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評判最悪男、魔女になる  作者: 出雲大吉
第9章

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206/217

第186話 栄光の陰には尊い犠牲がある……


 デュラハンに負けた俺達はデュラハンの行動パターンを予想し、もう一度、挑むことにした。


 翌日、俺達は朝から集まると、ダンジョンに向かう。

 ダンジョンに入ると、何度目かも忘れたパターンで49階層を目指した。


 マジカルテレポートで40階層まで行き、ホワイトドラゴンを倒す。

 そして、強敵だが、決まった動きしかしないモンスター達を役割分担で倒していった。


 俺は他の連中が昨日の敗北を引きずっているのかもと思ったが、そんなことはなかった。

 昨日、俺が覚悟を示したこともあるだろうが、≪正義の剣≫や≪ヴァルキリーズ≫は経験のあるエクスプローラ達だ。

 翌日には気持ちを整理し、心機一転で頑張っている。


 また、≪魔女の森≫の5人も俺のためにやる気を出している。

 実に良いヤツらである。


 俺達は順調に進んでいき、夕方になる前には50階層のボス部屋前に到達した。

 もちろん、今日も泊まりであり、デュラハンと戦うのは明日の朝だ。

 

 今回も前回に引き続き、各パーティーから一人づつ見張りを出すことになった。

 俺達≪魔女の森≫は前回と同じ時間帯のローテーションを組むことにする。


 そして、俺が起きた時は前回と同じく、おっさんAとキララが見張りをしていた。

 どうやら他所のパーティーも順番を変えていないようだ。


 俺達はまた他愛のない話をして、時間をつぶす。


 おっさんAの彼女の話、キララの地元での不幸話、俺の武勇伝。

 数ヶ月前、ミレイさんとアイドルの覇権を争い、俺にとっては敵対した2人だが、この1ヶ月、共に死線を潜り抜けてきただけあって、多少のプライベートの話もするようになった。


「なあ、あんたらって、死ぬことに抵抗ないのか?」


 キララがふと、俺とおっさんAに聞いてくる。


「もちろんある」

「ないわけねーだろ」


 俺はゾンビじゃねーぞ。


「いや、あんたらが簡単に死を受け入れているから」

「キララさん、俺達は死を受け入れていない。受け入れるようになったら終わりだ」

「そうなんです?」

「ああ、そんなヤツをいっぱい見てきた。ダンジョンで死んで生き返る。これを繰り返し、現実でも死なないと勘違いしたヤツも中にはいる」


 俺もそんなニュースを見たことがある。

 死にすぎて、境界線がわからなくなったエクスプローラだ。


「ダンジョン病ってやつですか?」

「そうだ。一口にダンジョン病と言っても色々あるからな。キララさんも絶対に安易に死んでもいいやとか思わないことだ。そういうエクスプローラは長くない」

「なるほど…………」


 キララは神妙に頷いた。


「お前は後衛だから無茶さえしなければ、大丈夫だよ」


 後ろでバフをかけてればいいんだよ。


「私、泥船に乗ってるんだけど……」


 俺とおっさんAはスッと目を逸らす。


「お前がもうちょい早くエクスプローラになってたら俺のパーティーに入れてやるのに」


 俺が仲間を集めていた春ぐらい。


「お前も十分に泥船だよ」

「どこがだよ。戦艦大和だぞ!」


 強いんだぞー。


「どっちみち沈んでんじゃねーか」


 え?

 そうなん?

 宇宙に行ったんじゃないの?


「えーと、タイタニックは……沈んでるな。他にない?」

「知らねーよ。お前は沈んでも自分だけ逃げて助かる気がする。私はシズルが心配だわ」


 仲いいもんね、君達。


「シズルは俺が幸せにしてやるから安心しろよー」

「うわー、すげーむかつくー」


 でしょうね。


 俺達はその後も他愛のない話を続ける。

 そして、時間が来たので、カナタと交代し、就寝した。


 翌朝、皆で朝食を食べ、準備を整える。


 いよいよ、二度目の戦いだ。

 今回は前回のようにはいかない。


 俺は死ぬかもしれないが、それでもトランスバングルが欲しいのだ。


「皆、準備はいいかい?」


 先頭の≪Mr.ジャスティス≫が俺達を見ながら聞く。

 全員が頷くと、≪Mr.ジャスティス≫が扉を開けた。


 そして、全員でぞろぞろとボス部屋に入っていった。




 ◆◇◆




 俺達が部屋に入ると、前回と同じく、王宮の謁見の間のような部屋には誰もいない。


 俺達は誰が言うまでもなく、フォーメーションを整える。

 前が俺とクーフーリンとあきちゃん、その後ろにサエコ、さらに後ろには後衛と≪正義の剣≫がいる。


「自分達のタイミングで行ってくれ」


 ≪Mr.ジャスティス≫が前にいる俺達3人に言ってきた。


「ああ。クーフーリン、前回、お前がやったようにキリングドールとリビングアーマーを無視しよう」


 俺は≪Mr.ジャスティス≫の言葉に頷くと、クーフーリンに突っ込む段取りを提案する。


「だな」

「あきちゃんはー? あんなにジャンプする自信はないけど」


 いや、多分、お前も出来ると思うぞ。

 まあ、しゃーないか……


「俺が魔法で飛ぶから抱えて連れてってやる」

「えー……それって、攻撃されない?」


 あきちゃんは魔法を使ったらデュラハンにワープ攻撃されると思っているのだろう。


「俺らの推測が当たっている前提だが、ヤツに攻撃しようとしない限り、大丈夫だと思う。じゃなきゃ、前回、後衛がキリングドールに魔法を使った段階でワープ攻撃されているからな」


 俺とサエコがキリングドールと戦っていた時に、後衛が魔法を使った。

 だが、その時は何も起きていない。


「なるほどー。じゃあ、大丈夫か……」


 あきちゃんも納得したようだ。


「よっしゃ! 行くか!」


 俺がそう言うと、クーフーリンとあきちゃんは頷く。


 そして、3人で玉座に向かって走っていった。


 俺達が走っていき、しばらくすると、前方からキリングドールとリビングアーマーがどこからともなく現れる。


「あきちゃん!」

「ほい」


 俺はあきちゃんに手を伸ばすと、あきちゃんは俺の手を握った。


「行くぜ! マジカルフライ!」


 俺は魔法を使い、あきちゃんと共に宙に浮き、キリングドールとリビングアーマーの上を通っていく。


「ほー! すごーい!」


 すごかろう?


 俺はあきちゃんの感嘆の声に満足すると、キリングドールとリビングアーマーを飛び越え、着地する。

 気づくと、隣にはクーフーリンもいた。


 どうやら、こいつも飛び越えたらしい。


 俺はどうなったかなーと思い、後ろを見ると、後ろではキリングドールとリビングアーマーがこちらを見ていた。

 そして、俺達の方に向かってくる。


「げ!」


 そういえば、前回のあきちゃんのような足止めがいないじゃん!


 俺はどうしようかと考えていると、キリングドールとリビングアーマーの背後から無数の剣が飛んできているのが見えた。


 サエコの千剣だ。


 サエコの千剣はキリングドールとリビングアーマーの群れに突き刺さっていく。


 すげー!


「よし! 今だ!」


 クーフーリンがそう言い、走っていった。

 俺とあきちゃんもクーフーリンに続き、デュラハンの元へと向かう。


 俺達はすぐにデュラハンの元にたどり着いた。


 今回はクーフーリンもそのまま攻撃をしない。

 さすがに、前回のことを反省しているようだ。


 俺達がたどり着くと、デュラハンは玉座からゆっくりと腰を上げる。


 うーん、大物っぽい。


「同時に行くぞ」


 俺がそう言うと、2人は頷いた。


 そして、俺はハルバードを取り出し、振りかぶる。

 それと同時に、あきちゃんとクーフーリンは左右から突っ込んだ。


 クーフーリンは槍で突こうとし、あきちゃんは拳で殴ろうとしている。

 俺は2人に合わせ、振りかぶっていたハルバードを振り下ろした。


 デュラハンは3人同時攻撃を躱すため、後ろに下がる。

 後ろに下がったことで、俺のハルバードは空を切った。

 しかし、左右にいる2人は後ろに下がったデュラハンを追撃する。


 デュラハンは身をよじってクーフーリンの槍を躱したが、体勢を崩した。


「おらー!!」


 あきちゃんは掛け声と共に振りかぶり、隙だらけのデュラハンの体を殴る。

 体勢を崩していたデュラハンだったが、腕でガードしたようで倒れることはなかった。


 しかし、あきちゃんのフルパワーを食らったため、たまらず後退した。


「ワープはねーな」


 クーフーリンが再度、槍を構えながら言う。


「だなー。予想は当たりか……」


 先ほどの攻防では、いくらでもワープを使える隙はあった。

 しかし、デュラハンはそのそぶりも見せていない。


 どうやら予想通り、デュラハンも決まった行動パターンをするモンスターのようだ。


「でも、強いねー。あの状態からあきちゃんのパンチを止めたよ」


 力に自信があるあきちゃんはちょっと悔しそうである。


「ワープがなくても素で強いな」


 俺の一撃とクーフーリンの突きを躱し、さらにあきちゃんの攻撃を防いだ。

 さすがは50階層のボスである。


「首から上がないし、弱点は胴体かね?」

「じゃねーの? お前の突きで貫けよ」

「当たればな……」


 うーん、正攻法では無理そうだ。

 隙を作るしかないか……


「今度は俺とあきちゃんが突っ込むから隙を見て、刺せ」

「任せろ」


 俺とあきちゃんは再度、構える。


 そして、一気に突っ込んだ。


 俺はハルバードをしまい、ショートソードを取り出すと、デュラハンに向かって、投擲した。

 デュラハンは持っている剣でショートソードを弾くと、俺達に突っ込んでくる。


「チッ! 攻撃に転じてきたか……」


 デュラハンはリビングアーマーと同様に、防御重視でカウンター狙いかと思っていたが、そうじゃないらしい。


「俺が出る!」

「任せたー」


 俺は自分の後ろにあきちゃんを下がらせる。


 あきちゃんはレアジョブである≪闘士≫だ。

 かなり強いが、素手で戦うジョブであるため、武器を持っていない。

 普通の敵ならそれでもいいのだろうが、デュラハンの攻撃力は高いため、あきちゃんは攻撃を受けると危ない。


「食らえっ!!」


 俺は再び、ハルバードを取り出すと、デュラハンの脳天に振り下ろした。


 ――ガンッ!!


 デュラハンは躱さずに、頭上で大剣を横にし、受け止める。


「ぐっ」


 俺はさらに力を込め、デュラハンを潰そうとするが、デュラハンの力も相当なものらしく、動かない。


 クッソ!

 めっちゃスキルの≪気合≫を使いたい!


 だが、使ったらワープされる。


「ルミナ君、ごめんねー」


 ん?


「――ふげっ」


 後ろからあきちゃんの声が聞こえたと思ったら俺の頭に衝撃が走る。

 痛みを堪えて、見上げると、あきちゃんがデュラハンの頭上(頭ないけど)を飛んでいた。


 あのチビ、俺の頭を踏み台にしやがった!

 髪が傷むだろうが!!


「食らえやー!!」


 あきちゃんはデュラハンの背後に着地し、その反動を利用し、デュラハンの背中に蹴りを放つ。


 は?


 あきちゃんがデュラハンの背中を蹴ったので、当然、デュラハンと対峙している俺の方にデュラハンが突っ込んできた。


「バカか!?――って、ぐえ!」


 俺はデュラハンのタックルを受け、尻餅をついた。

 さらにデュラハンが覆いかぶさってきたので、倒れてしまう。

 また、その衝撃でデュラハンの大剣と共にハルバードを落としてしまった。


 完全にデュラハンに押し倒された構図だ。


 あのバカは学習せんのか!?

 そんなんだから憐れな処女しか仲間に出来ねーんだよ!!


「いつまで抱きついてんだよ!!」


 俺は俺の上に覆いかぶさっているデュラハンを蹴り上げる。

 蹴りを受けたデュラハンは上半身を起こしたが、俺からは離れなかった。


 あれ?

 俺、ピンチでは?


 デュラハンと俺の構図は押し倒された格好からマウントポジションに変わっている。


 そして、デュラハンは拳を振り上げた。


 まずい……

 魔女の体では死ぬかもしれん……


 魔女はグラディエーターと比べ、防御力がない。

 デュラハンの攻撃力で殴られると、顔面がつぶれる。


 俺の可愛い顔が見るも無残なことになるー!

 死んだ方がマシだわ!

 クソ!

 どうせ、死ぬなら……


 俺は俺を抑えているデュラハンの足に触る。


「キラキラドレイン!」


 俺が魔法を使うと、デュラハンから何かが流れ込んでくるのがわかった。


 キラキラドレインは相手の精神力を奪う魔法だ。

 この何かはデュラハンの精神力なのだろう。


「うえ……」


 気持ち悪い……

 精神力が流れ込んでくる感覚はめちゃくちゃ不快だ。


 でも、魔法を使った俺はワープ攻撃を受けるんだろうなー。

 よし! あとは任せた!


 俺は死ぬ覚悟を決めたのだが、デュラハンはまったくワープ攻撃をしてくるそぶりがない。

 というか、止まっちゃった。


「ん?」


『相棒が精神力を奪ったからワープを使えないんだ! チャンスだぞ!』


 おー!

 すげー!

 さすが俺!


 でも、俺としてはワープを使ってくれた方が良かったような……


 俺はなんとかマウントポジションから逃れようとするが、まったく動かない。

 そうこうしていると、デュラハンが再起動し、俺に殴りかかってくる。


 ほらー!!

 いやーー!!


 俺は目を閉じた。


 しかし、俺の顔に衝撃は来なかった。

 というか、軽くなった。


 俺が目を開けると、デュラハンがいなくなり、代わりにあきちゃんが立っていた。


「ルミナ君、ごめんねー。怒ってる? 怒ってないよね? ね?」


 どうやらあきちゃんが助けてくれたようだ。

 あきちゃんはまったく反省してない感じで謝ってくる。


 このチビ……


「いや、そんなことよりチャンスだ! あきちゃん、クーフーリン、デュラハンの精神力を奪った! ヤツにワープはないから畳みかけるぞ!」

「ん?」

「どゆこと?」


 こいつらはホンマ……


 俺は反応の鈍い2人を無視して、デュラハンに手を向けた。


「ラブリーアロー!」


 俺の手から出たハートの矢はデュラハンの体に向けて飛んでいくが、デュラハンは胴体をねじり、躱した。


 クソ!

 速い!


「あれ? ワープしないよ」

「何でだ?」


 人の話を聞けよ!!


「だから! 俺がヤツの精神力を奪ったの! ワープは精神力を多く使うから、ヤツはもうワープできないの!」


 わかったか?


「まじで? チャンスじゃん」


 さっきからそう言ってんだろ!


「ルミナ君、すげー」


 いいから早く攻撃しろや!


 俺は理解力が皆無な2人を尻目に両手でハートマークを作る。


「ラブラブ、ファイヤー! 2人共、行け!」


 俺は火魔法を繰り出すと、クーフーリンとあきちゃんを促した。


「おう!」

「いっくぜー」


 促された2人は俺の火魔法を躱したデュラハンに突っ込む。

 大剣を持っていないデュラハンは逃げずに2人を迎え撃つようだ。


 2人とデュラハンの戦いが始まった。

 武器もワープもないデュラハンだったが、さすがに50階層のボスらしく、強い。

 しかし、クーフーリンとあきちゃんが押している。

 このままいけば、勝てるだろう。


 よしよし、頑張れ、2人共。

 お前らはそれしか取り柄がないんだから死ぬ気でやれよ。


 俺は安全圏でうんうんと頷いてた。


「相棒、勝ちを確信しているところを悪いが、精神力は時間の経過とともに回復するぞ」


 あ……


「早くやれ!!」


 俺は戦っている2人に怒鳴る。


「いや、手伝えよ!」

「何してんのー!?」


「デュラハンはあからさまに時間を稼いでいるな。このままだとヤバいぞ」


 シロが言うように、デュラハンには攻めっけが見えない。

 これは思ったより回復が早そうだ。


 仕方がない……


「…………クーフーリン、あきちゃん…………お前らは実に良いヤツだったよ……」


 これは仕方がないことなんだ……


「ん?」

「ほえ?」


 俺は2人を無視する。


「俺達、友達だよな! 俺、お前らのことが大好きだぞー!」

「は?」

「何を言ってんの?」


 俺は2人を無視し、無詠唱でパンプキンボムを取り出す。


「俺のために死んでくれてありがとう!! ルミナちゃんはお前らの死を踏み台に幸せになります!!」


 俺は感謝の涙を浮かべ、デュラハンを抑えている2人にカボチャ爆弾を投げた。


「さよならー」

「ふっざけんな!!」

「ギャー!! ゴミクズが!!」


 ドッカーン!!


 素晴らしき献身にあふれる2人とデュラハンは爆音と共に、まばゆい光と煙で見えなくなった。


「勝った……尊い犠牲のもとに俺達は勝利を手に入れたのだ……」

「ひっでー。しかし、キララは人を見る目があるわー。こいつ、他人を犠牲にして、ホントに自分だけ助かりやがった」


 ありがとう、クーフーリン、あきちゃん。

 俺のためにありがとう。

 これで俺は愛という幸せを手に入れることが出来るよ!


「超カオスだなー……」


 カオス、ばんざーい!





攻略のヒント


「あなたの二つ名であるクソ……≪陥陣営≫の由来を教えてください」

「ルミナちゃんパーンチ!」


『二つ名の由来を聞いてみよう~匿名希望:クソガキで有名な強欲な小娘さん(笑)~』より

明日、昼頃に2話投稿し、完結となります。

よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] デュラハンの首にパンプキンボムをダンクシュートするものだと思ってましたw
[一言] いやまあ倒すためには仕方ないけどさぁww まあこれで無事に貰えるといいね
[一言] 強欲な小娘~あなたって、本当に最低の屑だわ~
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