 シズルにそう言われて、携帯を操作し、写真を探す。


「うーん、アカネちゃんの写真ならあると思うけどなー」

「ホント? 見せて、見せて!」


 シズルが食いついた。


 アカネちゃんの昔の写真なんてどうでもよくね?


「えーっと、あ、これ」


 俺は写真をシズルに見せる。


「おー! アカネちゃんだ! かわいい!」


 シズルのテンションが上がっている。

 俺の写真を見た時よりも笑顔だ。

 解せぬ。

 アカネちゃんのくせに…………


「言っても2、3年前くらいかな。あいつが中学に上がった時のやつだし」

「へー。でも、ルミナ君とアカネちゃんって、本当に仲が良いね。腕を組んでるし」


 写真に写っているのは俺とアカネちゃんが協会のソファーに座って、仲良く腕を組み、笑顔で自撮りをしている写真だ。


「そうか? でも、この直後の写真がこれ」


 俺はそう言って、次の写真にスライドする。


「…………何したのよ」


 笑顔だったシズルが次の写真を見て、呆れてしまった。


 写真では、先ほどと同じ体勢なのだが、アカネちゃんの笑顔は消え、めっちゃ俺を睨んでいる写真が写っている。

 なお、俺は笑顔だ。


「この後、殴られたなー…………うーん、聞きたい?」

「聞きたい」


 じゃあ、教えてあげよう。


 むかーし、むかし、あるところに臆病者のハムスターと聡明な若者がおったそうじゃ…………




 ◆◇◆




 俺は4ヶ月ぶりに実家に帰ってきた。

 今は5月のゴールデンウィークであり、長期休暇なため、川崎の寮を出て、正月以来の実家に帰省である。


 俺は久しぶりにお姉ちゃんに会えると思って、ウキウキしながら玄関のドアを開けた。


「ただいまー!」


 俺は帰宅の挨拶をしたのだが、誰の反応もない。


 悲しい…………


 俺は誰もいないのかなと思ったが、鍵はかかってなかったし、それはないだろうと思い、リビングに向かった。


「ただいまーって、お! アカネちゃんじゃん」


 俺がリビングに入ると、そこには妹の友人であるアカネちゃんがソファーに座っているのが見えた。


「あ、こんにちわ。お邪魔してます」


 アカネちゃんがよそよしく、挨拶をしてくる。


「久しぶりだねー」

「……う、うん。1年ぶりくらいかな。お兄さんが川崎に行ったからあんまり会うこともなかったし」


 うーん、よそよそしいな。

 アカネちゃんは小学校4年生くらいまでは仲良く話してたんだけど、高学年になったあたりからこんな感じで距離を感じるようになった。

 思春期かねー。


「ホノカは?」


 なぜ、客人を残してホノカがいないのだろう?


「あ、これから久しぶりにゲームをしようってことで、ホノカちゃんは2階に上がって、家探ししてる」


 家探し?

 あのバカ、ちゃんと管理しとけよ。


「ふーん。あ、そういえば、アカネちゃん、中学になったんだよね? ホノカから聞いたけど、ダンジョン学園に入ったんだって? めっちゃ意外だわ」


 アカネちゃんは運動神経はいい子なんだが、あまり積極的なタイプではない。

 てっきり、普通の学校に行くのかと思ってた。


「…………うん。ホノカちゃんが行くって言うから」


 アカネちゃんの顔が曇り始めた。


 うーん、ホノカからダンジョン学園に入るって聞いた時に、アカネちゃんも行くらしいよーとは聞いていたが、アカネちゃんの反応からして、無理やりっぽいな。


「大丈夫?」


 俺は心配になったので、アカネちゃんの隣に座り、優しく声をかけた。


「大丈夫…………じゃないかも」


 アカネちゃんは俺の服を掴み、泣きそうな顔をしている。


 ダメだこりゃ。

 ダンジョンに入って、モンスターを倒すなんて絶対に無理な子だわ。

 そもそもアカネちゃんはそういうのに向いているとは思えない。

 ホノカはバカだから大丈夫だろうけど。


「今からでも遅くないから普通の中学に行きなよ…………」

「それは…………嫌」


 ホノカがいるからかねー。

 女子って、特定の友人とトイレまで一緒に行くレベルで仲良くなるからなー。

 レズか!ってツッコみたくなるわ。

 なお、某ガチレズさんとトイレに行くとガチレズになるらしい。


「どうすんの? モンスターは倒した?」


 中学は授業ではあんまりダンジョンに行くことはないが、放課後は普通に行ける。


「スライムなら…………でも…………」


 ゴブリンがダメなわけね。

 人型のゴブリンを嫌がるヤツっているんだよなー。

 あんなのただの醜悪なモンスターじゃん。


「アカネちゃん、ゴブリンを嫌がるのは普通だよ。そういう人はいっぱいいるし、それを乗り越えることが出来なくてエクスプローラを辞める人もいる。ここでくじけるようだと、必ず、ダンジョン病になるんだよ。だから、早いうちに辞めな。アカネちゃんならどこ行っても上手くやれるって」


 俺は正直、ゴブリンに苦労するヤツの気持ちなんてこれっぽちも理解できないが、その気持ちを押し隠し、アカネちゃんに優しく説明する。


「でも…………」


 煮え切らないヤツだなー。

 アカネちゃんって、こういうところがあるんだよなー。

 どんなに説得しても自分の我は譲らない。

 めんどくさいヤツ…………


 俺はアカネちゃんの手が震えているのに気付いたので、アカネちゃんの手の上に自分の手を置いた。


「ホノカだって、わかってくれるよ」

「本当にそう思ってる?」


 ううん。

 全然、思ってない。

 アカネちゃんは私の後ろにいればいいよとか言いそう。

 あいつ、マジで自己チューのバカだもん。


「大丈夫だってー」

「お兄さん、相変わらず、笑顔で嘘つくよね。これっぽっちも思ってないでしょ」

「あんなヤツ、どうでもよくね?」


 縁切っちゃえば?


「どうでもよくないから困ってるの! どうしよう…………」


 怒るなよー。


「わかった。じゃあ、俺がダンジョンに付き合ってやるよ」

「お兄さんが?」

「そうそう。俺、めっちゃ強いし、アカネちゃんにコツとか教えてあげる」


 アカネちゃんは俺の言葉を聞いて悩みだす。

 そして、俺の手を強く握った。


「お願いします!」


 アカネちゃんは俺の手を握ったまま俺の方を向いた。


 おー!

 あの臆病者がやる気を出してる!

 頼りになるお兄さんが優しく指導してあげねば!


 俺がうんうんと上機嫌で頷いていると、リビングのドアが開いた。


「おまたー! あったよーって…………」


 ホノカがゲームを持ってリビングに戻ってきた。


 ホノカは俺とアカネちゃんをキョロキョロと見比べていると、俺とアカネちゃんの繋がっている手を凝視する。


「ひえ! お兄ちゃんとアカネちゃんって付き合ってるの!? やだー! お兄ちゃんだけはやめてよー!」


 ホノカは勘違いをしているようだ。

 ところで、そのお兄ちゃんだけはやめてよーは俺を盗られたくないからだよな?

 気持ち悪いとかそういうのじゃないよな?


「ちが、違うよ! ちょっとお兄さんが手を握ってきただけだよ!」


 うわー……

 アカネちゃん、事実だけど、それはないわー。


「キモ! 最低じゃん! セクハラじゃん! 警察呼ぶよ!」


 ひっでー…………

 久しぶりに帰ってきた兄に対する仕打ちか?


「絶対に付き合ってなんかないよ! やだよ、こんなクズ」


 よ-し、アカネちゃんへの指導はスパルタに決定。


 俺はアカネちゃんとホノカにコブラツイストをかけ、ブーイングされながら2階の自室に向かった。

 なお、自室はぐちゃぐちゃだった。


 家探しって、俺の部屋かい…………





攻略のヒント


シズル「敬語じゃないアカネちゃんが想像できないなー」

ルミナ「あいつ、電話だとタメ口になるぞ。この前も『シズル先輩は絶対にSだからトランスバングルを盗られないように気を付けてね。喪失しちゃうよ?』って言ってたし」

シズル「タメ口よりも会話の内容がおかしくない?」


『とある会話』より

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